shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

「The Back Seat Of My Car」のソリッド・センター盤

2019-12-01 | Paul McCartney
 B-SELSのHPには「日記」というコラムがある。店主Sさんのビートルズに対する愛情が行間からヒシヒシと伝わってくる内容で、更新されるのをいつも楽しみにしながらお店のHPを覗いているのだが、先月そこにポールの「The Back Seat Of My Car」UKシングルのEMIプレス盤について書かれていた。
 実を言うと、そのレコードは何ヶ月か前にお店で聴かせていただいたことがあるのだが、当時はUKシングルの他社プレスについての知識がほとんどゼロだったこともあって、目の前に2枚のシングル盤を出されて “ソリッド・センターとプッシュアウト・センターで音が違うんですか?” などと寝ぼけたことを訊く始末。 “いえいえ、EMIプレスとデッカ・プレスですよ。私には音が少し違うように聞こえるのでshiotchさんにも聴いてもらおうと思って...” とおっしゃるSさんに “へぇ~、デッカでっか...” とコテコテのノリで返す私。
 しかしよくよく考えてみれば、「The Back Seat Of My Car」ってこんなに良い曲なのにイギリスではほとんどヒットしなかったはず... 爆発的に売れた「She Loves You」や「Hey Jude」が自社プレスだけでは生産が追い付かないという理由で他社にもプレスを委託したというのは大いに納得がいくのだが、何故ほとんど売れなかったこのシングル盤のプレスをデッカに委託したのだろう??? この素朴な疑問をSさんにぶつけると、“同時期に出たジョージの「Bangla Desh」もデッカ・プレスしか見たことがないんですよ。ですからひょっとすると71年の夏のある時期にEMIのプレス工場が一時的に使えなかったのかもしれませんね。” とのこと。なるほどねぇ... さすがは ビートルズ関係のレコード事情にめちゃくちゃ詳しいSさんやわ... (≧▽≦)
 委託プレスの件は納得がいったが、肝心なのはその音である。それも大好きな「RAM」の中でも最愛聴曲である「The Back Seat Of My Car」の音質に関わることなのだから、もし本当に音が違うならこれはエライこっちゃである。興味津々で2枚のシングル盤を実際に聴かせていただくと、確かにSさんのおっしゃる通りでレコード会社が違えば音も微妙に違ってくるということを自分の耳で実感。その典型的な例がこの前ここで取り上げた「Hey Jude」のフィリップス盤なのだが、あれほど大きな差ではないにせよ、「The Back Seat Of My Car」のEMIプレスとデッカ・プレスにも微妙な違いがあった。
 私はソリッド・センター盤(EMIプレス)の方の音が気に入り、何とか自分で探して手に入れようと思ったのだが、その時はコンディションの良いブツが市場に出ていなかったのと、既に同タイトルのプッシュアウト・センター盤(デッカ・プレス)を持っていたこともあって、“まぁそのうち出てきたら買えばエエわ...” ぐらいの気持ちで気楽に構えていた。
 しかしその後、ニンバス盤やらアーリー・スタンパー盤の入手で頭が一杯になったこともあって、このレコードのことはすっかり忘れてしまっていた。そんなタイミングでSさんが日記にあのレコードのことを書かれたのだ。“あぁそういえば「The Back Seat...」のソリッド・センター、どーなっとるかな?” と思って久しぶりにネット検索してみると、Discogsに VG+以上の盤が3枚出ていたので早速それぞれのセラーにメールしてマザー/スタンパー・コードを訊いてみると、1枚だけ “5L/2GA” とA面スタンパー1桁の盤があったので当然即決。このレコードのレア度も考えると £10なら超お買い得と言えるだろう。
 今回手に入れたEMIプレス盤はVG+どころかピカピカのNMでめちゃくちゃ音が良くて大喜び(^o^)丿 実際にデッカ・プレス盤と聴き比べてみてもB-SELSで聴いた時と同じように EMIプレス盤の方が深みがあって聴いてて気持ちの良い音だった。この音の良さがEMIのプレスによるものなのか、1桁というスタンパーの若さによるものなのか(←デッカ・プレスにはスタンパー・コードの刻印がないので不明)、盤質の良さによるものなのか、はたまたそれらの相乗効果なのかは私には分からないが、兎にも角にもこのソリッド・センター盤は“買ってホンマに良かった” と大満足の1枚だ。特にSさんや私のような「ラム」ちゃんマニアには絶対のオススメだっちゃ(^.^)
Paul McCartney - The Back Seat Of My Car - Lyrics

「McCartney」各国盤バトルロイヤル

2019-07-07 | Paul McCartney
 つい最近ポールの1stソロ・アルバム「McCartney」のニュージーランド盤を手に入れた。Discogsでたったの£4.99という安さだったので何も考えずにオーダーしたのだが、届いたレコードをジャケットから取り出してビックリ(゜o゜)  A面後半部分の盤面がまるで何らかの薬品で腐食したかのように白く光っており(←シンナーみたいなモンで拭いたっぽい... アホか!)、実際に鳴らしてみてもシャーッというノイズがひどくて「Junk」なんか悲惨そのものだ。一体これのどこがVG+やねん!!!と怒りがこみ上げてくるが、Discogsでの買い物はギャンブルみたいなモンなので運が悪かったと諦めるしかない(>_<)
 ただ、A面後半は完全にアウトだが、薬(?)に侵されていない部分は中々エエ雰囲気で鳴っている。倍音成分が豊かなのか音の響きがキレイなのだ。う~ん、惜しいなぁ(>_<) これは是非とも盤質の良いレコードで全曲聴いてみたいぞ... と思い早速「McCartney」のNZ盤をネットで検索してみたところ、 MucisStackという通販サイトに1枚だけ出ていたのを見つけて £5.99で購入。届いたレコードは前のとは違ってコーティング無しのジャケットだったのでどうやら2ndプレスのようだが(←たぶん73年頃のプレス)、盤質は問題なしでホッと胸をなで下ろす。実際にスピーカーから出てきた音も1stプレスと遜色のないもので、NZ盤も中々やりよるのぉ… という感じだ。
 私はこの美音「McCartney」をSさんにも聴いてもらおうと思ったのだが(←毎回このパターンやな…)、せっかくの機会だからどうせなら UK盤やUS盤、インド盤と併せていつものようにバトルロイヤル形式で聴き比べをした方が面白いと考え、私は手持ちの「McCartney」を総動員してB-SELSに持って行った。

①ニュージーランド盤(1stプレス:2U/2U, 152g、2ndプレス:2U/2U, 145g))
 Sさん:A面前半のノンダメージ部分は結構エエんちゃいますか?
 私:そうなんですよ。盤が傷んでるA面後半部分はノイズが酷いですが、それ以外のところが良かったんで一度聴いてもらおうと思って持ってきたんです。
 Sさん:キレイな音です。ただ、B面はA面より落ちるというか、A面の良さが消えてしまってますね。
 私:悪くはないんだけれど、ごく普通のサウンドですね。まるでA面の魔法が解けちゃったような... A面とB面で何故こんなに差があるのか不思議です。それじゃあ次は2ndプレスを聴いてみましょか。
 Sさん:音の傾向はさっき聴いた1stプレスと同じですが、1stプレスはB面がA面ほど良くなかったのに対し、この2ndプレスはB面もA面と同じハイ・クオリティーをキープしてますね。
 私:不思議ですよね~、同じマトの 2ndプレスの方が音が良いなんて。しかもこっちの方が軽いっちゅーのに...
 Sさん:アコギの曲なんか、本当にキレイな音で鳴ってますよね。
 私:音圧はそれほどでもないですが、音のキメ細やかさが抜群で、高域の伸びが気持ちイイです。コレは買って正解でした。

②UK盤(2U/1U, 141g)
 私:ひょえ~(≧▽≦)  自分で持ってきて言うのも何ですが、めっちゃエエ音ですね(笑)
 Sさん:これがUKの音ですよ。いやぁ~、ホントに素晴らしい!
 私:やっぱりUKの1Uはモノが違いますね。
 Sさん:これがポールの意図した音なんですよね。
 私:おっしゃる通りでございます(笑) こ・れ・が「マッカートニー」!!!

③US盤(両面とも Z14 STERLING LH/RL, 139g)
 私:UK盤の後に続けてコレを聴くとめっちゃ面白いですね。
 Sさん:音にガッツがありますね。
 私:UK盤こそが王道ですが、このガンガンくる感じも捨て難いですよ。
 Sさん:まさしく “ロックな「マッカートニー」”。
 私:このレコードは “ロック魂溢れるアルバム” というワケでもないのにコレですからね... さすがはボブ・ラドウィッグというか... エンターテインメントの国、アメリカならではですわ(笑)

④インド盤(2UT1/2UT1, 161g)
 Sさん:おぉ、これはイイですねぇ~。どこを切ってもチューブカットの音ですよ。いわゆる “現代的な音” の真逆を行ってますね。
 私:中域にエネルギーが集中してますね。聴いててめっちゃ気持ちの良い音です。アナログ・レコード好きにはタマラン音ですよ、コレ。
 Sさん:まるでもう1台プレイヤーを用意してディレーをかけたような奥行きのあるサウンドですね。
 私:チューブカットの一番美味しいところが存分に味わえる音作りですよね。
 Sさん:「Junk」のベースなんて、そこまでやるか!みたいな太さで入ってますよね。何とも言えない余韻が残ります。
 私:例の「Imagine」A面もそうでしたが、インド盤って時々こういう凄いのにブチ当たるからやめられません(笑)
 Sさん:コレ、本当にいいですねぇ~。興奮して今晩寝られませんわ... (と満面の笑顔)
 私:また体内時計を狂わせちゃいますかね?(笑)

ということで、当初はNZ盤を中心に聴くつもりだったのだが、たまたま比較対象用に持っていったインド盤にすっかり主役の座を奪われた感じで、その日は遅くまで Sさんと二人でインド盤「McCartney」を大音量で聴きまくったのだった。これがもしもインド盤単体で聴いていたとしたら、果たしてここまで盛り上がったかどうか... 同じ曲で定点観測的に複数の盤を比較する聴き比べはこういう新発見があるから面白い。とにかく今回の「McCartney」バトルロイヤルは聴いた盤それぞれに独自の長所があって、珍しく “ガッカリ盤” が1枚も無いという、非常にレベルの高い聴き比べだった。さて、次はどのレコードで聴き比べをやろうかな?

