shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Retouch / Martin Haak Kwartet

2010-05-09 | Jazz
 私の人生の大きな喜びの一つは未知の名曲・名盤との出会いである。今でこそレコードや CD は殆どネットで買っているが、ヤフオクや eBay を知る8年前までは週に1回は必ず大阪・京都・神戸のレコード屋を回っていた。ハッキリ言って交通費もバカにならないし、よくもまあ飽きもせず毎週毎週出かけていったものだと思うが、奈良に住む私にとって当時はそれしかレコードを買う手段がなかったし、足を棒にして歩いた分、掘り出し物に出会えた時の喜びは何よりも大きかった。
 大阪の中古レコード屋で当時私が贔屓にしていた良心的なお店の殆どが今では閉店してしまったが、そんな中でも私が一番好きだったのが大阪日本橋にあった EAST というお店である。店主の佐藤さんご自身が年に何度かヨーロッパへ買い付けに行かれることもあって他店とは一味も二味も違う品揃え、しかもめっちゃ良心的な値付けがされていたこともあって私は足繁くお店に通い、そのうち顔や名前も覚えていただいて親しくお話を伺うようになった。
 佐藤さんにススメていただいた盤は100%ハズレ無しで、イザベル・オーブレのフレンチ・ボッサ盤やギュンター・ノリスのビートルズ・カヴァー盤、ペトゥラ・クラークのジャズ・スタンダード盤にジリオラ・チンクエッティのディズニー曲集など、そのどれもが私の嗜好のスイートスポットを直撃する好盤だった。そんなある時、レコード買い付けから帰ってこられたばかりの佐藤さんが “shiotch7さん、こんなん好きちゃう?” と言ってかけて下さったのがマルティン・ハークという未知のオランダ人ピアニストのアルバム「レタッチ」に入っている「アローン・アゲイン」だった。弾むようなパーカッションが刻むウキウキするようなリズムに乗って、ゴキゲンにスイングするピアノがギルバート・オサリヴァン一世一代の名曲を軽快に奏でていく。原曲の素朴な旋律の最もオイシイ部分を抽出してスインギーなジャズに仕上げているところが何とも痛快で、私は即座に “コレ下さいっ!!” とコーフン気味に(笑)叫んでいた。
 ライナーが英語じゃない(オランダ語?)のでこのピアニストのことは何も分からないが、収録曲はジャズの有名スタンダードからポップスの名曲に至るまでヴァラエティーに富んでいて、そのメロディー重視の選曲基準は実に分かりやすい。サウンドの一番の特徴はやはりパーカッション入りのピアノ・カルテットという一点に尽きるだろう。小賢しいことを一切考えず、ポップなメロディーを心躍るようなリズムに乗せてスインギーに演奏することに徹しているのが何よりも素晴らしい(^o^)丿
 まずは A面のアタマからいきなり歯切れの良いパーカッションの乱れ打ちで始まるガーシュウィンの A-①「ザ・マン・アイ・ラヴ」、もうノリノリである(^o^)丿 ギルバート・オサリヴァンの A-③「アローン・アゲイン」といい、スティーヴィー・ワンダーの B-①「ユー・アー・ザ・サンシャイン・オブ・マイ・ライフ」といい、パーカッションが入ったことによってウキウキワクワク感が増強され、聴いてて思わず身体が揺れるような強烈なスイングが生み出されている。又、デューク・ジョーダンの B-②「ジョードゥ」やジェローム・カーンの B-④「イエスタデイズ」といったジャズの定番曲でも跳ねるようなピアノを中心としたカルテットが生み出すグルーヴが絶品で、サバービアな雰囲気横溢のサウンドが耳に心地良い。
 ミディアム・スローから始まって徐々に盛り上がっていくビートルズ・カヴァー A-②「フォー・ノー・ワン」も品格滴り落ちるエレガントなピアノがエエ感じで、その絵に描いたような小粋で歌心溢れるプレイはこのピアニストが只者ではないことを物語っている。アントニオ・カルロス・ジョビンの B-③「ワンス・アイ・ラヴド」ではヴァイブの洗練されたサウンドが楽しめて、アルバムの絶妙なアクセントになっているように思う。
 確かにネットのワン・クリックで欲しい盤が自宅に届くという便利な時代になったが、その裏では信頼できるレコード店がどんどん姿を消していっている。 EAST も、 VIC も、しゃきぺしゅも閉店し、関西では神戸のハックルベリー以外はもうロクな店は残っていないので、今更レコード屋巡りを再開する気にもなれないが、お世話になったお店のご主人たちとの楽しいやり取りを経て買ったレコードを見るたびに、猟盤ツアーに熱中していた当時を懐かしく思い出す今日この頃だ。

マルティン・ハーク