蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

さまよう刃

2008年09月30日 | 本の感想
さまよう刃(東野圭吾 角川文庫)

主人公の娘は、未成年の少年たちに強姦されたあげくに注射された覚醒剤のショックで死んでしまう。
主人公は、密告者から犯人の住所を教えられ、そこで娘の強姦シーンを撮影したビデオを見つけて逆上し、ちょうど帰ってきた少年の一人を殺す。
主人公は、逃げたもう一人の少年を追って長野のペンションをあてもなく探索するが・・・という話。

ミステリというより、未成年犯罪に関する意見をいろいろ書き並べた、小説形式の評論みたいな内容だった。

このような課題に答えがみつかるわけもなく、本書の結末も相当に中途半端。

長めの小説で、中盤の長野で探索する場面はかなり間延びしていたので、そこを我慢して読んできた読者に(ありがちで安易であっても)カタルシスを感じさせるようなエンディングにしてくれてもよかったと思う。
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ただマイヨ・ジョーヌのためでなく

2008年09月28日 | 本の感想
ただマイヨ・ジョーヌのためでなく(ランス・アームストロング 講談社文庫)

著者は、アメリカではあまり人気がなく、それゆえ同国出身の世界的な選手も少ない自転車のロードレースで頭角をあらわすが、睾丸のガンに冒されてしまう。
睾丸と脳からガンを摘出し、さらに強烈な化学療法を経て、ロードレースに返り咲く。
そればかりか世界で最も人気あるレース、ツールドフランスの7連覇という空前の記録をうちたてる。

本書は、タイトル通り、ロードレースの輝かしい勝利の記録というよりは、苦しみぬいたガンとの闘いを主題とする。
しかし、湿気くさいところはほとんどなく、闘病を描いたところさえもどこかユーモラスで、スピード感に満ち、ページをめくる手を止めさせない。(原文のライター、翻訳とも良いせいだと思う)

著者は何でも徹底してやらないと気がすまない性質のようで、ロードレースの練習と同様、ガン治療にも過剰なまでにのめり込む。
あらゆる文献を読み漁り、何人もの医者の意見を聞き、治療が始まっても毎日の施策の意味について医師や看護師に徹底的に問いただす。こうした悲観が入り込むスキがないほどの、病気への対抗心が、彼をして極めて分が悪い戦いに勝たせたのだろう。

退院間近のとき、信頼を寄せる看護師が彼に言った言葉が泣かせる。
「「ランス」。彼女は静かにこう言った。「いつかここでのことは、あなたの想像の産物だったと思える日が来るよう祈っているわ。もう私は、あなたの残りの人生には存在しないの。あなたがここを去ったら、二度と会うことがないよう願っているわ。あなたが回復したら、あなたのことは新聞やテレビで見るわ。ここではなくてね。あなたが私を必要なときにはあなたの助けになりたいけど、それが終わったら消えてしまいたいの。そしてこう思ってほしいのよ。『インディアナの看護婦ってだれだっけ?あれは夢だったのかな?』」
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美女と竹林

2008年09月27日 | 本の感想
美女と竹林(森見登美彦 光文社)

森見登美彦さんって、今人気ありますね。私もこれまで本書を除いて3冊読みました。

でも、正直言って、その、あまり面白いと思ったことがなかったのです。
京都の貧乏学生の妄想という設定自体は私の好みのカテゴリだと思いますし、文章はよく練られているように思われ、レトリックが様々にちりばめられています。ただ、先をどんどん読みたいと思わせるほどのものはありませんでした。(それでも、私としては珍しく新刊のハードカバーを買ってしまったのは、主にタイトルと装丁のせいでしょう)

本書は、竹林の整備にあこがれる著者が、知り合いの所有する荒れ放題の竹林の手入れを手がける、といった筋のエッセイか小説かよくわからない本。
手入れといっても半年に一回くらい思いついた時に友だちや編集者と竹を刈りに行くくらいであまり身がはいっていません。

著者は、自らの才能の無さへの嘆きやしょぼくれたように見える日常を描いているのですが、実は京大を出てて、サラリーマンの傍ら書いた本はベストセラーになり、NHKのトップランナーに出演して、憧れの女優と共演(?)する・・・という煌びやかな日々を送っているのです。
明石さんという著者の友人も、本書の中では相当な変人として描かれていますが、やっぱり京大を出てて、就職した銀行に飽きるとそこをやめて司法試験を受けるとすぐ合格。

もしかして著者の作品にイマイチ共感できないのは、「自伝っぽい見せかけのしょぼくれた学生の妄想みたいなこと書いてるけど、実はエリートなんじゃん」みたいなひがみのせい?
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短歌の友人

2008年09月24日 | 本の感想
短歌の友人(穂村弘 河出書房新社)

著者を知ったのは、ある出版社が配布(値段がついてるけど実際は店頭で「ご自由にお取りください」になっている類のもの)したPR誌だった。
ある有名なハードボイルド作品(確か「長いお別れ」だったと思うが)の評論(感想?)を書いていた。2ページほどの極く短いものだったが、これまでにない斬新な見方で、かつ納得性の高いものであった。

そこで著作をさがしたところ、すぐに見つかったのが「本当はちがうんだ日記」
これまた出来がすごく良くて、ファンになった。 ところが、どうも本職は歌人のようで、本書は短歌の評論集。正直言って期待したものとは違ったが、全くの門外漢にもいちおう頷かせる説得力をもった明快さがあった。

斎藤茂吉に代表される近代短歌のテーマは、私の命の重み、であり、塚本邦雄に代表される現代(戦後?)短歌のテーマは、戦争の影響と言語自体へのこだわり、であるが、現在の短歌のテーマを見出すことは難しい、というのが、多分、本書の主題だと思う。思うけど十分に理解できたわけではない。

本書で著者の感情が露出していて、「本当はちがうんだ日記」の一部みたいになっている箇所があった。
それは著者の最初の歌集に対する評論において、徹底的な否定(というより嫌悪)をあびた(歌集の評論なのに引用歌が全くないという徹底ぶり)時の感想(190ページあたり)。

正直言ってここが一番面白かった。著者には不本意かもしれないが、一読者としては、エッセイ系の著作を増やしてくれることを期待したい。特に、小説の評論に期待したいところだ。
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ノーカントリー

2008年09月23日 | 映画の感想
ノーカントリー

ベトナム戦争帰りの主人公は、狩りの最中に偶然麻薬取引の現場(取引がこじれて全員が倒れた後)に放置された大金を手にいれる。
カネを奪われた組織は、凄腕の殺し屋を雇って主人公をさがさせる。

変な髪型、無表情、どうみても非効率な圧搾ボンベを武器にした殺し屋(ハビエル・バルデム)の醸し出す雰囲気に圧倒される。
常識とはかけはなれた感覚で手当たり次第に殺人を犯していくが、一方で負傷を自ら手際よく治療していく日常性みたいなものも持ち合わせているので、あるはずがないリアリティじみたものを感じてしまう。

追われる方の主人公も、慎重で、手際の良さも抜群。
「次はどうなる?」という期待でいつまでも映画を見続けていたくなる出来のよさだった。
音響効果がほとんど削られているのもサスペンスを盛り上げている。

トミー・リー・ジョーンズ演じる保安官が、ところどころ絡んで映画に意味を持たせようとしているように思えるが、なくてもよかったと思う。最もそれでは「No Country for Old Men」というタイトルが成り立たないか。
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