蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

パッケージ

2019年08月18日 | Weblog
先日、横浜にある原鉄道模型博物館へ行ってきました。
平日だったので、すいていてじっくり見ることができました。本博物館は、原信太郎さんという、斯界では超有名な鉄道マニアの所蔵品を展示しています。
原さんは、鉄道に乗る、鉄道を撮る、模型を作る、といったマニアの諸道をいずれも世界最高のレベルで極めた人なのですが、特にすごいのは模型で、本物に近づけるために加工が難しい鉄で車輪やレールを自作し、電車の動力は電線からパンタグラフで取得しているのです(普通は線路から電気を取っていることが多い)。
博物館では、ジオラマ上を模型が実際に走っているところを見られますが、線路の継ぎ目でカタン、カタンという本物のような鉄道のような音がしたり、パンタグラフが微妙に上下動する様は、本当に驚異的でした。
今回、博物館の展示解説で教えられたのですが、窓ガラスの文字(「非常口」とか)すらエッチングで自作し、ステンドグラスの製作に苦心してついにはレーザープリンターで印刷する方法を開発したそうです。

模型店で販売されているキット(いわゆるプラモデルとか)を作るのではなくて、原さんのように部品から手作りした模型つくりの手法をスクラッチといいます。私も昔、洗車模型のスクラッチに挑んだ経験があります。金属に比べれば圧倒的に扱いやすいプラスチックを加工したのに、あまりの手間に半分もいかないうちに諦めてしまいました。
一方、キットをくみ上げるのは、(スクラッチに比べれば)非常な短時間でほぼ確実に完成します。今時のキットの出来は素晴らしくて、素人でもちょっと手をいれれば「このまま模型雑誌に載せられるのでは?」と勘違いしてしまうほどの完成度に仕上がります。

世の中には模型のキットのように、ユーザの手間を省くいわゆるパッケージサービスが色々な場面で登場します。最もポピュラーなのはいわゆるパックツアーでしょうか。旅行代理店が交通・宿泊・訪問先の手配をすべて行ってくれ、利用者はカバンを持ってでかけるだけ、みたいなイメージです。
もちろん、パッケージを利用するにはコスト(代理店の手数料)がかかりますし、利用したから必ずいい旅行になるとは限らないし、出来合いの旅行では予定調和な体験しかできないからつまらない、という向きもあるでしょう。
しかし、ポピュラーなパッケージを選んでおけば、コストに見合うくらいの効果があることが多いのではないでしょうか。

マンションは、マイホーム取得のパッケージと言えるかもしれません。すでに完成した部屋を下見した上(青田買いの場合もありますが・・・)で買い付け、日々のメンテナンスは管理会社がやってくれて、大きなマンションなら警備やコンシェルジェ的サービスもあるでしょう。
建物減価の対策として、償却費用の集金までしてくれます。土地を選んで地主と交渉し、建築会社と請負契約を結んで家を建て、住み始めたらメンテは自分の責任と判断でしなければならない一戸建てに比べると、とても便利なような気がします。もちろん、その便利さは価格や管理費に上乗せされているのですが。

会社も(労働者にとって)便利なパッケージの一つです。
一定の時間、拘束されることを承知すれば、会社の業績に関わらず、一定の金額が支払われ、税金の支払い、医療(健康)保険加入や年金積立の手配までしてくれます。
自営業なら、儲けは青天井ですがすべて自己責任、失敗すれば収入はありません。福利厚生も自己負担です。サラリーマンに慣れてしまった人には社会的手続き(例えば確定申告)は煩雑で耐えがたいでしょう。

多分、現代における最大のパッケージは「国家」ではないでしょうか。「国家」に属して、税金という使用料を払えば、様々なサービスを受けられます。警察は暴力から国民を守り、司法制度は理不尽な私的行為に制裁を行い賠償を命じてくれます。
パッケージの提供者である国としては、ユーザ(国民)に逃げられないようにサービスを充実する必要がありますが、無い袖は振れないので、代わりに愛国心をあおるようなことをすることもあるようです。逆に既にサービスレベルが十分に高い(例えば税金をはらわなくても生活保護という保障をしてくれる)国もあって、そういう国は逆に新規ユーザの受入れを厳しく制限しないといけなくなります。

居宅の住み替えは、まあ普通に行われますし、転職も当たり前のことになってきました。
国籍に変更は容易ではありませんが、昔に比べると流動性は上がっていると言えるでしょう。
パッケージが大きくなるほど、乗り換えの難度は増しますが、パッケージの選択の余地が大きければ大きいほど、また乗換が容易であるほど、人生や社会の豊かさは増していくように見えます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

しあわせの絵の具

2019年08月17日 | 映画の感想
しあわせの絵の具

モード・ルイス(サリー・ホーキンス)は、リウマチをわずらい手足に障害がある。両親は亡くなり親戚の家に居候するが居心地は最悪で、近所の雑貨屋でみつけた家政婦募集のチラシを見て魚の行商や便利屋をしているエベレットの家で暮らし始める。ひねくれ者のエベレットとの暮らしはギクシャクしていたが、やがてモードは家にあったペンキなどで絵を描くことに喜びを見出す・・という話。

