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蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

遠くまで歩く

2025年05月09日 | 本の感想
遠くまで歩く(柴崎友香 中央公論新社)

森木ヤマネは小説家。少し前に7年間すごした夫と離婚していた。感染症の流行で外出や会合が難しかった時期、森木は、写真や映像から想起される情景を描写することを主な活動とする勉強会?のオンライン会合にコメンテーターとして参加することになる・・・という話。

森木が参加するオンライン会合で、出席者の情景描写が短い短編のようになっている。著者の作品で私が読んだのは「百年と一日」だけで、これもショートショート(死語かも)くらいの長さの小説を集めたもので、読んだ当時は小説集というよりネタ帳みたいな感じだなあ、と思えた。本作はよりそういう感触が強く、著者が小説を書き始めるまでのプロセスを辿っているかのような内容。
ただ、独りよがりで理解しがたいものではなく、読んでいる方も「オレも小説かけそう」なんて思わせる楽しさが感じられた。

「百年と一日」にも似たような店として登場した(と思う)、昔なつかしい平凡だけどいつまでも続いているラーメン屋の話が印象的だった。きっと著者にもそういう店があるのだろう。

作中に登場する、ロバート・ジョンソン、カレン・ダルトンの曲を聞き、写真家 小沢栄子の作品を見てみた。そうしたいと思えばインターネットで即時に見聞きできる現在のなんて便利なことよ・・・
作者がリアルにオンライン会合仲間と訪れた、旧日立航空機立川工場変電所にも行ってみようと思う。

夏目アラタの結婚(映画)

2025年05月07日 | 映画の感想
夏目アラタの結婚(映画)

児童相談所の職員の夏目アラタ(柳楽優弥)は、連続殺人事件の被害者の子供から、事件の犯人で収監されている品川真珠(黒島結菜)に会って、殺された父親の首の行方を明らかにしてほしいと依頼され、興味半分で面会する。真珠は逮捕された時は肥満体だったが、面会時には美少女然としており、アラタは関係をつなごうと突然求婚する。やがて裁判で真珠は犯人は別にいると言い出すが・・・という話。

原作がかなり長目のマンガであるせいか、かなり込み入った、しかし突拍子もない展開と謎解きになっていて、2時間くらいの映画にまとめるのに苦労したろうなあ・・・と思わせる内容だった。
主役はじめキャストはいい(市川正親が脇役で出たりしている)ので、原作にこだわらずにオリジナルっぽい話にしてしまえばよかったのに・・・と思ったが、今はそういうの難しいのかも。

主役の柳楽さんとしても、コメディっぽい方向に振るのかな?という冒頭から、後半シリアスかつサスペンス風に流れたと思ったら、トンデモ方向の真相を明らかにせねばならず、いったいオレどんなキャラ??と、なんとも悩ましかったのではないかと思われた。

真珠はもうちょっと不気味なサイコパスっぽくしてほしかったかな。ただの気楽な女の子みたいな感じだったので・・・

新幹線大爆破2025

2025年05月06日 | 映画の感想
新幹線大爆破2025

東京から新青森に向かうはやぶさに爆弾を仕掛けた、解除してほしければ1000億円払えという犯行声明が発せられる。声明で爆弾は時速100キロを割ると起爆する、と宣言されており、運転士の松本(のん)と車掌の高市(草彅剛)は指令通り時速を保って走行する。SNSなどで犯行声明を知った乗客たちが騒ぎはじめ・・・という話。

中学校の頃、年に一回映画館で映画を(無料で)見せてもらえるという学校行事があった。私の学年は、「砂の器」「二百三高地」「新幹線大爆破」だった。
誰が選んでいたのか知らないが、名作揃いのラインアップに今となっては感心する。(普通の教師なら、「二十四の瞳」とか「伊豆の踊子」なんかを無難に選びそうな気がする)

「砂の器」はお涙頂戴と知りつつも泣けてきてしかたなかった親子放浪のシーン(感動して鑑賞後、早速原作を読んだら、それは映画とはベツモノであって、放浪シーンはほんのちょっと描写されるだけだった)。

「二百三高地」も、やっぱりお仕着せとは思いつつ、移設された28サンチ砲が火を吹きついには日本軍が高地を占拠するシーンにナショナリズムをかき立てられた。(今から考えると、教師の組合の力が強かった当時、「こんな映画を学校行事として中学生に見せるとはけしからん」なんてことはなかったんだろうか??)