「Wings Over America」各国盤バトルロイヤル②

2019-07-02 | Paul McCartney
 「Wings Over America」といえば半年前にマト枝番がオール1Uの UK盤を手に入れたばかりだが、それと同時期にたまたま eBayでオーストラリア盤のDJコピーを見つけ、ジャケット不良による$18という安値に目が眩み衝動買い(笑)。立て続けにUS、UK、OZと手に入れた私は調子に乗ってオーストラリア直近のライバル(?)であるニュージーランド盤も入手し($20)、いつか聴き比べをしてやろうと機会をうかがっていた。
 今回のスウェーデン盤入手で私の頭の中に浮かんだのが「Rock 'n' Roll」、「With The Beatles」で味をしめた各国盤バトルロイヤルである。前回取り上げたオランダ盤は予選落ち(笑)ということで、エントリーはニュージーランド、オーストラリア、スウェーデンの3ヶ国(←他に目ぼしい国がなかった...)。私は3枚組3セットをえっちらおっちら抱えて B-SELS に持っていった。
 いつものように笑顔で迎えて下さったSさんに “今日は何でしょう?” と尋ねられた私が “「Over America」の3ヶ国盤聴き比べなんてどうでしょう?” と答えると “「Over America」を何種類も持ってる人なんてそんなにいませんよ(^.^)” と大笑いされたが、そう言いながらも楽しそうにターンテーブルにレコードをセットしてくださる後姿を見ていると “あぁこの人は心底ビートルズが好きなんやなぁ... (≧▽≦)” と思えて嬉しくなってくる。さぁ、いよいよ「Wings Over America」3ヶ国盤聴き比べのスタートだ。

①ニュージーランド盤
 Sさん:ほぉ~、シルバー・パーロフォンの「Over America」ですか。これは珍しいですね。
 私:はい、珍しいと思います。
 Sさん:ドラムの音がいいですね。
 私:ええ、でもこれ音圧低くないですか? NZ盤って時々こーゆー音の小さい盤があるので要注意なんです。「アナログ・ミステリー・ツアー」の本では “NZ盤=高音質” みたいな書き方してありますが、ハズレも結構ありますよ。
 Sさん:なるほど。それと微妙にエコーがかかってて、それがポールのヴォーカルを台なしにしている気がします。
 私:オランダ盤ほど酷くはないですが、ライヴ盤の音作りに失敗したという感じですね。
 Sさん:これを聴いているとライヴ盤の音作りってホント難しいなぁと思います。

②オーストラリア盤
 Sさん:こっちは NZ盤よりはマシですね。
 私:ええ、でもあくまでも “マシ” というレベルであって満足のいく音じゃない。UK盤はおろか US盤にすら負けてると思います。
 Sさん:やっぱり UK盤の音を聴いてしまうとこの OZ盤は中途半端に聞こえますよね。US盤はライヴの楽しさが伝わってくるという点である程度成功していると思いますが。
 私:オセアニア系の「Over America」はダメ、という結論でいいでしょう。

③スウェーデン盤
 私:おぉ、コレめっちゃ良いじゃないですか!
 Sさん:ラウドカットですね(笑) ひょっとして UKの1U盤よりも音圧高くないですか?
 私:はい、今まで私が聴いてきた「Over America」の中で一番迫力があります。
 Sさん:音がデカいだけでなく、音のクオリティーもかなり高いですよ。「ブラックバード」のアコギの音がさっきの NZ盤や OZ盤とは全然違いますもん。
 私:アコギの音に命をかけてるSさんの言葉は重いですね(笑)
 Sさん:それと一番大事なポールのヴォーカルが前に出てくるんです。この「Yesterday」なんかもう最高ですね。
 私:そうなんですよ! 目をつむるとまるでポールが目の前で歌ってくれているような錯覚を覚えるんですよね。NZ盤や OZ盤では全く味わえなかった感動です。それにしても同じライヴ音源でこんなに再生音が違うというのはビックリですね(゜o゜)
 Sさん:あと、ベースの音が太いのも良いです。
 私:よ~くわかります、それ。私はベースの音に命をかけてますから(笑)
 Sさん: UKのオール1U盤も凄かったですが、このスウェーデン盤も負けていませんね。ビックリです。「Lady Madonna」なんか UK盤より上じゃないですか?
 私:この盤の凄さを一言で言うと、ポールのヴォーカルを前面に押し出しながらバックの演奏もしっかりとポールを支えていて、ライヴの躍動感がビンビン伝わってくるところだと思います。
 Sさん:ホントにライヴ盤としての音のバランスが素晴らしいですね。
 私:私としてはスウェーデン盤に「大あっぱれ」ですよ。NZ盤と OZ盤には「喝!」ということで...(笑) 今度は UKオール1U盤とスウェーデン盤で頂上対決でもやりましょか。

「Wings Over America」各国盤バトルロイヤル①

2019-06-29 | Paul McCartney
 少し前の話になるが、Discogsでポールのスウェーデン盤を探していた時のこと、あるセラーが盤質NMの「Wings Over America」 をたったの €4.5で出品しているのを見つけ、思わず衝動買い(←こればっかり...)。送料込みでも2,000円するかしないかの値段で稀少なスウェーデン盤が買えたわい... とほくそ笑んでレコードの到着を待った。
 それから10日ほどして荷物が届いた。ワクワクしながらパッケージを解いて中身を取り出すと、ピッカピカにコーティングを施された美麗ジャケットでテンションUP! しかし喜び勇んで盤を取り出してセンター・レーベルを確認すると、そこにはハッキリと Made In Holland の文字が...(゜o゜)  もちろん版権表記も北欧の ncb ではなくドイツ・オランダ系の BIEM/STEMRA となっている。慌ててジャケット裏を見ると Printed In Sweden とあるので中身だけが違っていることになるわけだ。私はセラーに “中身間違えとるで。ちゃんとした盤をすぐに送らんかい!” という趣旨のメールをして返事を待ったのだが、その日がたまたま週末だったこともあって、折角だからこのオランダ盤をSさんと一緒に聴いてみようと思い立ち、B-SELSへ持ち込んだ。
 その日は他に例の「Band On The Run」のニンバス盤も持っていったので当然そちらから試聴スタート。詳細はこの前書いた通りで2人してニンバス盤のスーパーウルトラ高音質に浸っていたのだが、盤を聴き終えていつまでも無音でいるわけにもいかず、Sさんに “次は何にしましょうか?” と聞かれた私は “ほんなら「Over America」のオランダ盤でも聴きましょか。” とこのレコードを差し出した。
 針を落としてA①「Venus And Mars」が始まるとすぐにSさんが“コレ、ちょっと音が変じゃないですか? まるで別のライヴを聴いてるみたいですよ。” と仰った。私もさすがに “別のライヴ” とまでは思わないまでも、確かにこれまで何百回と聴いてきた「Over America」の音ではない。何か無理やり作った人工的な音という感じがして違和感ありありなのだ。Sさんは “自然な音ではないですよね、コレ。歓声だけ聞いても会場キャパが違って聞こえるし、ハードロックっぽい音作りにしようとして失敗したような感じです。” と一刀両断に切って捨てる(笑)
 とても6面全部を聴く気にはなれなかったので “それじゃあ一番ボロが出そうな Side-3 のアコースティック・セットを聴いてみましょう。” と私(←鬼畜やな...)。しかしSide-3を聴き進むにつれ、徐々にアコギ大好きSさんの顔がこわばっていく。そして「Blackbird」が始まったところで “コレはもうお話になりません。ギターの弦の音が安っぽいナイロン製に聞こえますよ。こんなの「Over America」じゃないですね!” とやや怒気を含んだ(笑)声で仰ったので “何か血の通ってないアンドロイドみたいな音作りですよね。この盤はここまでにしましょ。” と、B-SELS聴き比べ史上初の打ち切り(笑)となった。まぁその前に聴いていたのがニンバス盤ということもあって余計に酷く感じたのかもしれないし、この盤は1983年以降に出た再発盤なので(←センター・レーベル上部中央にある惑星ジャグリング・ヴァージョンの MPLロゴで明らか)オランダ盤全部が悪いということではないのかもしれないが、少なくともこのレコードに関する限りは全く論ずるに値しない音質改悪盤だった。
 家に帰ってみるとセラーから謝罪のメールが来ており、当然ながら即返金となったのだが、こーなってくると意地でも本物のスウェーデン盤を聴いてみたくなってくるというもの(でしょ?) 結局別のセラーにメールして、今度は正真正銘のスウェーデン盤であることを事前にしっかりと確認してから購入。前々から Discogsのセラーはエエ加減なのが多かったが、今年に入ってからは特に酷くて半年間で何と10件もの出品エラーによる返金で無駄な時間を浪費させられている。困ったものだ(>_<)
 愚痴はさておき、オーダーから1週間という電光石火の早業でついに本物のスウェーデン盤が届いた。ジャケットは前のヤツ以上にピッカピカで、ほとんどミント状態と言っていい。盤質もEXで、これで$9.99だから超お買い得と言えるのだが、気になるのは音質だ。果たしてオランダ盤と同様のアホバカ盤なのか、それとも... ??? 私は性懲りもなくこの盤を B-SELS に持ち込んでSさんと一緒に徹底検証することにした。 (つづく)

