知の逆転
2013-02-08 | 読書
もう1冊面白い本を紹介します。『知の逆転』(NHK出版新書、吉成真由美編、2012年12月刊)を図書館の棚でみつけました。
著者の吉成さんは、噂によると、ノーベル賞の利根川進博士の再婚相手らしい。マサチュ-セッツ工科大学(脳および認知科学学部)卒業、ハーバート大学院修士課程(脳科学専攻)終了、元NHKデイレクタという。
この本は、現代世界の知の巨人ともいうべき6人の知識人に、吉成さんがインタビュウした記録を編んだものです。6人とは・・
ジャレド・ダイアモンドは、『銃・病原菌・鉄』でピューリッツアー賞受賞。ノーム・チョムスキーは「普遍文法」理論で現代言語学に革命をもたらした言語学者。オリバー・サックスは脳神経科医師で作家、ベストセラー「妻を帽子と間違えた男」の著者です。マービン・ミンスキーは認知科学者、人工知能の専門家。トム・レートンMIT応用数学科教授、インターネット企業の設立者です。ジェームス・ワトソンは、DNA二重らせん構造を解明したノーベル生理学・医学賞受賞者です。
編者と6人の知識人との対話は、まことに刺激的で面白い。
たとえば、チョムスキー。資本主義について語る。
アメリカは資本主義の国ということになっている。人々はコンピュータを使い、インターネットを使い、飛行機に乗り、薬を飲む。(その)人々が使うほとんど全てのものはどこから来たのかというと、実は経済の公共部門から出てきたもの、つまり税金によって、政府のプロジェクトとして開発されたものなのです。
(たとえば)近年のアメリカ最大の民間輸出品目は、民間航空機でしょうが、民間航空機とは、要するに改良を加えた爆撃機・・・航空電子工学、計測工学など、やっかいな部分の研究は、国家防衛の名目ですべて政府の支援によって行われた。・・・
唯一市場原理だけで動いているのが、金融部門です。だから何度も破綻する。市場原理だけでは破綻は避けられません。金融部門はほぼ10年ごとに大きな危機に見舞われています。1930年代から70年代にかけて、比較的安定した金融システムの時代があったのですが、70年代に入って調整システムが崩壊してしまった。通貨が自由化され規制が解かれ、おまけにレーガン、クリントン、ブッシュという規制緩和のマニア(狂人)が出てきて、危機を招くことになったのです。
メキシコなどの国々では、アメリカが突然利率を引き上げたので債務不履行が出て、世界銀行からの負債請求が突然支払不可能になった。そこでIMF―――といっても実態はアメリカ財務省の出先機関のようなものですが――が介入して、メキシコの貧しい人々から、彼らが負ったものでもない借金の取り立てをするのです。独裁者が作った借金を貧しい国民が支払わねばならない。そして金持ちの債権者であるシテイグループなどは破産し、基本的にはまわりまわったIMFのお金で救済してもらった・・・これが資本主義でしょうか。しかも何度もくりかえし起こっている。・・・市場原理に従っている経済の金融部門は、繰り返し破綻し、その度に政府が救済することを余儀なくされています。
実際のところ民間ビジネスは強い政府によって保護されることを望んでいる。金融システムも政府が規制することによって生き延びていけることになるでしょう。
―――政府による規制は不可避だということですか。
絶対に不可避です。(中略:ここで、市場の取引が「負の外部性」を考慮しない問題について述べている)
アメリカの対中国貿易赤字がますます膨れ上がっていくことが問題になっていますが、対日本、韓国、台湾の貿易赤字のほうが下がっていることには誰も注意を払っていないようです。実際は、これらの国々が部品や技術やアイデアを中国に提供し、中国が組立てアメリカに輸出している。そしてそれを対中国貿易赤字だと言っている。しかしよく考えてみれば、それは対日本、韓国、台湾など、95%の商品価値を提供している国々との貿易赤字になるわけで、その部分を考慮すると、対中国赤字は約30%減り、(中国)周辺諸国との赤字が25%増えるということになります。
中国は2010年に日本をぬいて、GDP世界第二位になりました。しかし、その巨大な人口は、まもなく人口統計上の問題を露呈します。つまり、中国の急成長は、その巨大な労働人口の平均年齢が大体24歳くらいであることに支えられていますが、一人っ子政策の影響により、間もなく労働者不足がハッキリしてくるでしょう。
中国はあまり資源を持っていない。エネルギーもあまりない。唯一の資源はレア・アースです。もともと農業用の土地として素晴らしいはずなのですが、環境破壊によって、その多くがダメになってしまっている。重大な環境保護上の問題をかかえています。
しかも中国は世界でも最悪の格差社会になってきています。労働者階級に富が回らないのは世界的な傾向ですが、中国が最もひどい状態です。
―――「核抑止力」は現実的な概念でしょうか。
アメリカは本気で「核抑止」など考えていない。アメリカが考えているのは「核抑止」ではなく「核支配」です。・・本気で「核抑止」を言うなら、イランの核武装準備を支援しなければならないのに、本音が「核支配」だからそうしない。
危機は拡大している。小型で性能の良い核兵器はどこへでも移動可能で、いずれか一つが発射するのは時間の問題でしょう。ですから、核兵器はむしろ危機を拡大している可能性のほうが高い。唯一の解決策は核兵器をなくすことです。
経済学者でも政治学者でもない著名な言語学者が、こう考えていることを、とても面白いと思いました。
