蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

女のいない男たち

2015年05月31日 | 本の感想
女のいない男たち(村上春樹 文芸春秋)

私は、著者の長編にはついていけない感じがしてしまうのだが、短編については好きなものが多い。本書は「東京奇譚集」以来9年ぶりの短編集だそうなので、そういえば新作は随分読んでなかったなあ、と(言われて)気づいた。

本書は題名通り、相手の女性に振られたり、浮気されたりする男の話。

「イエスタデイ」→東京生まれなのに阪神ファンで流暢な?関西弁を話す男の話。そういう設定自体が秀逸だし、そういう男だから(イマイチな境遇の自分ではつりあわないと思って)恋人を友達に譲ってしまうという変な行動も理解できてしまいそうな気がした。

「木野」→奥さんに浮気されて世捨て人になってバーを経営することにした男の話。浮世離れしたバーの雰囲気、地霊のような男の雰囲気がとてもいい。

「シェエラザード」→これが一番よかった。セーフハウス?に潜伏する男のところに日常必要なものを運んでくる女:シェエラザード。彼女は男の性欲の始末までしてくれるのだが、その彼女の思い出話がいい。学校で好きになった男の子の留守宅に侵入してはその男の子の部屋から何かを盗んでいた・・・と書くと変態的なのだが、読んでいるとシェエラザードの強い思いが伝わってきてあまり違和感がわかなった。
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思い出のマーニー

2015年05月29日 | 本の感想
思い出のマーニー(ジョーン・G・ロビンソン 新潮文庫)

主人公のアンナはロンドンでの里親との関係がうまくいかず、夏休みは里親の知り合いのいる海辺の町に滞在することになる。そこで大きな館で暮らす少女マーニーと知り合い、意気投合する。マーニーはなぜか近所の風車を恐れているが、アンナがそこでマーニーに出くわす。それ以来、マーニーは姿を消す。マーニーの館には新しい家族が引っ越してくる。館にはマーニーの日記が残されており・・・という話。

アニメは未見。
児童文学として書かれたものなので、子供が読むとアンナの気持ちはよくわかるのかもしれない。
しかし、大人の視線では、アンナは不安定で気難しく扱いにくい子供にしか見えない。(里親の知り合いの家にやっかいになっているのに、アンナはしょっちゅう無断で外泊しては行方不明になる。こんな子を預かっていたらイヤになっちゃうよなあ)

一方、マーニーの方も気まぐれな女の子っぽくて、後半の謎解きを読むまでは、この二人がなぜ仲良くできるのかはよくわからなかった。
もっとも、こうした設定は意図的なものであって、
「子供には子供の世界があって、それは大人になると理解できなくなるんだよ」
というのが著者の主張であるように思えた。

伏線が不足しているような気しあが、謎解き(というかそのプロセス)は、なかなかよかった。
普通の小説だとマーニーがアンナを立ち直らせた、みたいな筋になると思うのだけど、あえてそれを避けているように見えるたこともよかった。
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のはなしし

2015年05月24日 | 本の感想
のはなしし(伊集院光 宝島社)

昔、メルマガ?向けに書いたエッセイに新作をくわえて、「あ」~「ん」で始まるタイトルをつけて並べなおしたエッセイ集。
かなり前に読んだ「のはなしに」がとても良かったのだが、「のはなしさん」が出ていたのは見逃していて、たまたま第4弾である本書を本屋で見かけて買った(が、なかなか読み始められなかった)。

「のはなしに」は冒頭の「「アウトセーフ」の話」がとても良かったのだが、本書では最後の「「んかきそこねものの巻」の話」が、それにも増していい。というか、今まで読んだエッセイの中で一番か二番かというほど感動した。
人間あるいはその家族にとって死とは何か、という重いはずの主題を、初代ドラクエのリスタートシステム(復活の呪文)にからめて、深刻ぶらずに浮かび上がらせている。ドラクエの復活の呪文の仕組みを知らない人には今一つピンとこないと思うが、逆にその体験者にとっては「なぜ復活の呪文を時系列にノートに書いておく必要があるか」という埋もれていた記憶を掘り起こされて(それだけでも)何ともいえないノスタルジーがあった。