「Band On The Run」Nimbus Supercut 盤

2019-05-18 | Paul McCartney
 ディスクユニオンの通販サイトでビートルズ・ソロの USプロモ・シングルを色々探していた時のこと、海外サイトに無かった「Band On The Run」を検索したら一応あるにはあったのだが、そいつが何とテストプレスということで30,400円という無慈悲な値付け(←いくら超稀少なテスト盤とはいえシングル1枚でこのお値段!)のため即撤退。ビートルズ・コレクターの道は厳しいのぅ... と凹んでいたら、その「Band On The Run」の検索結果の中に「NIMBUS SUPERCUT」という禁断のフレーズ(笑)を発見! その瞬間、頭の中からプロモ・シングルのことなど完全に消し飛び、“うわぁ、ニンバス・スーパーカット出とるやん! でもどうせお高いんでしょ?” と思いつつも一応値段を確認てみると、EX+盤で 59,800円となっている。
 確かに高額ではあるが、安くても7~8万円、ヘタをすれば10万近くはいくだろうと思っていた私は一瞬 “ひょっとするとこれはお買い得なんか???” と誘惑に負けそう(←まともな神経しとったらLP1枚に6万円なんて論外なんやろうけど...)になった。しかしこの1週間だけで既に10万円近くをレコードに使ってしまっていた私は “やっぱり無理。こんなことしとったら破産してまうわ...(>_<)” と一旦は諦め、パソコンを閉じた。
 その日の夕方、昔一緒にレコ屋巡りをした友人に電話して猟盤の近況報告なんぞをしたのだが、その時にたまたまディスクユニオンの話題が出て、“さっきもユニオンの通販サイトでポールのニンバス・スーパーカット盤っていうレア盤を見つけたんですけど、59,800円やったんで腰が引けましてん。” と言うと “それは shiotchさんらしくないなぁ... 昔の shiotchさんやったら即買うてたと思うで。” と言われ、“いやぁ、最近お金のやりくりが色々と大変ですねん(*_*)” と言ってその場は終わった。
 しかし電話を切ってから “確かに言われる通りや。ワシとしたことが完全に弱気になっとったわ。あの超高音質ニンバス・スーパーカットを手に入れるチャンスやぞ... 6万ぐらいなんぼのもんじゃい!” と迷いが吹っ切れた私は即ユニオンにメールを送信。ダメ元でカードのボーナス一括払いが可能か確認するとラッキーなことにOKとのことだったので、その場で買いを決めた。長年憧れ続けたあのニンバス・スーパーカット盤を、何と衝動買いしてしまったのだ。その日はちょうど大型連休の最終日で、“明日から仕事かぁ... ホンマにイヤやなぁ...(>_<)” という鬱状態だったのが、この買い物のおかげで超ハイテンションでの社会復帰となった(笑)
 2日後に届いた盤はさすがユニオンだけあって盤・ジャケット共に極上のコンディション。デッドワックスには手書きのマト番の他に機械打ちで NIMBUS ENGLAND と誇らしげに刻まれている。この喜びはぜひ Sさんと分かち合わねばと思い、到着翌日に B-SELSにこのレコードを持ち込み、“「Band On The Run」のニンバス・スーパーカット盤買っちゃったんですけど一緒に聴きませんか (^o^)丿” と言うと “それはぜひ聴きたいです!!!” ということで2人してワクワクドキドキしながら試聴開始。
 A①「バンド・オン・ザ・ラン」が始まってすぐに“う~ん、これは明らかに違いますねぇ~(≧▽≦)” と唸ったまま、目を閉じて聴いておられる。A②「ジェット」で目を見開き、“いやぁ、これは本当に凄い音です! ドラムの音がとてもリアルですね。” と仰るので、“そうなんですよ。「ヴァンデビルト」なんかもうブッ飛びますぜ。” と私。A③「ブルーバード」では “倍音がしっかりとキレイに聞こえますねぇ...” と感心されることしきり。で、いよいよ私がイチ押しのA④「ミセス・ヴァンデビルト」に突入したのだが、ポールのブンブン唸るベースの重量感が凄まじく、これまた重戦車のようなバスドラと相まって、2人とも大コーフン(笑) “タムタムが目の前に見えるようです!!!” と Sさん。 “そうそう、やっていることが見えますよね。オーディオのプロが本気だしたらこんなレコードが出来るんか... っちゅー感じですわ。” と私。A⑤「レット・ミー・ロール・イット」では “かぶりつきでライヴ聴いてるような生々しさですね!” と喜色満面の Sさん(^.^)
 A面が終わり、意気揚々という感じでB面にいく。B①「マムーニア」のアコギの響きが実に美しく、アコギ大好き Sさんはもうニッコニコ(^.^)  コーラス・ハーモニーの美しさも絶品で、まるでハイビジョンが 4Kにでもなったかのような精緻なサウンドだ。B②「ノー・ワーズ」後半のギター・ソロのパートでは “こんなに音が伸びるんですねぇ~” と感心することしきり。B③「ピカソズ・ラスト・ワーズ」では、このアルバムを何百回と聞いてきたであろう Sさんをして “こんな音が入ってたんですねぇ...” と言わしめたニンバス盤。そして Bラスの「1985」が異様なほどの盛り上がりで大団円を迎え、タイトル曲のサビに戻ってフェイドアウトすると、2人で大拍手(笑) 私が “究極の再生芸術を見た、っていう感じですね!” と言うと “いやぁ... エエもん聞かしてもらいました。まさか生きているうちにニンバス盤を聴けるとは思いませんでした。” と仰ったので “私もまさか自分がニンバス盤を買うことになるなんて正直夢にも思いませんでしたわ。” と言って2人で大笑い。“でも元はと言えば、先週聴かせていただいた USプロモ・シングル盤がきっかけなんですよ。あれがなかったらユニオンの通販サイト見てへんわけやし... ” と感謝すると照れくさそうに笑っておられた。
 とまぁこのように予想を遥かに上回る高音質を聴かせてくれた「バンド・オン・ザ・ラン」のニンバス・スーパーカット盤。今年に入って早くも5枚目の “神棚盤” となったワケだが、そーなってくると当然もう1枚のアレ、すなわちニンバス盤「ペパーズ」はどうなるんだ?という風に話が展開していくわけである。で、恐る恐る eBayを覗いてみると£1,750... 日本円にして約25万円で NM盤が、そしてシールドの正真正銘ミント盤が£3,000(43万円!!!)で出品されていた。ヤフオクを見たらユニオンから31万円のが1枚出ているのみ... う~ん、まいったなぁ。マグロ船に乗るか、あるいは原発で働くかでもしないかぎり、ポンと出せる額ではない。ビートルズ・コレクターの道は厳しいのである(*_*)

「Uncle Albert / Too Many People」のモノラル・シングル盤

2019-05-14 | Paul McCartney
 この前のGW中に B-SELSを訪れた時のこと、この日はたまたま先客の方々とお店の奥のテーブルで相席することになったのだが、前々から目を付けていたレコードが売れてしまって(←さっさと買っておけばよかったのだが、こればっかりはしゃあない... )ちょっと落ち込んで口数が少なかった私に気を遣ってくださったのか、 Sさんが “shiotchさん、こんなんどうですか?” とかけてくださったのがポールの USプロモ・シングル「Uncle Albert ~ Admiral Halsey / Too Many People」(PRO-6278)だった。私はシングルのプロモ盤にはあまり興味はないのだが、この盤は違った。何とモノラル盤だったのである(゜o゜)
 この2曲が入っている「ラム」のモノラル盤と言えば2ヶ月ほど前にこのブログでも取り上げた邪道(?)のブラジル盤が頭に浮かぶが、こちらは王道中の王道を行く正真正銘の US盤、つまり例の激レア・プレミア付き $15,000盤の 12分の2、つまり $2.500(約28万円!)分の値打ちがある USモノの音が聴けるというワケだ。これはえらいこっちゃである。私は買い損ねた盤のことなどすっかり忘れ、お店のスピーカーから出てくる音に全神経を集中させた。
 出てきた音はブラジル盤ともニュー・リマスター盤とも激しく一線を画す古き良きモノラル・サウンドで、そのヴィンテージな味わいはとにかく素晴らしいの一言に尽きる。特に B面の「トゥー・メニー・ピープル」はモノラル効果が絶大で、そのまま「3レッグズ」へと突入してくれへんかなぁ... と思わず無い物ねだりをしてしまうくらいの野太いサウンドだった。
Paul & Linda McCartney - Too Many People - 45 RPM - RARE MONO MIX