結局、モードはカナダで最も有名な画家になるのだが、生涯田舎の小さな家(家中に絵が描かれている)でエベレットと暮らしたそうである。
私は、貧乏くさい話が好きなので、本作は好みのド真ん中といった感じの内容で、借りてきたDVDを2回みてしまった。

モードの絵は素朴で、絵が上手な小学生の作品みたい、若いころに彼女の作品をみたら、そんなふうに思ったかもしれない。しかし、年をくった今みると、絵に可憐さというか、鮮やかな色で描かれた単純な構図の絵なのに静かなペーソスが感じられて、じっと見入ってしまうのだった。

アメリカやカナダって素人画家が近所の雑貨屋とかに自分の作品を(とても安い値段で)売りに出して、普通の人が気に入ったらそれを買い、まれに高く評価されてプロになってしまう、といったカルチャーみたいなのがあるように思う。日本でも江戸期の浮世絵なんかは広く市場で売られていたのだけど、現在では、絵を買う、ってお金持ちの道楽というイメージしかないのは残念だなあ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

希望のかなた

2019年08月17日 | 映画の感想
希望のかなた

シリア内戦で故郷を追われたカーリドは、貨物船にまぎれこんでフィンランドへ入国する。難民申請をするが、強制送還が決まってしまい、収容所から脱走する。
街中でレストラン経営者のヴィクストロムと出会い、彼に匿ってもらってレストランで働くうち、従業員ともうちとけるようになる・・・という話。

アキ・カウリスマキ監督は「名前だけは聞いたことがある」人だったのですが、アート系映画の監督として有名なようです。

意図的な演出なのかもしれませんが、役者やセットが数十年前の映画の雰囲気で、ストーリー展開もぎこちない感じ。
そこから生まれてくるペーソスとかユーモアを味わうべき映画かもしれませんが、観ていてあんまり楽しい気分にはなれませんでした。

カーリドが働くレストランでは客寄せで寿司をメニューに加えようとするのですが、こればトンデモな代物で、日本にある外国料理のレストランの中にもあんなのがありそうなんて思えました。それにしてもフィンランドでも寿司が人気なんですね。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

破滅の王

2019年08月17日 | 本の感想
破滅の王(上田早夕里 双葉社)

1930~40年代、石井四郎(後の中将)が設立した満州の細菌戦研究所に勤務する藤邑は旧知で天才的研究者の真須木がR2vという(実はドイツから提供された)細菌を強化して対抗手段がない細菌兵器を開発したことを知る。このR2v(キング)をめぐって上海の防疫研究所の研究員:宮本、六川や陸軍の灰塚少佐の活躍を描く。

著者はSF系というイメージが強いので、そういう話なのかと思って読み始めたら、(キングの設定に多少そういう雰囲気はあるが)実話も交えた歴史ミステリのように思えてきた。しかし、読み進めると(フィクションではあるものの)化学(生物)兵器批判がテーマのようにも思えて来て、焦点・主題が絞り切れないまま終わった感じ(読み方が悪いだけのようにも思うが)。

戦時期の上海の情景、雰囲気がうまく表現されていた。あやうく危険もあるけど魅惑的な都市であったことが伺えた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

セイバーメトリクスの落とし穴

2019年08月15日 | 本の感想
セイバーメトリクスの落とし穴(お股ニキ 光文社新書)

著者(ハンドル)名から見ると、かなりふざけた内容が予想されるところですが、中身はいたって真面目な野球評論です。
文章も非常に読みやすく、もともと文筆関係の職業の方では?と思えました。若干技術論に傾きがち(特に投手の変化球編)なのは、著者のアドバイスがダルビッシュにまで採用されたことなどから自信があるからなのでしょうか?

著者も述べている通り、ピッチャーが投げている球種が何にあたるのかは、人それぞれ(投げている本人もわかっていなこともあるらしい)の判断で、画一的に決めることはできないようです。実際、テレビや球場で見ていても落ちたかスライドしたかくらいしかわからないことが多いように思います。

私は、時々メットライフドームに行きますが、同球場では客席からブルペンが見られるようになっていて、ピッチャーの背中側の少し上目の席から見ていると球筋が見やすく、「今のはチェンジアップだな」などとわかります。ブルペンでこんなに曲がるのだから、本番ではさぞかし凄いのでしょう。それを簡単にバットに当てられる打者もまた凄いのですが。

現在のメジャーは、データ重視の影響で、かえって「ホームランか三振か」みたいな、ゲームの単純化が(一周回って)進んでいる、
とか、
分業化でベンチ入りさせる投手の人数が増え、試合で起用可能な野手の数が減っているのでどこでも守れるユーティリティ野手が歓迎されていて、捕手すれもできるような選手が特に重宝されている(さらに、大谷の出現でユーティリティの範囲が投手にまで拡大しそう)、

などという指摘が特に印象に残りました。

なお、注釈で日米の選手の短い紹介が行われているのですが、これがまた面白くて、選手評だけの本を書いてもらってもよいのでは?と思えました。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする