shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Deface The Music / Utopia

2010-06-16 | Beatles Tribute
 先日マーサさんからいただいたコメントの中にトッド・ラングレンのバンド、ユートピアによるビートルズ・パロディ・アルバムの話が出てきた。「ディフェイス・ザ・ミュージック」(邦題:「ミート・ザ・ユートピア」←こっちの方が馴染みやすいわ...)と題されたこのアルバム、実は近いうちに取り上げよーかなーと思っていた矢先のことだったので、正直ちょっとビックリしてしまった(゜o゜) 何でわかってんやろ..???(笑)
 ということで今日は “馬ヅラの貴公子” 、じゃなかった “ロックの神童” “天才ポップ・クリエイター” ことトッド・ラングレン(←私が高校生の頃愛読していたミュージック・ライフや音楽専科では彼の馬ヅラ・ネタが結構多くていつも笑わせてもらってました... 確かに顔、長いです...笑)が率いるユートピアが1980年にリリースした「ミート・ザ・ユートピア」でいこう。
 このアルバムはスミザリーンズやチープ・トリックがやったようなカヴァーでも完コピでもなく、アレンジやサウンド・プロダクションにおいて随所にファブ・フォーの名曲のエッセンスを散りばめた純粋なオリジナル曲で構成されており、アルバム全体からビートリィな薫りが濃厚に立ち込める、非常に高度なパロディ・アルバムになっている。このアルバムが出た当時は今ほどビートルズ・パロディ盤は氾濫しておらず、ちょうど “イギリスのラトルズ” vs “アメリカのユートピア” みたいな図式だったように記憶している。
 まず目を惹くのが「ウィズ・ザ・ビートルズ」、じゃなかった「ミート・ザ・ビートルズ」の(←私はイギリス盤を聴いて育ったのでついつい「ウィズ...」と言ってしまうが、アメリカのバンドにとっては言うまでもなく「ミート...」なんよね...)ベタなパロジャケである。ジャケットというはビートルズ・パロディの重要な一要素だと思うが、私はアメリカのバンドらしいこのノーテンキさが大好きだ。
 ジャケット以上に私が気に入っているのが各曲につけられたおバカ全開の邦題の数々だ。当時の洋楽担当ディレクター氏が元ネタになった曲を原題に無理やりくっつけたような②「キャント・バイ・ミー・クリスタル・ボール(Crystal Ball)」や⑥「エイト・デイズ・ア・ウイーク・イズ・ノット・ライト(That's Not Right)」に始まり、シンセの似非ストリングスが生み出すチープな質感が耳に残る⑨「エリナー・リグビーはどこへ(Life Goes On)」やパロディーで終わらせるにはもったいないような美曲⑫「ミッシェルの微笑み(All Smilles)」なんかも面白いが、一番大笑いしたのが⑩「フィクシング・ア・ホール・イズ・ゲッティング・ベター(Feel Too Good)」... 元ネタになった2曲のタイトルをつなげただけという鬼のような合わせ技にはアホらしすぎて大笑いしてしまった(^o^)丿
 とにかくどの曲にも年季の入ったビートルズ・ファンならニヤリとさせられるような仕掛けが満載で、聴いててホンマに楽しいアルバムだ。私が一番好きなのはハーモニカにハンド・クラッピング、バック・コーラスに至るまで初期ビートルズの魅力を2分2秒に濃縮還元したような①「抱きしめたいぜ(I Just Want To Touch You)」だ。トホホな邦題もアレだが、何と言っても馬ヅラのビートル・スーツ姿(笑)が堂に入っているビデオ・クリップが最高だ。これでリッケンバッカーをかき鳴らすトッドがもう少しガニ又やったら完璧やねんけどなぁ...(^.^)
 ポップとアヴァンギャルドの狭間で絶妙のバランスを保ちながらアート・ロックとでも呼べそうなプログレ路線を体現してきたユートピアが、トッド・ラングレンの音楽の原点であるビートルズへのオマージュとして作り上げたこのアルバム、まさにトッド版 “マージービートで笑わせて” といった感じの1枚だ。

Utopia - I Just Want To Touch You

Masterful Mystery Tour / Beatallica

2010-06-13 | Beatles Tribute
 ビータリカの 1st アルバム「サージェント・ヘットフィールズ・モーターブレス・パブ・バンド」は巷に氾濫する有象無象のビートルズ・カヴァー盤を一瞬にして葬り去るほどのインパクトがあった。ビートルズ・ナンバーをあろうことかメタリカそっくりのサウンドでことごとくヘビメタ・カヴァーしていくという発想も凄かったが、メロディアスなロックの最高峰と言えるビートルズと騒音の塊のようなスラッシュ・メタルの雄メタリカという水と油のような音楽性を非常に高い次元でバランスさせ、そこにユーモア感覚溢れる歌詞を乗せて高度なパロディーとして成立させていたのが何よりも衝撃的だった。
 ビータリカは元々2001年に冗談のつもりで始まった(笑)プロジェクトで、ローカルなモノマネ・コンテストへの出演記念に「ア・ガレージ・デイズ・ナイト」という7曲入りミニCDを制作、更に2004年には8曲入りセカンド・アルバム「ビータリカ」(←通称「グレイ・アルバム」)をウェブ上で公開したが、フリー・ダウンロード出来たことからビートルズの版権の多くを所有するソニーATV(←マイケルから買った分かな...?)と版権問題でモメたらしい。結局彼らの正式なアルバムをソニーATVから出すことで合意に達し、2008年にリリースされたのが先の「サージェント・ヘットフィールズ・モーターブレス・パブ・バンド」というワケだ。
 その後「オール・ユーニード・イズ・ブラッド」(血こそすべて)というマキシ・シングル(←同じ曲を14ヶ国語で歌ってます... よぉやるわ)を経て、2009年に出された彼らの最新フル・アルバムがこの「マスターフル・ミステリー・ツアー」なのだ。前作は全13曲中9曲までが先の2枚の EP に入っていた曲を再レコーディングしたものだったが、今回は12曲中既発表曲は4曲のみで残りの8曲は完全な新曲(?)である。
 アルバムを聴いてみてまず感じたことは、よりメタル色が強まっていて元ネタのビートルズ曲がすぐに思い浮かばないような過激なアレンジになっているということ。前作がビートルズ:メタリカ=5:5とすれば、今作は2:8ぐらいに聞こえてしまう。結果としてパロディーとしての “笑える” 要素が後退、ヘビメタを聴かない普通のビートルズ・ファンには正直キツイと思う。特に①「ザ・バラッド・オブ・ジェイムズ・アンド・ヨーコ」、③「フューエル・オン・ザ・ヒル」(←歌詞はオモロイけど...)、⑥「ランニング・フォー・ユア・ライフ」、⑫「トゥモロウ・ネヴァー・カムズ」(←チャレンジ精神は買うけど、どっちつかずでワケがわからん...)あたりはビートルズ色が希薄で面白くない。
 又、②「マスターフル・ミステリー・ツアー」⑧「ヒーロー・オブ・ザ・デイ・トリッパー」、⑨「ゴット・トゥ・ゲット・ユー・トラップト・アンダー・アイス」、⑩「アイル・ジャスト・ブリード・ユア・フェイス」は一応原曲のメロディーはわかるけれど、アレンジに無理があるのか何か窮屈な感じがして初期の彼らの魅力だったノビノビした疾走感が失われてしまっている。演奏が爆発していないのだ。
 そんな中でキラリと光るのはやはり初期 EP に入っていた④「アンド・アイム・イーヴル」、⑤「エヴリバディーズ・ガット・ア・ティケット・トゥ・ライド・エクセプト・フォー・ミー・アンド・マイ・ライトニング」、⑦「ザ・シング・ザット・シュッド・ノット・レット・イット・ビー」、そして私が彼らの最高傑作と信ずる⑪「アイ・ウォント・トゥ・チョーク・ユア・バンド」(邦題:首しめたい)の4曲だ。⑪に関しては以前このブログで取り上げた時に詳しく書いたので詳細は省くが、下に貼り付けたビデオ・クリップも十分楽しめるもので、聴いて良し見て良しの秀作だ。他の3曲も巧くビートルズ曲をメタリ化していてエエのだが、私個人としてはこれらのリメイク・ヴァージョンよりもウェブからダウンロードした(←残念ながら今ではもう閉鎖されてしまっているようだが...)オリジナル・ヴァージョンの方に魅かれてしまう。
 何だかネガティヴな感想になってしまったが、こんなユニークなバンドはそうそういないので、面白いビートルズ・カヴァーに目がない私としては彼らにもっと頑張ってほしいというのが正直なところ。次作ではぜひとも初期のようなストレートアヘッドなアレンジでビートルズをメタリ化して唸らせてほしいものだ。

Beatallicanimation


Beatallica - And I'm Evil from Masterful Mystery Tour
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Sgt. Pepper Live / Cheap Trick