 結局その日はスーパーが閉まる前に連休中の食材を買いに行かなくてはいけなかったので早目にお店を出たのだが、家に帰ってからは真夜中までこのプロモ・シングル盤のことを調べまくった。まず最初に Discogsで調べてみたところ、意外なことに3枚も出ていたのだが、最安の盤は G+の分際で£70(= 約1万円)という強気の値付けでビックリ。更に残りの2枚はどちらも NMながら $150というえげつなさで、eBayに至っては何と $175(= 約2万円)というのだからハナシにならない。
 こういう時は案外灯台下暗しで国内のサイトで安く買える場合があるのでヤフオクを見てみたが出品はナシ。それならばとディスクユニオンの通販サイトで検索してみたところ、1枚だけ在庫があるにはあったのだが、お値段の方は EX+ 盤が17,400円と、Discogsとほぼ同じ価格設定だ。しかも商品説明欄には「最難関タイトル!!」と ! が2つも付いている。私は自分の無知を思い知ると同時にビートルズ関連のレコード蒐集の奥の深さを痛感した。
 B-SELS で聴かせていただいた盤は確か VG表記だったがそれはあくまでも Visual grade での話。実際の Play gradeは EX+レベルで聴感上ほぼ問題ナシの良盤であり、しかもそれが7,800円というお値打ち価格なのだから実に良心的な商いをされていると言える。お店で聴いたあの音がどうしても忘れられなかった私は購入を固く決意し、その翌日にお店に電話を入れて “昨日聴かせていただいたモノラルのプロモ盤シングル、まだ売れてませんか?” と訊くと “そんなん、売れるワケないじゃないですか!” と大笑いされたのだが、大型連休を利用して全国のビートルズ・ファンが B-SELS詣でに来るのではないか... と気が気ではなかった私は電話を切って30分後には B-SELSで支払いを済ませていた(笑)
 Sさんによると “盤の表面に結構な数のスリキズがあるので、どうしても盤質表記を厳しめにせざるを得なかったんです。” とのことだが、私は音に出ないキズなんか全然気にならないので余裕のセーフ(^o^)丿  因みに “この盤いつ頃から置いてはったんですか?” と尋ねると “店のオープンの時からずーっと置いてましたよ。” と言われ、こんな宝物がエサ箱に眠っていたというのに半年以上も見逃していたことを大いに反省した(>_<)  そういえばいつも真剣に見るのは LPの棚ばかりでシングル盤の方はほとんど見たことがなかったなぁ...
 ということで、これまではビートルズ関連のシングル盤は UK盤で揃えて(あとちょこっと NZ盤)安心していたのだが、B-SELSで USプロモのモノラル盤の存在を知ってしまった今となっては指をくわえて見ているわけにはいかない。野太いモノラル・サウンドが三度のメシより好きなヴィンテージ・レコード愛好家の血が騒ぐのだ。最近はブラジル盤やらインド盤、アイルランド盤といったマニアックな各国盤にかまけていたが、これから暫くはモノラルの USプロモ・シングルを徹底的に狙ってやろうと戦闘モードに突入した。
Paul & Linda McCartney - Uncle Albert/Admiral Halsey - Mono 45RPM


【追悼】このブログを書き終えてさぁアップしようとネットを開いたところ、トップページのヤフー・ニュースでドリス・デイが亡くなったと知ってビックリ... う~ん、ショック(>_<) 彼女は古き良きアメリカの象徴のような存在であり、私にとってはペギー・リーと並ぶ2大フェイヴァリット・フィーメイル・シンガーだった。悲しいなぁ...(*_*) もちろんビートルズ・ファンにもこの曲でおなじみだ。心より追悼の意を込めて... RIP Doris Day... Dig it, Dig it...
Dig It (Remastered 2009)

アイルランド盤で聴くビートルズ・ソロアルバム特集

2019-05-11 | Paul McCartney
 興味本位で買ったジョンの「ロックンロール」とポールの「アイルランドに平和を」のアイルランド盤が両方とも大当たりだったこともあって、私は他のビートルズ関連の LPもアイルランド盤で聴いてみたくなった。まず本体のビートルズを Discogsで調べてみたが、リアルタイムで出たアイルランド盤は「ホワイト・アルバム」しか載っていない。次に popsikeで過去の eBayデータを調べてみたところ、「アビー・ロード」と「レット・イット・ビー」もアップルのレーベルで出ていることが分かったが、他のアルバムはみんな70年代リイシューと思しき2ボックス EMIの銀パロ・レーベルしか出てこない。
 ソロの方もアイルランド盤は少なくて、ジョンでは「ロックンロール」以外に「ジョン魂」「イマジン」「シェイヴド・フィッシュ」、ポールでは「バンド・オン・ザ・ラン」と「バック・トゥ・ジ・エッグ」が出ているだけという厳しい状況である。私はそれらの中から盤質の良さそうな「バンド・オン・ザ・ラン」「バック・トゥ・ジ・エッグ」「ジョン魂」の3枚をオーダーした。
 まず最初に届いたのが「バンド・オン・ザ・ラン」で、センター・レーベルは他国盤とは違ってシルバー・パーロフォン(盤の重さは128g)。マトは -2/-5(IRL刻印あり)ということで70年代後半のプレスと思われる。私が持っているUK盤はパワフルな音が楽しめるラウドカット盤(マト-1/-1, 132g)と精緻を極めた極上サウンドが絶品のフィリップス・プレス盤(マト-3/-3, 130g)の2枚だが、このアイルランド盤は中庸を行くとでも言えばいいのか、手堅くまとめたカッチリとした音に仕上がっている。特にマト5の B面でもマト2の A面に遜色のないソリッドな音が聴けるので、Bラスの「1985」なんか結構力強いサウンド展開が楽しめる。とにかくマト番が若くないにもかかわらず芯がしっかりしたサウンドになっているのはさすがアイルランド盤といったところか。
 「バンド・オン・ザ・ラン」の翌日に届いたのが「バック・トゥ・ジ・エッグ」で、センター・レーベルはやはりシルバー・パーロフォンだ。マトは -2/-1で、やはり IRLの刻印がある。手に持った感触がズシリと重かったので量ってみると何と147gもある。比較対象としてUKオリジナル盤(マト-2/-2)を量ってみたが129gしかなかった。実際に音を聴いてまず感じたのは音が UK盤よりもデカいことで、A①「レセプション」のポールのベースが大音量でアグレッシヴに轟きわたるのを聴いて腰を抜かしそうになった。すぐに針をあげて UK盤をかけてみたが、こちらもかなりガッツのある音で鳴るものの、ラウドなアイルランド盤に比べると少々大人しく感じてしまう。特にA②「ゲッティング・クローサー」やA④「スピン・イット・オン」といったロック曲でその差が顕著なのだが、圧巻は何と言ってもB①「ロケストラのテーマ」とB⑥「ソー・グラッド・トゥ・シー・ユー」の2曲で、まるで巨大な音の塊が眼前に迫ってくるかのようなド迫力には言葉を失ってしまうほど。これだけでも “ホンマに買って良かったぁ...(^o^)丿” と大喜びした。
 それからかなり遅れて(←メールで催促するまで放置されてた... 他にもマト違いやレーベル違いを送ってきたりとか、最近の Discogsのセラーはホンマに質が低下しとるわ...)「ジョン魂」が届いた。こちらは1970年代初めということでグリーン・アップル・レーベルなのだが、マトは -2/-3 で重量も126gと軽め。UKオリジナル盤(マト -1/-1 で重量139gのホワイト・アップル・レーベル)と比較試聴してみたところ、こちらは完全に UK盤の圧勝で、A①「マザー」の鐘の音からして全然違うし、ベースの音の強さも雲泥の差。特にこのレコードは楽器構成が非常にシンプルなので、そのあたりの差が残酷なぐらいにハッキリと出てしまうようだ。それにしても「ジョン魂」UK 1stプレス盤の音ってホンマにエグいなぁ(≧▽≦)
 結局、今回のアイルランド盤チャレンジは、ポールの2枚が“当たり”で、ジョン魂は“ハズレ” という感じ。まぁ未知の世界に踏み込んでいくわけだからこれからも“ハズレ”盤をつかむことは多々あるかもしれないが、それと同じか上回る確率で“当たり”盤をゲットできれば御の字だ。「○○カヴァー」や「△△カット」といった有名なコレクターズ・アイテムもいいが、誰も知らない高音質盤を自分の手で発掘するのもまたファンの愉しみのひとつなのだ。

