蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ラッシュ/プライドと友情

2014年11月30日 | 映画の感想
ラッシュ/プライドと友情

私の世代で、F1を最初に知ったのは「赤いペガサス」という村上もとかさんが描いたマンガだった、という人は多いのではないだろうか。(村上さんのキャリアの長さはすごいな。今でもバリバリの人気作家なんだから)
「赤いペガサス」の中では、ラウダやハント、マリオ・アンドレッティなどが主人公のライバルで、特にラウダが第一人者として描かれていたような印象がある(うろ覚え)。

現在の日本人にとって代表的F1ドライバーというと、セナとかプロスト、シューマッハということになって、ラウダとかハントはもう一代か二代前のスターで、それだけにかえって多くの人には新鮮なライバルの物語として見られるんじゃないかという気がした。

ハント=金髪で長身、自由奔放なプレイボーイ
ラウダ=資産家の御曹司、真面目で冷静な理論派
という世間が持つイメージに徹底的に追随(あまりにステレオタイプなので、フィクションだったら陳腐になってしまいそうなのだが、実話を知っているのであまり違和感がない)して二人を描く反面、
ハントがレース前の緊張で嘔吐を繰り返したり、インコを飼うことが趣味だったりする点や、ラウダが妻(となる人)と知り合って結婚するまでの軌跡、その後の恋女房ぶりなども丁寧に描かれていてストーリーに奥行を感じた。

ラウダが(大事故で顔や肺に深刻なダメージを受けた後の)復帰戦やチャンピオンをかけた日本グランプリは、とてもリアルで迫力満点で、かつ、カタルシスもあり、映画館で見なかったことを後悔した。

(蛇足・・・後日談がちょっと長すぎると思う)
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鑑定士と顔のない依頼人

2014年11月26日 | 映画の感想
鑑定士と顔のない依頼人

絵画や骨董の目利きで競売人としても一流の主人公は、莫大な資産を持っている。
初老といっていい年齢だが独身で、友人は少なく、潔癖症で日常生活でも手袋を手放さない、といった感じのちょっとした変人。
コレクションしている女性の肖像画を壁一面に展示した隠し部屋にいる時が最も心休まる時間だった。

その主人公に、親の遺産の美術品を鑑定してほしいという電話がはいる。しかし、依頼人の女性は広場恐怖症で広大な自宅の一室に閉じこもって姿をあらわさない。

一方、依頼人の自宅には、珍しいオートマタ(からくり人形)の一部とみられる部品が散乱しており、それを収集するために何度か訪問を繰り返すうちに主人公は、次第に依頼人に興味を持ち始め・・・という話。

堅物で仕事一筋だった主人公は、恋愛に対する免疫が皆無で、姿をあらわした美しい依頼人にベタ惚れ状態になってしまう。
幸福感にあふれた表情の主人公には、きっと落し穴が待っているのだろうな、と映画を見ている人は誰もが思うだろうし、実際その通りになる。
ただ、その落し穴の提示の仕方が、露骨というか、仮借ないというのか、主人公にとってあまりに過酷な結末なので、少々後味が悪かった(もっとも、主人公に同情してしまいたくなってしまうほど感情移入しているというのは、映画の出来が良いことの証明なのだろうけど)。

願わくば、さらにどんでん返しがあって、孤独な状態に戻った主人公が不敵に微笑む、なんて展開だったらカタルシスがあったと思うけどな・・・

BGMがいいこともあって作品全体を流れるサスペンスフルなムードはとても良いし、早く先を見たくて(DVDで見たのだが、珍しく)ほぼ最後までディスクを止めることがなかった。
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ダンスホール

2014年11月09日 | 本の感想
ダンスホール(佐藤正午 光文社)

語り手は、競輪が趣味で文章に拘りがあるという、著者自身を思わせるような小説家。一方、主人公は九州に実家があり、離婚した妻が再婚しようとしている男の現在の妻が実家の近くにいるらしいので、実家に帰ったついでに離婚届を貰ってきてほしいと頼まれる。現実にはこんなことを引き受ける人はいないと思うが、物語なので主人公はあっさり引き受けて2回もそのために東京から九州へいくが、なかなか元妻の再婚希望相手の現配偶者(ややこしいな)に会うことができない・・・という話。