2010-06-12 | Beatles Tribute
 前回、前々回と2回にわたってスミザリーンズのビートルズ・カヴァー集を取り上げてきたが、ビートルズ・マニアのバンドの元祖といえばイの一番に思い浮かぶのがチープ・トリックだ。彼らはデビューした時からビートリィな雰囲気を湛えたバッドフィンガー路線のサウンドだったし、本家ビートルズの曲も「マジカル・ミステリー・ツアー」や「デイ・トリッパー」をカヴァーしており、ビートルズ直系バンドの筆頭格だったが、何といってもジョン・レノンの復帰作「ダブル・ファンタジー」のセッションに参加(←結局ボツになって「ジョン・レノン・アンソロジー」に収録されたけど...)しているのだからこれはもう筋金入りのビートルズ好きと言っていいだろう。
 私とチートリとの出会いは1978年のこと、ラジオから流れてきた「サレンダー」の絶妙なポップ感覚がめちゃくちゃ気に入り、この曲の入った彼らの 3rd アルバム「ヘヴン・トゥナイト」を買いにレコード店へ走ったのを覚えている。それか半年ぐらいして例の「アット・ブドーカン」で大ブレイク、翌79年に出たアルバム「ドリーム・ポリス」ではA面トップの疾走感溢れるタイトル曲とB面トップに置かれためっちゃビートリィな「ヴォイシズ」が彼らのアイデンティティーを強烈に主張していた。その後彼らはスランプに陥るが1988年のアルバム「ラップ・オブ・ラクジュアリー」で完全復活、見事全米№1になった「ザ・フレイム」はF1中継時のブリヂストンのCMで耳にタコが出来るくらい聴いたものだったが、90年代以降は私が洋楽ロックと絶縁したこともあって彼らの名前を聞くこともなくなっていた。
 この「サージェント・ペパー・ライヴ」はそんな彼らが2007年の8月に「サージェント・ペパーズ」発売40周年を記念して行ったコンサートの模様を収録したライヴ盤で、ニューヨーク・フィルハーモニック・オーケストラを始め様々なゲスト・ミュージシャンを起用してあの「ペパーズ」のアルバムの完全再現にトライしているのだから買わずにはいられない(笑) 実際に聴くまでは “「ウィズイン・ユー・ウィズアウト・ユー」のインド音楽どーすんねんやろ?” とか “「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」のクライマックスはどーなるんやろ?” とか、色々と想像出来て楽しかった(^.^)
 この盤を聴いた第一印象は、特に奇を衒うこともなくオリジナルに忠実なアレンジで真正面から「ペパーズ」に取り組んでいるということ。だから演奏だけで判断するならオリジナルと比べるだけ野暮というもので、私としてはこの “ライヴでアルバム丸ごとコピー” という大胆なアイデアを買いたい。「ホワイト・アルバム」を曲順にカヴァーした(←前代未聞ですね!)フィッシュのライヴ盤同様、ビートルズ・ファンとしては “おたくら、ホンマによぉやりまんなぁ...(^.^)” という寛大な気持ちで接するのが正しいと思う。それに、この後でオリジナルを聴くと改めてビートルズの凄さ、偉大さ、素晴らしさを再認識できるという効用もある。
 1曲目のタイトル曲からロビン・ザンダーが絶叫する “チートリ流ビートルズ” のオンパレード。特に③「ルーシー・イン・ザ・スカイ」はライヴなのにタンブーラみたいな音まで聞こえるという入魂のサウンド・プロダクションがインパクト大で、トムのベースが唸るところなんかも大好きだ。この曲のカヴァーでは三指に入る名演だと思う。⑦「ミスター・カイト」、⑨「ホエン・アイム・64」、⑩「ラヴリー・リタ」の3曲は何故かゲスト・ヴォーカリストがリードを取っていてちょっとユルく感じてしまうが、ヴォーカルがロビンに戻ると途端にロック色が濃くなり演奏のテンションが上がるところは流石という他ない。事前に興味津々だった⑧「ウィズイン・ユー・ウィズアウト・ユー」はシタール全開でカヴァーしておりその徹底ぶりには頭が下がるし、曲が終わった後に拍手と共にオーディエンスの感嘆の声が聴き取れるのが面白い。
 圧巻はやはり⑬「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」だろう。ロビンの年季の入ったヴォーカルといい、リンゴが憑依したかのようなバーニーのドラミングといい、さすがは元祖ビートルズ・マニア・バンドである。オーケストラ・パートはライヴではこれが限界なのだろう。ミドル・パートも巧くまとめられており、後半部に入る3分24秒あたりからの加速感へとつながっている。そしてアンコール(?)は⑭「メドレー・ソング」と題して「アビー・ロード」から「ゴールデン・スランバーズ / キャリー・ザット・ウエイト / ジ・エンド」だ。何だか気に竹を接いだような感は否めないが、もし自分がライヴの会場にいたらきっと大喜びしていただろう(笑) でもどーせここまでやるなら、エンディングでリック・ニールセンあたりにインナーグルーヴの逆回転呪文(?)を叫んでほしかったなぁ...(^.^)

Sgt Pepper Live- Lucy in the Sky With Diamonds/ Getting Better


Sgt Pepper Live -A Day in the Life

B-Sides The Beathes / The Smithereens

2010-06-10 | Beatles Tribute
 “B面”という言葉は CD 時代の今となってはほぼ死語に等しいが、私が音楽を聴き始めた1970年代は当然アナログ・レコードの時代であり、貧乏な中学生だった私は LP をホイホイ買うわけにもいかず、昼飯代を浮かせて貯めたなけなしのお金でシングル盤をパラパラと買っていた。当然のことながらお目当てはA面のヒット曲であり、ほとんどA面ばかり繰り返し聴いてB面は“せっかく買うたんやから一応聴いとこか...” 程度のノリで1、2回聴いてそれで終わり、というパターンがほとんどだった。
 そんな私のB面に対する概念を根底から覆したのが一連のビートルズ・シングルだった。初期~中期の作品群は英米とは違う日本独自のシングル・カットも多かったのだが、「赤盤」でビートルズに目覚めた私は、いきなり他のアルバムを買うお金もなく、「赤盤」から漏れ落ちた初期のロックンロール・シングルを中心に買って聴いていた。「ツイスト・アンド・シャウト / ロール・オーヴァー・ベートーベン」、「ロックンロール・ミュージック / エヴリ・リトル・シング」、「のっぽのサリー / アイ・コール・ユア・ネーム」など、“ベスト盤に入ってへん曲、それもB面でこんなに凄いなんて… ビートルズ恐るべし!” を痛感させられたものだ。中でも「プリーズ・ミスター・ポストマン」のB面に入っていた「マネー」の圧倒的な迫力には大いなる衝撃を受けたのをハッキリと覚えている。
 やがて国内盤 LP を1枚また1枚と買い始めたが、そーすると今度はオリジナル・アルバム未収録の曲が気になってくる。今では「パスト・マスターズ」なんていう気の利いた編集盤が存在するが、当時はもちろんそんなものはなく、 “シングル盤ディスコグラフィー” と首っ引きでそういう曲を調べ、買っていった。「抱きしめたい」のB面「ディス・ボーイ」(←「こいつ」って...史上最強の邦題やなぁ...笑)、「涙の乗車券」のB面「イエス・イット・イズ」、「アイ・フィール・ファイン」のB面「シーズ・ア・ウーマン」、「ヘルプ!」のB面「アイム・ダウン」etc、超ハイ・レベルなB面曲の数々に唸ったものだ。
 なぜB面について書いてきたかというと、今日取り上げるのが2回連続のスミザリーンズで、タイトルもズバリ「B-サイド・ザ・ビートルズ」なのだ。前回の「ミート・ザ・スミザリーンズ」も「ミート・ザ・ビートルズ」の完コピで、彼らのファブ・フォーに対する敬意と愛情の深さが伝わってきて嬉しかったが、ビートルズ・トリビュートというと判で押したように似たような選曲が横行する中(←めったやたらと「エリナー・リグビー」、「ペニー・レイン」、「サムシング」あたりが多いような気がする...)、今回の “ビートルズのB面曲特集” という企画はいかにもマニアックな彼ららしい発想で、私としては “参りました...m(__)m” という感じ。
 何と言っても1曲目が①「サンキュー・ガール」だ。コーラス・ワークといい、響き渡るハーモニカといい、初期ビートルズ好きの私はもうこれだけで嬉しくなってしまう。続くのは②「ゼアズ・ア・プレイス」、デビュー・アルバムのラス前にさりげなく置かれていた隠れ名曲をスミザリーンズお得意のパワー・ポップ・カヴァーで見事なヴァージョンに仕上げている。大好きな④「ユー・キャント・ドゥー・ザット」もギターのフレーズからバック・コーラスの細部に至るまでオリジナルに忠実に再現されており、彼らのビートルズ・マニアぶりがよくわかるトラックになっている。
 ⑤「アスク・ミー・ホワイ」はド素人の私が思っている以上の難曲なのか、かなり苦戦しているように聞こえる。特に曲のキモとでも言うべき “アイ、アアアイ♪” はやはりジョンにしか歌いこなせないように思う。ロックンロール・クラシックス⑩「スロー・ダウン」の “ブルルルル~♪” も同様で、天才ヴォーカリスト、ジョン・レノンの偉大さを改めて思い知らされる。まぁジョンと比べるのも酷な話だが...(>_<)
 インスト曲⑥「クライ・フォー・ア・シャドウ」は意表を突く選曲だが、このアルバムのこの位置に置かれると何故か良いアクセントになっているところが面白い。⑦「P.S. アイ・ラヴ・ユー」、⑧「アイム・ハピー・ジャスト・トゥ・ダンス・ウィズ・ユー」、⑨「イフ・アイ・フェル」と続くところなんか、まさに “初期ビートルズ隠れ名曲集” の様相を呈しているし、ビートルズ・ナンバーの中でも過小評価曲の極北に位置する⑪「アイ・ドント・ウォント・トゥ・スポイル・ザ・パーティー」でもヴォーカルやギターがさりげなく良い味を出している。ラストに⑫「サム・アザー・ガイ」を持ってくる曲配置にもニヤリとさせられるが、これがまた初期ビートルズが持っていたプリミティヴなエネルギー感を見事に体現したカッコ良いロックンロールに仕上がっていて私なんかもう大喜びだ。
 世間ではビートルズといえばすぐに「イエスタデイ」や「レット・イット・ビー」といったバラッド群に注目が集まるが、誰が何と言おうとビートルズの原点はポップ感覚溢れるロックンロールにあるのだということを再認識させてくれるこのアルバム、ビートルズ・マニアなバンドによる、ビートルズ・マニアのための、ビートルズ・マニアックな1枚だ。