Wings「Wild Life」の音質最強盤を求めて②

2019-05-05 | Paul McCartney
 その週末に B-SELSにマト9のスウェーデン盤「ワイルド・ライフ」を持ち込んだ私はいつものように Sさんと一緒に聴き比べを開始。私が持参した盤に加え、お店にあった UKマト9 Factory Sample盤と UKマト11の1st プレス盤の3枚をあーでもないこーでもないと言いながら聴いていくのだが、毎度のことながら一文の得にもならないマニアックな聴き比べに付き合って下さる Sさんにはいくら感謝しても足りない。
 まずはA①「マンボ」を取っ替え引っ替え聴き比べてみる。スウェーデン盤は我が家と同様の元気溌剌とした音で、Sさんも“盤もキレイやし、良い音してますねぇ...” と仰る。しかし次に聴いた UKマト9盤はスウェーデン盤と同じマトとは思えないようなどっしりした重心の低い音で、これこそまさに王道を行く UK 1stプレスの音である。音圧も高く、歪むか歪まないかのギリギリのレベルでカッティングしてある感じで、まるでヘヴィー級ボクサーのボディー・ブローのようにガンガン腹にくる重低音が心地よい。最後にかけた UKマト11盤はマト9盤の “やり過ぎ” な部分をうまく緩和して一般のリスナーにも聴きやすい音に仕上げてあるが、やはり一本筋の通った硬派な音だ。
 “同じマト9でもかなり違いますね。” と言いながらA②「ビップ・ボップ」、A③「ラヴ・イズ・ストレンジ」と、それぞれ違ったリズム・パターンの曲で聴き比べてみるがやはり結果は同じ。この3者で聴き比べるとスウェーデン盤の音がまるで US盤のようにふんわり広がって聞こえるから不思議なものだ。そしてトドメはブルージーな A④「ワイルド・ライフ」で、ごまかしの利かないこの曲ではスウェーデン盤の音が相対的に薄っぺらく感じられた。Sさんに “UKマト9盤の圧勝ですね!” と言うと“同じ UKマザーでも盤の厚さとかプレス技術で音が変わりますからねぇ...” とのこと。確かに UK盤の方がスウェーデン盤よりもソリッドでガッシリしている。A面を聴き終えた段階でもうかなり時間が遅くなっていたので “いやぁ~、参りました。顔を洗って出直してきますわ。” と丁重にお礼を言って B-SELSを辞した。
 家に帰った私は “やっぱりこれは UKマト9のサンプル盤買うしかないな...” と思ってもう一度「Wings Wild Life Factory Sample」でググってネット上を隅から隅まで探した結果、イギリスのコレクター向けサイトにこの盤が出ているのを発見、デニー・シーウェルのサイン入りで£75の値がついている。そこで念のためにメールで A面のマトを確認したところ、何と「11」という意外な返事が返ってきた。つまり FACTORY SAMPLE のステッカーが貼ってあるからといって必ずしもマト9だとは限らないということだ。あぶないあぶない... もう少しで無駄金を使うところだった (>_<)
 ということで、それから2ヶ月ほどの間 eBayで網を張ってはみたものの、待てど暮らせど「ワイルド・ライフ」のマト9盤は一向に出品される気配すらない...(>_<) さて、どうするか? このままひたすら出品されるのを待ち続けるというのもアリっちゃアリだが、ブツの数が極端に少ないのでかなりの長期戦を覚悟しなければならないし、仮に市場に出てきたとしても自分が落札できるとは限らない。もちろん試聴はできないので盤質の保証もない。しかし、マト9盤の音を知ってしまった以上、買わないという選択肢はもはや存在しない。これらの前提から導かれる最も論理的な結論は “B-SELSの盤を買う”... そう、それしかない。
 そういうワケで、この連休初日に B-SELSを訪ね、壁に飾ってあったマト9盤を再度聴かせていただいた後、唐突に “これ、売って下さい!” と Sさんにお願いすると “えっ? 本当に?” と驚かれたご様子。そこで “この前聴かせていただいたマト9の音がどうしても諦めきれなくて 2ヶ月越しで狙ってましてん!” と言うと “この音の良さが分かる人に買っていただけてよかったです。” と喜んで下さったのだが、お礼を言いたいのは私の方だ。「ワイルド・ライフ」のマト9盤はユニオン通販にも出てはいるが、その VG+盤とほぼ同じ額でピッカピカの NM盤を完全試聴して買えたのだから嬉しくって仕方がない。とにかく B-SELSに通い始めてからというもの、私のレコード・ライフは充実しまくりで、 ホンマにありがたいことである。
 結局その日はコーフンして眠れなかったので朝の5時まで何度も聴き返し(←寝たい時に寝て起きたい時に起きれる大型連休はエエなぁ...)、それからも毎日聴きまくっているのだが、やっぱり大枚を叩く価値は十二分にあったと胸を張って断言できる痛快無比なサウンドだ。特にA面なんか何度聴いても自然と身体が揺れてしまう躍動感に溢れていてたまらんたまらん(≧▽≦)  このマト9盤は私にとってはハイレゾをも含めた上で間違いなく「ワイルド・ライフ」のベスト音源であり、今年4枚目(←月1枚のハイペースやん!)の “神棚盤” なのだ。


【おまけ】B-SELSの壁面を飾っていた「ヴィーナス・アンド・マース」UK 1stプレスの初回稀少ジャケットを見ていて、表ジャケのタイトル文字を形成している赤球と黄球が UK盤と US盤で真逆になっていることを発見。それがどーしたソー・ホワット?と言われてしまえば身も蓋もないが、ビートルズ関連はほんの些細なことまで気になってしまう。困ったものだ(笑)

Wings「Wild Life」の音質最強盤を求めて①

2019-05-01 | Paul McCartney
 ポールの、いや全てのビートルズ関連アルバムの中で最も過小評価されていると私が考えるのがウイングスのデビュー・アルバム「ワイルド・ライフ」だ。かく言う私も中高生の頃は “有名なシングル曲も入ってないし、何か地味なアルバムやなぁ...” と思っていたのだが、何度も聴き込むうちにすっかりハマってしまい、いつの間にか超の付く愛聴盤になっていた。特にこのアルバムのA面はリズミカルな曲が多くて何度聴いてもウキウキワクワクさせてくれる。
 私がビートルズ関連のUKオリジナル盤を買い始めたのは15年ほど前のことだが、その時に参考にした「Beatles' Vinyl Made in UK」という本の中で著者の和久井光司氏が「ワイルド・ライフ」の UK盤について “初版のマトリクス・ナンバーの末尾は A面が「‐1」で B面が「‐11」。B面は「1」を2度打ってしまったものと思われる。” と書かれていたので “へぇ~、そうなんや...” とその本の内容を盲信して(←まだ純真無垢なコレクターの卵でしたわ...笑)マト11の盤を eBayで買ったのだった。
 しかしいざレコードが届いてみると A面が「‐11」でB面が「‐1」と AB面のマトが逆であり、その後も「赤盤」「青盤」や「アット・ザ・ハリウッドボウル」、「マッカートニー」などで初版マトの間違いが数多く判明するにつけ、私の中で和久井氏の本の信憑性は著しく低下していったのだが、その極めつけがこの「ワイルド・ライフ」で、その後の調べでA面のマトが9の盤の存在を確認。こーなってくると和久井氏の言う「1を2度打ってしまった説」はどう考えても筋が通らない。
 私はこのマト9盤が欲しくなり、早速 eBayでチェックしてみたが待てど暮らせど出品される気配がない。そこで Popsikeで過去にどれほどの数が出品されたのかを調べてみたところ、2011年からの約8年間でたったの9枚、しかも2016年を最後にこの2年半ほどは出品すらされていないという激レア・アイテムであることがわかったのだ。このアルバムの人気の無さを反映してか、落札金額自体は£30前後なのだが、市場に出てこなければこちらとしても手の打ちようがない。
 そんな「ワイルド・ライフ」のマト9盤を実際にこの目で初めて見たのが他でもない B-SELSで、しかも泣く子も黙る Factory Sample盤である。当然ながらエサ箱ではなく壁面に飾ってあったのだが、欲しくて欲しくてたまらなかった私にとってはまるで後光が差しているかのような神々しさだ。当然私の心は激しく動いたが、さすがに超の付く稀少盤だけあって(←しかも盤質極上!!!)値段を見るとやはり桁が1つ違っており、貧乏コレクターの私にポンと払える額ではない。う~ん、これは実に悩ましい。
 悶々としながら家に帰った私は Discogsで「ワイルド・ライフ」の各国盤をチェック、UKマザーの盤をしらみつぶしに調べたところ、スウェーデン盤のマトが「9/1」であることを発見。これってもしかして...!(^^)!  しかも盤質 NMで値段の方も €15.99 とお買い得だ。これで UKマト9と同じ音が聴ければ儲けものと思った私は即買いを決めた。
 6日後(←早っ!)に届いた盤をワクワクしながらターンテーブルに乗せ、早速試聴。第1印象としては確かに高音質なのだが、どちらかと言うと高音が強調された派手な音作りで UK初版らしい重厚さに欠ける。 “ホンマにこれがマト9の音なんかいな?” と訝しく思った私はこの盤を B-SELSに持ち込んで(←いつもの展開...)本物の UKマト9盤と聴き比べをさせていただくことにした。 (つづく)

