古稀の青春・喜寿傘寿の青春

「青春は人生のある時期でなく心の持ち方である。
信念とともに若く疑惑とともに老いる」を座右の銘に書き続けます。

スモールサイエンスとノーベル賞受賞論文

2013-02-09 | 読書
 昨年秋、週刊誌で次のような記事を見ました(週刊文春11月8日号)。福岡伸一さんの寄稿です。
【ノーベル賞を受賞した山中伸弥先生が、最初にiPS細胞の作成に成功したことを世に問うたのは2006年。生物学の分野では著名な専門誌「セル」に論文が掲載された。
 本文14ページ、付属データ40ページに及ぶ大論文で、iPS細胞の全容が余すところなく一挙に明らかにされていた。誰もが瞠目した。いったんは分化した細胞を、いとも簡単に初期化する方法が実現されていたから。
 そして世界が驚いたことはもう一つ別にあった。論文の著者として記されていた名前が、Kazutoshi TakahashiとShinya Yamanaka、たった二人だったことである。普通、このような膨大な報告には多数の共同著者が名前を連ねているのが学会の常識だったからである。(中略)
 さて、ここから先、話はちょっと機微になる。はたしてノーベル賞選考委員会は、高橋さんを受賞者に含めることを考慮することはなかったのだろうか。・・・先見性のあるリーダーとそれを支える優秀な右腕。山中先生は高橋さんの多大な貢献をたたえ、高橋さんは尊敬と感謝の言葉を忘れない。しかし、師弟の物語はいつも美しいとは限らない。ガンウィルス発見のケースでは、ノーベル賞から漏れた共著者が不当を訴えて一悶着があった。
 光のそばにはいつも影がある。しかしほんとうに大切なことは、ノーベル賞につながる研究がたった二人で行われたという事実の方にあるのではないかと福岡ハカセは思う。
 スモール・イズ・ビューチフル。発見の萌芽はつねにスモールサイエンスから始まる。】

さて、昨日紹介した吉成さんの本に、ワトソン(DNA二重らせん構造解明でノーベル賞受賞)とのインタビューが載っていた。
福岡ハカセと同趣旨の発言がありました。
【――遺伝子ノックアウト研究や病気の研究などは、広い動物施設や研究室を必要とするわけですが、生物学の研究はいよいよ、多くの人やスペースを必要とするような、大スケールのサイエンスになってきているということでしょうか。
ワトソン 30人もの名前が連なった論文をみると、遺伝子ノックアウト操作をしたテクニッシャンたちの名前も入っているし、どうかするとDNAを提供した医者の名前まで入っている・これはおかしい。これをすることで「個人」という概念を壊してしまっている。(中略) アダム・スミスが『国富論』の中で言っていることですが、そもそも文明の大きな進歩というものは「個人」が生み出すもので、「政府」からはけっして生まれてこない。ですから集団の一員ということでなはく、独立した「個人」というものが尊重されなければならない。
 何人も一緒に働いていると、どの方法がベストであるか、みなの同意をえなければならない。総意というものは往々にして間違っているものです。
 大スケールのサイエンスが幅を利かせつつあることを懸念しています。大スケール・サイエンスもやる必要はありますが、一通り仕事が終わったら、組織を解体すべきなんです。】 

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