The Smithereens - There's a Place


The Smithereens - I Don't Want to Spoil the Party

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Meet The Smithereens

2010-06-08 | Beatles Tribute
 3年くらい前だったか、私はビートルズの面白カヴァーにドップリとハマっていた時期があって、それ以降はビートルズ・トリビュートものを見つけたら必ず買うようにしてきたのだが、その結果として様々なコンピレーション盤がウチの CD 棚に並ぶことになった。輸入盤の選曲は個性的で面白いものが多かったが、東芝EMI編集による国内盤は似たような内容のものを定期的にリリースするという芸の無さで、私は10年くらい前に買った「ゴールデン・スランバーズ」というタイトルの CD 1枚で十分だった。
 しかし2003年に出た「ヤー・ヤー・ヤー」というコンピ盤はそれまでの判で押したような選曲とは違い、知らないアーティストが何組も入っていたので試しに買ってみたところコレが大当たり。中でも断トツに良かったのがスミザリーンズというバンドがカヴァーした「ワン・アフター・909」で、オリジナルよりもテンポをやや落とした重心の低い演奏が新鮮に響き、めちゃくちゃ気に入ってしまった。しかもエンディングには「ダニー・ボーイ」やルーフトップ・コンサートのエンディングMC “オーディションにパスするといいんだけど...” を挿入するという拘りようで、ビートルズ・ファンなら思わずニヤリとさせられる名演だ(^o^)丿
 しかし恥ずかしながらこの時点で私はスミザリーンズというバンドのことを全く知らなかった。ライナーによると “80年代後半の60’sリバイバル・ブーム(←そんなんあったっけ?)で波に乗ったニュージャージー出身のバンド” とある。80年代後半ならまだ毎週アメリカン・トップ 40 を聴いていたはずなのに全く記憶にない。早速チャート・データを調べてみると1990年に「ア・ガール・ライク・ユー」という曲(←フォリナーかよ!)が38位、92年に「トゥー・マッチ・パッション」が37位ということで、どうりで90年代音痴の私が知らないワケだ。
 とにかく先の「ワン・アフター・909」が良かったので一体どんなCD出てるんやろ?と思ってアマゾンで検索して見つけたのがこの「ミート・ザ・スミザリーンズ」だった。タイトルからして既にアレだが、試聴してみるとカヴァーというよりもむしろ完コピに近い内容だ。しかも選曲から曲順に至るまでアメリカでのデビュー・アルバム「ミート・ザ・ビートルズ」をそっくりそのまま再現しているのだから恐れ入谷の鬼子母神だ。私はアメリカ盤に疎いのでこのことはずっと後になってから気付いたのだが...(>_<)
 内容はまさに “21世紀版パワー・ポップ・ビートルズ” という感じで、演奏していて楽しくてたまらないという感じがダイレクトに伝わってくるところがいい。頭の固い評論家や心の狭いファンは歯牙にもかけないだろうが、私のような “楽しかったらそれでエエやん!” 的な発想のビートルズ・ファンにはたまらないアルバムなのだ。特に人形を使ったビデオクリップが面白い①「アイ・ウォナ・ホールド・ユア・ハンド」やオリジナルの持つ疾走感を失うことなく見事にカヴァーした②「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」、コピーが困難な彼らのハーモニーを忠実に再現した③「ディス・ボーイ」とくる流れが最高だ。さすがに④「イット・ウォント・ビー・ロング」はオリジナルのとてつもないエネルギーの奔流に比べると(←絶好調時のジョン・レノンと比べたら酷やけど...)ショボく聞こえてしまうけれど、⑥「オール・マイ・ラヴィング」や⑧「リトル・チャイルド」なんかはパワー・ポップ・バンドならではのノリの良さだ。⑪「アイ・ウォナ・ビー・ユア・マン」はストーンズのヴァージョンに比肩する出来だと思う。まぁどっちにしても “完コピ・ビートルズ” としては最上位に位置するアルバムだと自信を持って言える1枚なのだ。

The Smithereens - I Want To Hold Your Hand


ワン・アフター・909

Within Him and Without Him... G.Harrison Tribute

2009-11-30 | Beatles Tribute
 昨日はジョージ・ハリスンの8回忌ということで、私が “ハリスン・トリビュート” 盤の中でベストと信ずる「ヒー・ワズ・ファブ」を取り上げたが、日本時間では確か今日30日が命日のはずだったので、更にもう1枚、彼のカヴァー集で結構気に入っている盤を取り上げよう。。
 私が初めてこの盤の存在を知ったのは iTunes 検索で色々とビートルズ・カヴァーを試聴しまくっていた時で、たまたまこの盤を見つけ、聴いてみたら私の大好きな癒し系女性ヴォーカル!早速アマゾンやヤフオク、 HMV なんかで調べても全然出てこない。何でどこにもないねん、ひょっとして私の嫌いな DL 販売だけかいなと半ば諦めかけていたところ、eBay のローカル版 eBay UK にたまたまこの盤が出品されており速攻で落札、£7.98だった。後でわかったことだがこのアルバムはめちゃくちゃレアで、ネットでも滅多に見かけない。たまたまアドヴァンスト・サーチで eBay UK まで探って大正解、やっぱり執念で探せば見つかるモンやなぁ...(^.^)
 で、まずはこのジャケット、めっちゃ胡散臭いでしょ?いくら “ジョージ=インド” のイメージが強いとは言え、いくら何でもコレはちょっとヤリ過ぎ。このジャケ見て買おうと思うモノ好きはいないだろう。因みにインナーの絵はもっとエグくて手のひらに大きな目玉が描かれている... これはもうハッキリ言って水木しげるの世界だ。又 plinco さんや 901 さんに “よぉこんなん買うたなぁ!” と大笑いされそうだ...(>_<) 次にレーベル名が KLONE... クローンってこれまた怪しい。レコード屋で見かけても絶対にスルーしていただろう。
 肝心のアルバムの中身だが、ジェマ・プライスというイギリス期待の女性シンガーが全10曲すべてを歌っている。ジョージという人は、翳りのある太いシャウト・ヴォイスに恵まれ抜群の表現力を誇るジョンのような天才肌のシンガーとは違い、そのか細い歌声は何となく弱々しく聞こえることが多く、そのせいもあって私は前々からジョージの曲は素直な歌い方をする女性シンガーにピッタリだと思っていたが、今回このアルバムを聴いてその思いを強くした次第だ。
 曲別に言うとビートルズ中期の佳作①「イフ・アイ・ニーディッド・サムワン」や⑨「アイ・ニード・ユー」が軽快でポップな味付けがエエ感じの癒し系チルアウト・ヴァージョンに仕上がっているのに対し、⑥「ラヴ・ユー・トゥ」や⑧「タックスマン」では原曲のリヴォッた音のイメージが強すぎてイマイチ楽曲に切り込めていないように思う。⑧の後半部のスクリーミングともいえる雄叫びなんか、まるでケイト・ブッシュのようだ。実際彼女はケイト・フリークらしく、「ケイト・ブッシュ・トリビュート」という盤も吹き込んでおり、「バブーシュカ」なんかはケイト本人と間違えてしまいそうになるほどソックリだ。
 アレンジ面で巧いなぁと思ったのは③「シンク・フォー・ユアセルフ」で、原曲よりもテンポを落としてじっくりと歌い込んでいるし、アルバムのエンディングを飾る⑩「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウイープス」の哀愁舞い散る歌声もたまらない。「アビー・ロード」の2大名曲②「ヒア・カムズ・ザ・サン」と④「サムシング」ではストレートなアレンジが好感度大。バックの演奏はクローン・オーケストラ(笑)という謎のミュージシャンたちで、開き直ったように原曲とは比べ物にならないチープな音作りに徹しているところが面白い。特に⑤「マイ・スウィート・ロード」なんかもうスカスカで、改めてフィル・スペクターの偉大さ、 “ウォール・オブ・サウンド” がこの大名曲において如何に重要な働きをしていたかをハッキリと示している。私が感心したのは⑦「ギヴ・ミー・ラヴ」で、滅多にカヴァーする者もいないこの難曲をしっかりと歌いこなしている。スピーカーに対峙して全10曲通して聴くと金太郎飴的な単調さも露呈してしまうが、ながら聴きの BGM なんかには最適な1枚だと思う。