そして「新幹線大爆破(1975)」。実は中学生の私には筋が理解できない点もあったんだけど、スピードが自慢の新幹線の速度が落ちたら爆発する、という設定だけでワクワクドキドキできた。後に「スピード」を見たとき「なんだ新幹線・・・のマネ(しかもバスという劣化版)じゃん」なんて思ったが、実際「スピード」は本作(1975)をモチーフにした、と公言されているそうである。ちなみに作品としてもまとまりのよさ、わかりやすさは「スピード」の方が上かな・・・とも感じたが(すみません)。

2025年版では、新幹線指令の笠置(斎藤工)がかっこいい。いつもと違うサラリーマンスタイル?も新鮮でよかった。
ラストシーンの特撮は十分見応えがあったし、人気が出るのももっともだと思うけど、犯行動機と真犯人像はちょっとどうかと思えた。


クラーク・アンド・ディヴィジョン

2025年05月04日 | 本の感想
クラーク・アンド・ディヴィジョン(平原直美 小学館文庫)

1944年、日系二世のアキ・イトウは、日系人収容所から出て両親とともにシカゴに住むことになる。先に出所してシカゴに住んでいた姉のローズは、地下鉄のクラーク・アンド・ディヴィジョン駅で電車に轢かれて死亡する。警察は自殺としたが、原因に納得できないアキは、関係者に聞き込みを始める・・・という話。
解説を大矢博子さんが書いていて、その大矢さんが日経で2024年の3冊の1番目にあげていたので読んでみた。
大矢さん推薦、姉の死の原因を探るという筋立てから、当然ミステリだと思っていたのだが、そういう要素はあまりなくて、戦時中の日系人の暮らしぶりを描くことが主題となっている。
本書のなかでは「ニセイ」という用語が頻出する。移民の子なので、純粋?なアメリカ人のはずなのに、依然として移民のように扱われている・・・くらいの特別なニュアンスが感じられる。著者は日系三世だそうだが、ニセイの子供としてしか感じ取れないような微妙な周囲との距離感がうまく描かれていたと思う。

戦時中といっても(若い男性が出征していることの他は)、シカゴの描写はまるで現代アメリカみたいな感じ。アメリカに住んでいる人からすると、案外、世界大戦中も、ベトナム戦争中も、イラク戦争中も、感じ方は似たようなものなのかも知れないな、と思えた。
日本は1945年に歴史の大きな裂け目みたいなものがあるのだけれど、アメリカにはそれほど大きな裂け目はなくて、もしかしたら独立以来の歴史は平坦な、というか、見通しが良いものなのだろうか。

怒り

2025年04月29日 | 本の感想
怒り(吉田修一 中公文庫)

八王子で一家殺人事件を起こした山神一也は、顔面の整形手術をして逃亡していた。刑事の北見はその行方を追い、寄せられる目撃情報をもとに日本中に出張捜査する。
千葉の漁港の漁協の職員:槇洋平は家出していた娘の愛子を連れ戻して暮らしていた。愛子は、ふらりと現れて漁協に雇われた田代哲也を好きになるが、田代は借金取りに追われていた。
東京のエリートサラリーマン:藤田優馬はゲイで、発展場で知り合った大西直人と気が合って同居している。しかし直人は過去を明かそうとしない。
沖縄のホテルの従業員の母親と暮らす小宮山泉は、無人島の廃墟に住み着いた田中信吾を偶然みつける。田中はやがて泉の同級生の親のホテルで働き始める。

