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shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Empty Garden / Elton John

2010-12-08 | Beatles Tribute
 少し前にネットでマーク・チャップマンの仮釈申請却下のニュースを読んだ。仮釈やと?ナメとんのか!心神喪失だか何だか知らないが、あのクサレ外道がまだ塀の中で、しかも三食付きでのうのうと生きていること自体許し難いのに、仮釈で出して自由にシャバの空気を吸わせるなんて絶対にあってはならない。私的にはゴルゴ13 にでも依頼して即刻射殺してほしいくらいのレベルだ。あの忌まわしい事件から30年経った今でも、12月8日になるとジョンを失った悲しみと共に奴に対する怒りが沸々と込み上げてくるのを抑えられない。怒りなどという言葉では生ぬるいこの気持ちはこの30年間変わっていないのだが、ブログで恨みつらみを延々と並べ立てるワケにもいかないので、今日は彼への追悼ソングの中で最も心に沁みたエルトン・ジョンの「エンプティ・ガーデン」を聴いて心を鎮めることにしよう。
 私が初めてエルトン・ジョンという名前を耳にしたのは洋楽を聴き始めてすぐの頃で、彼のアルバム「キャプテン・ファンタスティック・アンド・ザ・ブラウン・ダート・カウボーイ」が全米アルバムチャートで初登場1位を記録したと音楽誌で大ニュースになっていた。アルバムチャート初登場1位なんて今では珍しくも何ともないが、当時としては前人未到の快挙だったようで、 “そんなに凄いアルバムやったら聴いてみよう” とLPを買ってきて聴いてみたのだが、毒にも薬にもならんような退屈な内容で、私にはどこがエエのかサッパリ分からなかった。その後エルトンの参加で話題になった「心の壁、愛の橋」やMSGでのジョンとの共演ライヴ・シングルも聴いたが、結局エルトン・ジョンの良さは分からずじまいだった。
 そんな私が彼に瞠目したのは1982年、いつものように「ベスト・ヒット・USA」を見ていた時のこと、この「エンプティ・ガーデン」がチャート急上昇曲ということで紹介されたのだ。ビデオ・クリップに付けられた字幕の日本語訳を見ながらエルトンの歌声を聴いていた私は、不覚にも感動で目頭が熱くなってしまった。エルトンと公私共に仲の良かったジョンを “a gardener(庭師)” に例えたバーニー・トーピンの歌詞が圧倒的に、超越的に、芸術的に素晴らしい;

  ここで何が起きたんだろう?
  夕暮れ時のニューヨーク
  僕は何も生えてない庭を見つけた
  ここには誰が住んでたんだろう?
  その人は立派な庭師だったに違いない
  涙を刈り取り、良い作物を育てた
  でも今はそうじゃない
  一匹の虫が庭を食い散らかしてしまったんだ
  
  何のためにあるんだろう?
  赤褐色のドアに面した
  この荒れ果てた小さな庭は
  歩道の割れ目からはもう何も生えてこない
  ここには誰が住んでたんだろう?
  その人は立派な庭師だったに違いない
  涙を刈り取り、良い作物を育てたんだ
  僕らは驚き、愕然とした
  彼の代わりになる人なんて誰もいない
  
  ドアをノックしてるのに 誰も出てくれない
  一日中ずっとドアをノックしてるのに 
  呼び続けてるんだ
  ヘイ、ジョニー 一緒に遊ぼうぜ、ってね
  
  涙にくれながら
  こう言う人々もいる 若い頃の彼は最高の仕事をしたと
  でももし彼がそれを聞いたら
  人は年齢を重ねて成長していくものだと言っただろう
  その人は立派な庭師だったに違いない
  涙を刈り取り、良い作物を育てた
  僕らは今 雨を願う そして雨粒一つ一つの音が
  君の名前に聞こえるんだ
  
  ジョニー もう一緒に遊べないのかい? この空っぽの君の庭で...

特にサビの I’ve been knocking but no one answers... の部分はビートルズ・ファンなら涙なしには聴けないだろう。バーニー・トーピンの天才ここに極まれり、と言いたくなる大傑作だ。
 そしてこのジョンへの哀悼の想いに満ち溢れた歌詞を切々と歌い上げるエルトンのヴォーカルがこれまた素晴らしい。彼のまるで慟哭のように響く歌声が、その歌詞の一言一言が私の心をビンビン震わせるのだ。そこには私を失望させた「キャプテン・ファンタスティック」で聞かれた虚構のかけらもなく、ただただ深いバラッド性があった。私はこの曲を聴いて初めてエルトン・ジョンの良さを理解できた気がした。
 その後の私は初期の大名曲「ユア・ソング」やダイアナ妃に捧げられた「キャンドル・イン・ザ・ウインド」(←元々はマリリン・モンローの事を歌った曲やけど...)を聴くに至って “エルトンの神髄はバラッドにあり” を確信したのだが、そのきっかけとなったのが数あるジョンの追悼曲の中で一番好きなこの「エンプティ・ガーデン」なのだ。

Elton John- Empty Garden (with lyrics and The Beatles pics)
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Punkles For Sale

2010-09-20 | Beatles Tribute
 9月に入って少年ナイフにラモーンズと、このブログもすっかりガレージ・ロック月間と化した感がある。特にこの1週間はラモーンズ三昧で、愛車の中でもガンガン鳴らしながらヘイホー・レッツゴー状態だ。ラモーンズというと十把一からげにして “パンク・ロック” に分類され、もうそれだけでネガティヴ・イメージを持たれて敬遠されてしまうかもしれないが、彼らは逆立てた髪に安全ピンというアホバカ・ファッションで客に唾を吐きかけたりするイメージ先行型の有象無象UKパンク・バンドとは激しく一線を画す正統派のロックンロール・バンドなのだ。確かに彼らのロンドン公演をきっかけにしてUKパンク・ムーヴメントが爆発したのは歴史的事実だが、当のラモーンズはあくまでも純粋に、贅肉を削ぎ落としたシンプルなロックンロールを追及していただけで、「エンド・オブ・ザ・センチュリー」という彼らのドキュメンタリー・フィルムによると、アナーキズムの象徴みたいなUKパンク・バンドと一緒くたにされてかなり迷惑していたらしい。
 彼らの音楽を聴き込めば聴き込むほど、2分前後で完結するその荒々しいロックンロール・サウンドの中に、かつて私を魅了した初期ビートルズと同質のものを感じる。 “N.Y.パンクの旗手” ラモーンズとビートルズって一見何の接点も無さそうだが実は大アリで、そもそもラモーンズというバンド名自体、ポール・マッカートニーがハンブルグ時代に使っていた “ポール・ラモーン” という芸名に因んで全員が“ラモーン”姓を名乗ったことから来ているし、リード・ヴォーカルのジョーイはジョン・レノンから多大な影響を受けたと公言している。お揃いのファッションにマッシュルーム・カットというのも初期ビートルズを意識しているのは一目瞭然だ。
 そんなラモーンズ・スタイルで珠玉のビートルズ・ナンバーを次々と高速化して楽しませてくれるのがドイツの “おバカ” バンド、ご存じパンクルズである。私は彼らの大ファンでこれまでも「パンク!」と「ピストル」という2枚のアルバムを取り上げてきたが、今日は後期のナンバーを中心に選曲された「パンクルズ・フォー・セール」でいってみたい。
 このバンドに関してはアレコレ分析するのではなく、 “ビートルズのあの曲をパンク・スタイルで演奏するとこんな風になるんか... めっちゃオモロイやん(^o^)丿” といった感じで何も考えずにその血湧き肉躍るロックンロールを楽しむというのが正しい聴き方なのだろう。パロディというのは基本的に “笑ってもらってナンボ” の世界なので、そういう意味でもこのアルバムは笑撃の傑作だと思う。
 まず目を引くのが「アビー・ロード」を模したジャケット。メンバーはもちろん、背後には何故か高くそびえるタワーを合成し、ご丁寧にLPの皺やリング・ウェアーまで再現、CDの裏ジャケの上下には何と Garrod & Lofthouse 社製のフリップバック仕様のラインまで印刷するという徹底したマニアックさに脱帽だ。
 このアルバムの一番の目玉は “アビー・ロードB面メドレー” をパンクロック・スタイルで再現した⑫~⑲だろう。コレって常識的には考えられない無謀な発想で、一歩間違うとムチャクチャな演奏になってしまうのがオチだが、いざ聴いてみるとコレが実に見事なパンク・パロディになっている。表面的にはおバカを装っているが、彼らがずば抜けた音楽センスと高度なテクニックを持っている何よりの証だろう。又、コレを聴くと改めてビートルズ・ナンバーの素晴らしさが再認識できるという効用もあるのではないだろうか。 「アビー・ロード」からの選曲では②「カム・トゥゲザー」や③「ヒア・カムズ・ザ・サン」、⑨「オクトパス・ガーデン」もノリノリだ。後期ビートルズのナンバーを初期ビートルズのシンプル&ストレートなロックンロール・スタイルで楽しめるのだからファンとしては堪えられない。
 正調ロックンロールであるオリジナル・ヴァージョンを更に高速回転させた①「バック・イン・ザ・USSR」や⑦「グラス・オニオン」なんか実に痛快だし、⑤「コンティニューイング・ストーリー・オブ・バンガロウ・ビル」のドライヴ感溢れる演奏もめっちゃ斬新でカッコ良い。チップマンクスみたいな⑩「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」にはもう笑うしかないし、ゴスペル調の原曲をあろうことかレゲエのリズムを巧く使って換骨堕胎した⑪「レット・イット・ビー」も、心の広いビートルズ・ファンなら(笑)きっと楽しめると思う。やっぱりビートルズはロックンロールと相性抜群だし、何よりも彼らの “ビートルズ楽しいです感” がダイレクトに伝わってくるところが最高だ。
 とまぁこのように私は彼らの大ファンなのだが、2006年にこのアルバムをリリースして以降、彼らの動静が全く伝わってこないのが少々心配だ。まさか「アビー・ロード」をパロッたジャケットで⑲「ジ・エンド」でシメてるのは “これで最後” っていう意味とちゃうやろな(>_<) ビートルズの公式録音曲213にソロ・ワークスも含めれば、まだまだネタはあるだろうから、これからもラモーンズ・スタイルでビートルズの名曲の数々をどんどんパンク化していってほしいものだ。私はそんな彼らのニュー・アルバムを楽しみに待ちたいと思う。

