蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

下町ロケット

2015年11月28日 | 本の感想
下町ロケット(池井戸潤 小学館文庫)

あまりに人気が出すぎて足が遠のいていたのですが、TV番組を見た娘が買ってきた文庫があったので、「空飛ぶタイヤ」以来、6年ぶりくらいで著者の作品を読んでみました。

「空飛ぶタイヤ」の感想で、
「この社長(主人公)は、正義の味方・熱血気味のキャラクター設定で、途中、メーカーが提案してきた巨額の補償金を断るあたりはちょっと現実離れしています。しかし、その他の主要キャラクターは概ね自己の欲望に忠実かつ狡猾で、「いかにもいそう」な人が多いのです。
事件が、(正義の味方によって解決されるのではなくて)そうした世間ずれした人達の思惑と計略が絡み合った結果、偶然に近い形で解決される点が、本書の魅力の核心のように思いました」
と書いたのですが、本書の筋書もおおよそ「空飛ぶタイヤ」と同じでした。

製造業について詳しくないのですが、特許侵害で何十億円も賠償してもらえたり、世界屈指の巨大メーカーがひれ伏して(←下請けの哀しみを描いているようにも見えますが、実質は主人公の会社が主導権を握ったままでしたよね)部品供給をお願いするほどの開発力、技術力がある町工場があるというのも、かなり空想的ですよね。

まあ、そういうことは考えず、水戸黄門的勧善懲悪?の物語を楽しむべき作品ではあるのですが。
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うれしい悲鳴をあげてくれ

2015年11月28日 | 本の感想
うれしい悲鳴をあげてくれ(いしわたり淳治 ちくま文庫)

雑誌に連載された短編小説とエッセイを収録したもの。

その方面には全く疎いので今まで知らなかったのですが、著者は音楽プロデューサーが本職だそうです。このため、音楽関連の内容もあるのですが、SFのショートショート的なアイディアストーリーが多く収録されています。

文庫本のオビの惹句(かなり大げさ)にひかれて読んでみたのですが、本職の音楽絡みのエッセイは面白いものがあったものの、小説の方は、う~ん、正直素人っぽいというか、余技の域をでていないかな、という感じでした。
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イミテーション・ゲーム

2015年11月22日 | 映画の感想
イミテーション・ゲーム

最初のコンピュータともいえるチューリングマシンを作ったアラン・チューリングの生涯を、ドイツ軍の暗号システム(エニグマ)を解読する家庭を中心に描いた映画。

チューリングは(天才の常として)かなりの変人で人づきあいも最悪。
エニグマ解読チームでも完全に浮いた状態で独善的に解読マシンの構築に没頭します。
チームのメンバーの一人と結婚するのですが、実はチューリングは同性愛者で戦後(当時のイギリスでは同性愛的行為は犯罪だった)に有罪とされています。

この、変な人、をカンバーバッチが演じているのですが、彼が演じるとどうしても変人には見えなくて、真面目な人が偽悪的にふるまっているように映り、実は彼の真実の姿は仕事熱心なナイスガイのように思えてしまう・・・のは私だけでしょうか。

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博士と彼女のセオリー

2015年11月19日 | 映画の感想
博士と彼女のセオリー

宇宙論を平易に解説した著書で日本でも有名なホーキング博士の半生記。

「日本でも有名な」と書きましたが、「ホーキング、宇宙を語る」がブームになったのは昭和バブル最盛期の頃なので、案外知っていらっしゃる方も少ないかもしれません。

博士の理論は相対性理論を打ち破った?(というか例外がある?)として有名になった気がします(うろ覚え)が、私も「ホーキング、宇宙を語る」を買ったものの(平易に解説しているはずなんですが)数十ページくらいしか進まなかったクチなので、「何だかわからんが、とにかくすごい人なんだ」というくらいの記憶しかありません。
オックスフォード大の数学のゼミ?で誰も解けない宿題をあっさり短時間で解いて教授を驚かせてしまうんですから、世間並?の天才をはるかに超えた人なんでしょうね。

映画のタイトル通り、本作では一人目の妻とのなれそめ、ALSに罹患してからの夫妻の苦難と栄光が描かれます。

ありがちな映画なら糟糠の妻の献身を描いた感動ストーリー、で終わるところですが(実話を基にしていることもあって)やがて二人の心は離れ、お互いに違う相手を意識するようになります。
後段の部分は修羅場があってもよさそうなものですが(ご本人への遠慮もあってか)スーッとあっさり過ぎてしまった感じでした。
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オレって老人?

2015年11月17日 | 本の感想
オレって老人?(南 伸坊 みやび出版)

自分が老人になるとは思っていない人ってけっこういるんじゃないでしょうか。

当然、生まれてから年月を経れば誰でも老人になることはわかっているのですが、自分の頭の中では具体的に老人になった自分を想像できていないことが多いように思えます。
というか、私自身が、腰痛に悩む自分、老眼になって本が読みにくくなった自分、駅の階段を上がると息が切れる自分、などの自分を想像できていなくて、それが現実になって初めて「オレも年をとるんだ」という自明の事実をやっと理解できたような気がしたものですから。
ただ、身体にそういった現象が発生しても、考え方とか心の持ちようといったものは(私だけかもしれませんが)若い頃のままで変わっていないような気がしてしまい、自分で自分にあきれています。

「オレって老人?」というタイトルから、著者も「心理的には若いままだけど、身体的な状況や周囲の様子から老人になったと思わざるを得ない」という気分なんだろうなあ、と想像されます。

本書で特に面白かったのは、チベットの山奥で映写機をかついで映画興行をしていた人の話(「TVはクールなメディアだ」)で、「幸せって何?」という永遠の疑問に一つの答えを提示してくれています。
また「正しい氷水」では、真の幸福とは何か?と問いかけ、その例として一杯目のビール+塩味のきいた枝豆をあげていて、私なぞおおいにうなずけるのですが、やや平凡です。
二つ目の例の方がより深遠?で、氷水(かき氷のことだと思う)は暑い場所で食べないとおいしくない(が、残念ながらそういう場所はめったにない)、というものでした。これもなるほど、と思いました。
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