田代、大西、田中の3人のうち誰が(逃亡犯の)山神なのか?というのが主筋。
もしかして時系列が複数あって、3人とも山神本人なのでは?とも思った。しかし、そんな変なひねりはなくて、割合とあっさりかつ明白に誰が山神なのかは明かされる・・・
のだが、そこにいたるまでのプロセスを十分に楽しめる構成になっている。

愛子、優馬、泉は、自分が好意を持った人がもしかして殺人犯なのでは?との疑念にとらわれるが、それぞれに対応方法は異なるものの、皆、好きな人を信じたいという思いと、もしその人が殺人者だったらという疑いに板挟みになって苦しむ。そして3人とも相手を信じきれずに後悔する。
信じるとは?信頼とは?というのがテーマだろうか。

世界の本当の仕組み

2025年04月26日 | 本の感想
世界の本当の仕組み(バーツラフ・シュミル 草思社)

エネルギー、食料生産、素材(アンモニア、鉄鋼、プラスチック、セメント)、グローバル化、リスク(ウイルス、食事方法、自然災害)、環境(酸素・水・食料・温暖化の持続性)、未来予測の観点から、客観的・科学的観点から現象を理解することの大切さを説く。

エネルギーというと、電力とか燃料とかを連想する。そうしたものは太陽光などの再生可能エネルギーで代替できても、アンモニア(主に肥料生産に必要)などの素材や産業補助機器(例:トラクター)の生産などに使う化石燃料の代替は難しい、と指摘する。(典型的な例は飛行機。電動化は非常に難しい)

人間の活動により気候が温暖化する理屈の説明が非常にわかりやすい。というか、こんなに明快な解説を見たことがなかった。また、100年以上前から温暖化の理屈は科学的に説明されてきていて、それが一般人にも知られるようになったのが最近であるのにすぎない、というのも初めて知った。

人は自発的リスク(自分自身が選択して行動することにより発生するリスク:例:自動車の運転)を軽視することに対して、非自発的リスク(例:小惑星の衝突)は過大に評価(過剰に心配)する、という理屈も面白かった。

鳥と港

2025年04月22日 | 本の感想
鳥と港(佐原ひかり 小学館)

春指みなとは、大学院を出て就職した会社がいやでたまらない。仕事に意義が感じられず、上司の課長のすべての行動が神経にさわる。耐えきれずその会社をやめて、ふとしたことから知り合った不登校の高校生の森田飛鳥とクラファンで文通屋(応募者と文通をしてあげる)を始めるが・・・という話。

登場人物が追い詰められてる状況の描写がうまくて、読んでいる方も追い詰められた気分になれる。
就職した会社(というより上司の課長)に体質が合わず?みなとが全身全霊で?すべてを拒否するあたり、
文通屋の仕事を再就職のための逸話の一つくらいにしか思っていたなかった幼なじみの柊ちゃんと仲違いするあたり、
文通屋にも行き詰まり、パートナーの飛鳥と思惑がすれちがうあたり、
なんかは、「あー、自分はそんなふうだけにはなりたくない」と暗い気分になるのだが、裏返してみると、「今の自分はそこまでひどい状況でもないということか」ということでもあり、そこまで落ち込んだりしない妙な?効果もあった。

会社の課長さん以外の登場人物はいい人ばかりで、いくらなんでもメンタル弱すぎやろ、と思えてしまうみなとをやさしく励ます。特に、会社の先輩の下野さんや、プータローになっても何も聞かない両親なんかは、こんないい人ホンマにはおらんわな・・・と思えるほど。
一時的には対立?する柊ちゃんや飛鳥とも100点満点の円満解決するし。

というか、文通屋という商売とか、飛鳥との知り合い方(近所の公園に遺棄された家庭用郵便受に文通相手募集の手紙がはいっていた)とか、飛鳥の父は実は・・・とか、
読者のみなさん、このお話はファンタジーですよ、現実はもっときびしいですよね(アナタもご存知の通り)、と作者から言われているかのような感じだった。

