蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

アンストッパブル

2011年07月31日 | 映画の感想
アンストッパブル

操車場における運転士のミスから暴走を始めてしまった貨物列車を、走行する本線の近くにいた別の機動車の運転士二人が停止させようとする・・・という話。

実話に基づく設定(ウイキで見ると、かなり脚色されているようだ)というのが作品自体に力を与えている。
機動車の運転士二人のプライベートなエピソードの挿入がうまくて、二人に感情移入しやすくなっている。
また、暴走列車のスピード感、簡単には止まりそうにない力感、様々な停止工作を次々に跳ね飛ばしていく表現がダイナミックでよかった。
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向日葵の咲かない夏

2011年07月31日 | 本の感想
向日葵の咲かない夏(道尾秀介 新潮文庫)

評判が高い本で、読んでみたいと思っていたのだけれど、主人公が小学校4年生というので、「ジュブナイルみたいなのかな」という思い込みをしてしまい、ちょっと敬遠気味だった本。でも古本屋で100円だったのでつい買ってしまった(が、買ってよかった)。

内容は、ジュブナイルどころか、むしろ健全な青少年にはお勧めしかねる場面多しと言った物で、ホラー風の語り口でアンフェアすれすれ(というか、冒頭から死者がクモになって甦るというストーリーなので予備知識なしに読み始めるとミステリだとは思えないだろう)のところで叙述トリックを成立させている。

アンフェアにならないよう、かなり用心深く描写がされている。本格もののように、最後まで読んでから読み返すと、著者の心配り(や伏線)がそこかしこに観察される。

このような意味ではよくできた小説だと思うし、人気があるのもわかる。

でも、話全体が暗いムードで、なんと言うか清潔感に欠ける設定(主人公の家がゴミ屋敷だったり、学校の先生のアパートが●●の巣窟だったり、物語の主要舞台の一つである自殺した生徒の家も荒れ放題 等)なので、読んでいているうち、気分が落ち込んでくるような感じがしてしまった。
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マイナス・ゼロ

2011年07月31日 | 本の感想
マイナス・ゼロ(広瀬正 集英社文庫)

これも、長く読もうと思いつつかなっていなかった本。やっと読めた。

主人公は、昭和20年の東京大空襲時に世田谷に住んでいた。隣家には反戦的言動をとる学者とその美しい娘が住んでいたが、空襲でその娘が行方不明になる。

18年後、主人公は、同じ場所にタイムマシンで運ばれてきたその娘と再会した。実は学者は未来からタイムマシンで来ており、娘の命を助けるためにタイムマシンで娘を未来へ送ったのだった。主人公はタイムマシンの操縦方法を推測し、自ら、学者が未来から到来したと思われる昭和7年にタイムスリップする。


本書は、タイムマシンものとして有名な作品だが、パラドックスを味付けにしつつも、あまりそこには深入りせず、昭和初期の社会や風俗、景色の描写が主題となっている。

この本が書かれた昭和40年からすると、昭和7年といえば大昔で、戦争をまたいでいることもあって昭和40年頃の読者からしても郷愁を誘うものがあったのだろう。(解説をしている星新一さんもそういった主旨のことを書いている)
ところが、今(2011年)から見ると主人公がもともと生活していた昭和38年がすでに大昔なので、2011年に読んでいる読者の視点からすると、二回過去へタイムスリップした感覚を抱いてしまい、作中の過去と現代を行き来する人物たちの感覚とないまぜになって不思議な読後感があった。

主人公はどんな窮地(昭和7年に置き去りにされたときや(人違いで)戦争に召集された場合など)に立っても、動揺せずにすぐに善後策を考え始める。
それは運命をあっけらかんと受け止めて、しかし、運命の思うままにはならないぞ、という経済成長期真っ盛りの日本人の前向きな心持が反映されているように思えた。
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長い腕

2011年07月31日 | 本の感想
長い腕(川崎草志 角川文庫)

少し前まで近所の書店に平積みされていた。文庫発行からでも10年近く経つ本だけれど、何度か書店の棚に復活しているのを見たことがあるので、息長く売れている本なのだろう。

私も、読んだみたいな、と思いつつスルーしてしまっていたのだけれど、やっと読み終えることができた。

ゲームデザイナの主人公(女性)は、プロジェクトが一段落したところで退職し、四国の実家に戻る。そこでは女子中学生の殺人事件が発生していた。
その事件は、主人公の会社で退職直前に起こった社員の自殺と奇妙な共通点があった・・・という話。

何を暗示しているのかなかなかわからないタイトルや、一見何の脈絡もないエピソードが書き連ねられた導入部、それに主人公のキャラ設定やハードボイルドな暮らしぶりの描写もよかった。

ただ、中心となるトリックは、多少トンデモ系というか、アイディアとしては面白いかもしれないが、リアリティが感じられないというかそんなことで殺人まで発展するかねえ、という感じがした。
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陳家の秘伝

2011年07月31日 | 本の感想
陳家の秘伝(陳健一 日経プレミア)

「料理の鉄人」で有名になった著者の、料理やレストラン経営に関するエッセイ。

口述されたものをまとめたもののように見えて、あんまりまとまりはないけれど、内容は期待していたより面白く、役にたちそうに思えるものだった。

印象に残ったのは次の点

・紹介されているほとんどの料理の調味料として豆板醤が登場。和食(親子丼、肉じゃが)にも合うという。四川の人にとっては、日本人にとっての醤油みたいなものかもしれない。

・料理初心者向けに、サラダドレッシングを使った味付けの料理を紹介している。確か著者のお父さんがNHKの「今日の料理」に出演しているとき、味付けの最後にいつも化学調味料少々というのがあったような気がする(違っていたらごめんなさい)。それと同じで、気取らず、簡単においしいものを作りたいという考え方が引き継がれているのかなあと思った。いずれも作ってみたくなる、食べてみたくなるレシピだった。

・父の味付けを会得しようと努力したが、結局ムリだった。味付けは親子といえでも相伝?できず、個々人の流儀でいくしかない。

・「料理の鉄人」で審査員に料理を出す時、人によって味付けや量を調整していた(例えば、女性の審査員には、あまり口を開けなくても食べられるよう、材料を小さめに切ったとか)。

・著者はゴルフが大好き。年間200ラウンドすると書いてある。いくら好きでもそんなにできるものなのだろうか。

・著者の原点は、父の「ご飯食べた?」という挨拶。食べてないと応えるとほどなく温かい料理を手に父が現れた、という。料理の極意はおもてなしと楽しさだ、とする。
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