蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

オリーヴ・キタリッジの生活

2015年06月28日 | 本の感想
オリーヴ・キタリッジの生活(エリザベス・ストラウト 早川書房)

アメリカ北東部の小さな町の出来事を描いた短編集。

出番の多寡はあるものの、どの短編にも数学教師のオリーヴが登場する。
オリーヴはマイペースで自己主張が強く、思ったことを口にせずにはいられない性格。
このため、夫にも元生徒にも近所の人にも恋人にも「ちょっと厄介な人だ」と思われているが、陰湿さはないの、仲間外れにされるということもない。
各編の主人公(オリーヴが主人公であることもある)は、いろいろな悩みや困りごとを抱えている。でも、オリーヴの豪快?でドライな態度に接することで、しばしそうした屈託を忘れることができる・・・みたいな筋が多かった(かな?)。

登場人物の人となりや周辺の状況をあまり説明しないままにストーリーが進んでいくので、読者はある程度想像で補わざるを得ない。そのため少々読み進めにくい感じもしたが、饒舌で説明的でわかりやすすぎる作品が多い中で新鮮な印象があった。

年齢を重ねることで発生する人生の難事にどう対処していくのか、あるいは、どううっちゃっていくべきなのか・・・そんなことがテーマなのかと思う。
なので、若い人が読んでもあまり面白くないかもしれない。

夫をなくした後、オリーヴは毎朝飼い犬を車の後部に載せてなじみのダンキンドーナツへ行く。毎日来るので細々注文しなくても望みのドーナツとコーヒーが出てくる。車で新聞を読みながらドーナツを食べ、犬にもおすそ分けして、そのあと、犬と川沿いを散歩する・・・家族や友人との別れが多くなるなど老年期には苦しいことが多いのだろうが、こんな情景にはあこがれを感じた。
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もたない男

2015年06月14日 | 本の感想
もたない男(中崎タツヤ 新潮文庫)

大学を出て就職して最初の職場にいた私の先輩は、会社の机周りも会社の寮の部屋も目に見えるところには本当になんにもなかった。
部屋の掃除は朝夕2回。風呂にはいるとすぐに髪にこってり油をのせてリーゼント風の7・3分け?にして、無駄なことはいっさいせずにすぐに寝る。
スーツやワイシャツ以外の私服はほとんど持たず、寮の室内のクローゼット内すらほとんどモノがなかった。それらしい持ち物は債券投資の分厚い教科書一冊と高校野球の名鑑みたいなのだけ。それでいて普段の行動は豪放磊落、ヘビースモーカーで酒も毎日のように飲むけど、卓越したリーダーシップで営業所の成績を牽引していた。
この先輩ほど、人は見かけによらないもの、というのを感じさせてくれた人はいなかった。

*****

ちょっと趣は異なるけど、本書の著者も極端なきれい好き。ひまさえあれば、「次は何を捨てよう」と考えているという。
本や読み終わった部分から破り捨てる、ボールペンはインクが減ってくると軸を切って短くする、という(これってネタなのか、実話なのか)。
捨てる一方では、すぐに捨てるモノがなくなってしまうので、反面として物欲も過剰で、バイクに凝ったころは排気量別に4台も持っていたらしい。

私も前述の先輩や著者には遠く及ばないが、掃除好き、整頓好きな方なので、気持ちはよくわかる。さっぱり片付いた時の気持ちよさは、人生のおける快楽のうちでも上の方に位置するものだ。
しかし、そんな私でも、著者の行動には病的なものを感じた。本書の冒頭に挿入された見事に何もない仕事部屋で毎日9時から5時までひたすら仕事(マンガ描き)を続ける著者。「鬼気迫る」とはこうしたことをいうのだろうか。
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甘美なる作戦

2015年06月14日 | 本の感想
甘美なる作戦(イアン・マキューアン 新潮社)

名門大学の数学科へ進学したものの成績がぱっとしないまま卒業した主人公は、とびっきりの美人。
愛人でもあった教授の誘いでMI5に入る。
やがて、政府よりの世論を作るために芸術家に金銭的支援を与えるという「スイート・ティース」というコードネームの作戦に参画することになり、主人公はある作家を担当することになるが、その作家と恋に落ちてしまい・・・という話。

主人公が援助する作家が書いた作中作がいくつも(あらすじ程度だが)登場するのだが、えーと、本筋より作中作の方が面白かったような・・・特に双子の兄弟が入れ替わって牧師になる話がよかった。
あと、MI5へ誘った(愛人でもある)教授との別れのエピソードもとてもよかった。

エンタテインメントというより文学部の大学教授が教材としてかいた作品みたいな感じ。そうかといって実験作的な難解さもなくて小説として十分に楽しめた。

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