蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

52ヘルツのクジラたち

2023年08月26日 | 本の感想

52ヘルツのクジラたち(町井そのこ 中公文庫)


三島貴コは、家族から虐待を受けていたが、今は海辺の高台で一人暮らししていた。近所に虐待されているように見える子供がいて・・・という話。

本屋大賞受賞作で、出たばかりの文庫ですら(私の持っているもので)すでに4刷だからものすごく売れている人気作。

なので、かわいそうな子供が自らの努力と周囲の支援で立ち直ってハッピーエンド、みたいな話なのかと思った。

しかし、終始湿っぽい展開で、主人公に主体性が感じられなくて流されるまま、という筋立て。人気のポイントはどこなの??と感じてしまった。

アンさんが登場当初のハードボイルドっぽいキャラを保持して主人公を助ける、みたいな感じかと思っていたのだけど、はぼ正反対?のストーリーだった。

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世界史としての「大東亜戦争」

2023年08月26日 | 本の感想

世界史としての「大東亜戦争」(細谷雄一編 PHP新書)


タイトル通り、「大東亜戦争」を世界史の中でとらえようとする評論集。

大東亜戦争は日本側の命名、太平洋戦争はアメリカ側の命名だそうで、どちらも(日本の)おおやけの場面では使いにくく、だから公的な立場にある人は「先の大戦」とか「あの戦争」と発言する、というのを本書で初めて知った。

太平洋では日米戦争、南アジアでは日英戦争、対立では日中戦争を同時に戦った、と改めて言われると、「なるほど、そういう風に見ると、勝てるわけないわな」と今さらながら思ってしまった。

日本の「国制」は敗戦をきっかけにして変遷してきた。白村江→律令制、秀吉の朝鮮出兵→徳川政権・鎖国、黒船→明治維新、大東亜戦争→米国モデルの追従

対米戦について避決定を続けてきたのにそれを貫徹できなかった。逆にいうとアメリカの石油禁輸のインパクトは、あいまいな態度の日本を一転させるくらいのインパクトがあった、という考え方が面白い。人気はないだろうけど、局面によっては避決定を貫くというのも戦略だよなあ。

中国が戦後すぐ「五大国」になれたのは、蒋介石の外交手腕のおかげで、宋美齢の存在も大きかった。

ドイツは、当初親中政策をとっており、ドイツの植民地を横取り?した日本にいい印象はなかった。

ド・ゴールはパリ陥落のあと、北アフリカ植民地を根拠地にした。これが、フランスだけがやけに植民地の維持にこだわる要因なのかな、と思えた。

日本陸軍は、米軍の相当に高度な暗号も解読していたが、海軍はさっぱり。しかし陸軍は解読した情報を海軍と共有することはなかった。これは日本じゃなくてもありそうな話だが、イギリスは情報共有が比較的進んでいた。

 

 

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教室を生きのびる政治学

2023年08月26日 | 本の感想

教室を生きのびる政治学(岡田憲治 晶文社)

学校をモデルにして意思決定や民主主義について解説した本。
政治の独特の性質は「選んで、決めて、受け入れさせる」ということだという。

学校の文化祭におけるクラスの催し事を決めるとき、大半の生徒はやる気も意見もないが、それでもホームルームで決められたことは「自分たちで決めたことだから、誰のせいにもできない」という意識を参加者に持たせる。これを「自己決定の主体としての当事者性」というそうだ。

民主政治とは「自分の生活に影響を与えるような決め事をさなれるときには、直接・関節にもの申す権利を持っている」ということで、だから当事者性を参加者が自覚できることが重要という。

民主主義≠多数決であり、民主主義とは「多くのメンバーの力やセンスを集めて、一人ではできないことを協力してやるための方法」である、という。そのため、失敗してやり直すことを前提にしている、と。

・・・みたいなことが本書の要旨かな、と思うのだが、議論が順序よく整頓されてない印象で、分かりづらかった。

福島第一原発の処理水放出を巡って、政府は、漁業者の理解なしに放出することはない、と約束していた。放出決定のタイミングで漁業団体の代表は放出への反対を前提に、「約束は破られてはいないが、果たされてもいない」と発言した。これで世間的には放出を容認した、と受け止められた(と思う)。

言葉としては実にわかりにくいが、こういうのが政治なのかな、と私は感じた。今からふりかえると、「反対があるうちは放出しない」ではなくて「理解なしに放出しない」と言ったのが、知恵(というか悪賢い?)だったのかな。

 

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悩め医学生

2023年08月26日 | 本の感想

悩め医学生(中山祐次郎 幻冬舎文庫)
泣くな研修医シリーズ第5弾。過去にもどって雨野が鹿児島大学の医学部で過ごした日々を描く。

医師の国家試験は合格率が9割くらいあるしマークシート方式なので、ほぼ誰でも受かる試験だというイメージがあった。なので偏差値社会の頂点に君臨する国立大医学部生なんて(普通の大学生同様)あまり勉強しないんだろうなあ、と思っていた。

本書はおそらく著者(本職は外科医)の経験になぞって書かれていると思うので、医学生の実態に近いと思われる。

それによると、(上記のイメージとは全く異なり)国立大医学生は6年間相当に勉強しないと、国家試験以前に進級すら難しいらしい。
単元ごと(例えば肛門の医学)に試験があって2回不合格だと即留年、留年も1年まで、とか。
解剖実習ってお腹を切って内臓の位置を確かめるくらいなのかな、と思っていたら、小さな骨、神経や血管まで全身の器官の抽出まで行うとか。

医学部を出て医者にならない人は珍しいので、医学部では徹底した職業教育(座学に限らず、医者としての心得の伝授とか病院での実体験など含む)が行われているようだ。

すべての学部とまではいわないが、本来大学ってこうあるべきではないのか?と感じた。例えば法学部卒なら9割方が司法試験に合格するようなカリキュラムとかね。

大学進学が珍しかったような時代ならそれでもよかったのかもしれないが、望めば誰でも大学生になれる現代日本では無理なんだろうけど。難関人気校でも卒業が難しい大学は敬遠されがちらしいし。

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ティファニーで朝食を(小説)

2023年08月26日 | 本の感想

ティファニーで朝食を(トルーマン・カポーティ 新潮文庫)


先日映画を見たので、原作を再読してみようと思いついた。村上春樹訳版を読むのは初めて。

訳者のあとがきにも書かれているように、映画と原作では、筋立てもそうだが、全体のムードがかなり異なる。特に映画で(整いすぎているくらいの美女で清楚なイメージの)ヘップバーンがホリーを演じたことが、原作との懸隔を大きくしてしまったようだ。

ただ、映画ではホリーがゴライトリーになった経緯とか、兄のフレッドをなぜそこまで慕っていたのかがよくわからなかった。ここがストーリーのキーとなっている箇所で原作を再読してやっと納得できた。

実は、表題作よりもおまけのように収録されている3つの短編の方が面白かった。

「クリスマスの思い出」は、子供時代に同居していた親戚の老女とクリスマス用のケーキを作るというだけの数十ページの掌編なのだが、詳細に描写される昔の田舎暮らしの様子がとてもいいし、泣けるラストになっていて、特によかった。
労働キャンプ?に収容されている老いた男を描いた「ダイアモンドのギター」もいい。

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