蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー

2024年03月24日 | 本の感想
トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー(ガブリエル・ぜヴィン 早川書房)

サムソン・メイザーは韓国系でハーバード大に通う。幼いころの事故で足に障がいがある。
セイディ・グリーンはユダヤ系でMITの生徒。
二人は子どもの頃病院のデイルームでいっしょにマリオを遊んで知り合う。
セイディはゲームのゼミで、有名なゲームデザイナーのドーブに教わり、サムソン、サムソンのルームメイトのマークス(日系)とともに「イチゴ」(主人公は日本人で背番号が15のユニフォームを着ている)と名付けたゲーム制作を始める・・・という話。

最初から最後までゲーム作りの話なのだけれど、テーマはサムソンとセイディとマークスの30年に渡る友情。
セイディはゲーム作りの天才で、天才にありがちな気まぐれな性格でドーブと不倫している。サムソンとマークスはセイディに振り回されながらも、彼女の才能を育み、玄人好みの彼女の作品をプロモートしていく・・・という主筋に、サムソンの母アナ(俳優)、サムソンの祖父母のドンヒョンとボッチャ(NYでピザ屋を営む)、セイディの姉のアリスのエピソード、マークスの思いがけない死などのエピソードが絶妙に絡んで、(多少読みにくい感じもあるが)彼らとともに生きてきたような気分に浸ることができた。
マークスが亡くなる場面が特に感動的だった。
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落下の解剖学

2024年03月23日 | 映画の感想
落下の解剖学

雪の山荘でサンドラの夫が転落死する。発見者は犬の散歩帰りの息子で、彼は視覚に障がいがあった。当時山荘にはサンドラしかおらず、彼女は殺人の容疑で逮捕されフランスの法廷で裁かれることになった・・・という話。

サンドラはドイツ生まれだが、英語はネイティブ並み、フランス語は苦手、という設定になっている。法廷では、基本的にフランス語での証言を求められるが、通訳がついていて核心に近いところでは英語で証言する。
サンドラの弁護士はフランス人で、打ち合わせする時、サンドラは英語で話すが、弁護士はたどたどしい英語で話す、みたいな異言語文化間の摩擦が本作の見どころの一つだと思うが、字幕ではそのニュアンスが十分には伝わってこなくて残念だった。

サスペンス感はなくて、ミステリとしてみると謎解きに意外性はあるものの、解決があいまいでカタルシスもない。全体としてノンフィクション風で、エンタメとして見ると失望しそうだが、逆にいうとカンヌの審査員にはウケそうな内容なのかもしれない。

検察官や弁護士が特有の衣装をまとったり、裁判官の席に無造作に大量の資料が積み上げられるフランスの法廷シーンが興味深かった。
謎解きのキーとなるシベリアンハスキー?の飼い犬の演技?が見事だった。
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ななつのこ

2024年03月23日 | 本の感想
ななつのこ(加納朋子 創元推理文庫)

短大生の入江駒子は、「ななつのこ」というミステリ短編集が気に入って、自分の周りでおきたちょっとした事件の内容を同書の著者に手紙で送る。著者からは謎解きを記した返信がきて・・・という短編集。

著者の別のシリーズを読んでいて、「駒子シリーズ」も読んでみたいな、と思っていた。最近久々にシリーズ新刊が出たので、きっかけとして読み始めることにした。

本書が最初に刊行された頃は、北村薫さんの「私」シリーズを始めとする「日常の謎」ミステリが全盛期?で、本書のように、そのものズバリ「日常の謎」系ミステリが新人賞を獲るのはかえって困難だったと思われるが、それを乗り越えて鮎川賞を受賞しただけのことはある内容。

特に絵画のすり替えトリックの「モヤイの鼠」がよかった。トリックは本当に単純極まりないのだが、それだけに謎解きに鮮やかさがあった。

「私」シリーズには、素朴な謎解きの裏に人間の愚かさや悪どさをのぞかせる、読者をヒヤリとさせるものがあったが、本書ではそういうところはなくて、ほとんどの登場人物が善意な人。それが、心温まると感じる人もいれば、物足りないと感じる人もいるかもしれない。
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ゴールド・ボーイ

