蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

逆軍の旗

2021年11月13日 | 本の感想
逆軍の旗(藤沢周平 文春文庫)

本能寺の変前後の光秀の心境を描いたのが表題作。
山形の近くにあった戸沢藩の幹部たちの暗闘を描いた「上意あらたまる」、南部藩の雫石で起こった仇討ち事件(仇討ちをするのが武士ではないところが異色)を描いた「二人の失踪人)、上杉鷹山の前半生を描いた「幻にあらず」を収めた短編集。

藤沢さんというと、司馬さんと並んで中毒患者が多い作家ではないかと思う。私は司馬さんの方にやられていて、ほとんどの作品が傑作だと思えてしまうのだが、どうも藤沢さんとは相性が悪くてあまり面白いと思ったことがない。

本作は史実に材を取っているということで読んでみた。
表題作はありきたりだったが(失礼)、「二人の失踪人」はよかった。
現実の事件とは思えないような筋立てだが、江戸時代の仇討ちシステム?(仇討ちの実行支援や実行後の始末ルールみたいなの)が合理的に整えられていることが伺えて面白かった。
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彼方の友へ

2021年11月13日 | 本の感想
彼方の友へ(伊吹有喜 実業之日本社文庫)

戦前から戦後にかけて発売された「少女の友」(実業之日本社が発行。作中では「乙女の友」)という雑誌の編集部をモデルにした小説。主筆(事実上は編集長)と呼ばれるイケメンと気鋭の青年挿絵作家(中原淳一がモデル)が、家柄も学歴もなく見場もぱっとしないバイトの女の子(佐倉ハツ)の文学的才能を見出して育て上げていく(その過程でモテモテのイケメン主筆がその女の子に惚れてしまう)という、少女マンガの王道をいくようなストーリー。

と、いうような要約を読んだとしたら、私は絶対にその本を読むことはないと思うが、実際読んでみると、素晴らしいエンタテインメントに仕上がっていた。(なので上記は適切な要約ではありません。。。)

年に1冊か2冊くらい、「この小説を読めて幸せだった」という本がある。本書はそういう類の作品で多くの人におすすめできる内容だった。
回収されていない伏線もたくさんあるので、続編や外伝的作品も期待したい。
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航路を守れ

2021年11月13日 | 本の感想
航路を守れ(ジョン・C・ボーグル 幻戯書房)

1974年に運用会社バンガードを設立し、翌年設定したインデックスファンドを中心にして同社を世界有数の規模にまで育て上げた著者の回顧録。
何事も平均に回帰する、といいうのが著者の信念で、すばらしい運用成績を残しているファンドも長期的には市場平均のパフォーマンスに落ちてくる(逆も真)、という意味。それならば、最初から平均(インデックス)に連動するよう銘柄選択をして後はできるだけ運用や販売費用を減らせばファンドのパフォーマンスはよくなるはず、というのが著者の哲学のようである。

インデックスファンドの父として有名な著者は、業界との摩擦を恐れない、逆にいうとちょっと圭角のある人物と聞いていたが、本書を読むと、そのとおりのプライドが高そうな人だなあ、と思えた。まあ、そういう人でないと革命的な事績を残すことは難しい、ということだろう。

かつて日本の投信の多くは、数年で償還を迎えることが多かった。恐らく銀行の定期預金の対抗商品として2年くらいの満期期間みたいなものがあったほうがわかりやすかったからだろうが、販売会社の手数料稼ぎの手段としてもその方が都合がよい、という面が強かった(次々に乗り換えさせるため)のではないかと思う。
アメリカでは(日本風にいうと)会社型の商品が多くて、一旦設定されれば半永久的に継続されることが前提になっているようだ。
設立して数年くらいの成績不振でファンドを見限ることはなく、運用会社の変更など様々な努力を経て成長させていこうとしていることが本書を読むとよくわかった。

本書にも何人か登場するが、かつて(1990年代まで?)は「マネーマスター」などと呼ばれる著名なファンドマネージャがたくさんいた。
リンチ、バフェット、ネフ、テンプルトンなどなど。
しかし、2000年代になるとこうした運用業界の巨人としての個人名はあまり聞かなくなったような気がする。インデックスファンドやETFの隆盛ということもあるが、情報が瞬時かつ広範にゆきわたる環境が整ってきたせいで市場が効率化してきたためかもしれない。
もし、そうだとすると1970年代にすでにそうした未来を予見していた著者の先見性はやはり常人離れしていた、というべきだろう。
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