ジャズ界ではよく “幻の名盤” とか言って入手困難な稀少盤を必要以上にありがたがる傾向がある。もちろん優れた内容の盤も多いが、中には “何でコレが名盤やねん?” と首をかしげたくなるような盤まで稀少価値だけで5桁6桁の値がつくという浮世離れした世界である。私も最初はワケがわからず傍観を決め込んでいたのだが、実際に海外オークションをやってみてだんだんそのカラクリが分かってきた。
当時、廃盤店主の多くは年に2~3回海外買い付けに行ってオリジナル盤を仕入れてきたものだが、一部の業者はネットを駆使して eBay オークションで安く落札したものに法外な値を付け、リッチで盲信的な常連客に売りさばいて暴利をむさぼり続けた。彼らの入札競争によって落札価格が高騰し、結局それが海外のセラーを強気にさせるという悪循環を招き、人気のあるオリジナル盤は庶民の手の届かない高嶺の花になってしまったのだ。
今日取り上げるジュディー・ベイリーはジャズ界では珍しいオーストラリアの、しかも女性ピアニストということで、これは商売になると踏んだのかどうかは知らないが上記の業者が彼女のデビュー・アルバム「ユー・アンド・ザ・ナイト・アンド・ザ・ミュージック」(1963年)を “ピアノトリオのコレクターなら持っていて当り前” とか言ってマニア心を煽った結果、コレクターの間であっと言う間に超人気盤になり、今では10万円前後で取り引きされていると聞く。もう開いた口が塞がらない(゜o゜)
こう書いてくると値段が高いだけで中身はイマイチ、みたいに思われるかもしれないが、このアルバムに限って言えば聴き応え十分な内容で、“持ってて当り前” とは言わないまでも(笑)持っていて決して損はない名盤だと思う。私は良い音で聴けさえすれば1円でも安い方がいいので、業者連中が狙わないニュージーランド盤を16,000円で手に入れた。 NZ 盤はオリジナルの AU 盤とレコード番号が違うだけで他は殆ど同じなので、私としてはめっちゃオイシイ買い物だった(^.^)
このアルバムはタイトルに「ナイト」が付いた曲ばかり集められており、それらがピアノトリオ・フォーマットで演奏されている。全体的な印象としては“オーストラリアの女ビル・エヴァンス” といった感じで、それもリリシズムがスベッタだの転んだだのといった内省的な演奏ではなく、エヴァンスの本質とでもいうべきハードボイルドなプレイが楽しめるのが嬉しい。しかも単なるエヴァンス・エピゴーネンでは終わらないオリジナリティーも随所に感じられるのだからもう言うことナシだ。
私がまず気に入ったのはタイトル曲の A-①「ユー・アンド・ザ・ナイト・アンド・ザ・ミュージック」。エヴァンス・ライクなカッコ良いフレーズの速射砲といい、ヴァンガード・ライヴを彷彿とさせるようなベースとのインタープレイといい、実にテンションの高い演奏が繰り広げられる。短く切断されたブツ切りフレーズの波状攻撃やチェンジ・オブ・ペースの妙なんかもエヴァンスが憑依したかのようなプレイで、この手の音が好きなファンにはこたえられない演奏だと思う。
先日キョロシーの名演を紹介したばかりの我が愛聴曲 B-③「ナイト・イン・チュニジア」も疾走感溢れるプレイがめっちゃスリリングで、縦横無尽にスイングしながらもピアノの鋭いアタック音が炸裂、ベースもブンブン唸りを上げて暴れ回るという理想的な展開だ。他にもスローなソロ・ピアノ風のイントロから一転して急速調のトリオ演奏で駆け抜ける A-②「イン・ザ・スティル・オブ・ザ・ナイト」や典雅にスイングする A-④「ディープ・ナイト」、威風堂々たるランニング・ベースに乗って美麗フレーズが続出する B-①「ザ・ナイト・ハズ・ア・サウザンド・アイズ」なんかかなりエエ感じ。一方スローな B-②「ナイト・アンド・デイ」や B-④「ラウンド・ミッドナイト」ではやや凡庸な演奏に終始しているように思う。
とまぁこのようにエヴァンス好きな日本のピアノトリオ・ファンには大ウケしそうな内容なのだが、なぜか未 CD 化のままである。権利関係とか色々複雑なのかもしれないが、日本のレコード会社も毎回同じようなラインナップで再発を繰り返す暇があったら、こういう盤を CD 化してくれたらエエのに...
