山本馬骨の くるま旅くらしノオト

「くるま旅くらしという新しい旅のスタイルを」提唱します。その思いや出来事などを綴ってみることにしました。

ど根性大根

2009-11-12 03:08:15 | くるま旅くらしの話

神戸在住のくるま旅の大先輩のMさん宅を辞して、一番近くの道の駅:あいおい白龍(ぺーロン)城(相生市)を目指した時は、既に16時を過ぎていました。神戸から先、山陽道を走るのは初めてのことでした。勿論相生という所を訪ねるのも初めてのことです。今までは、姫路あたりまでは一般道を行くのはとても無理と考えており、いつも高速道を通っていたのですが、今回は高速道を使わずに行ってみようと考えたわけです。

しかしこれは大失敗でした。土地勘の全く無い初めての道は、先の状況が全く読めず、何だか変だなと気づいたときには明石市郊外でのとんでもない渋滞に巻き込まれてしまっていました。何しろ持参した地図が12年も前に発行された代物で、新しいバイパスや高速道など一切載っていないのです。何とかなるだろうと高を括っていたのですが、100mを進むのに20分も掛かる状況となると、心穏やかではなくなり出します。国道2号線はメインの国道ですから、まさかこれほどの渋滞を惹き起こしているとは想像もしませんでした。確かバイパスが出来ているとお聞きしており、そこへすんなりと入れるものと思っていたのが、どこかで入口を見落としたか間違えてしまったようでした。

この上は、とにかく姫路方面へ行ける高速道を何とか見つけ、それに乗らないと相生に着くのが深夜になってしまうと思い、焦ったのでした。ノロノロをしばらく続けていると高速道の案内板があったので、とにかくその方向へ行くことにしました。その入口はとんでもない山の上にあって、しかもその付近には新しい住宅街が開けていたのには驚かされました。都市開発は、山陽道においても播磨の国では、もうここまで来てしまっているのかと、改めて人口集中現象のおぞましさというか、恐ろしさを実感したのでした。

そのような失敗があって、少し到着が遅れましたが、相生の道の駅には19時少し過ぎには、無事錨を下ろすことができたのでした。もう辺りは真っ暗で、何があるのか良く判らず、直ぐ傍が海であること、駅の構内には妙に派手な中国風の門や建物が建っているのが印象的でした。とにかく久しぶりに夜間に車を運転して疲れましたので、早めに食事を済ませ、その夜は眠りに就いたのでした。

前置きが長くなりましたが、翌朝は夜来の雨が降り止まず、少し遅い起床となったのですが、8時過ぎになってようやく空が機嫌を直し始めたので、構内付近を散策したのですが、その中に「ど根性大根」と書かれているのが目に付き気になりました。構内にはど根性大根の記念写真を撮る表示板が設けられ、ど根性大根の大ちゃんとあいちゃんのペアで撮影できるようになっています。      

駅構内にあるど根性大根の記念撮影板。左が大ちゃん、右があいちゃん。

又売店の中にこの道の駅が販売元になっている「ど根性」という地酒が売られていました。1本千円という安さに釣られて、それを一本買い求めたのでした。 

銘酒、「ど根性」。一升瓶一本がたったの千円である。少し甘口なのが残念だった。

しかし、ど根性大根というのが何なのかさっぱり分かりません。恐らくこの土地の人たちには常識となっていることなのでしょうが、初めての来訪者には何で大根にど根性なのかさっぱり見当がつきませんでした。

何か大根のことらしいというのは判りますので、地元の農産物の売り場を覗いたのですが、そこにはど根性を感じられるような大根など見当たらず、海岸地や島地で育てられたあまり伸び伸び感の感ぜられない大根が数本並べられているだけでした。店の人に訊けば判るのでしょうが、どこを探してもど根性大根の説明がないのが気に入らないので、訊くのは止め、あとで家に帰ってから調べようと思ったのでした。

旅から戻ってしばらくの間は、もうそのようなことはすっかり忘れ果てていて、空き瓶となった銘酒「ど根性」を見ていて、そういえば何でど根性なのだと思い起こしたのでした。銘酒と書かれたこの酒は、少々甘口で飲み終えるのに手間取った嫌いがありましたが、まあ、値段のことを考えるとリーズナブルというべきでしょう。ど根性大根のことを、早速ネットで検索してみました。果たして載っているのか多少ダメもとの思いがありましたが、なんとこれがちゃんと載っているのです。それ(=フリー百科辞典ウイキデペア)には次のように書かれていました。

