蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

イースタンプロミス

2009年03月30日 | 映画の感想
イースタンプロミス

ロシア系の看護師(ナオミ・ワッツ)が勤める病院に流産しそうな女性が搬送される。その女性は出産するが本人は死んでしまう。その女性が残した日記には、彼女がロンドンのロシア・マフィアに売春婦として利用されていた実態が記されていていた。ロシア語を解さない看護師は、知り合いのロシアレストラン経営者に翻訳を依頼するが、実は彼こそがロシア・マフィアの大幹部の一人だった。
主人公(ヴィゴ・モーテンセン)は、ロシア・マフィアの使走りだったが、さまざまな汚れ仕事を見事にこなしてメンバーとして認められる。彼はなぜか看護師を援護するのだった。

ヴィゴ・モーテンセンは、これまでのイメージ(同じ監督の同系統(バイオレンス系という意味で)の映画「ヒストリーオブバイオレンス」の役柄とも)ちょっと違うニヒルで冷血なギャング役。髪型が違うせいもあって初めのうちは同一人物とはわからなかった。
しかし、よくはまっていて違和感全くなし。

ほどよい短さでドンデン返しも納得性が高く、満足度が高い作品だった。ただ、殺人などのシーンは生々しく描く必然性を感じなかった。
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サバイバル!

2009年03月28日 | 本の感想
サバイバル!(服部文祥 ちくま新書)

最小限の装備や食料のみを持って長期間山歩き(著者いわくサバイバル登山)をするための、ノウハウ(岩魚の釣り方とか装備の選択方法など)や実際に北アルプスを「サバイバル登山」した経過を記した本。

著者の主張は、
「このサバイバル山行記に何度も出てくるゲストという言葉。「お客さん」。ズルしないで登る、ズルしないで生きる。それは自分が自分の人生の主になれるか、ということだと思う。現代の日本で普通に生きていたら、お客さんにならないで過ごすのは難しい。おおよそのことはお金を払えば解決し、いくつかのことはお金を払わなければ解決しない。毎日のように乗客、買い物客、食事客、患者などなど、気がつくとわれわれはさまざまなお客さんをやらされている。人生はお金を払えばそのまま進んでいく。今は、お金を稼いで、お客さんをするのがわれわれの世界のサバイバルなのだ。」(P138)

なるほど、「人生はお金を払えばそのまま進んでいく」というのは、うまい言い方だとおもった。

ただ、「垂直の記憶」とかと比べるとスケールの小ささや登山とはあんまり関係なさそうな挿話(魚釣りの話とか)が多さが目だってしまって、「これってホントにサバイバルとまで言えるの?」などと思ってしまい、素直に感心できなかった。

山野井さんの登山に対するピュアすぎるほどの一途さに比べると、ちょっと不純なにおいがしてしまうのだった。(比べること自体が間違いか・・・)
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謎解き広重「江戸百」

2009年03月27日 | 本の感想
謎解き広重「江戸百」(原信田実 集英社新書)

広重、というと私などは安藤広重と習ったのだけれど、本書によると現在では歌川広重というのが一般的だそうである。その広重が安政の大地震の後、復興した江戸の百景を描いたシリーズが「江戸百」である。

著者によると、「江戸百」は近景と遠景の組み合わせの妙が見所で、遠景に主題が描かれていることが多いという。
確かに近景と遠景を組み合わせた大胆な構図(印象派作家の模写で有名な「亀戸梅屋舗」、吊るした亀が近景となっている「深川万年橋」、本書の表紙絵にもなっている「浅草金龍山」、鯉幟のドアップ「水道橋駿河台」など)は、今見ても斬新で、現代のデザインとしても十分通用すると思う。

本書は、図版が数多く収載されており、巻末には「江戸百」の絵索引が付くなど、1100円とは思えない充実ぶりで、説明文はちょっとうるさい感じもするが、絵を見ているだけで楽しめるお買い得な本になっていると思う。

「江戸百」を見ていると水と緑が目立つ。江戸は百万の人口を抱えながら、豊かな自然と景色に恵まれた理想郷のような都市だったように見えてしまう。今の新宿とか渋谷は見渡す限りの野原だったらしい。
もちろん現実世界にはいろいろな問題があって、美しくないシーンもたくさんあったのだろうが、そうは感じさせないのが絵師やプロデューサーの力というものだろう。

それにしても広重(に限らず浮世絵師全般にだが)は多作である。今でいうと(週刊誌の連載を何本も抱えて描きまくる)人気コミック作家みたいなものなのだろうか。
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現実入門

2009年03月24日 | 本の感想

現実入門(穂村弘 光文社文庫)

結婚も海外旅行も独り暮らしもしたことがない著者は、「人生の経験値」が低い、と自ら言う。
しかし、著者は大企業の総務部の課長であり、総務課長というのは会社の中でも相当経験値が高くないと勤まらない肩書きだろうし、そういう仕事をしていればいやでも経験値は高まってしまう。本書でも、新入社員に会社紹介をしようとする場面で、それらしい挨拶を考えていたりする。

著者の紹介の冒頭に「歌人」とある。「人生の経験値」が高すぎて世間ずれしている「歌人」というのも興ざめなので、「人生の経験値」が低いというのは相当部分、著者の照れ隠しなのだろう。

本書は、これまで著者が未経験のイベント(モデルルームの見学とか占いとかはとバスツアーとか)を現実に体験してその感想を書くという形式のエッセイ集。

これまで私が読んできた著者のエッセイには、往々にしてダメな自分を描いて笑いものにしているような場面が出てくるのだが、反対に相当にプライドが高いと思わせるような箇所もチラホラ見られる。
本書に登場する未経験イベントは、かなり俗っぽいものが多くてそういった手合いのことを経験したことがない、という事自体が、著者の自慢になっているような気がしないでもない。

何度か引用される佐野元春の「情けない週末」の歌詞が、このような著者の自意識の高さを象徴している。
「もう他人同士じゃないぜ あなたと暮らしていきたい <生活>といううすのろを乗り越えて」

私は、ちまちました家事をせこせこやるのが、けっこう好きだったりするので、<生活>といううすのろもそれなりにいいものだよ、という気分があるのだけれど。

(ネガティブな感想になってしまいましたが、「本当はちがうんだ日記」ほどではないものの、本書もとても面白い本で、お勧めです)

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20世紀の幽霊たち

2009年03月23日 | 本の感想
20世紀の幽霊たち(ジョー・ヒル 小学館文庫)

世界でも有数の有名作家(スティーブン・キング)の息子に生まれて、かつ、小説家をめざす気分というのはどんなものだろう。
企業などの世襲と違って、血縁があるというだけでは当然にその地位を引き継ぐことはできないから、ある意味気楽な面もあるのかもしれないが、普通はできるだけ巨匠の息子であることを隠そうとするのではなかろうか。

本書の著者の場合、小説家という職業だけではなくて、ホラーというジャンルまで同じで、なかなかに強いプレッシャーがかかりそう。

本書はいわゆるモダンホラーに属する短編を集めたもので、解説などによると本書は各方面で評価が高いらしいが、そもそも私はホラー系の小説を読んで面白いと思ったことがあまりない(「リング」くらいかな、面白いと思ったのは)ので、どうもイマイチしっくりこなかった。(スティーブン・キングの作品も、どうも長いばかりで、あまり面白いと思えたことがないんだよなあ)

しかし、その中で、「自発的入院」は、ホラーとしての気味悪さと筋立てのスマートさが相まって楽しめた作品だった。
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