ギヴ・ミー・ラヴ

He Was Fab... A Loving Tribute to George Harrison

2009-11-29 | Beatles Tribute
 ビートルズのトリビュート・アルバムはそれこそ星の数ほど存在するが、解散後のソロ・ワークスのカヴァーはジョンの「イマジン」や「ラヴ」、ポールの「マイ・ラヴ」といった超有名曲を除けば意外と少ない。ましてやアルバム1枚まるごとカヴァーという、いわゆるトリビュートものはジョンの死後に何枚か出たものを除けばあまり聞いたことがない。当然ジョージのカヴァー集も私の知る限りほとんど無かったように思う。しかし8年前にジョージが亡くなってから、ビートルズ時代のものも含めて彼の作品をカヴァーした企画盤が何枚か登場し始めた。そんなジョージのトリビュート盤の中で、私が最も気に入って愛聴しているのがこの「ヒー・ワズ・ファブ ~ア・ラヴィング・トリビュート・トゥ・ジョージ・ハリスン~」である。
 このアルバムは主にアメリカのインディーズ系のパワー・ポップ・アーティストによるジョージのカヴァーを19曲コンパイルしたもので、原曲の良さを活かした素直なアレンジのストレートアヘッドな演奏が楽しめる。私は1990年以降の洋楽シーンは全く知らないので、恥ずかしながら参加アーティスト19組の中で名前を聞いたことのあるのは皆無なのだが、聴いてて思わず身体が揺れ、一緒に口ずさみたくなるような小気味良い演奏が多い。
 特に私が気に入ったのは、ドロウナーズというスウェーデンのパワー・ポップ・バンドの①「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウイープス」で、バリバリのギター・リフが快感を呼ぶパワフルなポップンロールに仕上がっており、粒揃いのこのアルバムの中でも特に素晴らしいトラックだと思う。リサ・マイコルズという女性シンガーの③「ユー」もめちゃくちゃポップで気持ちエエことこの上ない。元々ロニー・スペクターのために書かれた曲ということで女性ヴォーカルにピッタリ合っている。彼女のことは全く知らないが、弾けんばかりの若さ溢れる歌声が魅力的だし、ベースがブンブン唸る中、要所要所をビシッとキメるリズム・ギターと絶妙な味付けになっているシンセのキャッチーなサウンドもシンプルなメロディーを持ったこの曲を引き立てている。
 ザ・ローラスというアメリカのバンドがカヴァーした⑥「アイ・ニード・ユー」は原曲のアレンジを尊重しながらテンポをやや速めたのが功を奏し、聴いててめちゃくちゃ気持の良いパワー・ポップが楽しめる。ジョージへのリスペクトに溢れた歌と演奏だ。フィル・アンゴッティ・アンド・ジ・アイデアというアメリカのバンドの⑨「ヒア・カムズ・ザ・サン」も原曲の美しいメロディーを巧く活かした疾走感溢れるポップ・チューンになっており、アレンジにも随所に工夫が凝らされている。エンディングをウクレレでシメるところなんかもニクイなぁ...(^o^)丿 ア電話の呼び出し音のSEで始まる⑩「ドント・バザー・ミー」はイアン・マースキーという男性シンガーの歌うノリノリのロックンロールで。この人のヴォーカルは中々エエ味を出しており、特にダブル・トラッキングで迫るサビのヴォーカルなんかたまらない(≧▽≦) ジェレミーという男性シンガーの⑬「イッツ・オール・トゥー・マッチ」はジョージ独特のあのフニャフニャした感じを巧く表現しており、わざと似せたのか元々似ているのか分からないが、とにかくジョージへの愛が感じられるカヴァーになっている。
 私はパワー・ポップといえばこれまでビートルズのカヴァー集を出したスミザリーンズしか知らなかったが、上記の楽曲以外にも聴き所満載のこのアルバムは、様々なインディーズ系アーティストたちによってスミザリーンズ的なポップ・ワールドが全編にわたって展開されており、この手の音が大好きな私にはたまらない1枚だ。

ハリスン・トリビュート

Pistol / The Punkles

2009-08-11 | Beatles Tribute
 CDを買う時に一番迷うのが輸入盤にするか、国内盤にするかということである。一昔前なら “そんなモン安い方がエエに決まってるやん!” ということで迷わずに輸入盤を買っていた。今のご時世、歌詞・対訳を知りたければネットですぐに出てくるし、一部の例外を除けばCDの解説なんてゴミ同然で、ロクなことが書いてあったためしがない。それと、一部のマニアが後生大事に取っておく “オビ” も要らない。あれこそムダの最たるものだろう。このように無意味なモンばかりゴテゴテと付けて値段を上げるという売り方は日本に古くから根付いている悪しき商売法で、賢い消費者を目指す私としては輸入盤を買えばすむ話だったのだが、最近はそうも言っていられない。
 一番困るのは “国内盤のみボーナス・トラック2曲追加” とかいうキッタナイやり方である。まぁ冷静に考えれば今まで聴いたボートラで大したものはほとんど無かったことぐらいすぐに分かりそうなものなのだが、 “今度のヤツはひょっとしたら凄い名演かもしれん...” とか考えるといても立ってもいられなくなってしまう。だからこういう “ファンの足元を見るような” 売り方は不愉快だ。もっと言わせてもらえば、ボートラも含め、 “発売国によって収録曲が違う” というのは紛らわしくて買う方にとってはいい迷惑だということである。グレイテスト・ヒッツ物なら国によってヒット状況が違うので(クイーンの「手をとりあって」が日本盤のみ収録とか...)まだ分からんでもないが、フツーのオリジナル・アルバムで何の説明もなしに曲目が違うというのはやめてほしい。今日取り上げるパンクルズの「ピストル」も何も知らずに国内盤を買って失敗した1枚だ。
 パンクルズといえばラモーンズ・スタイルでビートルズをパンク・カヴァーするドイツの “おバカ” バンドで、以前このブログでも「ヘルプ!」をもじった黄色いジャケの「パンク!」を取り上げたことがあったが、このモノクロ・ジャケの「ピストル」が「リヴォルヴァー」のパロディーであることは一目瞭然。タイトルは銃器つながりの単語で、パンクの元祖、セックス・ピストルズに引っ掛けたものだろう。
 で、何が問題なのかと言うと、国内盤はオリジナルのドイツ原盤に入っていたストレートアヘッドな演奏をカットして、代わりに⑯「レヴォリューション1-2-3-4」という、「レヴォリューション№9」まがいのワケの分からん演奏を収録しているのだ。この7分21秒は資源の無駄使い以外の何物でもない。パンク・バンドが前衛に走るというのも問題アリだが、それを “興味深い” とか “意欲的” などという中途半端な形容詞で持ち上げる音楽ジャーナリズムも最低だ。誤魔化さずに “良い” のか “ダメ” なのかハッキリしてほしいし、私はこんな “前衛くずれ” を聴くほどヒマではない。ヤフオクで安かったからといってしっかり調べもせずに飛びついた自分が情けない...(>_<)
 何だかグチっぽくなってしまったが、先述の出来そこないアヴァンギャルド⑯とキモいレゲエ調の⑮「トゥモロー・ネヴァー・ノウズ」以外のトラックは相変わらず楽しいロックンロール大会だ。これぞパンクルズの真骨頂というべき “やけくそパワー” 炸裂の①「マジカル・ミステリーツアー」、ゆったりした原曲を高速回転させることによって新たなグルーヴを生み出すことに成功した②「ヘイ・ジュード」、テンポを上げても独特のブルージーな味わいは変わらないのが凄い③「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウイープス」、ガレージ・バンドっぽい荒々しさが新鮮な⑦「ザ・ナイト・ビフォア」、駆け抜けるような疾走感がエエ感じの⑧「アイム・ルッキング・スルー・ユー」、サイケ色を一掃して痛快なロックンロールとして生まれ変わった⑨「アイ・アム・ザ・ウォルラス」、ラウドなギターがエエ味出してる⑫「アナザー・ガール」、ジョージア・サテライツの名カヴァーに迫る勢いの⑭「ドント・パス・ミーバイ」といったところは文句なし。ただし、原曲がそこそこアップテンポであまり変わり映えがしない④「マネー」、⑤「バッド・ボーイ」、⑥「エニータイム・アット・オール」といった曲ではヴォーカルの吸引力に圧倒的な差(まぁ天下のジョン・レノンと比べるのも酷な話だが...)を感じてしまうし、⑩「ウイズ・ア・リトル・ヘルプ...」、⑪「トゥ・オブ・アス」、⑬「ハニー・ドント」あたりはいまいちハジケ方が足らず、もっと心を鬼にして高速化してほしかったというのが正直なところ。
 このバンドは存在自体がジョークみたいなモンなので、サウンドの完成度など1曲1曲をどうこう言ってもしゃあないところがあり、 “こんなん聴くんやったらオリジナル聴くわ!” の一言で片付けられそうだが、だからこそ “おバカ” に徹して超高速パンク化に命をかけるべきだったように思う。せっかく開拓した新たな世界、これからもカタイことは抜きにしてみんなの大好きなビートルズ曲で楽しいハイスピード・ロックンロールを聴かせてほしいものだ。

The Punkles "Hey Jude" (2003)

