蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

陽気なギャングは三つ数えろ

2015年10月27日 | 本の感想
陽気なギャングは三つ数えろ(伊坂幸太郎 祥伝社ノンノベル)

ギャングシリーズに限らず、著者の小説には、絶対的な悪者が登場して、これと戦おうとしたり、敵わないとみて逃げ回ったりする話が多いように思います。
本書では火尻という変な名前のゴシップ記者が悪者で、成瀬たち強盗グループ達に挑戦するのですが、火尻は(悪事が実にセコいし、強盗グループを相手にするにしては無防備すぎて)あんまりワルって感じがしないし、さほど強そうでもないです。
特殊な能力を持ち、綿密な計画をたてて銀行強盗を何度も成功させている成瀬たちの手にかかれば、火尻を闇から闇に葬ることなど造作もなさそうに見えます。しかし、成瀬らはあえて自ら手を汚そう(殺人をしよう)とはせず、火尻が借金を抱えている賭場の元締めにやらせようと画策するのです。

物語の筋立てに文句をつけても詮無いことですし、そもそもこのシリーズは(ストーリーをたどるというよりは)成瀬たちのグループ4人組やその他の登場人物との会話を楽しむべきものなのでしょうが、この、自分たちでできるのに自らの手は汚さない、でも敵役を(おそらく残虐に)抹殺してしまう、というやり方はちょっと卑怯なんじゃない?なんて思ってしまいました。(しつこく言うと、火尻より賭場の元締めの方がよっぽど手強そうで、もし、火尻にかけたトリック(これがけっこうトンデモ系)がバレた日にはとても大変なことになりそうで、成瀬がそんな計算すらできないのは不自然だと思います)

余談ですが、シリーズ第一作の「陽気なギャングが地球を回す」は映画化されましたが、今考えるとキャストがすごかったんです。
成瀬→大沢たかお
響野→佐藤浩市
久遠→松田翔太
雪子→鈴木京香
特に、響野のイメージに佐藤さんはピッタリ嵌っていて怖いくらいでした。
ただ、個人的には映画としての出来はイマイチかなあ、と思いました。せっかくいいキャストを集めたのだから、おふざけ気味の原作を多少離れてノワール的な話にしたらよかったのに、と思った次第です
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おみおくりの作法

2015年10月27日 | 映画の感想
おみおくりの作法

主人公(イギリスの公務員)は、担当地区で孤独死した人がでた場合、遺品整理や葬儀の手配、遺体の処分までをコーディネートする仕事を20年以上続けている。
機械的に進めてもいい仕事だが、主人公はできるだけ個人の係累をさがしあてて遺品を渡したり、葬儀への出席依頼をしたりする。
ある日、自分の住むアパートの対面のアパートの部屋で(ビリーという男が)孤独死する。同時に主人公は(丁寧すぎる仕事ぶりを嫌われて)リストラを宣告される。
主人公は、最後の仕事としてビリーの元同僚や娘を訪ねるが・・・という話。

報われない仕事をこつこつ丁寧にこなし、質素で孤独な生活に満足し、悲劇な結末を迎えるものの、その後、多くの人たちから評価されていたことがわかる・・・
といった、ありがちな「お涙頂戴」的ストーリーだとは思うものの、商売っ気があまり表にでてこないところが、「うまい」と思えて、素直に感動できたし、満足度は高かった。

それにしても邦題はちょっとなあ。(原題は「STILL LIFE」)
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リアル・シンデレラ

2015年10月25日 | 本の感想
リアル・シンデレラ(姫野カオルコ 光文社)

主人公(泉(セン))は信州の料理旅館を経営する両親の長女。
妹は誰もが認める美人だが、主人公はぱっとしない外見で服装も野暮ったい。主人公は許婚を妹にとられた後、別の男と結婚して旅館を継ぎ、斬新なアイディアで繁盛させるが、夫は浮気をして離婚を迫られる。主人公は離婚を簡単に承諾し、旅館の経営権も譲ってしまう…という話。