南アフリカ盤で聴く「エボニー&アイボリー」

2019-04-29 | Paul McCartney
 いつも思うのだが、私の悪い癖はすぐに調子に乗ることである。前回取り上げたアイルランド盤の「アイルランドに平和を」ですっかり調子に乗った私は他に何か面白そうなレコードはないかなぁ... と小一時間ほど考え、はたと思いついたのが「エボニー&アイボリー」の南アフリカ盤である。ポールがピアノの鍵盤に引っ掛けて黒人と白人の人種差別の問題を歌ったこの曲を、よりにもよってアパルトヘイト(人種隔離)政策で悪名高い南アフリカの盤で聴いてやろうという実に歪んだ発想である。
 このシングルは南アでは当然ながら放送禁止になったらしくどれだけ売れたのかは分からないが、eBayには1枚も出ていない。Discogs で探してみると2枚だけ出品されており、VG+ の方はシングル盤1枚に610ZAR(≒5,000円!!!)というアホみたいに高い送料だったので迷うことなく $4の VG盤をチョイス、送料込みで 1,200円なら御の字だ。尚、ネットの情報によるとこのシングルは何故かラウドカット盤だとのことなので、爆音好きの私としては非常に楽しみだった。
 届いた盤を早速ターンテーブルに乗せ、一体どんな凄い音が鳴り出すのかと身構えていると、いきなり物凄い音でイントロが炸裂! うわぁ、こいつは確かに凄いわ... と感心していると、ヴォーカルが始まると同時にバックの演奏が少し控え目になり、???という感じ。これって以前に聴いたブラジル盤「ラム」と同じパターンやん! つまりヴォーカルに合わせて音量を調節してるだけで、こんなものは真正ラウドカットではない。
 しかも悪いことに南ア盤に特有の弱点である高音域が伸びないせいで “チキチキチー♪” というハイハット・シンバルの音がヴォーカルの陰にに隠れてしまってほとんど聞こえない。念のため UK盤シングルと聴き比べてみたところ、完璧なバランスで鳴る UK盤に比べ、南ア盤の方は音圧は相対的に高いものの音のバランスがややイビツでとてもじゃないが高音質とは言い難い。湯浅氏の言葉を借りればこれこそまさに “ガサツな音” という感じであり、私に言わせればただの “なんちゃってラウドカット” である。
 ということで南アフリカ盤の「エボニー&アイボリー」は話のネタとしては確かに面白い音だが、決して良い音ではないというのが私の正直な感想だ。手持ちの南ア盤はこれで3枚目だが、どいつもこいつも音質イマイチでパッとしない。どうやら私と南ア盤の相性は最悪なようだ。

アイルランド盤で聴く「アイルランドに平和を」

2019-04-27 | Paul McCartney
 ジョンの「ロックンロール」のアイルランド盤を手に入れた話は前回書いた通りだが、あのレコードがとても良い音で鳴ったこともあって、それ以来アイルランド盤も購入対象へと昇格した。しかしアイルランド盤ってプレス枚数が少ないのか、滅多なことでは市場に出てこない。こうなったらこちらからターゲットを絞ってこちらから積極的に探すしかない。ということで、“アイルランド盤ねぇ... 次は何を狙ったろかな...”と考えていてふと思いついたのがポール&ウイングスのシングル「アイルランドに平和を」だった。
 丸腰のアイルランド市民に向けてイギリス軍が発砲し13人が亡くなったという「血の日曜日事件」に激怒したポールがイギリスを激しく非難した歌詞のせいでBBCでは放送禁止になったという曰く付きのシングルだが、アイルランドでは当然の如く1位になったと聞く。もちろんUKオリジナル・シングルは持っているが、やはりこれはアイルランド盤で聴いてみたい。
 早速ネットで検索してみたところ、ラッキーなことに Discogsに1枚だけ出品されているのを発見。£18とシングル盤にしてはかなりのお値段だったが、この盤は popsikeで調べてみても過去数年間で1枚しか出てきてないほどレアなので、この機会を逃してなるものかと即決。シングルのため送料が安くてすんだおかげでこの貴重盤を約3,000円で手に入れることができた。
 届いた盤をUK盤と比較してみたところ、レコード№やマトリクス№は同じだがレーベル面の “Mfd in UK”のところが“Mfd in R. of I.” になっているのがアイルランド盤の証しだし、字体や緑色の濃淡も違っている。
 肝心の音の方だが、マトが同じせいもあって音質に大きな違いは感じられなかったものの、私の耳にはアイルランド盤の方が少しだけ音圧が高いように聞こえた。一番分かりやすかったのは打楽器系のバン!バン!と叩く音で、特に後半部の一番盛り上がるパートでアイルランド盤の方がより激しく叩いているなと感じられたのだが、これはひょっとするとこのレコードをカッティングしたアイルランド人エンジニアの怒りの感情がこもっているのかもしれない。コレクターの方はもし見つけられたらぜひゲットして自分の耳で確かめてみて下さいな。

モノラルのブラジル盤で聴く「McCartney」

2019-04-07 | Paul McCartney
 「モノラルのブラジル盤で聴く~」シリーズ最終回はポールのファースト・ソロ・アルバム「マッカートニー」だ。本来ならこの盤は昨年末に手に入れていたはずなのだが、最初にオーダーしたドイツのセラーから “ドイチェ・ポストが送料を240%値上げした(←まぁドイツから日本までLP 1枚でだいたい €6というこれまでの料金が安すぎたのかもしれんけど、それにしてもいきなり240%とはえげつないわなぁ…)のでこれ以上商売が続けられない” とのことでキャンセルされ、別のイタリアのセラーから再度買う羽目になったため(←値段の方は €30で、送料込みで約6,000円だった...)、結局盤を手にするまで約2ヶ月もかかってしまったが、いざ針を落としてみると凄まじい轟音盤で、これなら十二分に待った甲斐があったというものだ。
 A①「ラヴリー・リンダ」ではとにかくポールのヴォーカルが近くて、まるで目の前で歌ってくれているかのような錯覚に陥ってしまう。A②「ザット・ウッド・ビー・サムシング」は何と言ってもシンバル一閃のビシーッという引き締まった音ががめちゃくちゃカッコイイ(^o^)丿 これはたまらんですわ。 A③「ヴァレンタイン・デイ」ではギターとドラムスがくんずほぐれつしながら濃厚なグルーヴを生み出していく様にゾクゾクさせられる。
 A④「エヴリナイト」もA①同様にヴォーカルが生々しいし、まるでアコギの本数が増えたかのような分厚いサウンドが気持ち良い。A⑤「ホット・アズ・サン」のタイトルにある sun はこの盤で聴くと間違いなく熱帯の太陽ではないか、と思えるぐらい音の温度(?)が高い演奏だ。A⑥「ジャンク」は静かな曲だがポールの太いベースがボーンと響き渡って演奏に一本筋が通る感じ。A⑦「マン・ウィー・ワズ・ロンリー」は “But now we're fine all the while...♪”(でも今では僕達が寂しい時なんてない)という歌詞そのもののポールの幸福感がダイレクトに伝わってきて、良い音で聴くと曲の表情まで変わるなぁ... と実感させられた。
 B①「ウー・ユー」は “これぞまさしくラウドカット!” と快哉を叫びたくなるぐらいガンガン迫ってくる演奏で、ポールのヴォーカルも元気一杯だ。B②「ママ・ミス・アメリカ」はいきなりイントロのドラムスからエンジン全開で、まるでコージー・パウエルが叩いているかのような爆裂ドラミングが快感(≧▽≦)  曲の後半部なんてもう血沸き肉躍るハードロックそのもので、マイケル・シェンカーが乗り移ったかのような鬼気迫るギター・ソロに思わずのけぞってしまう。良いか悪いかは別にして(←私はめちゃくちゃ気に入ったが...)こんな「マッカートニー」は後にも先にもブラジル・モノ盤だけだ。
 B③「テディ・ボーイ」とB④「シンガロング・ジャンク」はさすがに一息つけるが、B⑤「メイビー・アイム・アメイズド」がこれまた強烈! 何よりもまず通常盤とはポールの声の張りが違うし、ギター・ソロもまるで「天国への階段」を弾く時のジミー・ペイジ御大みたいな感じで説得力がハンパない。これはもうすべてのポール・ファンに聴いてほしい痛快無比な「メイビー・アイム・アメイズド」だ。ポールがテレビで見た狩猟の雰囲気を音楽で表現しようとしたとされるB⑥「クリーン・アクロア」はラウドカット効果でプリミティヴなパワーが大幅にアップ、ポリリズミックなドラミングやポールの生々しい息遣いなどのダイナミックなサウンド展開が面白く、それまであまり真剣に聴いたことがなかったこの曲に思わず耳が吸い付いてしまうほど引き込まれてしまった。やっぱりラウドカットはエエですな(^.^)
 ということで、長々と続けてきた「ブラジル盤のモノラルで聴く~」シリーズもこれにて終了。今回の「マッカートニー」の満足度はもちろん100点満点で、前回の「レット・イット・ビー」に続く “神棚盤” となったのだが、それもこれも元を辿ればほんの思いつきで買った「ラム」のブラジル盤がすべての始まり。それまでは各国盤の蒐集対象としてはブラジルのブの字も頭になかったことを考えると、レコードとの出会いってホンマに不思議な偶然というか縁みたいなもんがあるんやなぁと考えさせられた。