A Beatles Tribute: Number One Again

2009-07-26 | Beatles Tribute
 昨日の「エキゾチック・ビートルズ」はいくらビートルズ・カヴァーものとはいえ、ちょっと色物に走り過ぎたかなぁと反省(?)している。犬猫の鳴き声で聴くビートルズ・ナンバーなんて、話のネタとしては面白いけれど、決してスピーカーに対峙して聴くようなマトモな音楽ではない(というか、音が部屋の外に漏れたら家族や近所に恥ずかしすぎる...)からだ。ということで今日は昨日の失地回復、汚名返上を期して、胸を張って万人にオススメできる格調高いビートルズ・カヴァー集をご紹介したい。
 この「ア・ビートルズ・トリビュート~ナンバー・ワン・アゲイン」はアマゾンで “beatles tribute” 検索をしていて引っ掛かってきた。残念ながら日本のアマゾンでは試聴が設定されておらず、解説に“才能に溢れる無名女性シンガーたちによるビートルズ・ナンバーのアコースティック・カヴァー集。ビートルズ・ファンはもちろんのこと、シェリル・クロウ、アニ・ディフランコ、サラ・マクラクラン、ジュエルといったコンテンポラリーな女性シンガーのファンにもアピールしそうなユニークな解釈が楽しめます。” とあるのみ。アコースティック・カヴァー集か... 要するに女性ヴォーカルによるアンプラグド物ってことやね。90年代以降の洋楽シーンは全く分からないのでシェリル・クロウ以外の名前は知らなかったが、何となく良さそうな雰囲気だ。物は試しとUSアマゾンで検索してみると、ちゃーんと試聴設定されていた。同じアマゾンやのにこの違いは一体何なん?Listen to all をクリックし、各曲30秒ずつで計6分のミュージック・サンプラーを聴いて “これはめちゃくちゃエエぞ!” と大コーフンした私は早速その場でオーダーした。
 私はこのような未知のアーティスト盤が届くとまずジャケ裏解説を見るようにしているのだが、このCDは困ったことにそういったアーティスト情報が皆無に等しい。全12曲をそれぞれ違った無名の女性シンガーが歌っているというのに、記されているのはシンガーの名前と伴奏楽器のパーソネルのみ。個々のシンガーの小さな写真すら載っていない。 Reverberations というレーベル名も、 Lakeshore Records というレコード会社名も聞いたことがないが、 Printed in the USA 2002 とあるのでUS盤であることだけは間違いない。多分小さなローカル・レーベルなのだろうが、不親切というか、ホンマに売る気あんのか、とツッコミを入れたくなるくらいシンプルなジャケットだ。
 しかし中身の音楽の方は文句のつけようがないくらいに素晴らしい。ちょうど「アイ・アム・サム」のサントラ盤に入っていた女性ヴォーカル・ナンバー(エイミー・マンやサラ・マクラクランetc)っぽい雰囲気を持った演奏を集めたようなコンピレーション盤だ。 Leslie King の①「サムシング」はしっとりと落ち着いた歌声が静謐な曲想とベストのマッチングを見せる。シンプル・イズ・ベストを地で行く名演だ。ちょっと甘ったるい声のNikki Boyer の②「抱きしめたい」は元気印な原曲を大胆にアレンジし、ピアノの弾き語りのような雰囲気でスローに迫る。ちょうどペトゥラ・クラークの同曲カヴァー・ヴァージョンみたいな雰囲気だが、これはこれでエエ感じだ。Lisa Furguson の③「ロング・アンド・ワインディング・ロード」はポールが目指した素朴な味わいを上手く表出している。可憐な声質も私の好みなのだが、エコーを効かせすぎなのと、ピアノの録音レベルが大きすぎてヴォーカルの邪魔をしているのが難点か。尻切れトンボなエンディングのアレンジももうひと工夫欲しいところだ。
 Melissa Quade の④「ヘルプ」は原曲に忠実なアレンジが大正解。アコギを駆使して曲の髄を見事に引き出したサウンドにいかにもヤンキー娘といった雰囲気の力強いヴォーカルがバッチリ合っている。一人追っかけ二重唱もたまらない。Katherine Ramirez の⑤「恋を抱きしめよう」も④と同様にシンプルで力強いアコギのストロークが曲の良さを引き出し、ちょっと鼻にかかったようなキャサリンの表情豊かな歌声が楽しめるという、アンプラグドのお手本のようなトラックだ。リズミカルな④⑤に続く Erin Arden の⑥「ハロー・グッバイ」もやはり同傾向の曲想でアレンジされており、普通なら単調に感じてくるはずが全然そんなことはなく、むしろ曲が進むにつれてこのアルバムに引き込まれていく。まるで「ナンバー・ワン・アゲイン」という曲が1曲あって、それが12楽章に分けられた組曲風の大作を聴いているかのようだ。
 Brielle Morgan の⑦「エリナー・リグビー」は重厚なストリングスにギターが絡むバックに乗ってビートルズ御用達のダブル・トラッキングによるヴォーカルで迫るというアレンジが素晴らしい。彼女のドスの効いた歌声はそんなバックに負けないぐらい存在感のあるものだ。Thee Ray の⑧「ヘイ・ジュード」では一転してそのちょっぴり舌っ足らずでフェミニンな歌声に癒される。乱発気味(?)のダブル・トラッキングも効果抜群で、スピーカーの前に分厚い音の塊が屹立するかのようだ。Jill Guide の⑨「レディ・マドンナ」はバックの演奏やコーラスなどの作り込みはさすがなのだが、ヴォーカリストがやや凡庸なのが残念。そんなにワメかずにもっとストレートに歌えばいいのに...
 Jess Goldman の⑩「レット・イット・ビー」、ゴスペルとしての本質を見抜いた彼女の歌唱スタイルはお見事という他ない。意表を突いた中間部のアコギ・ソロの歌心溢れるプレイにも脱帽だ。Hathaway Pogue の⑪「ペニー・レイン」はいきなりピアノの伴奏と共に飛び出す彼女の “ペニレェン~♪” という第一声だけでもうノックアウト、もうめっちゃ癒される(≧▽≦) 声質は違うが歌唱法はスザンナ・ホフスを想わせるキュート系だ。 Maureen Mahon の⑫「愛こそはすべて」はちょうどペギー・リーの「フィーヴァー」みたいなフィンガー・スナッピングとアップライト・ベースをフィーチャーした大胆なアレンジで、 “この手があったのか!” とその斬新な発想に思わず感心してしまった。
 さっき久しぶりにアマゾンで確認してみたらアメリカ本国ではすでに廃盤になっており、日本のアマゾン・マーケットプレイスで中古を2枚(うち1枚は10,736円というアホバカ・プレミア価格です...笑)残すのみ。こういった超マイナー・レーベル盤は再発の可能性がほぼゼロに等しいので、興味のある方は早めにゲットしましょう。

ペニー・レイン

The Exotic Beatles - Part One

2009-07-25 | Beatles Tribute
 英語に “exotic” という単語がある。辞書で引くと(1)外来の、外国産の (2)異国風の、エキゾチックな (3)珍しい、風変わりな... とある。つまりこのCDのタイトルである「エキゾチック・ビートルズ」というのは、イギリス人から見て外国産、又は異国風でなおかつチョット変わったビートルズ・カヴァー集ということだ。まぁ収録曲の数々を見れば “チョット変わった” どころかよくぞここまで集めたよなぁ... と感心するくらいの選りすぐりの珍品ばかりなのだ。
 そんなクセモノ揃いのこのアルバムはいきなりワケのわからないトラック①からスタート、ハッキリ言って酔っぱらいのオッサン(イギリスの下院議員らしい...)の鼻歌である。先が思いやられるわ...(>_<) ②「イエロー・サブマリン音頭」は日本が世界に誇れるモンド・カヴァーの傑作で、Wikipediaによると80年代以降はビートルズの楽曲著作権保護が強化され、それまでOKだった替え歌が認められなくなった(だから王様は「カブトムシ外伝」であぁするしかなかったのね...)らしいが、この曲を聞いたポールが例外的に歌詞の変更を伴ったカヴァーを許可してくれたとのこと。さすがはポール、人間の器がデカイわ(^o^)丿 尚、裏ジャケには“Yellow Submarine Ondo – In the Japanese Folk Style” と紹介されている(笑)
 ③「ルーシー・イン・ザ・スカイ」は初代スタートレックのカーク船長(ウイリアム・シャトナー)による芝居がかった朗読だ。
 スポック:“船長、おやめになった方がよろしいのではないかと...”
 カーク:“やかましい、この耳のとがった化け物め!副長を解任してやる!”
などというやり取りがあったかどうかは知らないが、とにかくスタートレック・ファンとしては穴があったら入りたいくらい恥ずかしくなる1曲だ。尚、この曲のビデオクリップ(作るなよそんなもん!)はめちゃくちゃ面白いパロディーの傑作なのだが、YouTubeでは残念ながら “著作権者の申し立てにより” 音声トラック部分が削除された無音のクリップしか見れない。親会社のGoogle 動画では見れるのに、一体どーなってるねん?著作権法だか何だか知らんけど、特にUMG(ユニヴァーサル)系は全部アウトっぽい。そんなことやってるからCD売れへんねん。タダで宣伝できるのに... アホな会社や。
 ④「恋する二人」は初めてまともな歌と演奏が聴けてホッとさせられる。イタリア語で歌うビートルズ・カヴァー・バンドなのだが、オラオラ系の女性バック・コーラスがチープな薫りをプンプンさせててエエ感じだ。⑤「彼氏になりたい」は英語による歌詞の解説に続いて様々な国のカヴァーバンドの演奏の断片が挿入されており、そのアタマにあの東京ビートルズの「キャント・バイ・ミー・ラヴ」が入っていたのにはビックリ(゜o゜) 各国語で聴くビートルズ・カヴァーもオツなもん... かな???
⑥「ペニー・レイン」はかなりポップで楽しい歌と演奏で、さりげないサイケな味付けも◎。⑦「シー・ラヴズ・ユー」は聴いてビックリの本格的フラメンコで原曲を見事なまでに換骨堕胎、かきならされるギターと響き渡る手拍子でスパニッシュな雰囲気が濃厚に立ち込める。⑧「カム・トゥゲザー」は完全なレゲエ・ヴァージョンで、少し前に雨後のタケノコのように量産されていた “レゲエ・ビートルズ” (←どの曲を聴いてもみんな同じに聞こえるんよね...)の先駆的作品だ。
 クルーナー・スタイルの⑨「ステップ・インサイド・ラヴ」、自動演奏オルガンによる⑩「イン・マイ・ライフ」、どっかのアマチュア・グリー・クラブみたいな男性コーラス隊による⑪「ホエン・アイム・64」と徹底的に忍耐力を試されたところで、やっとスペインのロス・ムスタングスによるストレートアヘッドな解釈の⑫「プリーズ・プリーズ・ミー」でホッと一息つける。普通のコピー・バンドの演奏がこんなに素晴らしく聞こえるなんて...(笑)
 マダガスカル(ってどこ?南米?アフリカ?アジア?)の子供バンドによる⑬「ゼアズ・ア・プレイス」はともかく、ポルトガル語で聴くビートルズが妙に耳に残る⑭「今日の誓い」やカテリーナ・ヴァレンテの正統派ヴォーカル(イタリア語)による⑮「フール・オン・ザ・ヒル」の2曲は十分聴くに値するマトモなトラックだと思う。⑯「ペイパーバック・ライター」は L⇔R という日本のバンドらしいが、あれば聴くが無くてもさして困らない類の1曲。演奏にイマイチ惹きつける力が足りないように思う。⑩と同じオルガンによる⑰に続いて⑱「抱きしめたい」はシタールによるアップテンポな演奏(笑)で、さすがにこれはインパクトが大きい。ただ、2回3回と繰り返し聴きたくなるかどうかは疑問だが...(笑)
 オッサンのしゃべり⑲、スペイン語による凡庸な歌唱⑳に続いていよいよ本盤最大の衝撃、もとい笑撃がやってくる。犬、猫、ニワトリの鳴き声によって歌われ(?)る (21)「恋を抱きしめよう」だ。人呼んでビートル・バーカーズ(“吠える” は英語で bark)だとぉ?ナメてんのか?こんなん聴いてたらホンマのバカになってしまう。以前ビートル・バーカーズのCD-Rを車内に持ち込んで運転しながら聴いたことがあったが、ドライヴィングに集中出来ずにすぐにやめてしまった(>_<) こんなことで事故ったらそれこそバーカだ(笑)
 めっちゃ訛ったラップくずれみたいな(22)「アイ・アム・ザ・ウォルラス」、オルガン再々登場の(23)、マレーシアの完コピ・バンド(何語かワカラン)による(24)「アイル・ビー・バック」、モーグ・シンセサイザーが奏でる(26)「グッド・ナイト」と、もうこの文章を書く気も萎えてくるようなトホホなエンディングだ。それと、アルバム・ジャケットのリンゴのイラスト、もーちょっと何とかならんかったんか?
 このように変わった音源ばかり収録されているけれど、ゲテモノという一言で片付けてしまうのはちょっともったいない。これはものすごーく心が広くてシャレのわかる超ビートルマニア向けの、かな~り笑えるモンド・カヴァー・アルバムだ。