浮浪児1945ー

2025年04月19日 | 本の感想
浮浪児1945−(石井光太 新潮文庫)

東京大空襲の後、血縁者も家も失った子どもたちが上野近辺に集まってきた。戦後さらに多くの身寄りのない子供、家出してきた子供が地下道を中心に集まった。彼らは浮浪児と呼ばれ、男の場合はテキヤやヤクザの手伝いなど、女の場合(男に比べると数は少なかった)には新聞売り、場合によっては売春などをして日々をしのいでいた。やがて当局が取締に乗り出し、カリコミと呼ばれる保護拘束を行い施設に収容されても多くが脱走して上野に戻った。そうした施設の中で異彩を放っていたのは都立家政の近くにあった愛児の家。石綿さたよという女性が自宅に浮浪児を招き住まわせた自然発生的な民間施設。石綿家は富裕ではあったが、数十人を引取り、公的支援もほとんどなかったことから、借金までして維持していた。愛児の家出身者を中心として元浮浪児にインタビューしたノンフィクション。

愛児の家で育った通称ディック(米兵に教わって英語が流暢だったのでついたあだ名)という男性は、1989年にさたよが亡くなった時、多額の香典を持って葬儀に参加し、仲間にも葬儀に出るように連絡し、その後もたびたび線香をあげに訪れた、という話が最も印象的だた。元浮浪児たちにとっては、さたよは文字通り母親であった。こんな人がいて、この施設が今でも存続(今は法人化しているらしい)している。こういうのを奇跡とかいうのだろうか。

愛児の家を出た後、各地を放浪した上にバブル時代に事業で大成功し、大物演歌歌手の後援会長までつとめたという人の話も興味深かった。

元浮浪児という履歴は語りたくない人がほとんどで、高齢化で著者の取材時が生の声を聞ける最後だっただろう、というあとがきは、宣伝半分かもしれないが、そのとおりで、貴重な記録になっていると思う。

少女には向かない完全犯罪

2025年04月18日 | 本の感想
少女には向かない完全犯罪(方丈貴恵 講談社)

完全犯罪請負人の黒羽烏由宇は、ビルから突き落とされ地上の彫刻に串刺しになって瀕死状態。幽霊化した彼は、最後の依頼人の娘(音葉:小学六年生)から、依頼人である彼女の両親も殺害されており、復讐の手伝いをしてくれと依頼される。幽霊として存在できるのは1週間。二人は音葉の両親が殺された現場をさぐるが、そこには両親の足跡はあっても犯人のそれは見つかっていなかった・・・という話。

2024年のミステリのランキングに入り作品。著者の作品を読んだことがなかったので、手にとってみた。

ロジック系のミステリが好きな人にとってはそこが良いのかもしれないが、筋立てをひねくりすぎていて、次々に犯人候補をあげては消していくの繰り返しが少々くどい。
これまた本格系を読み慣れた人にとってはそうでもないのかもしれないが、犯人の手がかりが少なすぎじゃね?とも感じた。
メイントリック?の足跡の謎解きも、もったいぶった割にはたいしたことなかったような・・・
(文句ばっかり言ってすみません)

哀れなるものたち

2025年04月15日 | 映画の感想
哀れなるものたち

ビクトリア時代のイギリス(的な架空世界)で、高名な医学者のゴッド(ウィレム・デフォー)は、自殺した妊婦ベラ(エマ・ストーン)の胎児の脳を妊婦に移植して救命??する。幼児が成長するようにエマの情緒も発達していくが・・・という話。