The Punkles "The Punkles For Sale!" - Promo Video 2006


バンガロウ・ビル

Ticket To Ride / The Swingle Singers

2010-06-23 | Beatles Tribute
 私は基本的に疾走系のロックンロールやスインギーなジャズが大好きなので、コーラス・グループも聴くというと意外な顔をされることが多い。しかしアンドリュース・シスターズやクラーク・シスターズ、べヴァリー・シスターズといったいわゆるひとつの “シスターズ系” はもちろんのこと、パイド・パイパーズやハニードリーマーズのような正統派コーラスも聴くし、ジャズ・コーラスの王道を行くマンハッタン・トランスファーは大好きなグループだ。
 スイングル・シンガーズは1963年にパリで結成された混声コーラス・グループで、バッハを始めとするクラシック音楽をダバダバ・スキャットでジャズ・コーラス化したことで知られるが、クラシックを聴かない私には全く縁の無いグループだった。唯一聴いたことがあるのは同じクラシックかぶれの MJQ との共演盤「ヴァンドーム」ぐらいで、ただでさえ眠たい MJQ の音楽に気持ち良いコーラスが加わって昼寝の BGM には最適な音楽に思えたが、身銭を切って買うような盤ではなかった。
 そんな彼らの名前を久々に見つけたのが様々なビートルズ・ナンバーをアマゾンで検索していた時で、早速この「ティケット・トゥ・ライド ~ア・ビートルズ・トリビュート~」を試聴、私の記憶にあるクラシックかぶれのコーラス・グループというイメージとはかけ離れたカッコ良いコーラス・ワークがいっぺんに気に入ってしまい、即オーダーした。後で知ったことだが、中心人物であるウォード・スイングルは70年代にフランス人主体だったグループをイギリス人主体へと再編成し、クラシックだけでなくポップスからクリスマス・ソングまで幅広く取り上げるようになったらしい。
 1999年にレコーディングされたこのアルバムは全16曲入りで、中期以降の楽曲を中心にセレクトされている。ギター・リフを幾重にも絡み合うコーラス・ハーモニーで見事に表現した①「ティケット・トゥ・ライド」や④「デイ・トリッパー」、洗練の極致とでも言うべき②「ペニー・レイン」や⑪「ブラックバード / アイ・ウィル」、アカペラでこの曲をやるという発想自体が凄い③「レヴォリューション」や⑥「バースデー」、変幻自在のコーラス・ワークでヴォーカリーズの面白さを教えてくれる⑨「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」や⑫「ホエン・アイム・64」あたりが私は気に入った。
 ⑧「イエスタデイ」はリード・ヴォーカルは暑苦しくて鬱陶しいが、例の弦楽四重奏をアカペラで再現している所は面白い。⑮「アイ・アム・ザ・ウォルラス」もデリカシーに欠けるリード・ヴォーカには興ざめだが、例のイントロを含むサイケなサウンド・プロダクションを絶妙なコーラス・ワークで表現しているところは聞き物だ。逆に⑤「ノーウェジアン・ウッド」、⑦「レディ・マドンナ」、⑩「ドライヴ・マイ・カー」、⑬「フール・オン・ザ・ヒル」、⑭「オール・マイ・ラヴィング」あたりはアレンジが私的にはイマイチ。まぁコレは好みの問題なので、人それぞれだろう。⑯「グッドナイト」は普通すぎて可もなし不可もなしといったところか。
 ビートルズの名曲をアカペラで、という企画のアルバムとしては他にキングス・シンガーズの「ビートルズ・コレクション」やアカペラ・トリビュート・コンピ「カム・トゥゲザー」などがあるが、そんな中で一番 CD プレイヤーに収まる機会が多いのがこの盤だ。ただし全曲聴くとさすがに胃にもたれるので、その時の気分で2~3曲選んで聴くのが極意だと思う。

ペニーレイン


ホエン・アイム 64


ブラックバード~アイ・ウィル
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ザ・ビートサウンド・クラブ 【青盤】 鉄腕アトム

2010-06-20 | Beatles Tribute
 昨日のタンゴに続くおバカ企画シリーズ第2弾(?)はアニソンとビートルズの融合という、普通ではあり得ない発想から生まれた珍盤「ザ・ビートサウンド・クラブ【青盤】/ 鉄腕アトム」である。これは以前このブログで取り上げた「【赤盤】/ さっちゃん」と対をなす姉妹盤で、要するにビートルズの楽曲に乗せて強引にアニソンを歌ってしまうという、神をも恐れぬ暴挙(笑)に近いアルバムなのだ。
 「【赤盤】/ さっちゃん」の方は童謡編ということでほとんどの曲を知っていたが、アニソンの方は知らない曲も結構多い。⑤「青い空はポケットさ」、⑧「アンパンマンのマーチ」、⑪「ワイワイワールド」、⑫「キャンディ・キャンディ」は恥ずかしながらこのアルバムで初めて聴いた。パロディーというのは元歌を知らないとどこが面白いのかサッパリ分からないもので、この辺に関してはコメントしようがない(>_<) 又、③「おどるポンポコリン」は多分「プリーズ・ミスター・ポストマン」を下敷きにしているのだろうが非常に分かりづらく、全然パロディーになっていない。この③は無い方がよかったな...(>_<)
 アルバム冒頭を飾る①「ゲゲゲの鬼太郎」は「ミッシェル」そのまんまのイントロに続いていきなり「ゲッ、ゲッ、ゲゲゲのゲ~♪」ときた時点であまりのアホらしさにイスから転げ落ちる。しかしこの盤のエライ所は子供向けCDであるにも関わらず、細部にまで徹底的にこだわっているところ。バック・コーラスのアレンジはビートルズそのまんまだし、間奏やエンディングの処理も原曲に忠実にしてあって、それがかえってゲゲゲな歌詞とのミスマッチな面白さを際立たせているように思う。
 「ノーウェジアン・ウッド」と見事に融合した②「ひみつのアッコちゃん」も面白い。一体誰があの幻想的なシタールの響きにアニソンをくっつけようなどと考えるだろうか?ご丁寧なことにラバー・ソウルなタンバリンまで登場、この摩訶不思議なビートルズ風アニソンの絶妙なアクセントになっている。プロデューサーやらアレンジャーやら、みんな本気になって遊んどるなぁ...(^.^)
 「涙の乗車券」のギター・リフに乗って歌われる④「ウルトラマンのうた」というのもオツなものだが、個人的にツボに入ったのが⑥「ひょっこりひょうたん島」だ。これが何と「カム・トゥゲザー」とコワイぐらいに一体化していてもう凄いとしか言いようがない。目からウロコとはまさにこのことで、このアルバム中の私的ベスト・トラックだ。
 「レヴォリューション」のイントロだけ取って付けたような⑦「行け行け飛雄馬」や「アイ・フィール・ファイン」なギター・リフだけが空しく響く⑨「魔法使いサリー」は木に竹を接いだような不自然さは否めないし、「バック・イン・ザ・USSR」のジェット音に乗って飛んでくる⑩「鉄腕アトム」も面白いのはジェット機の効果音だけで、例えば “バーキン ユゥエス~♪” の3回転トリプル・アクセルをパロってみるとか、アレンジに何かもう一工夫ほしかったところ。
 しかし「エリナー・リグビー」風の⑬「レッツゴー・ライダーキック」には笑ってしまった。例のストリングスのイントロ(もちろんチープさ全開の打ち込みサウンドだが...)からいきなり “迫る~ショッカー♪” である。それにしても仮面ライダーにあのストリングス・アレンジがこれほどぴったりハマるとは驚きだ。アレンジャーさん、エエ仕事してまんな。ぴったりハマるといえば、⑭「ねぇムーミン」もこれに勝るとも劣らない面白さ。「ラヴ・ミー・ドゥ」のハーモニカのイントロに続いて “ねぇムーミン、こっち向いて~♪” 、コレが意外なほどしっくりくるのだ。この恐ろしいほどの脱力感は一聴の価値アリだと思う。しかしこんな盤ばっかり取り上げとったらホンマにアホになってしまいそうでコワイわ(>_<)