↓こんなアホなもん、よぉ作るわ(>_<)
Beatles Barkers - We Can Work It Out
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Honky Tonkin' The Beatles

2009-07-19 | Beatles Tribute
 “ホンキー・トンク” という言葉を聞いて、私も含め普通のロック/ポップス・ファンが思い浮かべるのは多分ストーンズの「ホンキー・トンク・ウイメン」だろう。しかし“ホンキー・トンク” ってどーゆー意味?って訊かれると答えに詰まるのではないだろうか?私も “ラグタイムやブギウギを崩したようなピアノ奏法” という大雑把なイメージしかなかったので色々調べてみると、元々は20世紀初頭のアメリカ南部にあった、ビヤ樽が設置された安酒場(バレルハウス)のことで、そこは人々がビールを飲んで音楽に合わせて踊るための騒々しい場所だった。それがいつからか、そんな酒場で騒音に負けないようにラウドに演奏されていた音楽の事を指すようになったらしい。当初はカントリー色の濃い演奏スタイルだったが音量を上げるために通電した楽器を使うようになり、今では “ロックンロール色の濃いカントリー・ミュージック” みたいな感じのサウンドを総称して “ホンキートンク” と言うらしい。そう考えると先のストーンズ「ホンキー・トンク・ウイメン」の演奏スタイルも何となくわかるような気がしてくる。
 この「ホンキー・トンキン・ザ・ビートルズ」はUSアマゾンをブラウズしていて偶然見つけた。 “ホンキー・トンク版ビートルズ” って... 本気かいな?試聴してみるとカントリー風あり、サザンロック風ありで面白そうだ。ただしVARIOUS ARTISTS というのは看板に偽りアリで、全10曲をザ・ドランク・カウボーイ・バンドというふざけた、でも“ホンキー・トンク” を見事に言い表した名前のグループが演奏しているのだが、音楽さえ素晴らしければ別に嘘つきでも酔っ払いでも構わない。
 CDの表、裏、中ジャケすべてに描かれているカウボーイ・ハットをかぶったグリ-ン・ペッパー(しかも影つき)のロゴがいかにも南部しているし、見開きで載っている “ドランク・カウボーイ・レコード” の宣伝もめちゃくちゃローカル色豊か。更にレコーディングもマスタリングもすべてテネシー州ナッシュビル、もうそれだけで音が聞こえてきそうな気がする。
 いきなりペダル・スティール・ギターのカントリーちっくなイントロで始まる①「アイ・フィール・ファイン」は、イーグルスのグレン・フライが風邪を引いて鼻声になったようなヴォーカルがバックのテイクイットイージーなサウンドとピッタリ合っていて中々エエ感じ。 “I’m so glad...” でハモるコーラス・ハーモニーもニューキッドインタウンしており、70年代初期のイーグルスがビートルズをカヴァーしていたら恐らくこんなサウンドになってたんやろなぁと思うと中々楽しい(^o^)丿 ②「チケット・トゥ・ライド」は①とは別人のあまり特徴のないヴォーカリストが歌っており、前半はアレンジも平凡で何の面白味もないのだが、“My baby don’t care...” のリフレインが始まる2分45秒あたりからカントリー・フレイヴァー溢れる盛り上がり方で、これでこそホンキー・トンキン・ビートルズだ。③「デイ・トリッパー」、④「ドライヴ・マイ・カー」と②と同じ平凡な歌声のシンガーがヴォーカルを取っているがアレンジにも演奏にも目を見張るような工夫がなく、これならわざわざカヴァーを聴く意味がない。しっかりせえよ(>_<)
 ⑤「エイト・デイズ・ア・ウィーク」は初登場の女性ヴォーカルだ。いかにもテンガロン・ハットにジーンズ姿が似合いそうなこの女性シンガー、声も歌い方も曲想にバッチリ合っていて③④で感じた失望を一気に打ち消してくれる。バックの演奏も適度にレイドバックしたサザンロックでめっちゃ快適だ。⑥「マネー」はストレートなアレンジだが、フィドルが巧く取り入れられていたりとか、いかにもホンキー・トンクという感じのピアノの弾み方とか、他ではあまり聞けないユニークな解釈だ。
 ⑦「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」はアレンジをあまりいじらずに元々この曲が持っているノリの良さを上手く活かしたのが大正解。 “カントリー・ロックで聴くビートルズ” のお手本のような軽快でスピード感溢れる演奏が素晴らしい。⑧「ア・ハード・デイズ・ナイト」は③④と同じく可もなし不可もなしという演奏。⑨「キャント・バイ・ミー・ラヴ」は⑤と同じ女性シンガーが再登場、演奏もノリノリで、1分9秒で聞ける彼女の “No, no!!!” の掛け声とともにギター・ソロが始まるところなんか音楽の楽しさがダイレクトに伝わってくる(^.^) ラストの⑩「ホワイ・ドント・ウィー・ドゥー・イット・イン・ザ・ロード」は意外な選曲だが、気持ちの重心を下げてブルージーに迫るバックの演奏はまさにサザンロックの王道と言えるサウンドだ。例えるなら、リトル・フィートの「ダウン・オン・ザ・ファーム」をストーンズの「イッツ・オンリー・ロックンロール」の精神でなぎ倒し、その顔面にアランナ・マイルズの「ブラック・ベルベット」をまぶしたような感じ。男性ヴォーカルと女性ヴォーカルが交互にリードを取る掛け合い形式の構成もユニークで、そういった要素が混然一体となって生み出されるグルーヴがたまらない(≧▽≦) 
 カントリーありサザンロックありブルースありと手を変え品を変えアメリカン・ル-ツ・ミュージックの粋を凝らしてビートルズの楽曲を料理したこのアルバム、あれこれ難しいことを考えずに気軽に聞けるビートルズ・カヴァー集だ。
 
エイト・デイズ・ア・ウィーク

Beatles Uke / Greg Hawkes

2009-07-18 | Beatles Tribute
 以前にも書いたことがあるが、新聞、テレビ、雑誌の類を見ない私は非常に情報に疎い。新譜情報から来日情報、訃報に至るまで、何か余程の偶然が重ならない限り他人様よりも確実に後れを取っている。まぁそれで死ぬわけじゃなし、と半ば諦めているのだが、音楽中心生活で新譜情報に疎いのは辛い。まぁビートルズやレッド・ゼッペリン級のビッグ・アーティストになれば放っておいてもアマゾンやHMVのトップ・ページを飾ってくれるので安心なのだが、問題なのは私が追い求めている “面白ビートルズ・カヴァー” 盤である。こういった超マイナー盤はトップ・ページはおろか活字にすらならないことが多い。そこで私は去年あたりからアマゾン・ジャパン、アマゾンUS、HMV、そしてヤフオクで定期的に “ビートルズ・カヴァー・サーチ” を実行している。何のことはない、ただ検索BOXに “Beatles” と打ち込んでサーチするだけなのだが、これが結構うまい具合に機能して、例の “この商品を買った人はこんな商品も買っています” と併用すればほぼ無敵(笑)、これまで掘り出し物を何枚も見つけることが出来たのだ。この「THE BEATLES UKE」も最新の検索で網に引っ掛かってきた1枚である。
 THE BEATLES UKE??? 何じゃそれはぁ~、と思われた方も多いだろう。 UKE とは “ユーケー” でもなければ “ウケ” でもなく、 “ウキ” と読む。英語でウクレレの愛称のことである。ビートルズとウクレレと言えば日本制作のアホバカ盤「ウクレレ・ビートルズ」が脳裏をよぎり不吉な予感がしたが、サイトで試聴してみるとこれがもう文字通りウキウキするような演奏だったので早速オーダーした。
 届いたCDの裏ジャケットに写っている人物にはどこか見覚えがあるぞ... グレッグ・ホークスって、もしや... いやそんなバカな... と思って恐る恐る英文を読むと “ザ・カーズの音の魔術師が複数のウクレレとスタジオ・テクノロジーを駆使してビートルズ・クラシックスの数々のめくるめく新解釈の世界を生み出しています” とある。やっぱり... カーズでシンセサイザーを担当し、その近未来ポップンロール・サウンドの立役者だったと言っていい人だ。キーボードを弾いてる姿しか思い浮かばないのだが、そんな彼がウクレレでビートルズを弾いているとは... 期待に胸が高鳴る(^.^)
 曲目を見てまず思ったのは青の時代(後期)の曲が15曲中11曲と圧倒的に多いこと。何かワケがあるのだろうか?①「ペニー・レイン」は素朴なウクレレの持ち味をストレートに表現した演奏だが、ラスト5秒のテープ逆回転のようなサイケなサウンドは何なのだろう?何かワカランけど、最後の最後でゾクゾクッときてしまった(>_<) ②「アンド・アイ・ラヴ・ハー」は原曲がアコースティックな作りだっただけあって殆ど違和感を感じずにスムーズに聴ける。③「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」、ウクレレの歪んだような音色がサイケな薫りを増幅させる。特に後半部の音作りには目も眩む。こんなに凝りまくった “イチゴ畑” カヴァー聞いたことないわ... (゜o゜) ④「ヒア・カムズ・ザ・サン」は②と同様にアコースティックな原曲に忠実なアレンジがなされていて心にすんなり入ってくる。それにしてもウクレレだけでこんなサウンドよう作るなぁ...(^.^)
 ⑤「エリナー・リグビー」、コレめっちゃカッコイイ!!!!! メロディーを爪弾くリード・ウクレレ(?)も正確無比にリズムを刻み続けるリズム・ウクレレ(?)も全てが完璧だ。この曲はなぜかカヴァーの名演が多発するのだが、このヴァージョンはそんな中でもかなり上位にランクされるべき素晴しい演奏だと思う。⑥「ビーング・フォー・ザ・ベネフィット・オブ・ミスター・カイト」はある意味このアルバム中一番ビックリしたというか感心したというか、とにかく当時のスタジオ技術の粋を集めたあのペパーズ・サウンドをウクレレを駆使することによって再現しているのだ。とくにサーカスの効果音のくだりには唖然とする。グレッグはライナーの中でウクレレを何本も使ってマルチトラックで録音するこの方法を “ウキシンフォニック・スタイル” と呼んでいるが、まさにこれはウクレレ・オーケストラと言っていい音作りだ。
 珠玉のメロディーを淡々と綴っていく⑦「フール・オン・ザ・ヒル」、まるでオモチャの潜水艦といった風情の⑧「イエロー・サブマリン」に続く⑨「ピッギーズ」はマルチトラックで響きわたるウクレレのユニゾンがめちゃくちゃカッコ良い、予想外の大名演!正直ウクレレがこの曲にこんなに合うとは思わなんだ。エンディングのブタの鳴き声にもワロタ(^o^)丿 ⑩「シーズ・リーヴィング・ホーム」では何と言ってもジョンとポールがハモるパートやバックのストリングスまでウクレレで再現しているところがニクイ。あのイントロもウクレレにピッタリやし、この人、相当なビートルマニアやね(≧▽≦) 
 ⑪「ハニー・パイ」はウクレレならではの軽妙洒脱な味わいが絶品だし、⑫「フォー・ユー・ブルー」もビートルズ好きには堪えられないアレンジで、何本ものウクレレを駆使して紡ぎ出されるサウンドが圧巻だ。ある意味選曲の勝利と言ってもいいかもしれない。⑬「イエスタデイ」は奇をてらわないシンプルな演奏が好感度大。ホンマに音楽を知り尽くした人やということがよ~く分かる。⑭「ブルー・ジェイ・ウェイ」はストレートに旋律を弾きながらも随所で炸裂するサイケな音作りが嬉しい。ラストの⑮「グッドナイト」はシメに相応しい素朴な演奏で、それぞれ違った音色を奏でる何本ものウクレレが絡み合う様はもう見事という他ない。
 何度も槍玉にあげて申し訳ないが、どこぞの国の「ウクレレ・ビートルズ」なんか足元にも及ばないくらい素晴らしいこのアルバム、真のビートルズ好きに自信を持ってオススメしたい1枚だ。