モノラルのブラジル盤で聴く「RAM」

2019-03-21 | Paul McCartney
 コレクターにとって探し物のないレコード・ライフほどつまらないものはない。もちろん欲しい盤を手に入れるために昼夜を問わず海外オークションのサイトをこまめにチェックしているわけだが、かといってウォント・リストの最後の1枚を手に入れてしまったら、その後はきっと目標を失ってしまって空虚な日々が待っているに違いない。未聴の盤とのスリリングな出会いこそがコレクターの生きがいなのだ。
 かく言う私も去年の夏頃、ビートルズ各国盤の目ぼしいところはほぼ手に入れてしまい、世界の国一覧表を眺めながら “これから俺は一体何を楽しみに生きていったらエエんや???(←大袈裟な...)” と途方に暮れかけていたのだが、そんな時ある考えが閃いた。そうそう、ビートルズにはまだソロ作品が山のようにあるではないか! よっしゃ、次はビートルズ・メンバーのソロ作品を各国盤で集めてやろう… こう考えると俄然元気が出てきた。
 最初のターゲットはポールの最高傑作にして我が “無人島ディスク” 候補筆頭の「ラム」である。その時点で持っていた「ラム」はUKオリジナル盤だけだったので、ビートルズ各国盤蒐集で培った知識を駆使して音が良さそうな国の「ラム」を軒並みゲットしていったのだが、一つだけ心に引っ掛かっていたのが「ラム」のモノラル盤の存在だった。
 「ラム」のモノラル・ミックスはもちろん2012年のスーパー・デラックス・エディションに入っていた CDで聴けるが、あれは最新のテクノロジーでリマスターされたハイテク・モノラル・サウンドであり、アナログ・レコードならではの古き良きモノラル・サウンドとは似て非なるもの。モノラル大好き人間の私としては是非ともヴィンテージなモノラルの轟音で「ラム」を堪能したい。
 ということで「ラム」のリリース当時に出たモノラル盤LPを探したところ、2種類しか存在しないことが判明した。すなわちプロモ・オンリーの US盤とブラジル盤である。ビートルズのコレクターとしては当然前者の方に魅かれるが、一説によるとこの USプロモ盤はアメリカ国内の AMラジオステーション用に作られたものでプレス枚数は100枚以下というから、コレはもう金パロステレオ盤よりも稀少なスーパー・ウルトラ・コレクターズ・アイテムである。今現在も1枚だけ Discogsに出ているが、お値段は何と驚愕の166万円… 宝くじでも当たらない限り買える金額ではない。
 ということで私の興味関心はもう一方のブラジル盤に向かったのであるが、そもそも私のブラジル盤に対する心象はあまり良くない。10年ほど前にポルトガル語入りのジャケットが珍しいという理由だけで衝動買いした「ア・ハード・デイズ・ナイト」のブラジル盤がピッチの狂った変な音で、それ以降ブラジル盤は1枚も買っていないのだ。だから今回も“「ラム」のモノラル盤は聴いてみたいけど、ブラジルはちょっとなぁ...” という感じで二の足を踏んだのだ。
 しかしよくよく考えれば私のガラード401にはピッチ・コントロール機能が付いており、万が一ピッチが変やったら調節したらエエだけの話。それに USプロモ盤の「ラム」が買えない以上、ブラジル盤は私にとって「ラム」を大好きなモノラル・サウンドで聴ける唯一の選択肢なのだ。イジイジと迷っている場合ではない。
 ということでブラジル盤を買うぞと心を決めていつものようにネット検索すると、eBay に1枚だけ VG+の盤が $62で出ていたので9掛けの $55でオファーしたところ、めでたく承認されて $25というブラジルにしては安い送料(←ふつう$30~40ぐらい取られる...)と併せても1万円を切る値段で買うことが出来た。
 69年~71年頃のブラジルのモノラル盤(←カタログ№のアタマはBTL- か BTX-)はステレオ盤から作った(←英語で fold down というらしい...)いわゆるひとつの “偽モノ” なのだが、同じ偽モノのUK盤「イエロー・サブマリン」が結構ごっつい音で楽しめたので今回も密かに期待しながら聴いてみた。
 まず1曲目のA①「トゥー・メニー・ピープル」のイントロがガツン!ときてめっちゃ気持ちイイ(^o^)丿  これぞモノラルの醍醐味である。しかしヴォーカルが入ってくるとイントロで荒ぶっていたサウンドが少しおとなしくなってしまい、聴いてるこちらとしては何か狐につままれたような感じ。まるで、録音時に我々ド素人が時々やるように、イントロで針が振り切ってしまってヤバそうやから歌の始まる所でちょっと入力ヴォリュームを下げた... みたいなそんな感じなのだ。事の真相は分からないが、何にせよやっぱりブラジル盤はちょっと変だ(笑)
 A面を聴き進んで行って感じたことは、ドラムスが奥に引っ込んでいて逆にピアノが前に出てくるように聞こえること。だからA④「ディア・ボーイ」なんか実に気持ち良く聴けてしまうのだが、その一方で、私が「ラム」で大好きなポイントの一つであるリンダのバック・コーラスがステレオ盤ほど目立たないのでA⑥「スマイル・アウェイ」なんかは魅力半減だ。
 B面では何故かB③「イート・アット・ホーム」だけ音が籠っているように聞こえるのがマイナス・ポイント。B④「ロング・ヘアード・レディ」になると音が回復するのも謎だ。全体的にモノラル特有のガッツというかエネルギー感は今一歩だが、カートリッジをモノラル専用のものに変えるとこの欠点はかなり改善される(←B③だけは何をやってもダメだが...)ことが分かった。
 というワケで私にとって10年ぶりのブラジル盤は可もなし不可もなしという感じで点数を付ければ65点といったところ。ただ、この盤をきっかけに私のブラジル・モノラル盤に対する関心が高まり、その結果としてとんでもなく凄い轟音盤に巡り合うことになるのだが、それはまた別のはなし...(^.^)

「Band On The Run」UKマト3/3盤の衝撃

2019-03-15 | Paul McCartney
 先日いつものように B-SELS にお邪魔して色々とレコードを聴かせていただいていた時のこと、アルバムを一通り聴き終えて “次は何が出てくるのだろう?” と楽しみにしていると店主の Sさんがいきなり「バンド・オン・ザ・ラン」をかけられた。
 そのイントロを聴いた瞬間に “自分の知ってる「バンド・オン・ザ・ラン」と何か違う!” と直感した私が Sさんに “これ、どこの国の盤ですか?” と尋ねたところ、 “おっ、もう気が付かれましたか。実はこれ、UKのマト3盤なんですよ。” と嬉しそうに仰る。
 UK盤「バンド・オン・ザ・ラン」といえば何と言ってもレアな両面マト1のラウドカット盤が有名で、一般的には両面マト2の盤が流通していることは知っていたが、マト3なんて聞いたこともない。しかし今お店のスピーカーから流れている「バンド・オン・ザ・ラン」は明らかにめっちゃ良い音で、それも私が所有しているラウドカット盤とは又違った種類の “良い音” なのだ。
 誤解を恐れずに言えば、昔よく行ったオーディオ・ショーで聴いたような、まるで “レコード盤に入ってる音は全部出す...” といった類の “高音質盤” で、お店の DENON製のプレイヤーがまるでリンのハイエンド・プレイヤー、ソンデック12LPのような音を出したのだからビックリするなというのも無理な話。マトリクス№は何と手書きの ZYEX 929-3 / ZYEX 930-3 で、A面にのみ同じく手書きで Blairs と彫ってある。ということはマト1やマト2盤とはマスタリングやカッティングはもちろんのこと、ひょっとするとミックスまで違うのか???
 Sさんによるとどうやらこの盤は Philipsプレスらしいとのことなので、ようやく音の良さに合点がいった。Philips といえばヨーロッパ・オーディオ界のドンというか盟主的存在であり、音に対する拘りようはハンパない。ジャケットにもレコードにもフィリップスのフィの字も書いていないが、センター・レーベルの溝(←昔の盤で言うところの Deep Groove)の形状と直径から判断したとのこと。因みに帰って手持ちの Philips盤の DGの直径を計ってみたところすべて同じ形状で直径3cmだった。いつもながら Sさんの “レコードのプロ” としての眼力には唸らされますわ... (≧▽≦)


 レコード両面を聴き終え、やみくもにこの盤が欲しくなった私は “これいつ頃店に出されるんですか? 大体いくらぐらいになりますかねぇ?” と尋ねてみたところ、“まだ決めてないんですけど、お店にあるマト1のラウドカット盤と同じくらいかなぁ。一度ご自分でこのレコードのことを調べてみられたらどうですか? 多分もっと安く買えると思いますし、探す楽しみもあるでしょう?” とのこと。う~ん、ごもっとも。初めて聴かせていただいたその場で買うのは簡単だが、Sさんが仰るように自分で探して安くゲットしてこそコレクターというもの。知り合ってまだ5ヶ月しかたっていないが、Sさんは何から何までお見通しのようだ。それより何より、せっかくこれからお店に出そうという目玉商品を横からかすめ取るようなマネはできない。
 というわけでコレクター魂に火がついた私は(←何か最近しょっちゅう着火しとるな...)帰って早速ネットで検索したところ、このマト3盤は Export Issue(輸出仕様)で、やはりミックスが違うらしくマト1とは対照的な雰囲気があるとのこと。「バンド・オン・ザ・ラン」にミックス違いがあるとは初耳だ。これは絶対にゲットせねば。因みに東京の某店では 19,440円で売約済みだった。
 色々探してみたところ Discogsには数枚この盤が出品されていたが、盤質が怪しかったりヤバそうな出品者だったりでリスクが大きい。お店で聴かせていただいた盤は NM盤だったので、やはりここはピカピカ盤が欲しい。そもそもココに出品しているセラーはマト番に無頓着な連中が多いので、マト番違いの盤を送りつけられてはたまらない。
 焦ってカスを掴みたくなかったので、次に eBay で探してみると1枚だけ出品されており、しかもラッキーなことにワンオーナー盤で盤質表記も EXだ。£25でも十分安いと思ったが OFFER 表示があったのでいつものように9掛けの£22.5でオファーしてみた。
 結果を待つ間、テレビ録画しておいた刑事コロンボを観て時間をつぶし(←久々に見た「パイルD3の壁」面白かった...)、再びパソコンをつけると Offer Accepted メールが eBayから届いており、結局初めて聴かせてもらってからわずか半日という電光石火の早ワザで「バンド・オン・ザ・ラン」の UKマト3盤をゲット。送料込みで約4,500円だった。
 それと、セラーの商品説明に “Have heard mentioned that this matrix indicates an export copy but as this was bought in Dartford I have my doubts...”(このマト番は輸出仕様って言われてるのを聞いたことがあるけど、この盤は私がダートフォードで買ったもので、輸出云々っていうのは疑わしい...)と書いてあったこともあって、このマト3盤の謎はいよいよ深まるばかりだ。
 届いた盤はセラーの説明通りの極上コンディション。ベースが太く、ギターもエッジが効いており、1つ1つの楽器がくっきりとした音像を持って立体的に迫ってくる。音圧はマト1盤よりもほんのわずか低いものの、その分レンジが広くて音の響きもナチュラル。クリアー&クリスプでありながら尚且つ腰の据わった粘っこい音がスピーカーから飛び出してくるのだから、これは実に衝撃的だ。
 私は単純な性格なのでオリジナル盤というとついついマトリクス№の若い盤ばかりを追い求めてしまうのだが、こういう盤の存在を知ってしまうと一概にマト番が若ければ良いとは言い切れないな、とまた一つ勉強になった。Sさん、良い盤を教えてくれてホントにどうもありがとう!