カム・瓢箪島・トゥゲザー
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Tango & Beatles / Tango & Liverpool Project

2010-06-19 | Beatles Tribute
 ビートルズ・カヴァーにはラトルズやユートピアのような正統派(?)が存在する一方で、何やらワケのわからん企画物も多い。私は生来いちびりな性格なので、由緒正しいビートルズ・ファンなら見向きもしないような盤でも面白そうならとりあえず試聴し、1つでも気に入ったトラックが入っていれば買ってしまう。
 この「タンゴ & ビートルズ」を買ったのは3年ほど前のこと、ビートルズ・ナンバーをラモーンズ風にパンク化したパンクルズ、クリスマス・ソングをマージービートでロックさせたビートマス、ロックンロールであろうがバラッドであろうがおかまいなしにビートルズを片っ端からルンバ化するという前代未聞の暴挙(?)に出たロス・ローリンなどのおバカな傑作カヴァー・アルバムに出会ってすっかりその筋系の音楽にハマった私は、面白ビートルズ・トリビュート盤を求めてネット検索に明け暮れていた。そんな中で偶然見つけたのがこのアルバムで、タイトルを見た私は “タンゴとビートルズ” っていくら何でもそれは遊びすぎちゃうの、と思ったものだ。
 そもそも“タンゴ”というジャンル自体、私はほとんど知らない。 “タンゴ” と聞いて頭に浮かぶのは小学生の時にシングル盤を買った「黒猫のタンゴ」くらいだ。そういえばジリオラ・チンクエッティのタンゴ・アルバム「スタセラ・バロ・リスシオ」も持っているが、スタッカートを多用して音をブツ切りにするようなタンゴ独特のサウンドにイマイチ馴染めず、買って一度聴いただけで CD 棚の “多分二度と聞かないかもしれないコーナー” へと直行した。別にタンゴが嫌いというワケじゃないが、ロックやジャズのような “生涯の音楽” としての魅力は感じない。
 そんなタンゴのリズムで、あろうことか珠玉のビートルズ・ナンバーをザックザックと切り刻んでいったのがこのアルバムなんである。私は eBay でアルゼンチンのセラーから$8.50で入手したが、送料込みでも1,000円ちょい... 試聴できるサイトを見つけられなかったのでミズテン買いになってしまうリスクはあるがが、タンゴがハズレでもビートルズなら曲で聴けるだろうという皮算用だった。
 届いたCDを見るとアーティスト名が “タンゴ & リヴァプール・プロジェクト” となっている。いかにもその場でテキトーにデッチ上げたような名前だが、この怪しさがたまらんのよね(^o^)丿 こういう珍盤・奇盤・怪盤の類はハイ・リスク・ハイ・リターンというのがコレクターの基本だが、今回は私的には見事に “当たり” だった。
 リード・ヴォーカルはサワ・コバヤシという日系らしき女性で、微妙に「アビー・ロード」をパロッたジャケット・デザインも担当している。ヴォーカルはこれまで何度も取り上げてきた「ボッサン・○○」シリーズや「ジャズ・アンド・○○'s」シリーズにぴったりハマりそうな “雰囲気一発” タイプ。アルゼンチンはこの手の癒し系ヴォーカルが多いなぁ...(^.^)
 短いつなぎの効果音トラック⑥⑪を除けば全11曲、⑫⑬はそれぞれ④⑨のダンス・リミックス・ヴァージョンになっているので実際には全9曲だ。タンゴのリズムが哀愁舞い散る原曲のメロディーと抜群のマッチングを見せる②「ミッシェル」や③「アンド・アイ・ラヴ・ハー」、疾走感溢れる原曲を換骨堕胎して見事にタンゴ化したセンスに唸らされる⑤「ヘルプ」、絶妙なテンポ設定とアレンジで完全な社交ダンス・ミュージックと化した⑨「ティケット・トゥ・ライド」あたりが特に好きだ。
 頭の固いビートルズ・ファンの中には “ナメとんのか!” と怒り出す人もいるかもしれないが、私は逆にこんなおバカな企画でタンゴ化されても相変わらず輝きを放ち続けるビートルズ・ナンバーの “楽曲としての力強さ” に、グループ解散後40年を過ぎても今なお人々に愛され続ける彼らの凄さの一端を垣間見たような気がした。

ミッシェル


ティケット・トゥ・ライド

Deface The Music / Utopia

2010-06-16 | Beatles Tribute
 先日マーサさんからいただいたコメントの中にトッド・ラングレンのバンド、ユートピアによるビートルズ・パロディ・アルバムの話が出てきた。「ディフェイス・ザ・ミュージック」(邦題:「ミート・ザ・ユートピア」←こっちの方が馴染みやすいわ...)と題されたこのアルバム、実は近いうちに取り上げよーかなーと思っていた矢先のことだったので、正直ちょっとビックリしてしまった(゜o゜) 何でわかってんやろ..???(笑)
 ということで今日は “馬ヅラの貴公子” 、じゃなかった “ロックの神童” “天才ポップ・クリエイター” ことトッド・ラングレン(←私が高校生の頃愛読していたミュージック・ライフや音楽専科では彼の馬ヅラ・ネタが結構多くていつも笑わせてもらってました... 確かに顔、長いです...笑)が率いるユートピアが1980年にリリースした「ミート・ザ・ユートピア」でいこう。
 このアルバムはスミザリーンズやチープ・トリックがやったようなカヴァーでも完コピでもなく、アレンジやサウンド・プロダクションにおいて随所にファブ・フォーの名曲のエッセンスを散りばめた純粋なオリジナル曲で構成されており、アルバム全体からビートリィな薫りが濃厚に立ち込める、非常に高度なパロディ・アルバムになっている。このアルバムが出た当時は今ほどビートルズ・パロディ盤は氾濫しておらず、ちょうど “イギリスのラトルズ” vs “アメリカのユートピア” みたいな図式だったように記憶している。
 まず目を惹くのが「ウィズ・ザ・ビートルズ」、じゃなかった「ミート・ザ・ビートルズ」の(←私はイギリス盤を聴いて育ったのでついつい「ウィズ...」と言ってしまうが、アメリカのバンドにとっては言うまでもなく「ミート...」なんよね...)ベタなパロジャケである。ジャケットというはビートルズ・パロディの重要な一要素だと思うが、私はアメリカのバンドらしいこのノーテンキさが大好きだ。
 ジャケット以上に私が気に入っているのが各曲につけられたおバカ全開の邦題の数々だ。当時の洋楽担当ディレクター氏が元ネタになった曲を原題に無理やりくっつけたような②「キャント・バイ・ミー・クリスタル・ボール(Crystal Ball)」や⑥「エイト・デイズ・ア・ウイーク・イズ・ノット・ライト(That's Not Right)」に始まり、シンセの似非ストリングスが生み出すチープな質感が耳に残る⑨「エリナー・リグビーはどこへ(Life Goes On)」やパロディーで終わらせるにはもったいないような美曲⑫「ミッシェルの微笑み(All Smilles)」なんかも面白いが、一番大笑いしたのが⑩「フィクシング・ア・ホール・イズ・ゲッティング・ベター(Feel Too Good)」... 元ネタになった2曲のタイトルをつなげただけという鬼のような合わせ技にはアホらしすぎて大笑いしてしまった(^o^)丿
 とにかくどの曲にも年季の入ったビートルズ・ファンならニヤリとさせられるような仕掛けが満載で、聴いててホンマに楽しいアルバムだ。私が一番好きなのはハーモニカにハンド・クラッピング、バック・コーラスに至るまで初期ビートルズの魅力を2分2秒に濃縮還元したような①「抱きしめたいぜ(I Just Want To Touch You)」だ。トホホな邦題もアレだが、何と言っても馬ヅラのビートル・スーツ姿(笑)が堂に入っているビデオ・クリップが最高だ。これでリッケンバッカーをかき鳴らすトッドがもう少しガニ又やったら完璧やねんけどなぁ...(^.^)
 ポップとアヴァンギャルドの狭間で絶妙のバランスを保ちながらアート・ロックとでも呼べそうなプログレ路線を体現してきたユートピアが、トッド・ラングレンの音楽の原点であるビートルズへのオマージュとして作り上げたこのアルバム、まさにトッド版 “マージービートで笑わせて” といった感じの1枚だ。

Utopia - I Just Want To Touch You

Masterful Mystery Tour / Beatallica

2010-06-13 | Beatles Tribute
 ビータリカの 1st アルバム「サージェント・ヘットフィールズ・モーターブレス・パブ・バンド」は巷に氾濫する有象無象のビートルズ・カヴァー盤を一瞬にして葬り去るほどのインパクトがあった。ビートルズ・ナンバーをあろうことかメタリカそっくりのサウンドでことごとくヘビメタ・カヴァーしていくという発想も凄かったが、メロディアスなロックの最高峰と言えるビートルズと騒音の塊のようなスラッシュ・メタルの雄メタリカという水と油のような音楽性を非常に高い次元でバランスさせ、そこにユーモア感覚溢れる歌詞を乗せて高度なパロディーとして成立させていたのが何よりも衝撃的だった。
 ビータリカは元々2001年に冗談のつもりで始まった(笑)プロジェクトで、ローカルなモノマネ・コンテストへの出演記念に「ア・ガレージ・デイズ・ナイト」という7曲入りミニCDを制作、更に2004年には8曲入りセカンド・アルバム「ビータリカ」(←通称「グレイ・アルバム」)をウェブ上で公開したが、フリー・ダウンロード出来たことからビートルズの版権の多くを所有するソニーATV(←マイケルから買った分かな...?)と版権問題でモメたらしい。結局彼らの正式なアルバムをソニーATVから出すことで合意に達し、2008年にリリースされたのが先の「サージェント・ヘットフィールズ・モーターブレス・パブ・バンド」というワケだ。
 その後「オール・ユーニード・イズ・ブラッド」(血こそすべて)というマキシ・シングル(←同じ曲を14ヶ国語で歌ってます... よぉやるわ)を経て、2009年に出された彼らの最新フル・アルバムがこの「マスターフル・ミステリー・ツアー」なのだ。前作は全13曲中9曲までが先の2枚の EP に入っていた曲を再レコーディングしたものだったが、今回は12曲中既発表曲は4曲のみで残りの8曲は完全な新曲(?)である。
 アルバムを聴いてみてまず感じたことは、よりメタル色が強まっていて元ネタのビートルズ曲がすぐに思い浮かばないような過激なアレンジになっているということ。前作がビートルズ:メタリカ=5:5とすれば、今作は2:8ぐらいに聞こえてしまう。結果としてパロディーとしての “笑える” 要素が後退、ヘビメタを聴かない普通のビートルズ・ファンには正直キツイと思う。特に①「ザ・バラッド・オブ・ジェイムズ・アンド・ヨーコ」、③「フューエル・オン・ザ・ヒル」(←歌詞はオモロイけど...)、⑥「ランニング・フォー・ユア・ライフ」、⑫「トゥモロウ・ネヴァー・カムズ」(←チャレンジ精神は買うけど、どっちつかずでワケがわからん...)あたりはビートルズ色が希薄で面白くない。
 又、②「マスターフル・ミステリー・ツアー」⑧「ヒーロー・オブ・ザ・デイ・トリッパー」、⑨「ゴット・トゥ・ゲット・ユー・トラップト・アンダー・アイス」、⑩「アイル・ジャスト・ブリード・ユア・フェイス」は一応原曲のメロディーはわかるけれど、アレンジに無理があるのか何か窮屈な感じがして初期の彼らの魅力だったノビノビした疾走感が失われてしまっている。演奏が爆発していないのだ。
 そんな中でキラリと光るのはやはり初期 EP に入っていた④「アンド・アイム・イーヴル」、⑤「エヴリバディーズ・ガット・ア・ティケット・トゥ・ライド・エクセプト・フォー・ミー・アンド・マイ・ライトニング」、⑦「ザ・シング・ザット・シュッド・ノット・レット・イット・ビー」、そして私が彼らの最高傑作と信ずる⑪「アイ・ウォント・トゥ・チョーク・ユア・バンド」(邦題:首しめたい)の4曲だ。⑪に関しては以前このブログで取り上げた時に詳しく書いたので詳細は省くが、下に貼り付けたビデオ・クリップも十分楽しめるもので、聴いて良し見て良しの秀作だ。他の3曲も巧くビートルズ曲をメタリ化していてエエのだが、私個人としてはこれらのリメイク・ヴァージョンよりもウェブからダウンロードした(←残念ながら今ではもう閉鎖されてしまっているようだが...)オリジナル・ヴァージョンの方に魅かれてしまう。
 何だかネガティヴな感想になってしまったが、こんなユニークなバンドはそうそういないので、面白いビートルズ・カヴァーに目がない私としては彼らにもっと頑張ってほしいというのが正直なところ。次作ではぜひとも初期のようなストレートアヘッドなアレンジでビートルズをメタリ化して唸らせてほしいものだ。

Beatallicanimation


Beatallica - And I'm Evil from Masterful Mystery Tour
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Sgt. Pepper Live / Cheap Trick

2010-06-12 | Beatles Tribute
 前回、前々回と2回にわたってスミザリーンズのビートルズ・カヴァー集を取り上げてきたが、ビートルズ・マニアのバンドの元祖といえばイの一番に思い浮かぶのがチープ・トリックだ。彼らはデビューした時からビートリィな雰囲気を湛えたバッドフィンガー路線のサウンドだったし、本家ビートルズの曲も「マジカル・ミステリー・ツアー」や「デイ・トリッパー」をカヴァーしており、ビートルズ直系バンドの筆頭格だったが、何といってもジョン・レノンの復帰作「ダブル・ファンタジー」のセッションに参加(←結局ボツになって「ジョン・レノン・アンソロジー」に収録されたけど...)しているのだからこれはもう筋金入りのビートルズ好きと言っていいだろう。
 私とチートリとの出会いは1978年のこと、ラジオから流れてきた「サレンダー」の絶妙なポップ感覚がめちゃくちゃ気に入り、この曲の入った彼らの 3rd アルバム「ヘヴン・トゥナイト」を買いにレコード店へ走ったのを覚えている。それか半年ぐらいして例の「アット・ブドーカン」で大ブレイク、翌79年に出たアルバム「ドリーム・ポリス」ではA面トップの疾走感溢れるタイトル曲とB面トップに置かれためっちゃビートリィな「ヴォイシズ」が彼らのアイデンティティーを強烈に主張していた。その後彼らはスランプに陥るが1988年のアルバム「ラップ・オブ・ラクジュアリー」で完全復活、見事全米№1になった「ザ・フレイム」はF1中継時のブリヂストンのCMで耳にタコが出来るくらい聴いたものだったが、90年代以降は私が洋楽ロックと絶縁したこともあって彼らの名前を聞くこともなくなっていた。
 この「サージェント・ペパー・ライヴ」はそんな彼らが2007年の8月に「サージェント・ペパーズ」発売40周年を記念して行ったコンサートの模様を収録したライヴ盤で、ニューヨーク・フィルハーモニック・オーケストラを始め様々なゲスト・ミュージシャンを起用してあの「ペパーズ」のアルバムの完全再現にトライしているのだから買わずにはいられない(笑) 実際に聴くまでは “「ウィズイン・ユー・ウィズアウト・ユー」のインド音楽どーすんねんやろ?” とか “「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」のクライマックスはどーなるんやろ?” とか、色々と想像出来て楽しかった(^.^)
 この盤を聴いた第一印象は、特に奇を衒うこともなくオリジナルに忠実なアレンジで真正面から「ペパーズ」に取り組んでいるということ。だから演奏だけで判断するならオリジナルと比べるだけ野暮というもので、私としてはこの “ライヴでアルバム丸ごとコピー” という大胆なアイデアを買いたい。「ホワイト・アルバム」を曲順にカヴァーした(←前代未聞ですね!)フィッシュのライヴ盤同様、ビートルズ・ファンとしては “おたくら、ホンマによぉやりまんなぁ...(^.^)” という寛大な気持ちで接するのが正しいと思う。それに、この後でオリジナルを聴くと改めてビートルズの凄さ、偉大さ、素晴らしさを再認識できるという効用もある。
 1曲目のタイトル曲からロビン・ザンダーが絶叫する “チートリ流ビートルズ” のオンパレード。特に③「ルーシー・イン・ザ・スカイ」はライヴなのにタンブーラみたいな音まで聞こえるという入魂のサウンド・プロダクションがインパクト大で、トムのベースが唸るところなんかも大好きだ。この曲のカヴァーでは三指に入る名演だと思う。⑦「ミスター・カイト」、⑨「ホエン・アイム・64」、⑩「ラヴリー・リタ」の3曲は何故かゲスト・ヴォーカリストがリードを取っていてちょっとユルく感じてしまうが、ヴォーカルがロビンに戻ると途端にロック色が濃くなり演奏のテンションが上がるところは流石という他ない。事前に興味津々だった⑧「ウィズイン・ユー・ウィズアウト・ユー」はシタール全開でカヴァーしておりその徹底ぶりには頭が下がるし、曲が終わった後に拍手と共にオーディエンスの感嘆の声が聴き取れるのが面白い。
 圧巻はやはり⑬「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」だろう。ロビンの年季の入ったヴォーカルといい、リンゴが憑依したかのようなバーニーのドラミングといい、さすがは元祖ビートルズ・マニア・バンドである。オーケストラ・パートはライヴではこれが限界なのだろう。ミドル・パートも巧くまとめられており、後半部に入る3分24秒あたりからの加速感へとつながっている。そしてアンコール(?)は⑭「メドレー・ソング」と題して「アビー・ロード」から「ゴールデン・スランバーズ / キャリー・ザット・ウエイト / ジ・エンド」だ。何だか気に竹を接いだような感は否めないが、もし自分がライヴの会場にいたらきっと大喜びしていただろう(笑) でもどーせここまでやるなら、エンディングでリック・ニールセンあたりにインナーグルーヴの逆回転呪文(?)を叫んでほしかったなぁ...(^.^)