フランケンシュタイン話で人造人間を女性にしたような話なのかと思って見始めたが、ホラー的要素はなく、全体としてはコメディ色?が強い。
ベラが性的な欲求に目覚めていくシーンでは、エマ・ストーンの演技の圧?がすごすぎて、映画館のスクリーンでみたら圧倒されて気持ち悪くなりそうな気さえした(実際には自宅のテレビでみた)。
エマ・ストーンは陳腐な常套句でいうと「体当たりの演技」になる。よくこんな高名な女優がここまでできるものだと感心したが、後からウイキで見たら、自分自身も企画者の一人だったらしい。

ウィレム・デフォー演じるマッドサイエンティストも、「いかにも」みたいな外見(顔がブラックジャックみたいにツギハギ)と、落ち着いた雰囲気やゆったりとしたセリフ回しが対照的で、ちょっと間違うとドタバタになってしまいそうな作品全体のバラスト役になっていたと思う。

仕事と生活についての雑記

2025年04月11日 | 本の感想
仕事と生活についての雑記(楠木建 日本経済新聞出版)

題名通り、雑誌や自身の有料サイトに掲載されたエッセイや対談を収載する。
著者は自分の考えを文書にして発表するのが大好きだそうで、その準備段階としてのゲラの推敲すらも快楽である、という。
確かに、読んでいて楽しめるし、かなり高尚?なこともわかりやすく書いているのかもしれないが、学者(一橋大学の先生)とは思えないようなエンタメ性?に満ちた内容が多い。

本書で初めて知ったのだが、かつては(経営学の一端として)軍事関係の研究もしていたらしく、その知識を活かしたエッセイも読んでみたいなあ、と思った。

キャンティ風レシピのパスタは、書いてあるとおりに作ったらたいそう美味しかった。(アラビアータはうまくできなかった)

交通違反を繰り返した人が(免停解除?のため)行った講習会で見せられたビデオの内容はお決まりの交通事故シーンではなく・・・という話が面白かった。

一橋の学生向けに書かれた「大学での知的トレーニング」、自分の娘にもそう教えたという「仕事1年目のアドバイス」は自分が新入生か新入社員の時に読みたかった。

でも、何と言ってもよかったは冒頭の「そんなにイイか?」とGAFAの収益構造を述べた「「無料」についての断章」だった。

無人島のふたり

2025年04月07日 | 本の感想
無人島のふたり(山本文緒 新潮文庫)

2021年4月、著者は膵臓がんで余命4ヵ月と診断される。抗がん剤治療を試みるが耐えきれず自宅での緩和ケアを望む。同年10月初旬までの闘病日記。

題名は、自宅は軽井沢で元編集者の夫と二人で過ごす日々が孤島ぐらしのように感じられたことからつけたもの。

闘病記にありがちな、治療法とか薬品についての記述は最低限で、夫や訪問医や看護師との交流が中心に描かれる。
もしかして高いフィーを払っているせいなのかもしれないが、訪問医や看護師が本当に時間をかけて親身な対応をしてくれるのには驚いた。

著者は私と同じくらいの歳。そういえば、私の同級生や1、2年違いの先輩後輩でもがんを経験している人はけっこういたし、既に亡くなった人もいる。
著者も本書で述べているが、比較的若い時にがんを告げられると多くの人は「なんで私が」と思うと聞く。
医学的、生物学的?にはなりやすい人、なりにくい人がいるのだろうが、素人である一般人からすると、運命はいったいどういう基準、どういう順番で割当していくのだろう・・・と途方にくれてしまう。

著者の友人であった角田光代さんによる解説が秀逸で「なるほど、そういうふうに読むべきなんだなあ」と感心させられた。

好きになってしまいました

2025年04月06日 | 本の感想
好きになってしまいました。(三浦しをん 大和書房)

エッセイ集。

企業のPR誌や大手新聞に連載されたものが大半で、なんというか、無難というか世間の常識に合わせたまともな内容。
著者専用?サイトなどに掲載されたエッセイは、著者の推しの俳優(例:ヴィゴ・モーテンセン)や歌手(例:BUCK-TICK)に関する妄想が爆裂的に暴走する、普通の人にはついていけない?内容が多く、私はそうしたものが好きだったので、やや残念。
収録作を書いていた頃はエグザイルに夢中だったらしいけど、チラホラと名前が登場する程度だった。

