蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

七つの海を照らす星

2014年06月28日 | 本の感想
七つの海を照らす星(七河 迦南 創元推理文庫)

海辺の田舎町にある児童養護施設には、7つの怪談じみた謎(死んだはずの先輩がアドバイスしてくれる、誰もいないはずのトンネルの中で呼び掛ける声がする、等々)があった。
養護施設の保育士である主人公は児童福祉司や友人とともに謎解きに挑むが・・・という話。

殺人とかの重大な犯罪が発生するわけではないが、養護施設に暮す児童たちには、それぞれに深刻な事情があって、それに絡めた謎解きには、しんみりさせられるものがあり、普通の日常の謎解きミステリに比べるとサスペンスを感じられるところが多かった。

連作形式になっているのだが、その中のひとつ「滅びの指輪」が抜群に良かった。
ストーリーや謎解きはやや無理筋気味なのだが、登場する女の子二人の、対照的な性格や感情がとても豊に描写されていて、一つの短編小説として立派に成立している。
だだし、ラストの一ひねりは、(小説として見事だし、強い印象を残すけれど)そこまで読んできて、ほんわかとした気分だった私としては、ない方がうれしかったかな、と思った。

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キャプテン・フィリップス

2014年06月28日 | 映画の感想
キャプテン・フィリップス

貨物船の船長である主人公は、ソマリア沖で海賊船に襲われる。一度は高速走行や放水、偽の通信等で撃退するが、海賊は再度(船のエンジンを強化して)襲来し、今度は乗っ取られてしまう。船底に避難していた乗組員が海賊の一人を捕まえて条件闘争に乗り出すが、結局船長は人質となって救命艇で海賊に連れ去られてしまう・・・という話。

盛り上げようとするわざとらしい演出がなく、ドキュメントのように淡々と進行するのが、かえって緊張感と臨場感を高めて、結末がわかっていても「次、どうなるの?」と思って、みるのを止められなかった。

本物のキャプテンや現場をみたことがあるわけではないけれど、演技しているとはほとんど感じさせず、実物を見ているとしか思えなくさせるトム・ハンクスの技量はすごいな、と改めて思った。

淡々としているといえば、救出に向かったアメリカの駆逐艦に乗り込んだネゴシエーター兼救出作戦司令の、冷静そのものの指揮ぶりも出色。
ゴルゴ13ばり、百発百中、いったん補足したら決して外さないことを前提にしているSEALの能力もすごいなあ、と感心した。
まあ、いずれも映画の中のシーンではあるのですが、現代のアメリカ軍って、あんな感じ(戦闘しているというよりビジネスでもしている感じ)なんだろうなあ、と思ってしまった次第。(圧倒的優位にあるゆえの余裕にすぎないかもしないけど・・・)
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城を噛ませた男

2014年06月26日 | 本の感想
城を噛ませた男(伊東潤 光文社)

主に戦国期後半の関東地域で活躍した、世間的にはあまり有名でない武将を主人公にした短編集。

秀吉の小田原城攻めの時の伊豆半島南部を舞台にした「鯨のくる城」がとても良かった。
西伊豆の雲見という地域の支配者・高橋丹波守は、平時は捕鯨の指揮者だったが、北条方から乞われて下田城に入る。しかし秀吉側は圧倒雨滴で、海上戦を挑んだ北条方は一蹴されてしまい、下田城で籠城にはいる。
降伏の一歩手前のところで、沖合に鯨の群れを発見した丹波守は一計を案ずる・・・という話。

大半がフィクション(作者の想像)だと思うが、捕鯨の手順を説明した部分はとてもリアルで迫力があった。とぼけたキャラの丹波守が最後に乾坤一擲の逆転劇を演じるあたりに、型通りとはいえ、カタルシスがあった。
長編にしてもよさそうな気がした。

「見えすぎた物見」も長編向きの題材に思えた。
下野の佐野家の重臣:宝衍は北条、上杉、武田に囲まれた要衝の地、唐沢山城と佐野家を生き延びさせようと懸命の外交努力を重ねる、という話なのだが、話が複雑なわりに物語が早く進みすぎで、じっくり長編にしたらもっと面白そうな気がした。もっとも佐野家を知っている、なんて人はめったにいなさそうだし、合戦とか起こらない地味な話なので、商売にはなりにくいのかも。

