蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

羽生善治 闘う頭脳

2017年11月28日 | 本の感想
羽生善治 闘う頭脳(文春文庫)

羽生さんのデビュウから7冠制覇を経て40代でなお第一人者の座を譲らない近況まで、インタビュウ、各方面のライタによる評論、羽生さん本人のエッセイなどを収録した本。

久々に保有タイトルが1個だけになって、50代を前にその玉座を降りる時が来たのかと思っていたら、竜王戦で渡辺竜王をカド番に追い込み、永世7冠という文字通り空前絶後の偉業を成し遂げそうで、まだまだ羽生さんが主役の時代は終わりそうにありません。(私は渡辺竜王(およびその奥様←奥様の方は最近更新されていませんが)のブログのファン?なので、渡辺さんには頑張ってほしいのですが、最近竜王はかつてないほど不調なんですよね。例の騒ぎの影響が今頃出ているのでしょうか??)

羽生さんの一番の特徴は、特徴(というか目立った点)がないことで、行動や発言は非常に穏当ですし、家庭も円満そうで、見かけもマジメなサラリーマンという感じ。天才によくあるエキセントリックな雰囲気が全くありません。ハブにらみとかくせ毛などが強調されたのも、その他にとりあげる点がなかったからなんだろうなあ、と思えます。

しかし、その内面では常人には伺い知れない思考が、洪水のように渦巻き、時には果てのない深みにまで潜水しているのでしょう。
本書によると、羽生さんの日常生活と将棋世界は(頭の中では)完全に分離されているようで、映像シーンを切り替えるように2つの世界を行き来しているらしいです。
本書でたびたび言及されているのは「考えすぎないようにしている」という主旨のセリフで、将棋世界でとことんまで突き詰めて思考すると、日常世界へ切り替えできなくなってしまうような恐怖感があるらしいです。(←この部分は他の本で読みました)
チェスのかつての世界チャンピオン:ボビー・フィッシャーが奇行を繰り返したのは、チェス世界からうまく戻れずにいることが原因だったのかもしれないことが、本書の中で示唆されていました。

様々なインタビュアやライタが登場しますが、やはり将棋への理解が深い川口俊彦さん、大崎善生さんの作品が特に良かったです。あと、沢木さんのインタビュウは、準備が周到であることが十分にうかがえました。さすがにその道の第一人者です。
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ちいさな城下町

2017年11月28日 | 本の感想
ちいさな城下町(安西水丸 文春文庫)

城跡巡り(というか歴史全般)が趣味の著者が、あまり有名でない小さめの城跡を訪ね歩いた旅行記。

著者の本業はイラストレータで、村上春樹さんのエッセイ本の表紙絵、挿絵が有名だと思います。村上さんのエッセイにもご本人がよく登場しますが、そこでは酒好き、女好きのタダのおじさん、みたいな感じ。描く絵もいわゆるヘタウマ系かな(失礼!というかもう死語か)なんてイメージでした。

しかし、本書を読むと相当な読書家で歴史への造詣も深いことがうかがわれ、そう思って本書に収録された著者のイラストを見ると、妙に上品な感じに見えたりして、自分のいいかげんさに呆れます

本書は、全部で20の城跡を紹介していますが、訪ねる先の城や史跡とはあまり関係ない昔話から始まって、城に絡む武将の系譜やエピソードを解説し、城跡や周辺の街の様子を描写する、というパターンが多くなっています。
最初のまくら的な思い出話の部分が一番面白くて、この部分をもっと長くしてくれればいいのに、なんて思えました。
中盤の歴史解説が(多分、正確に書こうと意識されたためと思われますが)硬い漢字で、街の様子の紹介は、まあ、普通から、という感じでした。

雑誌連載されていたそうなので、場所の選定や実際の訪問は計画的に行われていたと思われますが、いかにも思いつきで電車や飛行機に乗って日帰りか一泊で帰ってきました、というムードが醸し出されているのがなんともユル~い感じで、(最近トシのせいで、若い頃は全く興味がわかなかった名所・旧跡などを訪ねることが楽しくなってきたこともあり)つい自分でも行ってみたくなります。特に駅の観光案内書でマップをもらって行先を決めるあたりが、いいなあ、と思えました。
また、ありがちなグルメ方面に傾くことなく、食事シーンがそっけないのも却って好感が持てました。
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ホワイトラビット

2017年11月23日 | 本の感想
ホワイトラビット(伊坂幸太郎 新潮社)

誘拐をビジネスとして営む組織の一員である兎田は、最愛の妻を当のその組織に誘拐されて組織が迫っている男を確保するよう脅迫される。兎田はターゲットの男を探すうち、ある民家でその家族を人質にして立て籠ることになってしまうが・・・という話。

著者の作品の特徴として、話の筋はコミカルといえるほど突拍子もないのだけど、登場人物はシリアス(多くの場合命懸け)に行動している、というパターンが多いと思う。両社のアンバランスに妙味があって不思議な面白さを醸し出していることが多い。