Sgt Pepper Live- Lucy in the Sky With Diamonds/ Getting Better


Sgt Pepper Live -A Day in the Life

B-Sides The Beathes / The Smithereens

2010-06-10 | Beatles Tribute
 “B面”という言葉は CD 時代の今となってはほぼ死語に等しいが、私が音楽を聴き始めた1970年代は当然アナログ・レコードの時代であり、貧乏な中学生だった私は LP をホイホイ買うわけにもいかず、昼飯代を浮かせて貯めたなけなしのお金でシングル盤をパラパラと買っていた。当然のことながらお目当てはA面のヒット曲であり、ほとんどA面ばかり繰り返し聴いてB面は“せっかく買うたんやから一応聴いとこか...” 程度のノリで1、2回聴いてそれで終わり、というパターンがほとんどだった。
 そんな私のB面に対する概念を根底から覆したのが一連のビートルズ・シングルだった。初期~中期の作品群は英米とは違う日本独自のシングル・カットも多かったのだが、「赤盤」でビートルズに目覚めた私は、いきなり他のアルバムを買うお金もなく、「赤盤」から漏れ落ちた初期のロックンロール・シングルを中心に買って聴いていた。「ツイスト・アンド・シャウト / ロール・オーヴァー・ベートーベン」、「ロックンロール・ミュージック / エヴリ・リトル・シング」、「のっぽのサリー / アイ・コール・ユア・ネーム」など、“ベスト盤に入ってへん曲、それもB面でこんなに凄いなんて… ビートルズ恐るべし!” を痛感させられたものだ。中でも「プリーズ・ミスター・ポストマン」のB面に入っていた「マネー」の圧倒的な迫力には大いなる衝撃を受けたのをハッキリと覚えている。
 やがて国内盤 LP を1枚また1枚と買い始めたが、そーすると今度はオリジナル・アルバム未収録の曲が気になってくる。今では「パスト・マスターズ」なんていう気の利いた編集盤が存在するが、当時はもちろんそんなものはなく、 “シングル盤ディスコグラフィー” と首っ引きでそういう曲を調べ、買っていった。「抱きしめたい」のB面「ディス・ボーイ」(←「こいつ」って...史上最強の邦題やなぁ...笑)、「涙の乗車券」のB面「イエス・イット・イズ」、「アイ・フィール・ファイン」のB面「シーズ・ア・ウーマン」、「ヘルプ!」のB面「アイム・ダウン」etc、超ハイ・レベルなB面曲の数々に唸ったものだ。
 なぜB面について書いてきたかというと、今日取り上げるのが2回連続のスミザリーンズで、タイトルもズバリ「B-サイド・ザ・ビートルズ」なのだ。前回の「ミート・ザ・スミザリーンズ」も「ミート・ザ・ビートルズ」の完コピで、彼らのファブ・フォーに対する敬意と愛情の深さが伝わってきて嬉しかったが、ビートルズ・トリビュートというと判で押したように似たような選曲が横行する中(←めったやたらと「エリナー・リグビー」、「ペニー・レイン」、「サムシング」あたりが多いような気がする...)、今回の “ビートルズのB面曲特集” という企画はいかにもマニアックな彼ららしい発想で、私としては “参りました...m(__)m” という感じ。
 何と言っても1曲目が①「サンキュー・ガール」だ。コーラス・ワークといい、響き渡るハーモニカといい、初期ビートルズ好きの私はもうこれだけで嬉しくなってしまう。続くのは②「ゼアズ・ア・プレイス」、デビュー・アルバムのラス前にさりげなく置かれていた隠れ名曲をスミザリーンズお得意のパワー・ポップ・カヴァーで見事なヴァージョンに仕上げている。大好きな④「ユー・キャント・ドゥー・ザット」もギターのフレーズからバック・コーラスの細部に至るまでオリジナルに忠実に再現されており、彼らのビートルズ・マニアぶりがよくわかるトラックになっている。
 ⑤「アスク・ミー・ホワイ」はド素人の私が思っている以上の難曲なのか、かなり苦戦しているように聞こえる。特に曲のキモとでも言うべき “アイ、アアアイ♪” はやはりジョンにしか歌いこなせないように思う。ロックンロール・クラシックス⑩「スロー・ダウン」の “ブルルルル~♪” も同様で、天才ヴォーカリスト、ジョン・レノンの偉大さを改めて思い知らされる。まぁジョンと比べるのも酷な話だが...(>_<)
 インスト曲⑥「クライ・フォー・ア・シャドウ」は意表を突く選曲だが、このアルバムのこの位置に置かれると何故か良いアクセントになっているところが面白い。⑦「P.S. アイ・ラヴ・ユー」、⑧「アイム・ハピー・ジャスト・トゥ・ダンス・ウィズ・ユー」、⑨「イフ・アイ・フェル」と続くところなんか、まさに “初期ビートルズ隠れ名曲集” の様相を呈しているし、ビートルズ・ナンバーの中でも過小評価曲の極北に位置する⑪「アイ・ドント・ウォント・トゥ・スポイル・ザ・パーティー」でもヴォーカルやギターがさりげなく良い味を出している。ラストに⑫「サム・アザー・ガイ」を持ってくる曲配置にもニヤリとさせられるが、これがまた初期ビートルズが持っていたプリミティヴなエネルギー感を見事に体現したカッコ良いロックンロールに仕上がっていて私なんかもう大喜びだ。
 世間ではビートルズといえばすぐに「イエスタデイ」や「レット・イット・ビー」といったバラッド群に注目が集まるが、誰が何と言おうとビートルズの原点はポップ感覚溢れるロックンロールにあるのだということを再認識させてくれるこのアルバム、ビートルズ・マニアなバンドによる、ビートルズ・マニアのための、ビートルズ・マニアックな1枚だ。

The Smithereens - There's a Place


The Smithereens - I Don't Want to Spoil the Party

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Meet The Smithereens

2010-06-08 | Beatles Tribute
 3年くらい前だったか、私はビートルズの面白カヴァーにドップリとハマっていた時期があって、それ以降はビートルズ・トリビュートものを見つけたら必ず買うようにしてきたのだが、その結果として様々なコンピレーション盤がウチの CD 棚に並ぶことになった。輸入盤の選曲は個性的で面白いものが多かったが、東芝EMI編集による国内盤は似たような内容のものを定期的にリリースするという芸の無さで、私は10年くらい前に買った「ゴールデン・スランバーズ」というタイトルの CD 1枚で十分だった。
 しかし2003年に出た「ヤー・ヤー・ヤー」というコンピ盤はそれまでの判で押したような選曲とは違い、知らないアーティストが何組も入っていたので試しに買ってみたところコレが大当たり。中でも断トツに良かったのがスミザリーンズというバンドがカヴァーした「ワン・アフター・909」で、オリジナルよりもテンポをやや落とした重心の低い演奏が新鮮に響き、めちゃくちゃ気に入ってしまった。しかもエンディングには「ダニー・ボーイ」やルーフトップ・コンサートのエンディングMC “オーディションにパスするといいんだけど...” を挿入するという拘りようで、ビートルズ・ファンなら思わずニヤリとさせられる名演だ(^o^)丿
 しかし恥ずかしながらこの時点で私はスミザリーンズというバンドのことを全く知らなかった。ライナーによると “80年代後半の60’sリバイバル・ブーム(←そんなんあったっけ?)で波に乗ったニュージャージー出身のバンド” とある。80年代後半ならまだ毎週アメリカン・トップ 40 を聴いていたはずなのに全く記憶にない。早速チャート・データを調べてみると1990年に「ア・ガール・ライク・ユー」という曲(←フォリナーかよ!)が38位、92年に「トゥー・マッチ・パッション」が37位ということで、どうりで90年代音痴の私が知らないワケだ。
 とにかく先の「ワン・アフター・909」が良かったので一体どんなCD出てるんやろ?と思ってアマゾンで検索して見つけたのがこの「ミート・ザ・スミザリーンズ」だった。タイトルからして既にアレだが、試聴してみるとカヴァーというよりもむしろ完コピに近い内容だ。しかも選曲から曲順に至るまでアメリカでのデビュー・アルバム「ミート・ザ・ビートルズ」をそっくりそのまま再現しているのだから恐れ入谷の鬼子母神だ。私はアメリカ盤に疎いのでこのことはずっと後になってから気付いたのだが...(>_<)
 内容はまさに “21世紀版パワー・ポップ・ビートルズ” という感じで、演奏していて楽しくてたまらないという感じがダイレクトに伝わってくるところがいい。頭の固い評論家や心の狭いファンは歯牙にもかけないだろうが、私のような “楽しかったらそれでエエやん!” 的な発想のビートルズ・ファンにはたまらないアルバムなのだ。特に人形を使ったビデオクリップが面白い①「アイ・ウォナ・ホールド・ユア・ハンド」やオリジナルの持つ疾走感を失うことなく見事にカヴァーした②「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」、コピーが困難な彼らのハーモニーを忠実に再現した③「ディス・ボーイ」とくる流れが最高だ。さすがに④「イット・ウォント・ビー・ロング」はオリジナルのとてつもないエネルギーの奔流に比べると(←絶好調時のジョン・レノンと比べたら酷やけど...)ショボく聞こえてしまうけれど、⑥「オール・マイ・ラヴィング」や⑧「リトル・チャイルド」なんかはパワー・ポップ・バンドならではのノリの良さだ。⑪「アイ・ウォナ・ビー・ユア・マン」はストーンズのヴァージョンに比肩する出来だと思う。まぁどっちにしても “完コピ・ビートルズ” としては最上位に位置するアルバムだと自信を持って言える1枚なのだ。

