shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Jancsi Korossy

2010-05-02 | Jazz
 ヤンシー・キョロシーはルーマニアのピアニストである。ヨーロッパのジャズと言うと世間では、クラシックの素養をベースにモードやフリーを消化してそれらをヨーロッパ的な感性で表現したような60年代後半以降の盤が主流だが、 “クラシック=眠たい、モード・ジャズ=退屈、フリー・ジャズ=精神異常” と感じる私にとってはほとんど無縁の音楽と言っていい。現にこのキョロシーにも69年にドイツのMPSレーベルからリリースした「アイデンティフィケーション」という人気盤があり、当時はキョロシーで唯一CD化されていた盤ということで興味を引かれたのと、有名スタンダードを演っているから多分大丈夫やろうと油断した(笑)こともあって、私もそのCDを買って聴いてみたのだが、これがもう聴くに堪えないフリーなアドリブの嵐で、スタンダードのメロディーをギッタギタに破壊し尽くすようなアホバカ・プレイにブチ切れた私は即刻中古屋へと売り飛ばしたものだった。
 しかしノーマから復刻されたこの 10インチ盤「ヤンシー・キョロシー」は違った。元々は65年録音のエレクトレコード盤がオリジナル(EDD 1104)で、まだモードやフリーの悪しき影響を受けておらず、良い意味での “アメリカのジャズのコピー” 的色彩が強い、清々しいバップ・ピアノが楽しめるのだ。それもそんじょそこらに転がっているようなノーテンキなバップ・ピアノではなく、異常なまでにハイ・テンションでスリリングなプレイが聴けるのだからコレはもうこたえられない(≧▽≦)
 全8曲入りのこのアルバム、まずは何と言ってもA面1曲目の①「ナイト・イン・チュニジア」、コレに尽きる。シャキシャキしたドラムスにブンブン唸るベースが絡みつき、鋭利なナイフのようなピアノ音の速射砲がスピーカーから飛び出してくるイントロを聴いただけでそのただならぬ気配、尋常ならざるテンションの高さが伝わってくる。とにかく小賢しいことは一切抜きでピアノトリオの王道を行くような直球勝負と言える演奏で、トリオが一体となって燃え上がるその様は筆舌に尽くし難い素晴らしさだ。ピアノのハネ方とアタック音のメリハリのつけ方なんかめっちゃカッコエエし、ハイ・スピードでガンガン弾きまくりながらも溢れるような歌心がビンビン伝わってくるそのプレイにジャズ・ピアニストとしての抜群のセンスを感じてしまう。漲るパワー、迸り出るエネルギー...そのすべてが圧巻だ。
 超有名スタンダード②「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」は実を言うとそのメロディー展開も気だるいテンポもイマイチ好きになれない私の苦手曲なのだが、このキョロシー・トリオの演奏はすんなり入っていける。キョロシーの絶妙な間の使い方とドラムスの瀟洒なリズムが生み出す独特のグルーヴに思わず聴き入ってしまうのだ。あまり好きでもない曲をここまで聴かせてしまうのってある意味凄いことだと思う。
 ③「ブルース・フォー・ギャレイ」でもまるで黒人のようなグルーヴィーなピアノが楽しめて言うことナシ。①②③と聴いてきて、ジャズ後進国ルーマニア出身というハンデは微塵も感じさせないし、むしろ本場アメリカの凡百ピアニスト達よりも遥かにジャズを感じさせるところが凄い。ただ、④「ジュニア」、⑥「ボディ・アンド・ソウル」、⑦「ティップ・トップ」はソロ・ピアノなのでパス(笑) 誰が何を弾こうとジャズのソロ・ピアノは苦手だ。
 B面アタマの⑤「ブロードウェイ」は私の愛聴スタンダード曲の一つだが、ここでもキョロちゃん(←チョコボールかよ...笑)の端正で温か味のあるピアノと張り切りまくるベース、そして乱舞するシンバルが絶妙なバランスを保ちながらスインギーな演奏を聴かせてくれるし、ガーシュウィンの名曲⑧「バット・ノット・フォー・ミー」でもスイング感溢れるノリノリの演奏が楽しめる。まさに “ジャズは歌心とスイングだ!” と声を大にして言いたくなるような名曲名演だ。
 彼のエレクトレコード音源としてはもう1枚、4人のピアニストのトリオ演奏を集めたオムニバス盤10インチ「ジャズ・イン・トリオ」(EDD 1164)があり、そこに収められたチャップリンの「ライムライト」とナット・アダレイの「ワーク・ソング」も同好のピアノトリオ・ファンなら必聴だ。私はこの2枚のキョロシーが好きで好きでついには eBay でルーマニアのセラーから2枚ともオリジナル盤を買ってしまった(笑) どちらもピカピカ盤を結構安く買えてラッキーラララだったが、ノーマからこれらの全音源を1枚にまとめたコスト・パフォーマンス抜群のCDが出ていた(NOCD 5681...今は多分廃盤)ので、アナログに拘らないならそちらが断然オススメだ。

ナイト・イン・チュニジア
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