蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ここは退屈迎えに来て

2015年07月26日 | 本の感想
ここは退屈迎えに来て(山内マリコ 幻冬舎)

大都市近郊のそこそこ大きな地方中核都市に暮らす20代の同期生たちの暮らしを時系列を遡りつつたどる短編集。椎名というモテ男がどの短編にも登場する。おそらく著者はこうした地方中核都市の出身で、文才はあるのに東京に出てきてなかなかメジャーになれない、という経験をしているのだろうなあ、と思わせて、フィクションなのにちょっと実話っぽい雰囲気を漂わせているところが(人によっては)評価が高い要因なのだと思う。

「地方都市のタラ・リピンスキー」がよかった。「消失グラデーション」を思い出させるオチがなかなかだった。
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ジャイロスコープ

2015年07月26日 | 本の感想
ジャイロスコープ(伊坂幸太郎 新潮文庫)

特にテーマを設けず未収録のものを寄せ集めた短編集。
なのだけど、それぞれの短編の登場人物を網羅的に登場させる書下ろし短編を添えて(無理矢理?)関連性を作り出しているところが、「売れっ子作家なのに良心的だなあ」と思わせてくれる。

「一人では無理がある」がよかった。
ふだんなら「取ってつけたようなオチだなあ」くらいの感想になりそうな結末なのだが、この本を読んでいる時は、仕事が立て込んで、プライベートでもへこんでいて八方ふさがりな時期(今も継続中だけど・・・)で、ココロが弱っていたせいか、この短編の「鉄板」オチが妙におかしく感じられて、通勤電車の中でニヤニヤしてしまったほどだった。そしてサンタクロース実施会社という善意の会社の存在にちょっとだけなごんだ気分になって、まあなんとかその日も会社に辿り着けて「この本読んでよかったなあ」と思えた。

そう感じたのは、オチが単純に面白かったということの他に、作品から作者の善意や良心、(その反対面としての)邪悪な意図や理不尽な社会への憎しみ、みたいなものが、そこはとなく漂っていたからだろう。

結局、「伊坂さんっていい人なんだろうなあ」といろいろな面で思わせてくれるのが、その作品を読み続けている理由なのだと、あらためてわかった。
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出署せず

2015年07月25日 | 本の感想
出署せず(安東能明 新潮文庫)

撃てない警官」に続くシリーズ第二弾。

主人公柴崎は警視庁総務課で同期のトップを走っていたが部下の管理責任を問われ綾瀬署に左遷されていた。綾瀬署に同年代のキャリアの署長が着任するが、ともに現場指揮には不慣れ。柴崎は本来の業務とは異なる捜査の前線に出ることを強いられる場面が増えてきて・・・という話。

前作では柴崎が捜査に絡む場面はほとんどなくて、警察の内部を舞台にしていたが、本作ではほとんど刑事みたいな活躍ぶり(特に表題作)。
柴崎自身もイヤミなエリートから真面目な普通の警官になってしまった感じで、ユニークさが欠けてしまった感じだった。あと前作では副署長の助川がいい味だしていたのに、本作では責任感のないただの中間管理職というキャラになってしまったのが残念。

その中で「夜の王」はベテラン刑事と副署長助川の確執、警察署内部の組織間対立を描いて短いながらも楽しめる作品だった。

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麗しのオルタンス

2015年07月14日 | 本の感想
麗しのオルタンス(ジャック・ルーボー 東京創元社)

(うろ覚えだけど)円城塔さんがある雑誌でオールタイムベストテンに選んでいた(ような気がした本書を見かけた)ので読んでみた。

パリに住む哲学の美貌の女子学生オルタンスとその周囲の人々のドタバタを描く(いちおう)ミステリ。

小説を読みすぎると、もうどんな面白い物語であっても先が読めてしまって楽しめなくなると聞いたことがあるが、本書はもしかしたらそういう人(きっと円城さんもそうなんだと思う)にとっては、破格で型破りのメタ小説として新鮮味があって高い評価ができるのかもしれない。
しかし、私にとっては著者の悪ふざけに延々300ページ付き合わされてウンザリ、といった感じだった。もっとも部分的には笑える箇所もあるので、途中で投げ出すこともなかったのだが。

逆説的に言うと、まだまだ私の読書量はたいしたことはなく、まだまだ普通の小説でも十分に楽しめるということの証左だろうか。そうだとしたら、うれしい。
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海翁伝

2015年07月12日 | 本の感想
海翁伝(土居良一 講談社文庫)

瀬戸内の豪族河野氏の末裔である蠣崎季広とその息子の慶広が、時の権力者との交渉によって、北海道で幕末まで続く松前藩を確立するまでを描く。

あるベストテンものの本で推奨されていたので、読んだ。

戦国期~江戸初期の交易や航海の様子が描かれているのかと思っていたのだが、大半が蠣崎(後の松前家)の内紛や、秀吉や家康の機嫌取りに終始する慶広周辺の行動ばかりで期待はずれだった。
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