yoshのブログ

日々の発見や所感を述べます。

錦の御旗

2007-09-05 10:22:28 | 歴史

司馬遼太郎の短編小説に「加茂の水」があります。幕末に出現した錦旗(錦の御旗)の話が書いてあります。幕末において、天皇の象徴となった錦旗を作成した玉松操、岩倉具視、大久保利通のことを書いています。<o:p></o:p>

玉松操は没落公卿で琵琶湖の辺真野という所に隠棲していました。学問と文章に秀でていましたので岩倉具視に見出だされ、京都の岩倉邸で倒幕の謀議に参加していました。その謀議の中で岩倉は、倒幕のためには天皇軍のシンボルが有効ではないかと考え、それには錦旗が適当であるということになりました。<o:p></o:p>

錦旗は承久の変(1221)に最初に現れ、ついで建武の中興(1334年)の時、後醍醐天皇が楠正成らの諸将に授けたと言われています。<o:p></o:p>

当時の宮廷に錦旗はありませんでしたので、承久兵乱記、梅松論、太平記などに出ている錦旗の説明を参考にして玉松操が錦旗の図案を創作しました。大久保利通の妾が西陣で帯地を仕立てていたので、この図案を持たせて西陣に走らせて2旒の旗を調製し、薩摩と長州に1旒ずつ渡しました。<o:p></o:p>

序でに、玉松操は倒幕の蜜勅の草案も起草しています。御所の奥深くで明治天皇の外祖父中山忠能(ただやす)卿や岩倉等の言うがままに、睦仁天皇に倒幕の詔勅に印璽を押させたとのことです。これも偽勅のような物と言われています。<o:p></o:p>

当時、水戸の大日本史や頼山陽の日本外史などによる大義名分論史観的教養が流行しており、もし、戦場に錦旗が出現すれば戦士は弓を棄て矛を横たえて恭順するという反応をごく自然に示すであろうと期待されたのです。特に将軍徳川慶喜は水戸家の出身であるため、<o:p></o:p>

その傾向が強く、賊軍となることを何よりも恐れるのではないかと推測されました。この推測は見事に的中しました。慶喜は戦場に錦旗出現の報を聞くや敵前逃亡のように、<o:p></o:p>

数万の味方の将兵を置き去りにして東帰するという醜態を演じています。<o:p></o:p>

一方、松平容保は賊軍の汚名を着せられつつも生き抜き、「我は朝敵にあらず」との信念は微動だにしませんでした。孝明天皇のご宸翰を抱いて息を引き取った容保侯は忠烈至誠の人でありました。<o:p></o:p>

その35年後の昭和3年に容保侯の孫娘節子妃が大正天皇の第二皇子秩父宮雍仁(やすひと)親王に嫁がれ、朝敵の汚名が雪がれたことは周知のことです。<o:p></o:p>

考えて見ると錦旗はたかが西陣織に玉松操が創作した図案をあしらった物です。それが<o:p></o:p>

薩摩軍と長州軍の陣営にあっただけです。薩長が自分の陣営に天皇を取り込むことに成功したのは事実でしたが。錦旗に魔力などはありません。水戸黄門の印籠に魔力が無いのと同様です。もし幕府軍の司令官に、錦旗を単純には恐れない冷徹で剛直な人物がいたら、軍事力で勝る幕府軍は、鳥羽伏見で薩長軍に反撃して勝利を得ることも可能でした。<o:p></o:p>

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8 コメント

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マルテンサイト変態千年グローバル (鉄鋼材料エンジニア)
2024-11-02 17:16:25
一神教はユダヤ教をその祖とし、キリスト教、イスラム教が汎民族性によってその勢力を拡大させたが、その一神教の純粋性をもっとも保持し続けたのは後にできたイスラム教であった。今の科学技術文明の母体となったキリスト教は多神教的要素を取り入れ例えばルネサンスなどによりギリシャ・ローマの古代地中海世界の哲学なども触媒となり宗教から科学が独立するまでになった。一方でキリスト教圏内でも科学と宗教をむしろ融合しようとする働きにより、帝国主義がうまれた。宗教から正当化された植民地戦争は科学技術の壮大な実験場となり、この好循環により科学と宗教を融合させようというのである。その影響により非キリスト教圏で起きたのが日本の明治維新という現象である。この日本全土を均質化した市場原理社会する近代資本主義のスタートとされる明治維新は欧米などの一神教国が始めた帝国主義的な植民地拡張競争に危機感を覚えたサムライたちが自らの階級を破壊するといった、かなり独創的な革命でフランス革命、ピューリタン革命、ロシア革命、アメリカ独立戦争にはないユニークさというものが”革命”ではなく”維新”と呼んできたのは間違いない。しかしその中身は「革命」いや「大革命」とでもよべるべきものではないだろうか。
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大王曰く (哲学の道)
2024-04-15 15:56:03
プロテリアルさんのハイブリッド関係の特殊鋼も好調なようで。
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共感力ネットワーク (リベラルアーツ関係)
2024-04-01 10:13:25
多神教というか多様性というのはグローバルな流れからしても、ダイバーシティやインクルージョンという言葉に現れているように今後とも企業等の組織文化構築の方向性だと思われます。
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山陰の旅 (マルテンサイト)
2024-03-19 08:23:18
そうか日立金属さんプロテリアルに名前が変わったんっでしたけ。安来のたたら製鉄関係の博物館良かったのを思い出します。
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モノづくりDX向き (軸受関係)
2024-03-16 09:16:21
SLD-MAGIC、プロテリアル製のスーパーダイス鋼ですね。試作開発関係ということもあってよく使う優れものですね。
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ものづくり軸受鉄道 (電線ダイス)
2024-03-05 03:40:09
名古屋国際空港はセントレア。
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湯田温泉 (セントコア)
2024-02-29 04:19:54
SLD-MAGICは最高傑作ダイハード。
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サステナビリティ (メガトレンドサムライ)
2024-02-23 16:06:43
最近はChatGPTや生成AI等で人工知能の普及がアルゴリズム革命の衝撃といってブームとなっていますよね。ニュートンやアインシュタインの理論駆動型を打ち壊して、データ駆動型の世界を切り開いているという。当然ながらこのアルゴリズムにんげんの考えることを模擬するのだがら、当然哲学にも影響を与えるし、中国の文化大革命のようなイデオロギーにも影響を及ぼす。さらにはこの人工知能にはブラックボックス問題という数学的に分解してもなぜそうなったのか分からないという問題が存在している。そんな中、単純な問題であれば分解できるとした「材料物理数学再武装」というものが以前より脚光を浴びてきた。これは非線形関数の造形方法とはどういうことかという問題を大局的にとらえ、たとえば経済学で主張されている国富論の神の見えざる手というものが2つの関数の結合を行う行為で、関数接合論と呼ばれ、それの高次的状態がニューラルネットワークをはじめとするAI研究の最前線につながっているとするものだ。この関数接合論は経営学ではKPI競合モデルとも呼ばれ、様々な分野へその思想が波及してきている。この新たな哲学の胎動は「哲学」だけあってあらゆるものの根本を揺さぶり始めている。どこか日本的というか多神教的な趣きがある。
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