山本馬骨の くるま旅くらしノオト

「くるま旅くらしという新しい旅のスタイルを」提唱します。その思いや出来事などを綴ってみることにしました。

ムクロジは木の実の王様

2011-01-14 00:21:54 | 宵宵妄話

  突然変な話です。ムクロジという木をご存知でしょうか?昔はどこにでもあって、その実を割って、石鹸代わりに使っていたなどという話を聞いたりしますが、今頃はだんだん数が少なくなって、神社の境内や昔からの農家の屋敷林などで偶に見かけるくらいになってしまっています。

私が初めてムクロジの木を知ったのは、その昔、東京郊外の調布市にある深大寺を訪れた時でした。深大寺のことは、昨年人気の高かった朝ドラ「ゲゲゲの女房」にも登場していますから、直ぐに思い起こされる方も多いのではないかと思います。東京でも有数の古刹です。すぐ近くに神代植物園があり、ここにも何度も足を運びました。貧乏ヒマなしだった若いサラリーマンが、女房子どもを連れて休日を過すには、最高の条件を備えた場所でした。

その深大寺の境内にムクロジの大木が一本あって、それがムクロジという木なのだということは、説明板のようなものを見て知ってはいたのですが、只それだけのことで、大して興味も覚えなかったのです。樹木というのは、季節によって劇的といって良いほどその形振りを変化させます。特に落葉樹は、青々と葉を茂らせている時と、すっかり枝の葉を落としてしまった時とでは、全く違う姿をしています。樹木を覚えるのが草花よりもずっと難しいと思うのは、1年という時間の使い方が、草花よりも遙かに遅いからです。どんなに生長の早い木でも、芽生えたその年に花を咲かせ実をつけるのがあるなどという話を聞いたことがありません。

私が俄然ムクロジの木に興味を持ったのは、秋の終わりごろに深大寺を訪れた時に、境内の木の下でその実を2個ほど拾った時でした。皺の入ったゼリー状の実を拾ったので、それをむいてみましたら、中から真っ黒なパッチリとした実が現れました。説明によれば、この実はお正月に娘たちが羽根突きに使う、羽根の根元に使うものだとのことです。とても固い実で、なるほど、よく見るとその通りの姿かたちをしていました。思わず大木の上を仰いで、もっと実が生っていないのかと探したのですが、残念ながら一つも残ってはおらず、又近くにも落ちている実は見当たりませんでした。でも、その時しっかりとムクロジの木と実を覚えたのでした。

その後転勤で関東を離れ、四国、九州と回って十数年ぶりで東京に戻り、千葉、川崎と住いを変えて、再び多摩地方の東村山市に住むことになったのですが、ここには隣接の小平市に籍を置く東京都の薬用植物園が近くにあり、住まいからは自転車で20分ほどの距離にありました。それで暇があるとそこを訪れていたのですが、そこに若いムクロジの木が一本あるのに気づきました。この木の存在を知っている人はあまりいないようで、冬になって実が落ちる頃になっても、誰もそれに気づきませんでした。そこで、毎週末は必ず出かけて行って、その実を拾うのを楽しみにしていました。一冬で100個くらいの実を拾ったのを思い出します。3年くらい住んでいる間にかなりの実を貯めたのでした。

 

     

ムクロジの実。これは採種してから3年くらい経ったもので、皮のついたものも乾燥して乾いている。実の方は、一層黒く輝きを増している。

  

守谷に越す少し前の年、砂の中に実を何個か入れて忘れていましたら、春先になってその実から何本もの小さな若木が芽を出しかなり大きい苗になっているのに気づきました。その中の10本近くをそのまま鉢で育てていましたが、守谷に越すことになって、その中の何本かを庭の隅に植え、残った何本かを故郷の畑の隅に移植しました。更に余ったものを何本か近くの公園の隅にそっと植えたのでした。

ムクロジの苗は、育った土地を離れるとなじみにくいと聞いていましたので、ダメもとのつもりで植えてみたのですが、家の庭も故郷の畑のものもしっかりと根を張って育ってくれました。只、公園の隅に植えたものは、雑草と一緒に刈り取られてしまい、全滅してしまいました。その後、庭の隅に植えたものもあまりに大きくなりすぎて、お隣に迷惑になるというので、泣く泣く育てるのを断念し、現在はその時の苗木は故郷の畑の分のみが生長を続けてくれています。もう4mくらいにはなっていると思います。