「死に様」というテーマで作家が競作するという趣向のシリーズ。
妻との離婚等があってスランプに陥った小説家は、死を考えるが、競輪で万車券を取って立ち直る・・・というのはウソ(そういう場面はあるが、著者の願望っぽい。もっとも著者は本命党のはずだが)で、主人公の人探しに付き合ったり、昔からの知り合い(護国寺さん)の死に立ち会ったりしているうちに、再度小説創作への意欲がわいてくる。

物語の中で死に様をさらすのは護国寺さんだけなんだけど、この人に関するエピソードは謎めいたほのめかし程度なので、「死に様」というテーマにはそぐわないような気もしたが、佐藤さん愛読者としては、いつものように、几帳面でハードボイルドなのにどこか破綻している登場人物たち(作家、主人公)が若干のミステリ風味の物語で、気怠く活躍?する小説に十分満足できた。
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ブラバン

2014年11月09日 | 本の感想
ブラバン(津原泰水 新潮文庫)

広島の高校の吹奏学部でコントラバスを担当していた主人公は、卒業後は音楽から離れてしまっていた。
しかし、吹奏楽部の先輩が、自分の結婚式の披露宴でかつての部員でバンドを再結成して演奏してほしいと言いだしたため、元部員たちを探し始める・・・という話。

著者略歴からすると、著者自身の経験に基づく物語と思われ、そのせいか登場人物が多すぎて(ホントは著者が書きたいことの)多くが語り切れていない感じがした。

「11」を読んで感銘したので、他の著作を読んでみようと手にしたのだが、SFやミステリ色は全くない、純度の高い青春小説だった(コントラバスを電装化?するくだりがとても面白くて、このあたりはSFっぽいムードだった)。もっとも、青春小説にしては若干恋愛方面のカラーが薄目であったが。

本筋と全く関係ないのだが、主人公が、広島を訪れたヨハネ・パウロ二世のスピーチを聞いて感動する場面(法王が「センソーワ」(戦争は・・・)から始まる日本語でスピーチした)が印象に残った。
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本棚探偵の生還

2014年11月05日 | 本の感想
本棚探偵の生還(喜国雅彦 双葉文庫)

「冒険」、「回想」と箱入り版を買い、内容も大変面白かったのだけれど、その後、間があいたこともあって、「生還」の箱入り版が出たのは知らなかった。
ちょっと前に「最後の挨拶」が出版されたのを本屋の店頭で知って、「生還」の存在にも気づいたのだが、間もなく文庫が出そう、とのことだったので待っていた。
「生還」も良かったので、今は「最後の挨拶」を買おうか否か迷っているところ。(デフレ慣れして箱入り版の値段にどうも抵抗が…)


「本棚探偵」シリーズで一番面白いと思える挿話は、古本蒐集の地獄(あるいは天国)にはまってしまった人たちの生態?で、著者のように小ぎれいに整頓されていると「地獄」感はあまりないのだが、「生還」でも紹介されている日下三蔵さんのように、本が多すぎて生活するスペースすら脅かされている家の写真などは、見てはいけないものを見てしまったような気分にさせられる。
日下さんが、ダブリとかを気にせず、どんどん古本を買ってしまう理由が「生還」では紹介されている。
それは、「売っているから」。
コレクションとか嗜好といった俗な水準をとうの昔に超越した、一種神々しさすら感じさせる、原理主義的ドグマですな。

著者がエッセイを書くために行う企画モノ?(マラソンしながらの古本屋巡りとか)は、どうも、わざとらしさがあってイマイチなのだが、「生還」における只見線で読書する企画はなかなかよかった。風光明媚な窓外の景色を無視してひたすら読書する、という内容。私も読書の場所の80%くらいは(通勤)電車の中であるせいか、本を読むということをプリミティブな悦び?みたいなものを感じた。
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