蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

貧困の終焉

2007年02月26日 | 本の感想
貧困の終焉(ジェフリー・サックス 鈴木主税・野中邦子訳 早川書房)

著者は、コロンビア大の経済学の教授で、ボリビア、ポーランド、ロシア政府の経済顧問を歴任した「開発経済学」の第一人者。
本のタイトル通り、2025年に全世界から極度の貧困(十分な食料・医療・衛生・教育を受けられない貧しさ)をなくすことを目標とし、中間的な目標として国連が提唱しているミレニアムプロジェクトを2015年までに達成することを目指している。この本は、その理論的背景と具体的な実現方法を述べている。

自らの研究と体験から、極度の貧困に苦しむ国を救う前提として先進国(もしくはそうした国の金融機関)の債権放棄と新たな援助を主張しているので、IMFやアメリカ政府からは嫌われているようだ。

極度の貧困をなくす具体策とそれに必要な金額を理論的に算出し、さらになぜ先進国が貧困に苦しむ国を助けなければならないか、あるいは、援助のメリットを冷静(でない時もまま文章に表れるが)に記述しているので、大変に説得力がある。

10年、20年前なら、しょせん学者の絵空事、で終わりそうな話である。しかし情報の伝達速度が極端に増大しているためであろうか、ここ何年か実現不可能と思われた“タテマエ(正論、あるいは理論)”が急激に“本音(現実)”に接近(本音の方がタテマエに擦り寄る)ことが多いような気がする。もしかして、多くの人がこのプランを知り、陰に日向に支援をするなら、夢が実現する可能性は高まっているのではないか、と思わせてくれるほどの説得力だった。
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インサイドマン

2007年02月18日 | 映画の感想
ニューヨークの銀行に強盗団が押し入り、従業員と多数の客を人質に立て籠もり、脱出用の飛行機などを要求する。銀行のオーナーから依頼された女弁護士が介入したりするが、解決には近づかない。人質の処刑場面が公開され、警察は強行突入するが、犯人は人質全員に自分たちと同じユニフォームを着させていて誰が犯人なのかわからなくなる。

印象的な場面で伏線が張られているし、展開が直線的に進むので、ストーリーがわかりやすく楽しめる。犯人、刑事、弁護士といった主役級のみならず、チョイ役もふくめてスタイリッシュでおしゃれな雰囲気をまとっていて、都会的な映画という印象を与える。

中盤で、犯人が人質の子供が興じる携帯型ゲームをのぞきこみ、その残虐な内容に顔をしかめ「オレはこんなことはしない」という旨のセリフをいう。この映画全体を象徴する場面で印象に残った。
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間宮兄弟

2007年02月12日 | 映画の感想
(私)「この(間宮兄弟の)兄貴が惚れるビデオ屋の女の子の役の女優だけど、演技は、その、何だけど、美人だし、華があるよね。名前知ってる?」

(妻)「沢尻エリカ」

(私)「あ、なんか名前だけは聞いたことある」

(妻)「今時、沢尻エリカを知らない日本人がいたとはねえ」

(私)「・・・・・・・」

(妻)「要は、間宮兄弟って、大金持ちでマザコンのボンボンのオタクで、それゆえ女にはもてませんって話?」

(私)「ミもフタもない言い方だね。あいかわらず。まあ、一人じゃ女の子とうまく関係が作れない男の子も最近じゃ多いってことだろうね」

(妻)「ドレミファドンの司会者の人って鬱病だったよね」

(私)「(なんだいきなり)・・・確かそうだったと思う。もう回復したらしいけど」

(妻)「鬱病にかかるような人には見えなかったけどねえ。テレビの画面では」

(私)「まあ陽気な人ほど、落ち込むと激しいんだろうねえ」

(妻)「その息子さん、この映画での役回りって、まさにそんな感じよね。外面は陽気でにぎやかだけど、妻と愛人にはさまれて、明日電車にとびこんでもおかしくないってムードがよくでてる」
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クラッシュ

2007年02月10日 | 映画の感想
アメリカ西海岸(ロス)を舞台にした人種間対立をテーマにした映画。

主に自動車に関するいくつかの事件が発生し、登場人物が対立し、いがみあい、時には和解し、極悪人かと思われた人にもいくばくかの良心が発見され、善人と見えた人が思いがけず悪事をはたらいてしまう。

短いエピソードがいくつも絡み合わせて順不同に描かれるし、登場人物も多い。しかし、監督の編集力が卓越しているためであろう、中盤以降、各エピソードの関連性が明らかになるにつれ、全体像が浮かび上がってくるように出来ている。

特に西海岸においては、人種対立なんて過去の話なのかなーと思っていたけれど、この映画を見る限り、解消どころか、最近むしろ先鋭化しているようにも見える。特にアファーマティブアクションの矛盾が強調されていた。

しかし、そうはいってもエンタテイメント映画ではあるので、あまり生々しいトピックは避けているような気もした。最近の人種間問題というとまずはヒスパニック系の話かな、とも思うが(ヒスパニック系の人も登場するが)あまり深刻な描写にはなっていなかった。
アファーマティブアクションって少々古めかしい話題のような気もするし、ある程度社会で消化済みのトピックを選んでいるのかもしれない。
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いつか王子駅で

2007年02月08日 | 本の感想
いつか王子駅で(堀江敏幸 新潮社)

昨年、新潮文庫に入って話題になり知った作品。ハードカバーを図書館で借りて読みました。

前半は、「書斎の競馬」という雑誌に連載されたものとのことで、競馬や馬の話題が各章に登場します。しかし、ストーリーの大半は、尾久(田端の近く。広大なJRの操車場の端に小さな駅がある)の近くに住む大学講師の高等遊民的(我ながらワーディングが古くさい)日常を描くことに費やされます。

主人公は、時々思い出したように品川の大学へ授業に行くくらいで、後は倉庫の2階に借りた部屋で古本を読んですごします。近くの居酒屋で定食を食べるのがルーチンで、居酒屋のくせにネルドリップでたてる珈琲が自慢の店。この珈琲がなんともうまそうです。私は東北本線で通勤しているので、毎日尾久を通過します。もしモデルがあるなら是非一度飲んでみたいものです。

大家の娘の家庭教師をして、その家族と仲良くなって娘(陸上部)の競技会に行ったりします。

嫁さんも子供も愛人も仲のいい友人も登場しません。近所の人たちとの薄味な交際が淡々と描かれます。このような本が好評を得るのは、私も含め多くの人がこんな生活にあこがれているからでしょう。
もっとも、本当にこんな生活をしたら、退屈で、さみしくて、一週間ももたないような気がします。あくまで本の中の話だからこそ、憧れがわいてくるのだと思います。
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