shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

太田裕美・ゴールデン☆ベスト (Pt. 1)

2010-04-18 | 昭和歌謡
 ビートルズとハードロック一色だった私の中学・高校時代、邦楽でよく聴いていたのはキャンディーズと太田裕美だった。アイドル的な目線で熱を上げていたキャンディーズに対し、太田裕美は純粋に歌そのものにハマっていた。当時の彼女の立ち位置は歌謡界に身を置きながらニュー・ミュージック系の洗練された楽曲を歌うという実にユニークなもので、他のアイドル歌手達とは激しく一線を画していた。特に松本隆=筒美京平ラインが生み出す楽曲の数々が彼女の舌っ足らずな歌声を得て一種独特な歌世界を構築しており、まるで1曲1曲が短編小説のように感じられ、シングルが出るたびにセッセと買っていた。もちろんアルバムも欠かさず買ってはいたが、やはり彼女の場合はシングル盤の方が断然面白い。時期的に言うと「木綿のハンカチーフ」から「さらばシベリア鉄道」あたりまでで、よくもまあこれだけヴァラエティーに富んだ魅力的な作品を次から次へと連発できるものだと感心していた。ということで今回はリアルタイムで聴いてきた彼女のシングル曲について書いてみたい。 CD で言うと「太田裕美・ゴールデン☆ベスト ~コンプリート・シングルス・コレクション~」の Disc-1 である。
 ①「雨だれ」、②「たんぽぽ」、③「夕焼け」とデビューからの3曲はピアノの弾き語りという目新しさはあったものの、基本的にはアイドル歌謡と言っていい路線だった。それが④「木綿のハンカチーフ」という邦楽史上屈指の大名曲で一気にブレイク、特にあの駆け上がるようなストリングスのイントロで聴き手に高揚感を抱かせ、一気に連れ去っていくところなんかもう筒美京平の天才が如何なく発揮されている。あゆの「太陽は泣いている」もそうだったが、まさに“イントロの魔術師”と言いたくなるような吸引力だ。この曲に対する思いのたけは確かこのブログを始めた頃に延々と書き綴った記憶があるので興味のある方はそちらをご覧下さい。
 ④に続くのは “ねぇ 友達なら 聞いてくださる? 淋しがりやの 打ち明け話~♪” で始まる⑤「赤いハイヒール」で、本当にさしで彼女の話を聞いているような錯覚に陥りながらストーリーに引き込まれていく。心にス~ッと沁み入ってくるようなピアノのイントロに涙ちょちょぎれる⑥「最後の一葉」も彼女の歌声を聴いていると “レンガ塀に描かれた木の葉の絵” が目に浮かんでくるようで、歌謡曲やニュー・ミュージックの歌手というよりはむしろ一種のストーリーテラーという趣きである。エンディングで “あなたが描いた絵だったんです~♪” に続いてピアノ、コーラス、ストリングスが一致団結して盛り上げる大仰なアレンジが絶妙だ。
 ⑦「しあわせ未満」は重厚な⑥とは正反対の実に軽やかな旋律を持った佳曲だが、歌詞の方はかなりヘヴィーで、 “僕の心のあばら屋に住む君が哀しい” というフレーズを初めて聞いた時はギクリとした。⑧「恋愛遊戯」は当時としては珍しいボッサ調のナンバーで、起伏の少ないメロディーのせいかそれほどヒットはしなかったが、明らかに他の歌謡曲とは空気感を異にしており、彼女とその制作スタッフ陣がこの曲あたりからニュー・ミュージックの世界に軸足を移し始めたように思う。
 ⑨「九月の雨」は④を別格とすれば初期の彼女の最高傑作と言っていいような名曲だ。④とは逆に今度は駆け下りるようなピアノのイントロが耳に突き刺さり、 “車のワイパー 透かして見てた 都会にうず巻く イルミネーション~♪” というそれまでの彼女の世界にはなかったような大人っぽい歌詞が、哀愁を湛えた旋律に乗って彼女のファルセット・ヴォイスで歌われるのだからたまらない(≧▽≦) 随所に聴ける細やかな器楽アレンジもまさに絶品と言ってよく、筒美京平の天才ここに極まれりといった感じがする。私的にはこの⑨が発表された1977年9月から翌78年7月の⑫「ドール」までのシングル4枚が、歌詞の物語性と曲のポップ性が最も高い次元でバランスされ、ストーリーテラーとしての彼女の絶頂期と言っていいと思っているのだが、そのあたりの話は次回に... (つづく)

九月の雨~太田裕美さん


最後の一葉~太田裕美さん
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