古稀の青春・喜寿傘寿の青春

「青春は人生のある時期でなく心の持ち方である。
信念とともに若く疑惑とともに老いる」を座右の銘に書き続けます。

福島原発で何が起こったか

2013-02-06 | 経済と世相
『福島原発で何が起こったか』(畑村洋太郎他著、日刊工業新聞社、2012年12月刊)という本を買ってきて読んでいます。・
 「失敗学」の先生として著名な、福島事故の政府事故調の委員長、畑村さんの著作です。
政府事故調の報告書は1500ページにも及ぶレポートですから、読み通すのはたいへんです。そこで委員長の筆になるこの書を読んで、レポートの概要を知りたいと思いました。なにしろ、この事故は、日本にとっては今世紀最大の歴史的事件になるであろうから、ぜひ失敗学の権威のご見解をしりたいと思ったのです。
 以下はその一節ですが、「全電源喪失」の主因は、非常用デイーゼル発電機の水没ではなく、配電盤の水没であったといいます。
【事故後1.5年以上を経過した現在でも、非常用デイーゼル発電機の水没が、全交流電源喪失の主原因であったかのような報道が多い。しかし、すでに述べたように、実際には1~4号機8台の非常用D/Gの中の2台は、地上階に設置されていたために水没せず、しかもそれらは海水ポンプを必要としない空冷式だったため、発電機単体としては稼働可能であった。
 ところが電力を受ける配電盤はほとんどが地下一階に配置されていたためその多くが浸水し、全交流電源喪失の決定的な原因となってしまった。つまり、配電盤の設置場所の「多様性」の欠如が、「深層防御」を失わせる決定的な原因であった。せっかく多重化されている配電盤の配置の分散化を図っておくべきだった。
 ちなみに、常用・非常用配電盤がともに機能喪失していた以上、外部電源が供給されていたとしても全電源喪失は避けられなかったわけであり、この観点からも全電源喪失の決定的原因は配電盤の水没にあったといえる。】
 交流電源だけでなく、直流電源についても、以下の記述があった。
【直流電源の喪失は、各プラントの計測・制御機能の不全を招き、事故対応の“致命的”な要因になった。1号機のIC((非常用復水器)がファイルセイフ機能で停止したことも、直流電源の喪失が直接の原因である。
 原子力安全委員会の安全設計指針には、30分程度の交流電源喪失への対応の必要性は定められていたが、直流電源については、「一瞬の喪失」 すらも想定されていなかった。直流電源が喪失すれば、交流電源喪失以上に事故が深刻化する。今回実際に起こったように、直流電源が失われると原子炉の状態がわからなくなり、また、わかったとしても機器の操作ができなくなるからである。そのような事態は起こらないことになっていたため、その備えはまったく行われていなかった。
 実際の事故時には、敷地内に駐車していた車からバッテリーを外してかき集めるという応急の策がとられた。しかし、それに手間取り、事故の深刻化の一因になった。そのことの重要性を考えれば、コストのかからない可搬式の直流電源を準備しておくべきだったし、せめて12Vバッテリーの備蓄程度の対策は行っておくべきだったと思わざるをえない。】
 問題の津波への対応については
【福島第一原発において主要設備のある建屋エリヤの敷地高さは10m、海水ポンプなどの設置された海側エリヤの敷地高さは4mである。この付近を襲った津波の高さは約15mで、敷地全域が浸水した。福島第一原発の建設前、もともとの丘陵の高さは約30mであった。しかし建設の際に、原子炉建屋を強固な岩盤上に設置する岩着という必要もあって、これを削り取って10mの敷地高さまで低くしている。このことから、計画時に津波をほとんど意識していないか、さもなければ何等かの理由で津波を低く評価していたことが推察される。】

 いったい、原発の安全神話ってなんだったのでしょう。