Greg Hawkes' Eleanor Rigby
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Here Comes...El Son

2009-07-01 | Beatles Tribute
 コレクターと言う人種はあるアーティストに惚れ込むと正規に出ている盤だけでは満足出来なくなり、内容は変わらないのに同じ盤を各国盤で揃えたくなってしまうことが多い。そんなコレクター魂をビンビン刺激する存在が王者ビートルズである。私自身は本能の趣くままに猟盤してるだけなので由緒正しいコレクターからは程遠いが、そんな私でも海外オークションにハマッっていた一時期は有名なシェル・カヴァーやバルーン・カヴァーといった高額盤から怪しさ満点の「ヘルプ」インド盤に至るまで色々と目移りし、つい出来心で(笑)ブラジル盤「ハード・デイズ・ナイト」を買ったりしたものだ。まぁジャケットの文字もポルトガル語(OS REIS DO IE, IE, IE!)で珍しい感じだったので面白いといえば面白いのだが、そのまま底無し沼のような深みにハマッていくのが怖かったのでそれで打ち止めにした。私個人としてはビートルズの正規音源としては60'sパーロフォンのモノラル盤、いわゆる “黄パロ” がリファレンスなので、わざわざ変なミックスやマスタリングが施されている可能性のある各国盤を買いたいとは思わない。気持ち悪いくらいにエコーのかかったアメリカ盤なんか絶対にイヤだ!
 LPほど顕著ではないがCDでもこのような音質の違いは確実に存在する。特に私がビックリしたのは “ルディー・ヴァン・ゲルダー・リマスター” と銘打って東芝EMIが大々的に宣伝していたブルーノートの日本盤CDと、US盤の “The Rudy Van Gelder Edition” シリーズでは音の鮮度が全然違っていて、日本盤のあまりにヘタレな音に愕然としたものだ。要するに2,500円出して下らない解説の付いたスカみたいな音の日本盤を買うのか、1,200円で生々しい音のUS盤を買うのかということ。9月のビートルズ・リマスター盤の音質が全世界統一なのか気になるところだ。
 さて、話が大きく逸れてしまったが、そこで登場するのがこの盤である。「我愛被頭四」の文字がいやがおうにも目に飛び込んでくる。Panama Music というレーベルから出ているキューバ盤「Here Comes...El Son」の台湾盤CDだ。裏面には「24 bit 更完美聲音品質」とある。別に偏見があるわけじゃないが、中国、台湾と聞くとどうにも例の偽ディズニー遊園地(ミッキーマウスのパチモンを “耳の大きいネコ” と言い張ったのにはワロタ)とか、段ボール豚まん(結局偽モンやったけど...)とか、毒入りギョーザ(この事件どーなったんでしょーね?)とか、ネガティヴなイメージが強くて引いてしまう。これも元々は原盤を探していてたまたまeBayで台湾盤を見つけ、迷った挙句に安さに負けて買ったものだったが、届いた盤を聴いてみれば看板に偽りなしの抜群な音質で大ラッキーだった。
 内容は “Songs of the Beatles with a Cuban Twist” の謳い文句通りのビートルズ・アフロ・キューバン・カヴァー集で、アッケラカンとしたラテンのノリに日頃のストレスも吹っ飛んでしまう。イメージとしては夕暮れのビーチに面したレストラン、オープンテラスのテーブルで夜風に当たりながら、キューバのバンドの生演奏を楽しむ、といった感じなのだ。まず①「ウィー・キャン・ワーク・イット・アウト」のマリアッチ風トランペットでイスから転げ落ちる。そこへこれでもかとばかりにパーカッションの波状攻撃が炸裂、こちらは早くも戦意喪失状態だ。②「ヘイ・ジュード」でも①同様、その脱力具合が絶妙で、後半の盛り上がりもラテンのノリだ。
 ⑤「ルーシー・イン・ザ・スカイ」もパーカッションが効いており、原曲の湛えていたサイケデリックな佇まいは雲散霧消、LSDよりもコロナビールがよく似合いそうなサウンドだ。パーカッションの乱れ打ちをバックに歌われる⑥「ハロー・グッバイ」はハリー・ベラフォンテも泣いて喜びそうなバナナ・ボート・ソングちっく(?)なサウンドが圧巻で、パーカッションと口ベースを主体にしたセミ・アカペラ・ナンバー⑦「ノーホエア・マン」と共にアフロ・キューバン・スピリットが炸裂するキラー・チューンだ。
 ⑨「エリナー・リグビー」... この曲までラテンにしてしまう強引なノリがめっちゃ楽しい。色んな楽器やコーラスの大量投下によって他ではちょっと味わえないユニークな「エリナー・リグビー」になっている。でもさすがに⑮「ビコーズ」はちょっとやり過ぎの感アリで、騒々しいヒップホップ・アカペラと静謐なこの曲はいくらなんでも合わないと思う。
 ラストの⑯「ゴールデン・スランバーズ~キャリー・ザット・ウエイト~ジ・エンド」、いわゆるアビー・ロード・メドレーは実によく出来ており、特に「ジ・エンド」のアレンジが最高だ。これはお世辞抜きで本当によく出来ている。
 全16曲約56分にわたって繰り広げられる濃密なアフロ・キューバン・カヴァーの数々... 心の広いビートルズ・ファンにオススメしたい、これからの暑い季節にピッタリの1枚だ。