【3.17追記】
 ブルーレイ・レコーダーのおまかせ録画をチェックしていたら「ららら♪クラシック」という番組が録画してあったので不思議に思いながら見てみると、“クラシック音楽の視点から見たビートルズ” という内容で “クリシェ” とか “対位法” といったテクニックがどのようにビートルズの音楽に活かされているかをド素人にもわかりやすく解説してあってめっちゃ面白かった。ジャイルズ・マーティンによる解説もあったので興味のある人は 3/21(木)の10:25からNHKのEテレでやる再放送を見てみてくださいな。

【爆裂ラウドカット】Wings Over America オール -1U盤

2019-02-20 | Paul McCartney
 私は「オーバー・アメリカ」のラウドカット疑惑(?)にオトシマエをつけるため、盤が届いた2日後に早速 B-SELS を訪ねた。“UK盤「オーバー・アメリカ」のマト・オール1盤を手に入れたんですけど、一緒に聴きませんか?” と言うと店主のSさんは目を輝かせながら(笑)“ぜひ!” と2つ返事でOKして下さった。
 私は比較対象にもう1枚の「オーバー・アメリカ」も持参しており、まずはマトの差が大きくてデッドワックスの幅も異なるC面で試してみようということで聴き比べスタート。この面はご存じのとおり「ピカソズ・ラスト・ワーズ」「リチャード・コーリー」「ブルーバード」「アイヴ・ジャスト・シーン・ア・フェイス」「ブラックバード」「イエスタデイ」と続くアコースティック・セットなので、アコギをこよなく愛するSさんがどのような反応をされるかを興味深く見守っていると、一言も発せずにずーっと目を閉じて聴き入っていたSさんが「ブラックバード」で “高音の伸びが全然違いますね! いや~、コレは凄いですわ!” とコーフン気味におっしゃった。
 そこで一つのアイデアが浮かんだ。私が持参した“1/1/1/1/1/1” と “1/2/3/2/1/1” に加えて、お店にある「オーバー・アメリカ」のUK盤2枚“2/1/1/1/1/1” と “2/2/2/1/1/1” を併せた計4枚の中から選んで比べてみようというのだ。これにはSさんも大賛成で、まずはC面に的を絞ってマト2、マト3と順に聴いていく。因みにデッドワックスの幅の件だが、お店にあった定規でそれぞれ計ってみると、マト1とマト2が1.5cmでマト3が2.3cmだった。となると理論的にはマト1とマト2は同じ音がすることになる。
 ところが聴いてみた結果はお店のマト2(2/1)の方が私のマト1(1/1)よりもおとなしく感じられたのだからアナログは奥が深い。続いて聴いた私のマト3(3/2)もそれなりに良い音なのだが、やはりマト1の後に聴いてしまうと物足りなく感じてしまう。一通り聴き比べが終わると、Sさんが “「ブラックバード」をもう1回いいですか?” とおっしゃったので(←この曲が大好きだそうです...) “何度でも気のすむまでどうぞ!” とエンドレス試聴に突入(笑)  結局1時間半ほどC面を繰り返し聴いて、“1/1 >> 2/1 ≒ 3/2” という結論に達し、“じゃあ次はA面に行きましょう。” ということになった。
 C面が“アコースティック・サイド”ならA面はバリバリのロック・サイドである。マトは1と2しかないが、同じマト1でも 1/1盤と1/2盤に違いがあるのかどうかにも興味があったので、こちらも私が持参した 1/1盤と1/2盤、そしてお店の2/1盤の計3枚を聴き比べることにした。
 まず 1/1盤だが、ライヴ始まりの歓声の大きさからして明らかに違う。それまで聴いてきた「オーバー・アメリカ」を数万人収容の巨大スタジアムとすれば、この1/1盤は武道館か国技館クラスのアリーナである。それぐらい音が近いのだ。そしてA①「ヴィーナス・アンド・マース」が始まり、メドレーの「ロック・ショウ」に突入した瞬間の爆裂感には2人とも思わず身をのけぞらせた(←これホント!)。Sさんは “今まで聴いた中で最高の「オーバー・アメリカ」です!” と大喜びで、“まるでハードロック・バンドのライヴを聴いているみたい” とおっしゃったが、実に上手い例えである。確かに、気が付くと2人とも軽くヘッドバンギングしていた(笑)
 更に驚いたのは「ジェット」の冒頭部分のホーンの厚みが全然違うことで、音の押し出し感がハンパない。もう一つの大きな違いはドラムの音で、他のマトの盤では奥に引っ込んでいたジョー・イングリッシュが前に出てきて、まるでレッドブルを一気飲みしたかのような(←これこそまさに Gives You WINGS!!!)豪快なドラミングを聴かせてくれるのだ。Sさんも “スネアがスコーン!と突き抜ける感じが全然違いますね!” と満面の笑み。とにかく音が近いので、まるでスタジオ・ライヴを聴いているかのような錯覚に陥ってしまう。A⑤「メディスン・ジャー」でもポールの“よく歌う” 闊達なベース・ラインがまるでヘビー級ボクサーのボディーブローのようにズンズン腹に響いてめっちゃ気持ちイイ(^o^)丿 “コレはどう聴いてもラウドカットでしょ!” とおっしゃったので “やっぱりそう思いますか。僕もそう思ったんですけど自信がなくて... でもこれで確信に変わりました。これは間違いなくラウドカットですね!” と言いながらB面に行く。
 B①「メイビー・アイム・アメイズド」のポールのヴォーカルが実に力強い。バックのコーラスの広がり方も一回り大きく感じるし、ジミーのギター・ソロも一歩前へ出てきて弾いているような感じ。更にB②「コール・ミー・バック・アゲイン」の音密度の濃さには2人とも “おぉ~!!!” と声を上げてしまったほどで、とにかく音がスカスカなイメージのあった「オーバー・アメリカ」とは全く別物の、熱いライヴの音像が我々2人の前に屹立しているのだ。ここからはあくまでも私とSさんの想像だが、UK盤「オーバー・アメリカ」のディスク1だけマト1/1盤が極端に少ないのは、ちょうど「ラバー・ソウル」モノのマト1盤と同じ理由で発売後すぐに差し替えが行われたからではないか。この仮説が正しければ諸々の音の違いがすべて説明がつくのだが...
 1/1盤の次は 1/2盤だ。同じマト1なので 1/1盤と1/2盤のA面は同じ音がするはずなのだが、聴いてみた結果は1/1盤の圧勝で、これには2人ともビックリ。スタンパー・コードが 1/1盤の「P」に対して1/2盤は「GDP」とかなり開きがあるのでそのせいではないかというのがSさんの推測だが、なるほどそれなら筋が通る。スタンパー・コードが2桁までと3桁ではかなり音が違うらしいので、ましてや1桁と3桁ならその差は歴然だ。
 最後に 2/1盤を聴いてみたが、こちらはスタンパー・コードが「1G」で、マト2の中では最初期盤ということになる。聴いてみた結果は 1/2盤とほとんど変わらずで、3枚比較の最終結論としては “1/1 >>> 1/2 ≒ 2/1”だった。“いやぁ~、「オーバー・アメリカ」のラウドカット、最高ですわ。帰ったら神棚に飾ろうかな...(^.^)” と言うと Sさんも “エエもん聴かしてもらいました!” と大いに喜んでおられた。
 結局3時間にわたって同じレコードを何度も何度も聴きまくったワケだが、時の経つのを忘れるほど楽しい至福のひと時で、私もSさんもホンマにビートルズが好きなんやなぁと改めて実感。そもそも B-SELS でUS盤にハマらなければこのマト・オール1・リアル 1st プレス盤を買うこともなかったワケだし、「オーバー・アメリカ」のUKオリジナル盤のマト違い4種類をじっくり聴き比べできる場所だって日本中探してもそんなにないだろう。ここ数ヶ月の充実したレコード・ライフを考えると、このお店には足を向けて寝れない。そんなレコ屋が地元の奈良にある幸せ... priceless (≧▽≦)

【試聴盤データ】上段がマトリクス枝番、下段がマザー番号とスタンパー・コード
① 1U   1U   1U   1U   1U   1U
  3P   2RR   1TT  2AO   5TO  2RR

② 1U   2U   3U   2U   1U   1U
 4GDP 1GRA  1GHD  4GHA   3PD  3OO

③ 2U   1U   1U   1U   1U   1U
 1G   2GR   1GD  1GR   1MD  3RL

④ 2U   2U   2U   1U   1U   1U
 2MD  2TT  2GGP  5GGP  3GM  2OG