The Smithereens - I Want To Hold Your Hand


ワン・アフター・909

Within Him and Without Him... G.Harrison Tribute

2009-11-30 | Beatles Tribute
 昨日はジョージ・ハリスンの8回忌ということで、私が “ハリスン・トリビュート” 盤の中でベストと信ずる「ヒー・ワズ・ファブ」を取り上げたが、日本時間では確か今日30日が命日のはずだったので、更にもう1枚、彼のカヴァー集で結構気に入っている盤を取り上げよう。。
 私が初めてこの盤の存在を知ったのは iTunes 検索で色々とビートルズ・カヴァーを試聴しまくっていた時で、たまたまこの盤を見つけ、聴いてみたら私の大好きな癒し系女性ヴォーカル!早速アマゾンやヤフオク、 HMV なんかで調べても全然出てこない。何でどこにもないねん、ひょっとして私の嫌いな DL 販売だけかいなと半ば諦めかけていたところ、eBay のローカル版 eBay UK にたまたまこの盤が出品されており速攻で落札、£7.98だった。後でわかったことだがこのアルバムはめちゃくちゃレアで、ネットでも滅多に見かけない。たまたまアドヴァンスト・サーチで eBay UK まで探って大正解、やっぱり執念で探せば見つかるモンやなぁ...(^.^)
 で、まずはこのジャケット、めっちゃ胡散臭いでしょ?いくら “ジョージ=インド” のイメージが強いとは言え、いくら何でもコレはちょっとヤリ過ぎ。このジャケ見て買おうと思うモノ好きはいないだろう。因みにインナーの絵はもっとエグくて手のひらに大きな目玉が描かれている... これはもうハッキリ言って水木しげるの世界だ。又 plinco さんや 901 さんに “よぉこんなん買うたなぁ!” と大笑いされそうだ...(>_<) 次にレーベル名が KLONE... クローンってこれまた怪しい。レコード屋で見かけても絶対にスルーしていただろう。
 肝心のアルバムの中身だが、ジェマ・プライスというイギリス期待の女性シンガーが全10曲すべてを歌っている。ジョージという人は、翳りのある太いシャウト・ヴォイスに恵まれ抜群の表現力を誇るジョンのような天才肌のシンガーとは違い、そのか細い歌声は何となく弱々しく聞こえることが多く、そのせいもあって私は前々からジョージの曲は素直な歌い方をする女性シンガーにピッタリだと思っていたが、今回このアルバムを聴いてその思いを強くした次第だ。
 曲別に言うとビートルズ中期の佳作①「イフ・アイ・ニーディッド・サムワン」や⑨「アイ・ニード・ユー」が軽快でポップな味付けがエエ感じの癒し系チルアウト・ヴァージョンに仕上がっているのに対し、⑥「ラヴ・ユー・トゥ」や⑧「タックスマン」では原曲のリヴォッた音のイメージが強すぎてイマイチ楽曲に切り込めていないように思う。⑧の後半部のスクリーミングともいえる雄叫びなんか、まるでケイト・ブッシュのようだ。実際彼女はケイト・フリークらしく、「ケイト・ブッシュ・トリビュート」という盤も吹き込んでおり、「バブーシュカ」なんかはケイト本人と間違えてしまいそうになるほどソックリだ。
 アレンジ面で巧いなぁと思ったのは③「シンク・フォー・ユアセルフ」で、原曲よりもテンポを落としてじっくりと歌い込んでいるし、アルバムのエンディングを飾る⑩「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウイープス」の哀愁舞い散る歌声もたまらない。「アビー・ロード」の2大名曲②「ヒア・カムズ・ザ・サン」と④「サムシング」ではストレートなアレンジが好感度大。バックの演奏はクローン・オーケストラ(笑)という謎のミュージシャンたちで、開き直ったように原曲とは比べ物にならないチープな音作りに徹しているところが面白い。特に⑤「マイ・スウィート・ロード」なんかもうスカスカで、改めてフィル・スペクターの偉大さ、 “ウォール・オブ・サウンド” がこの大名曲において如何に重要な働きをしていたかをハッキリと示している。私が感心したのは⑦「ギヴ・ミー・ラヴ」で、滅多にカヴァーする者もいないこの難曲をしっかりと歌いこなしている。スピーカーに対峙して全10曲通して聴くと金太郎飴的な単調さも露呈してしまうが、ながら聴きの BGM なんかには最適な1枚だと思う。

ギヴ・ミー・ラヴ

He Was Fab... A Loving Tribute to George Harrison

2009-11-29 | Beatles Tribute
 ビートルズのトリビュート・アルバムはそれこそ星の数ほど存在するが、解散後のソロ・ワークスのカヴァーはジョンの「イマジン」や「ラヴ」、ポールの「マイ・ラヴ」といった超有名曲を除けば意外と少ない。ましてやアルバム1枚まるごとカヴァーという、いわゆるトリビュートものはジョンの死後に何枚か出たものを除けばあまり聞いたことがない。当然ジョージのカヴァー集も私の知る限りほとんど無かったように思う。しかし8年前にジョージが亡くなってから、ビートルズ時代のものも含めて彼の作品をカヴァーした企画盤が何枚か登場し始めた。そんなジョージのトリビュート盤の中で、私が最も気に入って愛聴しているのがこの「ヒー・ワズ・ファブ ~ア・ラヴィング・トリビュート・トゥ・ジョージ・ハリスン~」である。
 このアルバムは主にアメリカのインディーズ系のパワー・ポップ・アーティストによるジョージのカヴァーを19曲コンパイルしたもので、原曲の良さを活かした素直なアレンジのストレートアヘッドな演奏が楽しめる。私は1990年以降の洋楽シーンは全く知らないので、恥ずかしながら参加アーティスト19組の中で名前を聞いたことのあるのは皆無なのだが、聴いてて思わず身体が揺れ、一緒に口ずさみたくなるような小気味良い演奏が多い。
 特に私が気に入ったのは、ドロウナーズというスウェーデンのパワー・ポップ・バンドの①「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウイープス」で、バリバリのギター・リフが快感を呼ぶパワフルなポップンロールに仕上がっており、粒揃いのこのアルバムの中でも特に素晴らしいトラックだと思う。リサ・マイコルズという女性シンガーの③「ユー」もめちゃくちゃポップで気持ちエエことこの上ない。元々ロニー・スペクターのために書かれた曲ということで女性ヴォーカルにピッタリ合っている。彼女のことは全く知らないが、弾けんばかりの若さ溢れる歌声が魅力的だし、ベースがブンブン唸る中、要所要所をビシッとキメるリズム・ギターと絶妙な味付けになっているシンセのキャッチーなサウンドもシンプルなメロディーを持ったこの曲を引き立てている。
 ザ・ローラスというアメリカのバンドがカヴァーした⑥「アイ・ニード・ユー」は原曲のアレンジを尊重しながらテンポをやや速めたのが功を奏し、聴いててめちゃくちゃ気持の良いパワー・ポップが楽しめる。ジョージへのリスペクトに溢れた歌と演奏だ。フィル・アンゴッティ・アンド・ジ・アイデアというアメリカのバンドの⑨「ヒア・カムズ・ザ・サン」も原曲の美しいメロディーを巧く活かした疾走感溢れるポップ・チューンになっており、アレンジにも随所に工夫が凝らされている。エンディングをウクレレでシメるところなんかもニクイなぁ...(^o^)丿 ア電話の呼び出し音のSEで始まる⑩「ドント・バザー・ミー」はイアン・マースキーという男性シンガーの歌うノリノリのロックンロールで。この人のヴォーカルは中々エエ味を出しており、特にダブル・トラッキングで迫るサビのヴォーカルなんかたまらない(≧▽≦) ジェレミーという男性シンガーの⑬「イッツ・オール・トゥー・マッチ」はジョージ独特のあのフニャフニャした感じを巧く表現しており、わざと似せたのか元々似ているのか分からないが、とにかくジョージへの愛が感じられるカヴァーになっている。
 私はパワー・ポップといえばこれまでビートルズのカヴァー集を出したスミザリーンズしか知らなかったが、上記の楽曲以外にも聴き所満載のこのアルバムは、様々なインディーズ系アーティストたちによってスミザリーンズ的なポップ・ワールドが全編にわたって展開されており、この手の音が大好きな私にはたまらない1枚だ。