その他では、「「孤独」の話」「「死ぬ」の話」(→伊集院さん、案外?繊細なのですね)、「「超合金」の話」(→同年代の人でなくても笑える(と思う))、「「ボンボン」の話」(→大映の永田オーナーの息子の話。ペーソスある笑い話がとてもいい)「「ロック」の話」(→忌野清志郎はかっこいいという話)、がよかった。

まだまだ昔書いたネタはあるとのこと。第5弾も早く出してもらいたいものです。(でも著者はかなり凝り性みたいでそう簡単にはいきそうにないようですが)
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ゼロの未来

2015年05月20日 | 映画の感想
ゼロの未来

大企業マンコムに勤務する主人公はコンピュータによる解析の専門家。腕を見込まれて難問に取り組むことを命じられるが、うまくいかない。悩み苦しむ主人公を見て上司はパーティに誘う。そこで会った女の子と仲良くなるが・・・という話。

監督のテリー・ギリアムさんはアニメやコミックも手掛ける人とのことで、そのせいか、本作は一枚絵でみたら魅力がありそうな未来?の風景はいくつかありました。(例えば、主人公の自宅の周辺、公園の禁止行為標識)。
また、主人公が与えられた定理の解析をする時、コンピューターの画面に展開されるポリゴン崩しみたいなアニメーションは「数学を解くときの頭の中ってこんな感じかも」と思わせるものでした。
でも、予算がなかったのか映画としてみちゃうと、どのシーンも安っぽいっていうか、今時の言葉でいうと、イタい感じが漂っちゃっていたように思えました。

それに、作者の構想する未来?は随分と古めかしい感じでした。もしかして若い人にはかえって新鮮なのかもしれませんが、昔どこかの映画かマンガで見たような未来世界のイメージそのままのような気がしたのです。

思い出してみると「未来世紀ブラジル」も「12モンキーズ」も見たときは「あ~こんな映画みるんじゃなかった」と思ったのに、また見に行ってしまう(しかも珍しくも公開直後に)のは、ギリアム監督の作品が本当は魅力的だったからなのでしょう(映画館の会員カードのポイントがたまっていたから、というのもありましたが)。

でも、今度もやっぱり「普通の映画にしておけばよかった」と思いました。

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ゴーン・ガール

2015年05月16日 | 映画の感想
ゴーン・ガール

主人公(ベン・アフレック)の妻(ロザムンド・バイク)は、妻の親が書いてベストセラーになった子育て記で「アメージング(完璧な)エイミー」として描かれた子供。
妻は、本に描かれた姿と現実との差に苦しみながらも、親から印税分の信託財産をもらって主人公と豊かな暮らしをしていた。しかし、やがて主人公は失業し、重病に苦しむ主人公の親のため田舎へ引越しを強いられ、生活に不満を覚え始める。
ある日、妻は突然失踪してしまう。警察は事件に巻き込まれた可能性大という。主人公は懸命に捜索するフリをするが、実は彼は浮気しており、浮気相手がマスコミに名乗り出て窮地に立たされる・・・という話。

警察などをあざむくための妻の様々な工作は、巧妙そうにみえるが、後からよく考えてみると、現実ならとても役立ちそうにない子供だましレベルのもの。
その他にも現実性に欠ける箇所は(見た後に思い返すと)たくさんあるが、映画を見ている間は(そこそこ複雑な筋なのに)テンポ良く進行し、どんどんサスペンス性が高まるので、比較的長い上映時間にもかかわらず、最後まで全く飽きることがなかった。

ロザムンド・バイクの演技は(文字通り)鳥肌ものの不気味さを湛えていたけれど、それに負けず劣らずベン・アフレックのダメ男ぶりがまたなんとも堂にいっている。
失業者役だった「カンパニー・メン」でもそうだったけど、こういう役がお似合いなのかも。
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