shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

プレイ・ピアノ・プレイ ~大西順子トリオ・イン・ヨーロッパ

2010-05-01 | Jazz
 私がジャズを聴き始めたのは1993年頃だった。ビルボード誌の集計方法改悪によって全米チャートがラップやヒップホップといったワケのわからんブラック・ミュージックだらけになり、それまで愛聴してきた80’s系のポップなロック曲が激減したため、洋楽に愛想を尽かした私は何か夢中になれる音楽はないモンかと色々なジャンルの音楽を聴き漁り、私を夢中にしたロックのノリに近いものをジャズのスイングに感じたのだ。非常に乱暴な言い方になるが、私にとっては AC/DC のタテノリ・ロックもアート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズのファンキー・ジャズも、思わず身体が揺れてしまうという点では似たようなモノだった。
 ジャズを聴き始めて私が最初にハマったのがいわゆるひとつのピアノトリオというフォーマットで、最初の1年ほどは “寝ても覚めてもピアノトリオ” 状態が続いた。管が入らない分、大好きなブラッシュやアコースティック・ベースの音が堪能できるし、何よりもサックス界の一部に蔓延していたシーツ・オブ・サウンドとかいう暑苦しい奏法につきあわされるリスクが無くなるからだ。
 まだインターネットも何もなかった当時、ジャズ・ド素人の私にとっての情報源はスイング・ジャーナルというジャズ専門誌だけだった。そんな SJ 誌で当時大プッシュされていたのが大西順子という日本人ピアニストで、ちょうどデビューしたてでいきなりセンセーションを巻き起こしていたこともあり、私も早速彼女のデビュー・アルバアム「Wow」を買ってきて聴いてみた。コンテンポラリーなジャズ・ピアニストの多くはエヴァンス派といってパラパラと流麗に弾くタイプが主流なのだが、彼女のピアノは力強くガンガン弾きまくるスタイルで、まるでデューク・エリントンの「マネー・ジャングル」を聴いているかのような錯覚にとらわれるほど豪快なプレイが楽しめ、私はいっぺんに彼女のファンになった。
 その後の彼女は数々の名盤を生んできたジャズの聖地、ニューヨークのクラブ “ヴィレッジ・ヴァンガード” でのライヴ盤を始め、破竹の快進撃を見せるのだが、そんな彼女のキャリアのピークを記録したライヴ盤が1996年にリリースされたこの「プレイ・ピアノ・プレイ ~大西順子トリオ・イン・ヨーロッパ」である。この盤は96年7月にヨーロッパで行われたモントルーを始めとする3つのジャズ・フェスティバルに彼女が出演した時のセット・リストの中からベストのプレイを収録したもので、トリオが一体となって展開するスリリングなプレイがたまらないピアノ・トリオ・ジャズの名盤だ。
 特に気に入っているのがアルバム・タイトルにもなった①「プレイ・ピアノ・プレイ」で、エロール・ガーナーの隠れ名曲を探し出してくる嗅覚も大したものだが、それを完全に消化し、さらにパワーアップさせてまるで自分のオリジナル曲のように弾きこなしてしまうあたり、もうさすがと言う他ない。そのか細い腕からは想像も出来ないようなパーカッシヴなピアノのドライヴ感、ドラムスのシャープな切れ味、ベースのゴリゴリした押し出し感... それらが渾然一体となってライヴならではの生き生きした空間を感じさせてくれるところが何よりも素晴らしい。大西順子のベスト・プレイの一つに挙げたい名曲名演だ。
 有名スタンダード②「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」はいきなりアドリブから始まる大胆な展開で、最初は何の曲を演っているのか???なのだが、このアドリブが又凄まじく、火の出るようなインプロヴィゼイションの連続に言葉を失う。その眼も眩むようなスピード感は圧巻だ。残りの5曲はすべて彼女のオリジナル曲だが、これが又甲乙付け難い出来の良さ。ダイナミックなプレイに圧倒される③「スラッグス」、急速調で変幻自在のプレイを聴かせる④「トリニティ」、唯一のバラッドでありながら緊張感溢れるモンク風ナンバー⑤「ポートレイト・イン・ブルー」、端正な導入部から一気に順子ワールドへ突入し凄まじいインタープレイの応酬を聴かせる⑥「クトゥービア」、そして彼女の代表曲の一つ⑦「ザ・ジャングラー」ではスタジオ録音ヴァージョンを凌駕するスリリングなプレイが楽しめてもう言うことナシだ。
 エレピやシンセサイザーに手を出して失速してしまう前の、オーソドックスなフォービート・ジャズを演っていた頃の大西順子は本当に凄かった。それを如実に物語っているのがこのライヴ盤なのだ。

モントルーの大西順子・ジャズ名曲メドレー


プレイ・ピアノ・プレイ