ハリスン・トリビュート

Pistol / The Punkles

2009-08-11 | Beatles Tribute
 CDを買う時に一番迷うのが輸入盤にするか、国内盤にするかということである。一昔前なら “そんなモン安い方がエエに決まってるやん!” ということで迷わずに輸入盤を買っていた。今のご時世、歌詞・対訳を知りたければネットですぐに出てくるし、一部の例外を除けばCDの解説なんてゴミ同然で、ロクなことが書いてあったためしがない。それと、一部のマニアが後生大事に取っておく “オビ” も要らない。あれこそムダの最たるものだろう。このように無意味なモンばかりゴテゴテと付けて値段を上げるという売り方は日本に古くから根付いている悪しき商売法で、賢い消費者を目指す私としては輸入盤を買えばすむ話だったのだが、最近はそうも言っていられない。
 一番困るのは “国内盤のみボーナス・トラック2曲追加” とかいうキッタナイやり方である。まぁ冷静に考えれば今まで聴いたボートラで大したものはほとんど無かったことぐらいすぐに分かりそうなものなのだが、 “今度のヤツはひょっとしたら凄い名演かもしれん...” とか考えるといても立ってもいられなくなってしまう。だからこういう “ファンの足元を見るような” 売り方は不愉快だ。もっと言わせてもらえば、ボートラも含め、 “発売国によって収録曲が違う” というのは紛らわしくて買う方にとってはいい迷惑だということである。グレイテスト・ヒッツ物なら国によってヒット状況が違うので(クイーンの「手をとりあって」が日本盤のみ収録とか...)まだ分からんでもないが、フツーのオリジナル・アルバムで何の説明もなしに曲目が違うというのはやめてほしい。今日取り上げるパンクルズの「ピストル」も何も知らずに国内盤を買って失敗した1枚だ。
 パンクルズといえばラモーンズ・スタイルでビートルズをパンク・カヴァーするドイツの “おバカ” バンドで、以前このブログでも「ヘルプ!」をもじった黄色いジャケの「パンク!」を取り上げたことがあったが、このモノクロ・ジャケの「ピストル」が「リヴォルヴァー」のパロディーであることは一目瞭然。タイトルは銃器つながりの単語で、パンクの元祖、セックス・ピストルズに引っ掛けたものだろう。
 で、何が問題なのかと言うと、国内盤はオリジナルのドイツ原盤に入っていたストレートアヘッドな演奏をカットして、代わりに⑯「レヴォリューション1-2-3-4」という、「レヴォリューション№9」まがいのワケの分からん演奏を収録しているのだ。この7分21秒は資源の無駄使い以外の何物でもない。パンク・バンドが前衛に走るというのも問題アリだが、それを “興味深い” とか “意欲的” などという中途半端な形容詞で持ち上げる音楽ジャーナリズムも最低だ。誤魔化さずに “良い” のか “ダメ” なのかハッキリしてほしいし、私はこんな “前衛くずれ” を聴くほどヒマではない。ヤフオクで安かったからといってしっかり調べもせずに飛びついた自分が情けない...(>_<)
 何だかグチっぽくなってしまったが、先述の出来そこないアヴァンギャルド⑯とキモいレゲエ調の⑮「トゥモロー・ネヴァー・ノウズ」以外のトラックは相変わらず楽しいロックンロール大会だ。これぞパンクルズの真骨頂というべき “やけくそパワー” 炸裂の①「マジカル・ミステリーツアー」、ゆったりした原曲を高速回転させることによって新たなグルーヴを生み出すことに成功した②「ヘイ・ジュード」、テンポを上げても独特のブルージーな味わいは変わらないのが凄い③「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウイープス」、ガレージ・バンドっぽい荒々しさが新鮮な⑦「ザ・ナイト・ビフォア」、駆け抜けるような疾走感がエエ感じの⑧「アイム・ルッキング・スルー・ユー」、サイケ色を一掃して痛快なロックンロールとして生まれ変わった⑨「アイ・アム・ザ・ウォルラス」、ラウドなギターがエエ味出してる⑫「アナザー・ガール」、ジョージア・サテライツの名カヴァーに迫る勢いの⑭「ドント・パス・ミーバイ」といったところは文句なし。ただし、原曲がそこそこアップテンポであまり変わり映えがしない④「マネー」、⑤「バッド・ボーイ」、⑥「エニータイム・アット・オール」といった曲ではヴォーカルの吸引力に圧倒的な差(まぁ天下のジョン・レノンと比べるのも酷な話だが...)を感じてしまうし、⑩「ウイズ・ア・リトル・ヘルプ...」、⑪「トゥ・オブ・アス」、⑬「ハニー・ドント」あたりはいまいちハジケ方が足らず、もっと心を鬼にして高速化してほしかったというのが正直なところ。
 このバンドは存在自体がジョークみたいなモンなので、サウンドの完成度など1曲1曲をどうこう言ってもしゃあないところがあり、 “こんなん聴くんやったらオリジナル聴くわ!” の一言で片付けられそうだが、だからこそ “おバカ” に徹して超高速パンク化に命をかけるべきだったように思う。せっかく開拓した新たな世界、これからもカタイことは抜きにしてみんなの大好きなビートルズ曲で楽しいハイスピード・ロックンロールを聴かせてほしいものだ。

The Punkles "Hey Jude" (2003)

A Beatles Tribute: Number One Again

2009-07-26 | Beatles Tribute
 昨日の「エキゾチック・ビートルズ」はいくらビートルズ・カヴァーものとはいえ、ちょっと色物に走り過ぎたかなぁと反省(?)している。犬猫の鳴き声で聴くビートルズ・ナンバーなんて、話のネタとしては面白いけれど、決してスピーカーに対峙して聴くようなマトモな音楽ではない(というか、音が部屋の外に漏れたら家族や近所に恥ずかしすぎる...)からだ。ということで今日は昨日の失地回復、汚名返上を期して、胸を張って万人にオススメできる格調高いビートルズ・カヴァー集をご紹介したい。
 この「ア・ビートルズ・トリビュート~ナンバー・ワン・アゲイン」はアマゾンで “beatles tribute” 検索をしていて引っ掛かってきた。残念ながら日本のアマゾンでは試聴が設定されておらず、解説に“才能に溢れる無名女性シンガーたちによるビートルズ・ナンバーのアコースティック・カヴァー集。ビートルズ・ファンはもちろんのこと、シェリル・クロウ、アニ・ディフランコ、サラ・マクラクラン、ジュエルといったコンテンポラリーな女性シンガーのファンにもアピールしそうなユニークな解釈が楽しめます。” とあるのみ。アコースティック・カヴァー集か... 要するに女性ヴォーカルによるアンプラグド物ってことやね。90年代以降の洋楽シーンは全く分からないのでシェリル・クロウ以外の名前は知らなかったが、何となく良さそうな雰囲気だ。物は試しとUSアマゾンで検索してみると、ちゃーんと試聴設定されていた。同じアマゾンやのにこの違いは一体何なん?Listen to all をクリックし、各曲30秒ずつで計6分のミュージック・サンプラーを聴いて “これはめちゃくちゃエエぞ!” と大コーフンした私は早速その場でオーダーした。
 私はこのような未知のアーティスト盤が届くとまずジャケ裏解説を見るようにしているのだが、このCDは困ったことにそういったアーティスト情報が皆無に等しい。全12曲をそれぞれ違った無名の女性シンガーが歌っているというのに、記されているのはシンガーの名前と伴奏楽器のパーソネルのみ。個々のシンガーの小さな写真すら載っていない。 Reverberations というレーベル名も、 Lakeshore Records というレコード会社名も聞いたことがないが、 Printed in the USA 2002 とあるのでUS盤であることだけは間違いない。多分小さなローカル・レーベルなのだろうが、不親切というか、ホンマに売る気あんのか、とツッコミを入れたくなるくらいシンプルなジャケットだ。
 しかし中身の音楽の方は文句のつけようがないくらいに素晴らしい。ちょうど「アイ・アム・サム」のサントラ盤に入っていた女性ヴォーカル・ナンバー(エイミー・マンやサラ・マクラクランetc)っぽい雰囲気を持った演奏を集めたようなコンピレーション盤だ。 Leslie King の①「サムシング」はしっとりと落ち着いた歌声が静謐な曲想とベストのマッチングを見せる。シンプル・イズ・ベストを地で行く名演だ。ちょっと甘ったるい声のNikki Boyer の②「抱きしめたい」は元気印な原曲を大胆にアレンジし、ピアノの弾き語りのような雰囲気でスローに迫る。ちょうどペトゥラ・クラークの同曲カヴァー・ヴァージョンみたいな雰囲気だが、これはこれでエエ感じだ。Lisa Furguson の③「ロング・アンド・ワインディング・ロード」はポールが目指した素朴な味わいを上手く表出している。可憐な声質も私の好みなのだが、エコーを効かせすぎなのと、ピアノの録音レベルが大きすぎてヴォーカルの邪魔をしているのが難点か。尻切れトンボなエンディングのアレンジももうひと工夫欲しいところだ。
 Melissa Quade の④「ヘルプ」は原曲に忠実なアレンジが大正解。アコギを駆使して曲の髄を見事に引き出したサウンドにいかにもヤンキー娘といった雰囲気の力強いヴォーカルがバッチリ合っている。一人追っかけ二重唱もたまらない。Katherine Ramirez の⑤「恋を抱きしめよう」も④と同様にシンプルで力強いアコギのストロークが曲の良さを引き出し、ちょっと鼻にかかったようなキャサリンの表情豊かな歌声が楽しめるという、アンプラグドのお手本のようなトラックだ。リズミカルな④⑤に続く Erin Arden の⑥「ハロー・グッバイ」もやはり同傾向の曲想でアレンジされており、普通なら単調に感じてくるはずが全然そんなことはなく、むしろ曲が進むにつれてこのアルバムに引き込まれていく。まるで「ナンバー・ワン・アゲイン」という曲が1曲あって、それが12楽章に分けられた組曲風の大作を聴いているかのようだ。
 Brielle Morgan の⑦「エリナー・リグビー」は重厚なストリングスにギターが絡むバックに乗ってビートルズ御用達のダブル・トラッキングによるヴォーカルで迫るというアレンジが素晴らしい。彼女のドスの効いた歌声はそんなバックに負けないぐらい存在感のあるものだ。Thee Ray の⑧「ヘイ・ジュード」では一転してそのちょっぴり舌っ足らずでフェミニンな歌声に癒される。乱発気味(?)のダブル・トラッキングも効果抜群で、スピーカーの前に分厚い音の塊が屹立するかのようだ。Jill Guide の⑨「レディ・マドンナ」はバックの演奏やコーラスなどの作り込みはさすがなのだが、ヴォーカリストがやや凡庸なのが残念。そんなにワメかずにもっとストレートに歌えばいいのに...
 Jess Goldman の⑩「レット・イット・ビー」、ゴスペルとしての本質を見抜いた彼女の歌唱スタイルはお見事という他ない。意表を突いた中間部のアコギ・ソロの歌心溢れるプレイにも脱帽だ。Hathaway Pogue の⑪「ペニー・レイン」はいきなりピアノの伴奏と共に飛び出す彼女の “ペニレェン~♪” という第一声だけでもうノックアウト、もうめっちゃ癒される(≧▽≦) 声質は違うが歌唱法はスザンナ・ホフスを想わせるキュート系だ。 Maureen Mahon の⑫「愛こそはすべて」はちょうどペギー・リーの「フィーヴァー」みたいなフィンガー・スナッピングとアップライト・ベースをフィーチャーした大胆なアレンジで、 “この手があったのか!” とその斬新な発想に思わず感心してしまった。
 さっき久しぶりにアマゾンで確認してみたらアメリカ本国ではすでに廃盤になっており、日本のアマゾン・マーケットプレイスで中古を2枚(うち1枚は10,736円というアホバカ・プレミア価格です...笑)残すのみ。こういった超マイナー・レーベル盤は再発の可能性がほぼゼロに等しいので、興味のある方は早めにゲットしましょう。