Golden Slumbers / Carry That Weight / The End - Here Comes...El Son

Let It Be Hawaiian Style

2009-06-26 | Beatles Tribute
 ちょうど2年前の今頃だったと思うが、仕事の関係で神戸へ行く用事があった。私は大阪、京都、神戸方面へ出張した時は必ず地元のレコ屋を覗くことにしていて、この時もせっかく神戸まで出てきてそのまま帰るのはもったいないと思い、三宮~元町近辺のレコ屋を数軒廻ってみた。このあたりは昔はいくつかレコ屋があったのだが、震災後はLPを扱う店が激減し、今は生き残ったお店もほとんどがCD屋になっている。量・質共に別格の“ハックルベリー”を除けばあまり期待できないのが現状なのだが、この時はダークホースともいえるHMVで大収穫があった。実はあまりに暑かったのでちょっと涼みに(笑)HMVへ入っただけだったのだが、心地良い冷気に誘われてどんどん奥の方へ入っていくと試聴コーナーがあった。休憩がてらに涼みながら音楽を聴くのも悪くないと思い、すいている一角へと向かった。 “ワールド・ミュージック” のコーナーだ。何を聴こうかと見回すと1枚のCDが目にとまった。可愛らしいジャケットの左上隅の白地に赤でさりげなく “Let It Be Hawaiian Style” の文字が... (゜o゜) 何じゃこりゃ~と(←松田優作かよ!)急にテンションが上がった私は慌ててヘッドフォンをかぶった。おぉ、これはめっちゃエエやん!とすっかり気に入った私は大喜びでレジへと直行した。これで遠路はるばる神戸まで出てきた甲斐があったというものだ。
 この「レット・イット・ビー・ハワイアン・スタイル」はビートルズの名曲の数々をハワイのアーティスト達がウクレレを使ったり(ただしウクレレ一辺倒のサウンドではないのでウクレレ三昧を期待してると肩透かしを食います!)、ジャワイアン・アレンジ(ジャマイカ+ハワイアンのレゲエ風ビートを効かせたサウンド)で歌ったりしたアルバム。全15曲中6曲(①④⑧⑪⑫⑭)がこの企画のために新規に録音されたトラックで、残りはライセンスものという割合だ。何でも映画「フラガール」のヒットにあやかって夏に向けてビートルズのハワイアン・カヴァー・アルバムを、という安直な企画からスタートしたらしいが、聴く側にとってはありそうで無かった “ハワイアン・ビートルズ” という斬新な発想に興味津々だ。聞くところによるとタイトルに「ビートルズ」という名称を使用する場合は東芝EMIにお伺いを立てなければならないそうで、ソニーのこの盤では敢えて「ビートルズ」という表記をしなかったらしい。この業界も色々あるんやねぇ...(>_<) 内容の方はかなり充実していて、 “今のハワイで普通にラジオでかかっていてもおかしくない感じに仕上げたい” という当初の目標は十分にクリアしている。
 まずは何をさておき①「シー・ラヴズ・ユー」が圧倒的に素晴らしい。ハワイの超人気ガールズ・デュオ、ケアヒヴァイによるミディアム・スロー・テンポの絶妙なハーモニーが運んでくる甘酸っぱい薫りに胸がキュンとなる(≧▽≦) やっぱり一番出来の良い演奏を1曲目に持ってくるんやね。この1曲だけでも買ってよかったと思わせてくれるキラー・チューンだ。そしてそんな①と並んで気に入っているのが⑧「イエスタディ」で、サリーという新人アーティストの作品なのだが、原曲のメロディをストレートに歌って醸し出す素朴な味わいが実にエエ感じで、シンプル・イズ・ベストを地で行く名唱だと思う。とにかくこの2曲、脱力具合いが絶妙で、癒し効果は抜群だ。
 ②「ヒア・カムズ・ザ・サン」(リード・カポ・クー)は英語とハワイ語が交互に出てきて実に面白いし、③「ゲッティング・ベター」(ハワイアン・スタイル・バンド)は夏にピッタリのレイドバックしたサウンドが耳に心地良い。④「レディ・マドンナ」(イムア)はいわゆるバックヤード・スタイルのジャワイアンということで、ヤシの木の下でまったりと風に当たりながら聴きたいナンバーだ。ハワイのグラミーと呼ばれる“ナホク・アワード”最多受賞者ナレオの歌う⑤「ブラックバード」はユニークでありながらも原曲の良さを壊さない斬新なアレンジが面白い。これはかなり力入ってます(>_<) ショーン・イシモトの⑥「アイ・ウィル」はジェイク・シマブクロあたりを想わせる軽快なウクレレ・サウンドが楽しい。どこか歌い方の雰囲気がポールに似ていると感じるのは気のせいか?
 ケアリィ・レイシェルの⑦「イン・マイ・ライフ」は歌い上げる感じがちょっと胃にもたれる感じ。ウェイド・キャンバーンの⑨「ドント・レット・ミー・ダウン」やババBの⑩「サムシング」は③と同様の “ハワイアン・ビートルズ” そのものの常夏サウンド。マイラ・ギブソンの “ハワイアン・ダブ” ⑪「カム・トゥゲザー」は摩訶不思議な浮遊感覚がたまらない。これはかなりエエかも!ジョン・ヤマサトのライト&メロウなヴォーカルが爽やかな⑫「オール・マイ・ラヴィング」、ハワイアンなノリが新しいプカの⑬「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」と、夏の昼下がりにピッタリのナンバーが続く。
 ベン・ヴェガスの⑭「レット・イット・ビー」は原曲にかなり近いアレンジであまりハワイアン・スタイルという感じはしないが、これはこれでエエ感じの聴きごたえのあるナンバーに仕上がっている。ラストは「ウクレレ・ビートルズ」を彷彿とさせるようなイントロが印象的な⑮「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」。ロシェリー・ミドロという新人シンガーが歌っているのだが、ウクレレをバックに淡々と歌うこのトラックはハワイの夕暮れ時を想い起こさせる、ワイキキ・ビーチを車で流しながらゆったり気分で聴いたら絶対にハマるサウンドだ。
 ボッサ、ウクレレ、サルサ、ラテンetc 数ある夏向けビートルズ・カヴァー集の中で、この「レット・イット・ビー・ハワイアン・スタイル」は派手さはないものの、トップクラスの内容を誇る1枚だと思う。

シー・ラヴズ・ユー

Meet The Beatles / The Inmates

2009-06-23 | Beatles Tribute
 音楽ファン(もちろん私も含めて)というのは勝手にライバル関係を作り上げてどっちが良いとか喧々諤々の議論をしながら楽しむ傾向が多々あると思う。ゼッペリンvsパープル、マイコーvsプリンス、キャンディーズvsピンク・レディー、拓郎vs陽水と、挙げていけば枚挙に暇がない。こういう “作られたライバル関係” というのは、実際には志向している音楽的方向性etcが違うということが多いものだが、見た目には絵になる構図なのでメディアはここぞとばかり煽りまくる。そんな中、王者ビートルズのライバルは、ある時はビーチ・ボーイズだったり、又ある時はベンチャーズだったり(65年当時の日本だけですけど...)するのだが、同じイギリス出身のロック・バンドということでよく比較の対象にされてきたのがローリング・ストーンズである。
 まぁ両者ともに現役の頃ならいざ知らず、今となっては全く不毛な議論だとは思うが、ロックンロールをベースにフォーク、ブルース、カントリーといった様々なスタイルを貪欲に取り入れながら独自のポピュラー・ミュージックを創造していったビートルズの “拡散美” に対し、あくまでも自らのルーツであるリズム&ブルースに拘ったストーンズの “様式美” の違いと言っていいと思う。後はもう各人の好みの問題だと思うし、私はビートルズ原理主義者(笑)だが、ストーンズも好きでよく聴いている。
 そんな私にとって、もしもビートルズの楽曲をローリング・ストーンズがカヴァーしたら... というのは想像してみるだけでも楽しい妄想だったが、何とそれを現実にしてしまったバンドがいるのである。インメイツ... この盤を知るまでは名前すら聞いたことのないバンドだった。この「ミート・ザ・ビートルズ~ライブ・イン・パリ~」は87年のライブで全曲ビートルズのカヴァー、しかもヴォーカルはミック・ジャガーそっくりだし、バンドのサウンドも60年代中期のストーンズを彷彿とさせるシンプル&ストレートなロックンロールで、細かいことを気にせずにガンガン攻める骨太ガレージ・パンクだ。選曲がこれ又ユニークで、滅多にカヴァーされることのない①「リトル・チャイルド」や②「アイル・ゲット・ユー」なんかも演っている。ひょっとしてコイツら、かなりのビートルマニアなのかも...
 とにかくこのバンド、①のアタマから全開で突っ走る。 “リルチャアィル~♪” のイントネーションがモロにミックしているのが面白い。②も大胆なアレンジでインメイツ流に料理しており、そのステイタス・クォーみたいなグルーヴがたまらない。③「シーズ・ア・ウーマン」は割と原曲に忠実なアレンジながらリズム隊が大活躍で、縦横無尽に低音部を埋めるベースの躍動感には目を見張るものがあるし、レノン&マッカートニーの隠れ名曲④「ユー・キャント・ドゥー・ザット」でもドラムの叩き出す重いビートがめちゃくちゃ気持ちいい(^o^)丿 凄まじい勢いで突き進む⑤「デイ・トリッパー」でのノリノリの演奏も痛快だ。間髪をいれずに始まる⑥「バック・イン・ザ・USSR」、このあたりまで聴いてくるとストーンズ風とかはもうどうでもよくなってきて、ただただ最高のロックンロールを楽しむだけという感じになってくる。⑦「ウィー・キャン・ワーク・イット・アウト」で少しクールダウンした後、⑧「アイ・ワナ・ビー・ユア・マン」をストーンズ・ヴァージョンでビシッとキメてくれる。これ、めちゃくちゃカッコイイ(≧▽≦) お次は何と⑨「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」だ。スタジオ・レコーディング・テクノロジーの塊のように思われている同アルバムのタイトル曲だが、私に言わせればライブ感溢れるロックンロール。それを見抜いた見事な選曲に脱帽だ。この曲以降5曲連続してポール作のロックンロールが並ぶが、⑩「バースデイ」の異様なまでの盛り上がりはライブならでは。⑪「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」の疾走感はもう圧巻と言う他ない。⑫「ゲット・バック」ではミック節が舌好調で、ある意味ミックよりもミックらしいかも...(笑) やりたい放題にガンガン弾きまくるラウドなギターもたまらない。⑬「アイム・ダウン」はご存知のように本家ビートルズのライブ・クロージング・ナンバーで、このインメイツのライブでも最後の大爆発といった感じでバンドが一体となって燃え上がる様がダイレクトに伝わってくる。ラストは⑭「ヘイ・ジュード」なのだが、ここまでハイスピード・ロックンロール1本でグイグイ押しておきながら、何で?と言いたくなる。ひょっとすると “ただ歌いたかっただけ” なのかもしれないが、私にはこの選曲だけが解せない。
 私の持っているCDは2002年に再発されたリマスター盤で、ボートラ3曲が新たに追加されたお徳用盤なのだが、特にエディ・コクランのカヴァー⑯「ジニー ジニー ジニー」が素晴らしい。⑰「テル・ミー・ホワッツ・ロング」のパワフルでスピード感溢れる演奏も特筆モノだ。購入時にはくれぐれも曲数をチェックしましょう。

The Inmates- Back to USSR