自宅で栽培しているシマトネリコを角刈り?にしてしまい、シマトネリコがグレて?しまう話、

宝塚にベルばらを見に行った話(宝塚ではオスカルを演じるのは男役となっている。普段は男性の役を演じている女性が、ベルばらに限っては男装して演じる。そしてまわりのおじさんから「女のくせに」とさかんに言われるのだが、そのおじさん役の人は女性・・と考えるとクラクラしてくるという話)、

著者の父親は風呂上がりにヘアトニックを使うのだが、強烈なオヤジ臭がする。温泉にいっしょに行ったとき、旅館のアメニティのヘアトニックは、単体ではとてもさわやかな香りだったのに、父親が使うとやはりオヤジ臭になったという話、

というエッセイが面白かった。

定年物語

2025年04月04日 | 本の感想
定年物語(新井素子 中央公論新社)

小説家の大島陽子の夫の雅彦は、広告代理店を定年退職する。これまで全く家事をしてこなかった雅彦に、陽子は、洗濯と掃除を担ってもらうことを依頼する。雅彦は試行錯誤しながら家事が上達?し始める。プレバトを見て俳句を趣味にすることにした雅彦は熱心に勉強して句会にも参加するようになるが・・・という話。

あとがきによると、ほとんどが著者の家庭の実話とのこと。夫の方は、まあ、普通の元サラリーマンらしい生態?なのだが、妻(著者)の方は相当に浮世離れしている。
スマホは月に何度かくらいの頻度しか使わない。1日に2冊くらいの本を読破する。テレビは(夫が見ているのをチラ見する以外は)見ない。毎日本屋をハシゴする。蔵書は数万冊。
大学卒業以来40年くらいコンビニ弁当や冷凍ものを食べたことがない。等々

何より、スゴいな・・・と(私が)思えたのは、大学時代から付き合って、結婚して約40年も夫婦をやっているのに、いまだに週に数回は二人いっしょにスポーツジムに行ったり、買い物に出かけたりすることだ。(いや、普通でしょ、それ・・・と言える人もいるかもしれんが、私にとっては異次元だ)

著者が(星新一とかの大家から高く評価されて)デビューした頃は、女子高校生が小説家になるということ自体が非常に珍しくて、当時同じような年頃でSFファンだった私には特に衝撃的だった。ただ、グリーン・レクイエムシリーズより後の作品はややSF離れしている感じになって読まなくなってしまっていたが、何十年ぶりかに(著者同様にトシをとってきた私も定年間近ということもあって)読んでみた。独特の文体は昔のままで、とても懐かしい感じがした。

ラストライン

2025年04月04日 | 本の感想
ラストライン(堂場瞬一 文春文庫)

定年まであと10年に迫った刑事の岩倉は、捜査一課から所轄の南大田署に転勤になる。岩倉は異常な記憶力を持ち、過去の重大事件の経緯の多くを暗記していた。管内で一人暮らしの男が殺害され、岩倉は、巡査から転属となり刑事初体験の伊東と捜査にあたるが、事件を取材していたと思われる新聞記者が自殺し・・・という話。

私は、シリーズものが好き。長いシリーズを読んでいるうち登場人物に愛着がわいてくるようなものが特にいい。本作は評判のいい警察小説シリーズと聞いて、最初の作品を読んでみた。

うーん、警察の知られざる内幕を描く、というのでもなく、ミステリとしての犯人探しやトリックを追求するというのでもなく、記憶力がいいという主人公の特別な才能もあんまりストーリー上で活用されることもなく、言っちゃ悪いけど中途半端な感じのまま終わってしまったかなあ。もしかしてシリーズを読み進んでいくうちにいろいろな設定が生かされてくるのかもしれないが、次を今すぐ読みたい、とはならなかった。