2005年末、兵庫県相生市の歩道脇に生えた大根が「大ちゃん(だいちゃん)」と名付けられマスコミに取り上げられた。その後、ど根性ナス、ど根性ミカンなど、各地で相次いでど根性野菜が報道された。

ど根性大根の大ちゃんは同年冬、相生市の歩道脇のアスファルトの隙間に生えているのを発見された。ワイドショーで取り上げられ、いつしか「大ちゃん」という愛称も付けられた。しかし、同年11月に何者かによって上半分を折られ、持ち去られてしまった。数日後、上部が元の生えていた場所に戻されているのが見つかり、相生市役所で子孫を残すべく「治療」が行われた。その甲斐あって大ちゃんは一時再生するかに思われたが、1月に突如状態が悪化し、翌2006年2月から宝塚市の住宅テクノサービスでクローン技術を使った採種措置を受けた。同年6月、培養苗が相生市に返還された。

いヤア、こんなことがあったのかと、遠く関東に住んでいる身としては、分かり様のない話なのでした。大根が主役になってTVのワイドショーにまで取り上げられるとは! 更には治療が行なわれ、再生が叶わずとなれば、クローン技術を使っての採種措置を受けたという。実に驚くべき滑稽な話です。(いや、このようにコメントするのは、もしかしたら断罪の対象となるのかも知れません。)

感動することの少なくなった今日では、もはや人間の行為ではなく、大根という植物にまで根性などというありえない精神現象をかぶせてニュースの対象に引っ張り出したということなのでしょう。ま、アスファルト舗装道の狭い隙間に落ちこぼれた一粒の大根の種が、本来の野生の生命の活動を営む内に、いつしかその堅固なるアスファルト舗装の壁を打ち破って見事に生長し花を咲かせるに至ったという話なのでしょう。非力な女性の包丁にさえも耐えられない大根が、コンクリートを打ち破って生長するというのは確かに信じられない不思議現象です。

しかし私から言わせてもらえば、世の中の多くの人たちは植物の持つ恐るべき力を殆ど何も知らないのだということです。アスファルトの舗装どころかコンクリートの舗装や或いは巨岩であってさえも、それを押しのけ、割って根を蔓延らせ、花を咲かせている樹木など幾らもあるのです。全国に幾つかある石割桜と呼ばれる桜の木などがその代表なのでしょうが、これが野菜類となると話が違うと考えるのは植物の力を知らない人たちの思い違いなのだと思います。植物の生命力というのは、植物の随所に秘められており、それは種類の如何を問わず神秘的に発揮されるものではないかと私は思っています。大地に根を下ろして生長を期すものには、全てその力が備わっているように思います。植物は長い時間をかけて、環境や障害物の弱点を突いて、己の生命を全うしようとする力を持っているのです。偶々その大根の姿が目を引いただけなのだと思います。

ま、このように言ってしまえば、身も蓋も無い話し方となってしまいますから、ど根性大根の大ちゃんに関してはとりあえずその騒ぎを是とすることにします。しかし、安易にそのことだけにあやかる様な商売は、そのままではニュースの広がりと同じくらいのスピードで消え去ってしまうことでしょう。その変わった大根から何を学ぶのか、その感動の源泉が何なのかをアピールしなければ、ど根性大根の話は単なる笑い話で終ってしまうことになります。

相生の道の駅のど根性大根の謎はこれで一応解明されたわけですが、現在の相生市や道の駅は、折角のど根性大根大ちゃんの思いをもう忘れかけ、その根性の大切さ、継続の力の、弛まぬ尽力の大切さを、人びとにアピールすることを忘れかけているのではないかと思ったのでした。これは大ちゃんに対する裏切り行為なのではないかと思った次第です。

   

我が家近くを散歩中に見つけた、小貝川堤防の舗装道で、アスファルトを突き抜けて生え出した茅(ちがや)の若芽。このまま放置しておれば、2年も経てばこのアスファルト舗道は茅の大群に浸蝕されてしまうに違いない。大根であっても同じ結果になるかもしれない。植物の力は予想を遙かに超えている。

コメント
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