長くなりますので、そのほかの知識人の対談内容は次の機会に紹介します。
著者の吉成さんは、噂によると、ノーベル賞の利根川進博士の再婚相手らしい。マサチュ-セッツ工科大学(脳および認知科学学部)卒業、ハーバート大学院修士課程(脳科学専攻)終了、元NHKデイレクタという。
この本は、現代世界の知の巨人ともいうべき6人の知識人に、吉成さんがインタビュウした記録を編んだものです。6人とは・・
ジャレド・ダイアモンドは、『銃・病原菌・鉄』でピューリッツアー賞受賞。ノーム・チョムスキーは「普遍文法」理論で現代言語学に革命をもたらした言語学者。オリバー・サックスは脳神経科医師で作家、ベストセラー「妻を帽子と間違えた男」の著者です。マービン・ミンスキーは認知科学者、人工知能の専門家。トム・レートンMIT応用数学科教授、インターネット企業の設立者です。ジェームス・ワトソンは、DNA二重らせん構造を解明したノーベル生理学・医学賞受賞者です。
編者と6人の知識人との対話は、まことに刺激的で面白い。
たとえば、チョムスキー。資本主義について語る。
アメリカは資本主義の国ということになっている。人々はコンピュータを使い、インターネットを使い、飛行機に乗り、薬を飲む。(その)人々が使うほとんど全てのものはどこから来たのかというと、実は経済の公共部門から出てきたもの、つまり税金によって、政府のプロジェクトとして開発されたものなのです。
(たとえば)近年のアメリカ最大の民間輸出品目は、民間航空機でしょうが、民間航空機とは、要するに改良を加えた爆撃機・・・航空電子工学、計測工学など、やっかいな部分の研究は、国家防衛の名目ですべて政府の支援によって行われた。・・・
唯一市場原理だけで動いているのが、金融部門です。だから何度も破綻する。市場原理だけでは破綻は避けられません。金融部門はほぼ10年ごとに大きな危機に見舞われています。1930年代から70年代にかけて、比較的安定した金融システムの時代があったのですが、70年代に入って調整システムが崩壊してしまった。通貨が自由化され規制が解かれ、おまけにレーガン、クリントン、ブッシュという規制緩和のマニア(狂人)が出てきて、危機を招くことになったのです。
メキシコなどの国々では、アメリカが突然利率を引き上げたので債務不履行が出て、世界銀行からの負債請求が突然支払不可能になった。そこでIMF―――といっても実態はアメリカ財務省の出先機関のようなものですが――が介入して、メキシコの貧しい人々から、彼らが負ったものでもない借金の取り立てをするのです。独裁者が作った借金を貧しい国民が支払わねばならない。そして金持ちの債権者であるシテイグループなどは破産し、基本的にはまわりまわったIMFのお金で救済してもらった・・・これが資本主義でしょうか。しかも何度もくりかえし起こっている。・・・市場原理に従っている経済の金融部門は、繰り返し破綻し、その度に政府が救済することを余儀なくされています。
実際のところ民間ビジネスは強い政府によって保護されることを望んでいる。金融システムも政府が規制することによって生き延びていけることになるでしょう。
―――政府による規制は不可避だということですか。
絶対に不可避です。(中略:ここで、市場の取引が「負の外部性」を考慮しない問題について述べている)
アメリカの対中国貿易赤字がますます膨れ上がっていくことが問題になっていますが、対日本、韓国、台湾の貿易赤字のほうが下がっていることには誰も注意を払っていないようです。実際は、これらの国々が部品や技術やアイデアを中国に提供し、中国が組立てアメリカに輸出している。そしてそれを対中国貿易赤字だと言っている。しかしよく考えてみれば、それは対日本、韓国、台湾など、95%の商品価値を提供している国々との貿易赤字になるわけで、その部分を考慮すると、対中国赤字は約30%減り、(中国)周辺諸国との赤字が25%増えるということになります。
中国は2010年に日本をぬいて、GDP世界第二位になりました。しかし、その巨大な人口は、まもなく人口統計上の問題を露呈します。つまり、中国の急成長は、その巨大な労働人口の平均年齢が大体24歳くらいであることに支えられていますが、一人っ子政策の影響により、間もなく労働者不足がハッキリしてくるでしょう。
中国はあまり資源を持っていない。エネルギーもあまりない。唯一の資源はレア・アースです。もともと農業用の土地として素晴らしいはずなのですが、環境破壊によって、その多くがダメになってしまっている。重大な環境保護上の問題をかかえています。
しかも中国は世界でも最悪の格差社会になってきています。労働者階級に富が回らないのは世界的な傾向ですが、中国が最もひどい状態です。
―――「核抑止力」は現実的な概念でしょうか。
アメリカは本気で「核抑止」など考えていない。アメリカが考えているのは「核抑止」ではなく「核支配」です。・・本気で「核抑止」を言うなら、イランの核武装準備を支援しなければならないのに、本音が「核支配」だからそうしない。
危機は拡大している。小型で性能の良い核兵器はどこへでも移動可能で、いずれか一つが発射するのは時間の問題でしょう。ですから、核兵器はむしろ危機を拡大している可能性のほうが高い。唯一の解決策は核兵器をなくすことです。
経済学者でも政治学者でもない著名な言語学者が、こう考えていることを、とても面白いと思いました。
長くなりますので、そのほかの知識人の対談内容は次の機会に紹介します。