ペニー・レイン

The Exotic Beatles - Part One

2009-07-25 | Beatles Tribute
 英語に “exotic” という単語がある。辞書で引くと(1)外来の、外国産の (2)異国風の、エキゾチックな (3)珍しい、風変わりな... とある。つまりこのCDのタイトルである「エキゾチック・ビートルズ」というのは、イギリス人から見て外国産、又は異国風でなおかつチョット変わったビートルズ・カヴァー集ということだ。まぁ収録曲の数々を見れば “チョット変わった” どころかよくぞここまで集めたよなぁ... と感心するくらいの選りすぐりの珍品ばかりなのだ。
 そんなクセモノ揃いのこのアルバムはいきなりワケのわからないトラック①からスタート、ハッキリ言って酔っぱらいのオッサン(イギリスの下院議員らしい...)の鼻歌である。先が思いやられるわ...(>_<) ②「イエロー・サブマリン音頭」は日本が世界に誇れるモンド・カヴァーの傑作で、Wikipediaによると80年代以降はビートルズの楽曲著作権保護が強化され、それまでOKだった替え歌が認められなくなった(だから王様は「カブトムシ外伝」であぁするしかなかったのね...)らしいが、この曲を聞いたポールが例外的に歌詞の変更を伴ったカヴァーを許可してくれたとのこと。さすがはポール、人間の器がデカイわ(^o^)丿 尚、裏ジャケには“Yellow Submarine Ondo – In the Japanese Folk Style” と紹介されている(笑)
 ③「ルーシー・イン・ザ・スカイ」は初代スタートレックのカーク船長(ウイリアム・シャトナー)による芝居がかった朗読だ。
 スポック:“船長、おやめになった方がよろしいのではないかと...”
 カーク:“やかましい、この耳のとがった化け物め!副長を解任してやる!”
などというやり取りがあったかどうかは知らないが、とにかくスタートレック・ファンとしては穴があったら入りたいくらい恥ずかしくなる1曲だ。尚、この曲のビデオクリップ(作るなよそんなもん!)はめちゃくちゃ面白いパロディーの傑作なのだが、YouTubeでは残念ながら “著作権者の申し立てにより” 音声トラック部分が削除された無音のクリップしか見れない。親会社のGoogle 動画では見れるのに、一体どーなってるねん?著作権法だか何だか知らんけど、特にUMG(ユニヴァーサル)系は全部アウトっぽい。そんなことやってるからCD売れへんねん。タダで宣伝できるのに... アホな会社や。
 ④「恋する二人」は初めてまともな歌と演奏が聴けてホッとさせられる。イタリア語で歌うビートルズ・カヴァー・バンドなのだが、オラオラ系の女性バック・コーラスがチープな薫りをプンプンさせててエエ感じだ。⑤「彼氏になりたい」は英語による歌詞の解説に続いて様々な国のカヴァーバンドの演奏の断片が挿入されており、そのアタマにあの東京ビートルズの「キャント・バイ・ミー・ラヴ」が入っていたのにはビックリ(゜o゜) 各国語で聴くビートルズ・カヴァーもオツなもん... かな???
⑥「ペニー・レイン」はかなりポップで楽しい歌と演奏で、さりげないサイケな味付けも◎。⑦「シー・ラヴズ・ユー」は聴いてビックリの本格的フラメンコで原曲を見事なまでに換骨堕胎、かきならされるギターと響き渡る手拍子でスパニッシュな雰囲気が濃厚に立ち込める。⑧「カム・トゥゲザー」は完全なレゲエ・ヴァージョンで、少し前に雨後のタケノコのように量産されていた “レゲエ・ビートルズ” (←どの曲を聴いてもみんな同じに聞こえるんよね...)の先駆的作品だ。
 クルーナー・スタイルの⑨「ステップ・インサイド・ラヴ」、自動演奏オルガンによる⑩「イン・マイ・ライフ」、どっかのアマチュア・グリー・クラブみたいな男性コーラス隊による⑪「ホエン・アイム・64」と徹底的に忍耐力を試されたところで、やっとスペインのロス・ムスタングスによるストレートアヘッドな解釈の⑫「プリーズ・プリーズ・ミー」でホッと一息つける。普通のコピー・バンドの演奏がこんなに素晴らしく聞こえるなんて...(笑)
 マダガスカル(ってどこ?南米?アフリカ?アジア?)の子供バンドによる⑬「ゼアズ・ア・プレイス」はともかく、ポルトガル語で聴くビートルズが妙に耳に残る⑭「今日の誓い」やカテリーナ・ヴァレンテの正統派ヴォーカル(イタリア語)による⑮「フール・オン・ザ・ヒル」の2曲は十分聴くに値するマトモなトラックだと思う。⑯「ペイパーバック・ライター」は L⇔R という日本のバンドらしいが、あれば聴くが無くてもさして困らない類の1曲。演奏にイマイチ惹きつける力が足りないように思う。⑩と同じオルガンによる⑰に続いて⑱「抱きしめたい」はシタールによるアップテンポな演奏(笑)で、さすがにこれはインパクトが大きい。ただ、2回3回と繰り返し聴きたくなるかどうかは疑問だが...(笑)
 オッサンのしゃべり⑲、スペイン語による凡庸な歌唱⑳に続いていよいよ本盤最大の衝撃、もとい笑撃がやってくる。犬、猫、ニワトリの鳴き声によって歌われ(?)る (21)「恋を抱きしめよう」だ。人呼んでビートル・バーカーズ(“吠える” は英語で bark)だとぉ?ナメてんのか?こんなん聴いてたらホンマのバカになってしまう。以前ビートル・バーカーズのCD-Rを車内に持ち込んで運転しながら聴いたことがあったが、ドライヴィングに集中出来ずにすぐにやめてしまった(>_<) こんなことで事故ったらそれこそバーカだ(笑)
 めっちゃ訛ったラップくずれみたいな(22)「アイ・アム・ザ・ウォルラス」、オルガン再々登場の(23)、マレーシアの完コピ・バンド(何語かワカラン)による(24)「アイル・ビー・バック」、モーグ・シンセサイザーが奏でる(26)「グッド・ナイト」と、もうこの文章を書く気も萎えてくるようなトホホなエンディングだ。それと、アルバム・ジャケットのリンゴのイラスト、もーちょっと何とかならんかったんか?
 このように変わった音源ばかり収録されているけれど、ゲテモノという一言で片付けてしまうのはちょっともったいない。これはものすごーく心が広くてシャレのわかる超ビートルマニア向けの、かな~り笑えるモンド・カヴァー・アルバムだ。

↓こんなアホなもん、よぉ作るわ(>_<)
Beatles Barkers - We Can Work It Out
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