木の実といえば、私の場合はドングリを思い浮べます。ドングリもいろいろ種類がありますが、私としては楢よりもクヌギの方により親しみを感じます。固い実としては栢(かや)の実を思い出しますが、これは楕円形で鋭くとがっている箇所があるので、何となく扱いにくい感じがします。また胡桃も固さでは引けをとらないと思いますが、これは少し大きすぎて、何かに使おうとすると、ちょっぴり持て余しそうです。ところがムクロジの実は、これらの木の実に比べて、格段に扱いやすく、実に素直な形をしています。東村山にいる時には、拾った実で何組かの数珠を作りました。ドリルで穴を開け、細い紐を通すとなかなか立派な数珠が出来上がるのです。特に108粒の実を連ねた数珠は、市販の物の中にはなかなか見当たらず、坊主でも無いのに、一人首にかけて悦に入っていたものでした。あの頃は懸命にお経を覚えようとしていた頃で、ムクロジの実は、私にとってはいろいろな意味で人生の楽しみを豊かにしてくれたのでした。

ところで、守谷に越して来てからですが、殆ど毎日近隣を歩いているうちに、2箇所にムクロジの大木があることを見出しました。一本は隣のつくばみらい市にあって、農家の屋敷林に植えられているものなのですが、その下が公道になっていて、晩秋から冬にかけて、たくさんの実を公道に落し、ばら撒いていたのでした。最初は、車に轢かれ潰されて路面を汚しているのを見て、何だろうこれは?と思ったのですが、良く見るとムクロジの実ではありませんか!道脇を見上げると老木になり掛けた、高さ30m近くもあろうかと思われるムクロジの大木が聳えていました。イヤア、久しぶりにこの木に出会って感動しました。それからは、丹念に実を拾い集めて、もう保存しきれないほどになり、とうとう最後は勿体ないなと思いつつも拾うのを止めました。もう一本は守谷市内の外れ近い、小さな神社の脇にあるのですが、これはもう、あ、ここにもあるな、というだけです。

 

  

ムクロジの大木。青空に聳えるその枝先には、未だ幾つかの実がそのまま残っているのが見える。この実は硬いので鳥たちは口にしないらしく、冬の間、何時までも残り続けているようである。

 

 

私はムクロジは木の実の王様だなと思っています。小粒ですが固くしっかりしていて、磨くと黒く光り輝いて、それはその昔の羽根突きに興ずる小さな乙女たちのつぶらな瞳を思わせます。時々袋一杯に貯まっているその実を取り出して、眺めていると、何だかとても豊かな気持ちになれるのです。この実がどれほどの生命を保ち得るのか、来年当たりはもう一度芽出しをして、実生の苗木を育ててみたいなと思っています。今日もそのムクロジの木の下を歩きながら、あれこれと思いを馳せたのでした。

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5 コメント

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mukuroji (ogata hoshio)
2013-05-13 16:04:14
ムクロジのお話、良かったです。一番最初にこの実を知ったのは、あなたと同じ深大寺の境内でした。それを大切に携帯のストラップにして使っていました。先だって、誤って壊してしまいました。中には真っ黒な実がありました。ところが今日ある場所で一本のムクロジの木を見つけたのです。そして、たくさんの実も。わたしも、早速お数珠を作ってみようかな。孔を明けるのが大変とのことのようですね。では、また。
むくろじこれから育てます! (しんぼー)
2014-03-23 18:18:17
インドや東南アジアの国々を旅したのですが、その辺の国々では今も石鹸の代わりに市場などで売っていました。僕はシャンプーや石鹸や洗剤など自然にダメージを与えてしまうものを使わないようにしていましたので、ムクロジを使っていました。ミャンマーでは、ムクロジとアロエ、レモン、その他の薬草を温めてトリートメントとして市場などで売っていましたので僕も使ってみたところ、めっちゃめっちゃ良かった!いい香りですっきりして癒やされました(*´▽`*)ムクロジを現地でたくさん買ってきて帰国後も日本で使用しています∞日本の伝統と自然を守って生きたいですね!
はじめまして (山中僚也)
2014-12-25 21:36:37
はじめまして。私東京でテレビの制作をしています。IVSテレビの山中と申します。
この度は、番組制作においてムクロジの実の画像を探しており、もしよろしければ。画像の方を提供して頂けないかと思いコメントさせて頂きました。
ご検討宜しくお願い致します。
画像のこと (馬骨)
2014-12-30 04:29:57
中山僚也様
お申し越しの件、このブログ記事で使用のもので良ければ、どうぞお使い下さい。  馬骨
Unknown (石井茉莉)
2020-11-14 14:28:31
私つと無患子の木探しています、無患子は石鹸に代わりとてもエコです!环境守り私頑張ります!

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