ジュディー・ベイリー
当時、廃盤店主の多くは年に2~3回海外買い付けに行ってオリジナル盤を仕入れてきたものだが、一部の業者はネットを駆使して eBay オークションで安く落札したものに法外な値を付け、リッチで盲信的な常連客に売りさばいて暴利をむさぼり続けた。彼らの入札競争によって落札価格が高騰し、結局それが海外のセラーを強気にさせるという悪循環を招き、人気のあるオリジナル盤は庶民の手の届かない高嶺の花になってしまったのだ。
今日取り上げるジュディー・ベイリーはジャズ界では珍しいオーストラリアの、しかも女性ピアニストということで、これは商売になると踏んだのかどうかは知らないが上記の業者が彼女のデビュー・アルバム「ユー・アンド・ザ・ナイト・アンド・ザ・ミュージック」(1963年)を “ピアノトリオのコレクターなら持っていて当り前” とか言ってマニア心を煽った結果、コレクターの間であっと言う間に超人気盤になり、今では10万円前後で取り引きされていると聞く。もう開いた口が塞がらない(゜o゜)
こう書いてくると値段が高いだけで中身はイマイチ、みたいに思われるかもしれないが、このアルバムに限って言えば聴き応え十分な内容で、“持ってて当り前” とは言わないまでも(笑)持っていて決して損はない名盤だと思う。私は良い音で聴けさえすれば1円でも安い方がいいので、業者連中が狙わないニュージーランド盤を16,000円で手に入れた。 NZ 盤はオリジナルの AU 盤とレコード番号が違うだけで他は殆ど同じなので、私としてはめっちゃオイシイ買い物だった(^.^)
このアルバムはタイトルに「ナイト」が付いた曲ばかり集められており、それらがピアノトリオ・フォーマットで演奏されている。全体的な印象としては“オーストラリアの女ビル・エヴァンス” といった感じで、それもリリシズムがスベッタだの転んだだのといった内省的な演奏ではなく、エヴァンスの本質とでもいうべきハードボイルドなプレイが楽しめるのが嬉しい。しかも単なるエヴァンス・エピゴーネンでは終わらないオリジナリティーも随所に感じられるのだからもう言うことナシだ。
私がまず気に入ったのはタイトル曲の A-①「ユー・アンド・ザ・ナイト・アンド・ザ・ミュージック」。エヴァンス・ライクなカッコ良いフレーズの速射砲といい、ヴァンガード・ライヴを彷彿とさせるようなベースとのインタープレイといい、実にテンションの高い演奏が繰り広げられる。短く切断されたブツ切りフレーズの波状攻撃やチェンジ・オブ・ペースの妙なんかもエヴァンスが憑依したかのようなプレイで、この手の音が好きなファンにはこたえられない演奏だと思う。
先日キョロシーの名演を紹介したばかりの我が愛聴曲 B-③「ナイト・イン・チュニジア」も疾走感溢れるプレイがめっちゃスリリングで、縦横無尽にスイングしながらもピアノの鋭いアタック音が炸裂、ベースもブンブン唸りを上げて暴れ回るという理想的な展開だ。他にもスローなソロ・ピアノ風のイントロから一転して急速調のトリオ演奏で駆け抜ける A-②「イン・ザ・スティル・オブ・ザ・ナイト」や典雅にスイングする A-④「ディープ・ナイト」、威風堂々たるランニング・ベースに乗って美麗フレーズが続出する B-①「ザ・ナイト・ハズ・ア・サウザンド・アイズ」なんかかなりエエ感じ。一方スローな B-②「ナイト・アンド・デイ」や B-④「ラウンド・ミッドナイト」ではやや凡庸な演奏に終始しているように思う。
とまぁこのようにエヴァンス好きな日本のピアノトリオ・ファンには大ウケしそうな内容なのだが、なぜか未 CD 化のままである。権利関係とか色々複雑なのかもしれないが、日本のレコード会社も毎回同じようなラインナップで再発を繰り返す暇があったら、こういう盤を CD 化してくれたらエエのに...
ジュディー・ベイリー