2024年03月13日 | 映画の感想
ゴールド・ボーイ

沖縄の大企業グループのオーナーの女婿の東昇(岡田将生)は周到な計画でオーナー夫妻を崖から突き落とし殺害する。中学生の安室朝陽(羽村仁成)は偶然に突き落とす場面を動画撮影し、継父になじめず家出してきた友人の上間兄妹とともに東昇にこの動画を買い取ってもらおうとするが・・・という話。

いやー、もしかするとエンタメ作品としては、これまでみた映画で最高の出来だったかも。
とにかくテンポがよくて、説明は最小限なのに五転六転?くらいするストーリーを実にわかりやすく、「次、どうなるの」感満載でスピーディーに展開して、文字通り時間の経過を忘れさせてくれる。
まあ、反面、テーマ性とかアート性、あるいはリアリティ(実際にはこんなにうまくいかないよね)は皆無なんだけど、そんなことどうでもいいとも思えてくるほど楽しめる。

主役の朝陽とヒロインの上間夏月(星乃あんな)のセリフ回しは少々苦しいが、岡田将生、黒木華(朝陽の母役)、江口洋介(刑事役)、北村一輝(朝陽の父役)といった芸達者がカバーしてくれている。
特に岡田将生。最近の出演作を見ていると悪役の方が似合っている感じだったが、本作は本当に素晴らしい。表情の変化が特によかった。
悪役が似合いそうな北村一輝が、悪人ばかりの登場人物の中で唯一まともそうなキャラというのもいいなあ。(善人っぽい黒木華や江口洋介も実は・・・という匂わせもいいね)

監督の金子さんってガメラの監督だよね?特撮系に特化した人なのかと思っていたけど、そんなことなかったんだね。監督の編集力が本作の成功要因だと思うし、異国感を強調した沖縄の表現も出色だったと思う。タイトルロールの最後で続編作成を予告していた?ので、とても楽しみだ。あのくらいで朝陽はギブアップしないよ、きっと。

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少女は卒業しない

2024年03月12日 | 映画の感想
少女は卒業しない(映画)

廃校が決まった高校で卒業式の日とその一日前の高校3年生の不安定な心を描く。
山城(河合優実)は式で返辞を読むことを引き受ける。引き受けたのには理由があった。
バスケ部部長の後藤は進学して上京が決まって、地元に残る彼氏と微妙なムードになっていた。
軽音楽部部長の神田は、幼なじみの森崎にボーカルとしての実力を発揮してもらいたがっていた。
クラスになじめなかった作田の居場所は図書室で、そこで司書?の坂口先生(藤原季節)とおしゃべりするのが楽しみだった。

原作は朝井リョウで、そのわりにはキラキラ系の高校生ばかりなのが意外だった。しかし、監督もそこは原作者の真意?を悟って?いたのか、光彩を放っているのは、くすぶり系の森崎と作田だった。
昨今、各方面で評価の高い河合優実は、役柄とマッチしてない感じがしたかな。もっとドライな役回りが似合っていると思う。

作田役の人(中井友望)がとても上手で、孤独で同級生となじめない雰囲気がよく出ていた。

私も高校時代クラスや部活では孤立していて、席に座っていても居心地最悪なので、空いてる時間はいつも図書室にいた。坂口先生のような素敵な司書の人はいなかったが、そこで読む岩波の世界史講座(内容が専門的すぎ、分厚くて、確か10巻以上あって、いつまでたっても読み終えることができない所がよかった)だけがともだちだった。

高校の卒業式には出席したはずだけど、その記憶は100%欠落している。多分、作田のように最後になって何人かのクラスメイトと心通わす、なんてとこも皆無で、一人で自転車にのって田んぼ道を帰ったのだと思う。
だから、高校を卒業したら地元には残りたくなくて、親に無理を言って東京に行った。幸い、大学生の4年間はウソのように楽しく、地の底から天上のパライソにすくい上げてもらった気分だった。

作田と、高校生の頃の自分と、似たような立場にある高校生にいってあげたい。
大丈夫だよ、もう少しのガマンだ。
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