蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

投資レジェンドが教えるヤバい会社

2017年07月30日 | 本の感想
投資レジェンドが教えるヤバい会社(藤野英人 日経ビジネス人文庫)

ファンドマネージャである著者は、多数の投資候補会社への訪問インタビュウの経験から、社長や会社のちょっとした特徴を観察することにより、投資してよい会社かどうかがわかるという。

有名なのは、社員が会社でスリッパに履き替える会社はダメ、というもので、本書では、このほか、社長室に高価そうな美術品が飾ってある、受付の人が常識外れに美人、コピー機の周りが汚い、ホームページに役員の顔写真がない、女性役員比率が低い、社名に漢字がはいっている、本社が東京中心地、などが投資してはいけない例として挙げられている。後半4例は、実証までしているのでなかなか侮れない。

一方、良い会社の例としては、社長がオーナー、(若い会社だが)幹部社員に生え抜きが多い、決算説明書が急にわかりやすくなった、などがある。

この手のファンドマネージャの自慢話?でよくある「私の成功例銘柄」の解説みたいなのがないのが好感がもてる。実際、著者が社長の運用会社の保有上位銘柄を見ると、けっこう頻繁に売買をしているように見え、一つの銘柄に惚れ込んで長期保有するいうスタイルではないようだ。
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参謀の甲子園

2017年07月30日 | 本の感想
参謀の甲子園(小倉清一郎 講談社+α文庫)

長年横浜高校野球部の部長を務め、技術指導や作戦立案の中心となった著者は、全国屈指の激戦地神奈川県予選を何度も勝ち抜き、甲子園でも輝かしい実績を残すとともに、松坂、涌井、成瀬、筒香といったプロ野球を代表するような選手を育て上げる。

小倉さんが偵察や観察により相手チームを分析した小倉メモというのがあって試合ごとに選手に内容を徹底している、というのは聞いたことがあったが、本書(に収録された)松坂のインタビュウによると、メモは、プロ野球のミーティングなどで提供される情報よりも中身が濃かったという。

技術指導では、走りこみを重視し、松坂や涌井はアメリカンノック(外野の端からセンターあたりまで全力疾走してノックされたフライを取る)で鍛えられたという。
育成で意外だったのは、(ピッチングフォームから見て)いかにも“作った”ように見える成瀬が(松坂や涌井に比べて)一番手間がかからず独力で一人前になったと言っていること。本書によると著者がロッテのスカウトに頼み込んでドラフト下位で指名してもらった成瀬は、(意外といっては失礼だが)シーズン10勝超えを何度も記録する。
反対にいかにも天才肌っぽい松坂は、横浜高校にはいった時はアンパンマンのような感じの体形でスピードもあまり出なかったというが、常識を超えるようなアメリカンノックの回数をこなさせて年々球速が増したそうである。
また、プロを狙えるようなピッチャーと見込めば、フィールディングとクイックと牽制を重点的に教えたそうである。そうしないとそれを覚えるために(プロでの)数年を費やしてしまうからだそうだが、確かに松坂、涌井は全部うまいなあ。

横浜高校は野球部の(学校の)予算は年間数十万円だそうで、生徒からの部費もごくわずかで、活動費のほとんどは寄付に頼っているらしい。それを募ってくるのは渡辺監督だったそうで、支援者の筆頭はお寺の住職だったらしいというのにも驚いた。
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月の満ち欠け

2017年07月25日 | 本の感想
月の満ち欠け(佐藤正午 岩波書店)

主人公の娘は前世の記憶をもっているらしかったが、主人公は、娘も、娘の言うことを信じている妻も精神的な病なのでは?と疑う。妻と娘は事故で死んでしまうが、娘のさらに生まれ変わりだという子供が出現して、彼女たちが共通して持っている瑠璃という女性の記憶は何代も引き継がれていることがわかる・・・という話(ホラーではありません。恋愛小説です)。

相当にややこしい筋なのにとてもわかりやすく展開され、著者の作品によくあるパターンなのだが、最後まで読むともう一度最初から読みたくなるというふうに収拾されているところが、相変わらずうまいなあ、と思った。