「城を噛ませた男」は、真田昌幸が謀略をめぐらせて猪俣能登守という武将をいいように操る話。いくら昌幸が神謀の人でも「こんなにうまくいくわけないっしょ」と思ってしまった。それに後味が非常に悪い話だった。
それは、「椿の咲く寺」も同様で、話を作りすぎのような気がしたし、どうも読後感がよくなかった。

「紅雪左文字」は、家康に仕えた外交僧が、小早川秀秋の寝返りの実現に奔走する話。
この話でもそうなのだが、秀秋が寝返った直接のきっかけは、徳川方がしびれを切らせて(秀秋がいる)松尾山を銃撃させたこと、と、なっているのだけれど、これってホントなんだろうか?
銃を射掛けられたら、「敵と認識された」と思ってしまっても無理がないわけで、家康にとってあまりにもリスクが高すぎるように思うのだが。
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クヒオ大佐

2014年06月25日 | 映画の感想
クヒオ大佐

日系アメリカ人がアメリカ空軍のパイロットだと名乗り、結婚の支度金を用意しろ、などとして金を騙し取った実在の結婚詐欺師をモデルにした映画。
「桐島、部活やめるってよ」(映画)がよかったので、同じ吉田監督の作品を見てみた。

コミカルな映画なのかと思っていたら(確かにそういうシーンもあるのだけれど)全体にけっこうもの悲しいムードの話になっていた。
クヒオ大佐が子供のころ、父親に虐待されていた(ので、今でも子供をいじめる人を許せない)というエピソードがそのもの悲しさをさらに高めているのだけれど、それが結婚詐欺師になったこととどう結びつくのかは、わからないままだった。

クヒオ大佐役の堺さんの付け鼻がよくできている、

堺さん、華奢な感じなのに腕立て伏せを高速で50回もできる(もしかしてスタント??)、

満島さん、どうもどんな役をやっても同じ人に見える、

クヒオ大佐に騙される松雪さんの弟役の新井浩文さん、よく見るような気もするけど、じっくり見た出演作品は初めて。けっこういい感じの演技だった、

などという点が印象に残った。
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臆病者のための億万長者入門

2014年06月25日 | 本の感想
臆病者のための億万長者入門(橘玲 文春新書)

著者の(小説以外の)評論とかエッセイのほとんどを読んでいるので、本書の内容は、その多くが既読のものでした。
約めて言うと、「ウマい話にはウラがある」というのが著者のメッセージで、
「資産運用より、むしろ、人的資本(自分自身や家族)のコントロールが大切」という、この手の本(のうち、比較的マトモな内容の本)に共通の結論が述べられています。

それでも時々顔をのぞかせる、クールでアイロニカルな寸言がとても快く感じられました。
例えば、次のような部分。(P47~48)
***
私たちは誰でも、こころのどこかで自分が世界の中心だと思っている。「私」が見たり聞いたり触れたりすることで「世界」が存在するのだから、その臨場感は圧倒的で、自分はいつも〝特別″なのだ。
だが、いうまでもなく、これも一種の錯覚だ。地球上には70億人のひとびとが暮らしており、「私」はそのなかの一人に過ぎない。ささやかな名声を手に入れたとしても、死後10年もたてば「私」を話題にするひとなど誰もいなくなるだろう。
これは客観的には真実だが、それをありのまま受け入れると生きている理由がなくなってしまう。完全に合理的だと人生は無意味になって、ひとは死ぬか狂うかしかなくなるのだ。
***

金融関係の会社に長年勤めているので、株式とか金融資産運用についての説明は(基礎的なところを丁寧に説明しているせいで)私にとっては退屈な内容でした。
しかし、
私が門外漢の不動産運用のパートは、(たぶん、斯界では常識であろう)業界構造?と素人が手を出してはいけない理由がとてもわかりやすく説明してあり、納得性があったので、
金融資産運用に関する部分も、(本書のターゲットであるはずの)入門者にとっては、(おそらく)とても役に立つ内容なのではないかと思います。
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