本書も筋立てはかなりエキセントリックで「ありえね~」という感じなのだが、登場人物にあまり緊迫感とか真剣さ?がなくて、全面的におちゃらけているムードになっちゃっていてユゴーにならった?著者自身が語り手としてたびたび登場するメタ的な叙述もそれに拍車をかけているように思われ、イマイチだなあ、と思えた。
作者としては、いつものパターン(マンネリ)を打ち破ろうという狙いなのかもしれないけれど、いつものパターンの方がよかったかも。

読者の錯覚を誘うトリックはけっこう鮮やかで、私も「だまされたなあ」と感じたし、終盤ではカタルシスもあるのだけど、あとがきにある通り、シリアスでヘビーな展開にしてもらったら、もっと面白かったと思う。
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血盟団事件

2017年11月21日 | 本の感想
血盟団事件(中島岳志 文芸春秋)

1932年、時の蔵相井上準之助と財界人の団琢磨が暗殺された血盟団事件を、首謀者井上日召とその関係者の視点から描くノンフィクション。

井上は群馬県の出身で、旧制中学を卒業後、日露戦争の病院船の船員となるが、上司とけんかして造船所で働く。これも長続きせず群馬に戻って教員になるがすぐやめる。兵役のために東京に行き、その後大学に入る。しかしここもやめて満州に行って満鉄に雇われてスパイまがいの活動をするがうまくいかないので、郷里に帰り実家の近くの小屋に引きこもって禅の修行のようなことをする。その後国粋的団体に誘われて上京するが思うようにならず、そのころ結婚して子供もできるが家庭を全く顧みない。紹介する人があって大洗の寺院(護国堂。今でも存在しているそうである)で宗教活動をし、地元の青年たちを魅了する。やがて東大や京大で政治活動をする学生や海軍の軍人たちとも関係ができ・・・

といった調子で井上は流転を繰り返すのだが、印象としては随分あきっぽい人だなあ、と思えた。

また、若者を政治的に過激化させるのは、いつの世も、定職がないことなんだなあ、とも思えた。
今は人手不足の日本だが、やがて高い失業率に苦しむことになるであろうことは先進国の宿命のように思われる。その時も安定した社会が維持できるのかは、かなり怪しいと思う。

血盟団事件は五・一五事件のさきがけとなった出来事だったのだが、五・一五事件の首謀者たちはむしろ英雄視された面もあったそうで、血盟団の関係者への処分が私が想像したより随分軽かった(井上は恩赦によって1940年には出所したそうである)のはその影響だろうか。

戦後の大物フィクサーと言われた人たち(安岡、四元、児玉、赤尾など)がチラホラ登場するのも興味深かった。
我ながら無知なことに四元さんが元テロリストだったなんて知らなかった(;''∀'')。
本書の中に中曽根元総理のインタビュウが収録されていて、その中で四元さんのことを尊敬に値する的に評しているのだけど、大勲位が元テロリストを称賛していいものなんだろうか??
まあ、レーニンやゲバラなど今や偉人風な方も元テロリストなんだけどね。

本書は、ある書評誌のあるランキングで2位に推されていたので読んでみたのだが、事実を書き連ねる学術書のような内容だったので読み進むのに苦労した。このランキングにはよく20世紀初頭を舞台としたノンフィクションが上位に登場するのだけど、どれもイマイチ面白く読めないんだよなあ。
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ローガン・ラッキー

2017年11月20日 | 映画の感想
ローガン・ラッキー

ローガン家は呪われた一家と呼ばれていた。
ローガン兄はNFLを目指せるような選手だったが故障して足をひきづらないと歩けなくなり、最愛の娘の親権は離婚した妻が握っている。
ローガン弟は従軍中に片腕を失ってしまう。
兄弟の両親もすでに亡くなっていた。
ローガン兄は、大規模なレーシング場の工事に従事するうち、レーシング場の大金庫から現金を強奪するアイディアを思いつき、弟や収監中の友人(爆発物取扱のスペシャリスト)などを巻き込んで計画を練るが・・・という話。

ソダーバーグ監督の強盗映画ということで、数か月ぶりに映画館で見た。

登場人物が多く、けっこう話がこみいっていて、なかなか筋に追いつけなかった。
紙のおカネが画面いっぱいに舞い散るという、昔なつかしい?強盗映画のシーンが展開するあたりでは、なんとかストーリーが把握できたかな、と思ったら、そこからもう一ひねりあって、最後まで飽きさせない面白い映画だった。

コメディの味わいの筋なのに、常に憂鬱そうでほとんど笑わないローガン兄弟の表情

ローガン兄の娘がアカペラで歌う「カントリーロード」(こんなにいい歌だったんだと今さらながらに感心した)

ダニエル・クレイグは、やっぱり悪役ヅラだようなあ、ボンドより爆発魔の方が似合ってた

離婚した妻の再婚相手とも仲良くおつきあい、というのは(離婚が日常化した?)アメリカでは常識なのだろうか??

などといった点が印象に残った。
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