佐藤さんというと文章力の素晴らしさが強調されることが多いように思うが、ストーリーの構築力(シナリオ作りみたいなもの)の方がより力強いと私は思う。

佐藤さんの作品では、しごくまっとうな人生を送っていた人が、ふとしたきっかけからどんどん変な方向に曲がっていってしまう、というパターンが多いのだが、その、どんどん曲がって落ちて行ってしまう感が(どの作品でも)スピーディでスリリングで何とも言えない緊張感がある。本作では正木竜之介のエピソードがそれにあたっていて、このパートが一番楽しんで読めた。

さて、本作は直木賞を受賞したのだが、例年のように「まだ貰ってなかったっけ?」「審査する人より受賞者の方がうまいのでは?」「今さら何で」といった感想を持ってしまう。
それに出版社が岩●ではちゃんと拡販?してくれるのだろうか?なんて余計な心配までしてしまう。長年の著者のファンとしては。
「鳩の撃退法」の時は、けっこう版元が力を入れていて、珍しく著者が新聞のインタビュウに登場したりしていた(若い時の写真しか見たことがなかったので、新聞の写真みてふて老けていらっしゃる(失礼)のにびっくりした)のになあ・・・本書の発売は本屋の店頭で見かけるまで気がつかなかったぞ。

直木賞受賞の次回作としては不適当かもしれないが、次は、満を持して競輪(の客でも選手でもいい)をテーマにした、どっぷりギャンブルに浸かった人(私小説だとなおいいと思う)の話がいいなあ。
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長くなるのでまたにする。

2017年07月22日 | 本の感想
長くなるのでまたにする。(宮沢章夫 幻冬舎)

昔、宮沢さんのエッセイの出始め?の頃、とても面白くて立て続けに何冊か読んだ覚えがある。(牛がナントカとかわからなくなってきましたとかいったタイトルだったと思う)

ただ、本書のあとがきで著者自身が言っているのだけど、笑わせようとするパターンがいつも同じ(例えば、身近にある書き物(説明書とか)をマジマジと読んでみると妙に面白いとか)なので、その後はちょっと飽きがきた。

本書ではヤフーオークションで落札したのに、うっかり連絡を忘れていたら「非常に悪い落札者」の烙印?を押されてしまったという話がおもしろかった。

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憧れの女の子

2017年07月16日 | 本の感想
憧れの女の子(朝比奈あすか 双葉社)

巻末の初出をみると、多くが推理小説雑誌なのでミステリなのかと思ったら(若干そういう風味のものもあるけど)普通の小説(短編集)だった。

「憧れの女の子」
→一人目、二人目の子供が男の子で、どうしても女の子がほしい妻とその夫の話。
不妊治療ならまだしも産み分けまで人為的に行うのはどうかと思うものの、豊かな国ならではの現象なのでしょうな。
夫のビジネスの話、乱暴な次男の教育の話など多様なトピックを50ページ程度の長さにうまくまとめて、「この後どうなる?」と思わせる筋立ても上手で、著者の技量の高さがうかがえた。

「ある男女をとりまく風景」
→単純な仕掛けなのに「ミステリじゃなくて普通の小説だ」と思って読み始めたので、なかなか気が付かなかった。

「弟の婚約者」
→ジムでヨガなどのインストラクターをしている主人公は、かわいがっていた弟が連れてきた恋人に戸惑う、という話なのだが、テーマは主人公の自分さがし。相当の年齢になって不安定なフリーのインストラクターのままでいいのだろうか、という心の揺れがうまく描かれていた。

「リボン」
→少年時代からゲイであることを自覚している主人公は脱サラして喫茶店を経営している。その店のパートの人から紹介された(柔道部でごつい)学生が気になるが・・・という話。
本当かどうか知るすべがないけど、ゲイの人の心境ってこんあ感じなんだろうなあ、と思わせてくれる心理描写がよかった。

「わたくしたちの境目は」
妻を亡くし、退職して手持ち無沙汰な主人公は、息子夫婦に誘われて山奥の温泉にいくが・・・という話。混浴事情?など温泉情報?は目新しかったが、うーん、他に比べるとストーリーが平板だったような気がする。
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