弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

インコは戻ってきたか

2006-05-19 00:02:46 | 趣味・読書
篠田節子著「インコは戻ってきたか」を読みました。
インコは戻ってきたか (集英社文庫)
篠田 節子
集英社

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北杜夫「マンボウ恐妻記」と一緒にブックマートで購入してあった本です。

主人公の響子は三十代後半の女性で、出版社の編集で働くワーキングウーマンです。家では母、妻、嫁としてふるまい、仕事では夜遅くまで躍起になって働き、疲れがたまっています。その様子が、女性作家の筆になるだけにリアルです。
強行軍で出かけたキプロスでの取材出張で、現地で落ち合ったカメラマン(檜山)は、予定していたかっこいい男性ではなく、オタクっぽくて一見さえない男性です。篠田節子の小説では、このようなタイプの男性がよく登場するように思います。

設定では、キプロスは南のキプロス共和国と北のトルコ系住民支配地域に分断されています。小説の後半、二人はひょんなことから両国間の突発的武力紛争に巻き込まれていきます。
五日間の激動の後、主人公の女性のみが、会社や家族が待つ日本に帰ってきます。そして1年後の写真展で、思いがけない自分自身のポートレートが飾られているのに出逢います。
「いつの間に撮られていたのだろう。見たこともない自分自身の顔だった。
檜山は、響子の人生のある瞬間を確実に切り取っていた。」
  ・・・・
「響子は不意に、自分の背負った多くのものから解放されたような気分になった。」

同じ篠田節子の「女たちのジハード」が二十台の働く未婚女性たちに対するエールだったとしたら、この「インコは戻ってきたか」は三十台働く既婚女性への・・・何でしょうか。励ましでしょうか。いずれにしろ、「女たちのジハード」と同じように久しぶりに篠田節子ワールドを堪能しました。この小説ではタイムスリップや超常現象は登場しないようです。


私が篠田節子の小説を読むきっかけになったのは「弁理士」です。以前のパテント誌に「弁理士や特許が登場する小説」という記事があり、その中に篠田節子の「愛逢い月」がありました。短編小説集です。
その後読んだ「絹の変容」「神鳥-イビス」「アクアリウム」は怖く、そして強く印象に残る小説でした。「夏の災厄」は、新種の日本脳炎おそわれた地方都市での物語であり、巻き込まれた町の保健行政機関の大変な苦労が描かれています。ですから実際に起きた鳥インフルエンザ事件のときは、その町の保健機関の大変さが目に浮かびました。

これからも篠田節子からは目が離せません。
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