shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

太田裕美・ゴールデン☆ベスト (Pt. 3)

2010-04-24 | 昭和歌謡
 1977年から78年にかけての太田裕美は非常にクオリティーの高いシングルを連発し、ヒット・メーカーとしての大衆性とニューミュージックへの傾倒によるアーティスティックな志向性が非常に高い次元で絶妙なバランスを保っていた。ポップでありながら何度聴いても飽きさせない彼女独自の歌世界は、数カ月後にはキレイサッパリ忘れ去られてしまうような凡百の “使い捨て感覚のヒット曲” とは激しく一線を画しており、前回も書いたように私はこの時期の彼女が一番好きだった。
 そんな彼女のシングル曲の雰囲気がガラッと変わったなぁ...と感じたのが78年12月にリリースされた⑬「振り向けばイエスタデイ」。もちろん相変わらずの舌っ足らずなヴォーカルは健在だったが、シングル・ヒット曲に必要不可欠なウキウキワクワクドキドキ感が非常に希薄で、 “これがあの「ドール」に続くシングルなん?” と当時は面食らったものだった。これは曲の良い悪いではなくシングル向きかどうかということで、私の中では “ニューミュージック系アーティストの、アルバムの中でキラリと光る隠れ名曲” という印象だ。この傾向は同日発売されたアルバム「海が泣いている」でもより顕著に表れており、当時流行っていた “ロス録音で海外ミュージシャン参加” が売り物のこのアルバムには何とあのリー・リトナーやジミー・ハスケル(←S&Gの「明日に架ける橋」のオーケストレイション・アレンジを担当した人)らが参加、哀愁舞い散る歌謡曲とは対極に位置するような乾いたアメリカン・サウンドに仕上がっていた。
 ⑬に続く⑭「青空の翳り」も良い曲だったがやはりシングル曲としては地味すぎるというかヒット・ポテンシャルは弱く、ヒット・チャート的にも⑬以降はガクンと急降下して50位内に入ることすらなく、売り上げも3万枚を切ってしまった。この流れは阿木燿子&宇崎竜童という当時の売れっ子コンビを起用した⑮「シングル・ガール」でも変わらず、アレンジに萩田光雄を起用して初期の作風を再現したような彼女の自作曲⑯「ガラスの世代」をもってしても凋落傾向に歯止めはかからなかった。⑮も⑯も強烈なフックにはイマイチ欠けるものの私的には決して悪い曲とは思えず、これらが「ドール」に続いて出ていたら又違った展開になっていたように思う。
 そんな彼女が再び表舞台に返り咲いたのが1980年リリースの⑰「南風~サウス・ウインド~」だった。この曲はキリンオレンジのCM曲に起用されたこともあり、久々にスマッシュ・ヒットを記録。 “君は光のオレンジ・ギャル~♪” のフレーズが耳に残るキャッチーなナンバーだ。続く⑱「黄昏海岸」も⑰同様に彼女には珍しいメジャー調のポップ・ソングで、CMタイアップがなかったせいか⑰ほどヒットはしなかったものの、彼女の魅力を存分に引き出すアレンジが施されていた。このあたりは松本隆、筒美京平と共に初期の彼女を支えた名アレンジャー萩田光雄の腕の冴えだろう。
 1980年の暮れ、私は目前に迫った大学受験の勉強に追われる地獄のような日々を送っていたが、ある時たまたま気分転換のつもりでつけたラジオから流れてきたのがこの⑲「さらばシベリア鉄道」だった。その瞬間、私の耳はスピーカーに吸いつき、その疾走感溢れる流麗なメロディーにすっかり心を奪われてしまった。大瀧詠一が彼女に贈り、後に「LONG VACATION」でセルフ・カヴァーした大名曲で、私にとっては「木綿」をも凌ぐ彼女の最高傑作なんである。筒美京平を想わせるようなインパクト抜群のイントロから始まって、想像力をかきたてるような細やかな器楽アレンジが寒風吹きすさぶシベリアの大雪原をイメージさせ、細部に至るまで無駄な音が一つもない見事なオケと彼女の素朴で透明感溢れる歌声が絶妙にマッチして奇跡的な名曲名演になっているのだ。曲想の元ネタになっているのはジョン・レイトンの「霧の中のジョニー」だが、器楽アレンジの面ではスプートニクス「空の終列車」あたりの影響大と見た。それを裏付けるかのように1分40秒からボー・ウィンバーグ降臨!(笑)と言いたくなるようなギター・ソロが炸裂、これは北欧インスト・マニアとして知られる大瀧氏の遊び心というか、スプートニクスへの愛、オマージュだろう。信じがたいことにオリコン・チャートでは70位止まりだったのだが(←所詮日本のヒット・チャートなんてそんなモン...)、この曲はリリースから30年経った今でも人々に愛され、聴き続けられている。まさに “記録” よりも “記憶” に残るヒット曲と言っていいと思う。

CM キリンオレンジ 唄:太田裕美「南風」


南風 SOUTH WIND / 太田裕美


太田裕美 さらばシベリア鉄道


空の終列車 (Le Dernier Train De L'espace)
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