蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

あのこは貴族(映画)

2022年02月22日 | 映画の感想
あのこは貴族(映画)

榛原華子(門脇麦)は富裕な開業医の三女で幼い頃から超高級住宅街に住む。婚約者に振られてお見合いをしたところ、慶応の幼稚舎からの内部生で弁護士で都内に広大な不動産を保有する家の跡継ぎの青木(高良健吾)と巡り合い結婚する。
時岡美紀は(水原希子)富山から上京して慶応大に学ぶが、父親が失業して学費が続かなくなり中退し、今はコンパニオン業?に就いている。美紀は青木と交際していた時期があり、(深い仲と誤解した華子の友人が、結婚する前に青木と訣別させるべく設定した場で)華子と会い、かけ離れた環境で人生を送ってきた二人が交錯する・・・という話。

私も大学に入って初めて上京したクチだが、付属校から来た人は独特の雰囲気があって最初のうちは近寄り難かった。もっとも、慶応のような上品な学校ではなかったので、「(付属から来た人が)大学に入ったばっかりなのに、もう口ヒゲが生え揃っている」といった系の理由で近寄りがたかったのだが。

付属から来た人を「内部生」と呼ぶとは知らなかった。なんとも特権的・差別敵な響きがある言葉で、当時知っていたら反発したに違いない。実は私の子供がとある付属校に通っていたときに初めてこの言葉を知った。娘が普通に「内部生」という言葉を使っているのにゾッとした記憶がある(すぐに慣れたけど)。

門脇さんを内部(および東京)の人、水原さんを外部(および地方)の人という(普通に考えれば真逆の)キャスティングをしたことが本作の成功要因の第一だと思う。

ありふれた映画なら、虐げられた外部が内部に対して暴発したり復讐したりする筋にすると思うのだが、本作はあくまで穏やかにストーリーが展開される。
元カレの婚約者と対面しても美紀は大して気に病まないし、華子が青木と離婚に至るまでの(二人の間の)いざこざも描かれない。
それでいて、最初から最後まで妙な緊張感が保たれていて、見ている側を退屈させないのは、世評通り、監督のウデが良いせいなのだと思った。これが成功の第二の要因。
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沈没船博士、海の底で歴史の謎を追う

2022年02月20日 | 本の感想
沈没船博士、海の底で歴史の謎を追う(山舩晃太郎 新潮社)

著者は、プロ野球を目指していたが、大学の時に諦める。卒論のテーマを探すうち、沈没した船などを(海底の泥などを除去して)発掘する水中考古学に出会い、研究が盛んなアメリカの大学に留学する。猛勉強の末、フォトグラメトリというコンピュータによる再現手法を発展させて学位を取り、世界各地の発掘現場で活躍する。

著者は大学は史学科だったものの、野球に専念?していたせいか、英語はからっきし(マックで注文することすらできなかった)だった。水中考古学を知ったのはたった1冊の本で、それで進路を決めてアメリカへまさに裸一貫で渡り、専門学部へ潜り込んでしまったのだから、行動力がすごい(というより無謀というべきか)。
英語が全くできない状態から数年でライバルたちをしのいで学会を驚かせるような成果をあげるのだから集中力も驚異的だ。
やっぱり、ずっと体育会系で鍛えられてきた人って、方向性が決まると強いよね。
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ケイロンの絆

2022年02月15日 | 本の感想
ケイロンの絆 グイン・サーガ138(宵野ゆめ ハヤカワ文庫)

オクタヴィアがケイロニア皇帝として戴冠。グインはシリウスを求めてベルデランドへ赴く。
ワルスタット侯ディモスは、蘇ったナリスに操られて?ハゾスと対立する・・・という話。

本作中でも露骨に語られているが、ケイロニア臣民にとって、グインって疫病神だよね。グインがケイロニアの傭兵にならなければ、シルヴィアがあそこまで狂っちゃうことも、庶子であるオクタヴィアがパロの流浪の王子とできちゃってパロの内乱に介入せざるをえなくなることも、そして何よりグラチウスを代表格とする魔道師の群れを引き寄せることもなかった。

まあ、グインは星の彼方から派遣された?調整者らしいから、すべては超越的存在である宇宙人?の意図なんだろうけど??

栗本グイン時代からそうだったんだけど、どうもグインが登場する刊はイマイチ盛り上がらないんだよね。
続編プロジェクトでは、グインをないがしろにしてはまずいという配慮?からか妙にグインの登場シーンが多いが、もしかしてこれがあまり人気がでていない?理由かも。
割り切って(栗本グインみたいに)イシュトとナリスの絡みに大部をさいてみてもいいかもしれない。
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この本を盗む者は

2022年02月12日 | 本の感想
この本を盗む者は(深緑野分 角川書店)

御倉深冬は、有名な書物蒐集家の御倉嘉市の孫。嘉市は蔵書を収納する御倉館を建て一般公開していたが、蔵書の一部が盗難され、後継者の娘:たまきは御倉館の公開をやめてしまう。
深冬の父:あゆむは、御倉館の管理人を務める。おばのひるねは、御倉館に寝起きするが、名前の通り昼寝ばかりしていて深冬の悩みのタネとなっている。
ある日、ひるねの世話を焼く深冬の前に真白という女の子が現れ、深冬はブックカースの世界へ行かれることになる・・・という話。

ブックカースというのは、本の呪いのことで、御倉館の本には呪いがかけられているので、それを盗むと世界が変貌してしまうという。
ブックカースが導く幻想世界が3つ展開されて、一応最後に謎解きがあるが、虚構性が強い物語が苦手な私には、ちょっとついていけない感じがした。
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ウォーターダンサー

2022年02月12日 | 本の感想
ウォーターダンサー(タナハシ・コーツ 新潮社)

ハイラムはヴァージニアのロックレスの農場の奴隷だった。彼には「導引」というテレポーテーション?のような超能力があったが、その能力をコントロールできるまでには至っていなかった。地下鉄道の援助で一時自由州へ脱出するが、連れ戻されてしまう。しだいに能力に目覚めて恋人や親族を北部へ脱出させようとするが・・・という話。

地下鉄道のリーダーの一人:ハリエット・タブマンをモデルにした登場人物モーゼも「導引」能力を持っていた、という設定になっていて、「導引」とは何なのか?というのがストーリーのドライバーになってはいるのだけど、クリアな謎解きがあるわけではない。

ハイラムは(奴隷としての)所有者であるウォーカーの実の息子で、恋人?のソフィアはウォーカーの弟の愛人である。濃密で複雑な人間関係と、読んでいる方も暑苦しくなるような衰えゆく南部の情景の描写が読みどころだと思うのだが、ちょっとクドさがあって読み進むのに苦労した。
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