蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

暴雪圏

2012年01月30日 | 本の感想

暴雪圏(佐々木譲 新潮社)

制服捜査」に続く、川久保巡査シリーズ。

彼岸荒れとよばれる雪の嵐におおわれた十勝地方のあるペンションに行き場をなくした人々が偶然集まるが、そのうちの一人はついさっき暴力団組長の自宅に押し入って強盗殺人を犯した犯人だった。
川久保巡査は、犯人がそこにいることがわかっても雪嵐に阻まれて駐在所を出ることができない・・・という話。

「制服捜査」は、地味な巡査の日常的な防犯活動を描きながらも、ミステリとしても楽しめる出色の出来だった。
それと比べると、警察官の活動を描くという点およびミステリとしては今一つかという感じ。
ただし、それは、本書の主題が、タイトル通り、北海道の凶暴ともいえる風雪のすさまじさを描くことにあるせいであろう。確かに、ちょっとした外出が生命の危機にもつながる雪のすさまじさが実感できる内容になっており、著者の狙いは十分に伝わってきた。

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再会の食卓

2012年01月22日 | 映画の感想
再会の食卓

共産党軍に敗れて台湾に渡り、本土の家族と生き別れた国民党の兵士が本土の(元)家族への訪問を許され、上海の(元)妻と息子を訪ねる。

(元)妻は、今では本土の男と結婚して孫もいる。しかしその家族は元兵士の男を、せいいっぱいのご馳走をそろえて暖かく歓待する。男は(元)妻を台湾に連れ帰りたいと申し出、本土の(現)夫も承諾するが・・・という話。

以下は私の解釈(多分間違っていると思います)。
******
(現)夫がいとも簡単に連れ帰りを許したのは、実はそれが実際には不可能であることを知ってたからだと思う。当局がそんなことを許すはずはない。

しかし男が帰るまでしばし夢をみさせてあげようとしたのだ。元妻もそれは十分知っていた。
男自身もそれを知っていて、だから(現)夫が連れ帰ることを承諾しても苦しそうな表情を崩すことはなかったのだ。
******

邦題通り、食事の場面が数多く描かれる、大皿に盛られたおかずを自分の箸で同席する人の飯茶碗に入れてあげるという中国の習慣は、衛生面では問題ありだし、現在の日本の若い人には「冗談じゃない」かもしれないが、私のような年寄りには「いいものだなあ」と思えた。
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屋上のとんがり帽子

2012年01月22日 | 本の感想
屋上のとんがり帽子(折原恵 福音館)

たまたま図書館の子供向けおすすめコーナにあるのを見つけて借りてきた。

屋上のとんがり帽子とは給水塔のことで、樽の上に円錐形の屋根をつけた形状をしていて牧場のサイロの小さいの、というイメージのもの。水の味を良くするということで木材で作られている。

写真でみると給水塔自体はウエザリングで古臭い感じなのだが、モダンな高層ビルでも作られている事が多いそうで、確かに本書の8~9ページの写真を見るとニューヨークの中心街でも給水塔だらけである。

私は、この給水塔をアメリカの鉄道の駅の写真やジオラマでよくみたことがあったのだが、「昔なつかしい情景」なんだろうなあ、と思っていたので、今でも大都会のど真ん中で活躍中と知っておどろいた。

木製なのであまり大型にできず、不便なのでは?と思ったが、給水はポンプでするのだし、日本のように、天災時の備えというのもニューヨークならあまり必要そうになく、小型で十分なのだろう。

蛇足だが、「とんがり帽子」と聞くといまだに(モビルアーマーの)エルメスを最初に連想してしまう自分に苦笑した。
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私という運命について

2012年01月22日 | 本の感想
私という運命について(白石一文 角川文庫)

NECをモデルにした会社の総合職1期生の女性を主人公として、20代後半から40代近くまでの10年を描く。結婚寸前で同僚の男性と別れて、福岡に転勤してデザイナの男性とやはり結婚間近までいくもののやはり別れ、東京に戻って離婚していた同僚とモトサヤに・・・という話。

白石さんの著作を読むのは初めてなのだが、イメージとしては「ささくれだったような感触やヒリヒリとした鋭い世界観」(本書の解説より)のある作品だと思っていた。
ところが、どうも本書は例外のようで、やはり本書の解説によると、著者自身が「より多くの読者に楽しんでもらう作品」「ただひたすらに、読了感を良くしようと」と認めているらしい。

と、いうことで「ささくれだったような感触やヒリヒリとした鋭い世界観」はなく、登場人物も背景もおしゃれで上品な感じである。
ただ、ところどころに普通のエンタテイメント作品にはない、説明的な文章や人生に関する考察みたいなところはあって、そのあたりでは、少しだけ本領発揮ということなのだろうか。
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ユージニア

2012年01月22日 | 本の感想

ユージニア(恩田陸 角川文庫)

金沢をモデルにした地方の都市で起きた富裕な医師の一家の集団殺人事件の関係者たちを主人公にした連作形式の長編。

一つ一つの章が独立した短編としても十分に耐える出来栄えだった。特に犯人と目された黄色いカッパの男のエピソードが印象に残った。

タイトルの「ユージニア」が何であるのかは、最後まで読んでもよくわからず、いろいろと想像の域を広げさせてくれるのだが、それも本書の魅力となっている。

恩田さんの作品では、デビュー作の「六番目の小夜子」、代表作ともいえる「夜のピクニック」を読んだが、正直いって世評ほど面白いとは思えなかった。しかし、本書はその力量が十分に実感できた小説で、他の本も読みたくなってきた

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