私たちが物語(小説)を読む動機は、読んだ後(あるいは読んでいる間も)楽しく、ハッピーな気分になりたいからなんだと思うのですが、最初から最後までハッピーの連続では面白みがなく、苦しみぬいた主人公がついには勝つ(克服する)という展開になっているものが多いと思います。
しかし、悲惨な事態を描いて結末もまた悲しい物語(いわゆる悲劇)もそれなりの数が存在します。例えば「フランダースの犬」とか「リア王」とか。

読んだら暗い気分になる物語を、物好きにもなぜ読むのか? それは、登場人物の厳しい境遇を自らのそれと比較して自分の方がまだマシと感じたい、つまり「他人の不幸は蜜の味」を物語上で味わいたいからだ、という説明があります。
まあ、そればかりではないものの、そういう側面も確かにありますよね、というところでしょう。

「リアル・シンデレラ」というタイトルは、主人公が苦難を乗り越えて復讐を遂げる、みたいな展開を予想させますが、冒頭に紹介したように、筋だけを追えば「フランダースの犬」系で、かつ、ラストは「それはないでしょ」と思えるほど主人公には厳しいものになっています。

しかし、本書は「他人の不幸」を楽しむべき?小説ではありません。
一見不幸のどん底のような主人公こそが、幸せとは何かを最も理解し実践しているからです。だから、ずっと一緒に暮らしている周囲の人々から見るとさえないおばさんでしかない主人公を、外部の客観的視点を持つ第三者が見ると「美しい人」「垢ぬけた人」と評価するのです。

読み方によって様々な解釈ができますし、小説としての世評もいろいろ(本書は文学賞の候補でしたが、選評で評価が大きくわかれたことで有名になりました)なのですが、私としては、読み終えて満足感の高い作品でした。
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東京プリズン

2015年10月11日 | 本の感想
東京プリズン(赤坂真理 河出書房新社)

出版以来、世評が非常に高いし、東京裁判をテーマにしているということで、いつかは読もうと思っているうち何年も経ってしまった。

で、読んでみて「え、何でこれがそんなに??」という感じ。テーマに対する掘り下げもたいしたことないし、それ以外の部分は著者の夢日記みたいだったし、ヘラジカを神格化するところはジブリの映画みたいだし・・・何より肝心のディベートが全然ディベートっぽくないんだけど。

アメリカでの留学生活での異邦人としての違和感(高校生が友達を誘ってステーションワゴンに乗って鹿狩りに行っちゃうとか)はうまく伝わってきた。
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駄作

2015年10月11日 | 本の感想
駄作(ジェシー・ケラーマン ハヤカワ文庫)

ベストセラー作家の友人が死んで葬式に参列した主人公は友人の仕事場で未完の原稿を見つけて持ち出し、少々手直しして出版エージェントに持ち込むとこれがベストセラーになる。早速次回作を求められるが・・・というあたりまでは普通?のミステリ小説っぽいのだが、そこから先は・・・

文庫本の作品紹介の最後に「本書には奇想天外な展開があることを警告しておきます」とあるし、「駄作」という題名(原題POTBOILERは「通俗小説」くらいの意味)、序盤にやたらと売れ筋のミステリ小説の批判が出てくる、等から、中盤以降の怒涛の展開にもなんとかついていける(多分これは一種のパロディ、ベストセラー批判なんだろうなと思いつつ読める)が、全く予備知識なしに読み進むと「ふざけんなよ」って放り出しかねない筋書だった。

剽窃、昔の恋人とのロマン、「そんなことあるわけないだろ」的な国家的陰謀、平凡な主人公が突如スーパーマン化する短期集中訓練、社会主義体制をしく不思議の国への侵入、裏切りと友情、過酷な任務の後の隠遁生活、トンデモ展開の後のわけのわからないラストシーン・・・などなど確かに通俗的ベストセラーの要素をこれでもかというほど詰め込んでいる。
父母ともにベストセラー作家という環境に置かれたら、普通の小説は書きづらいし、両親への反抗的な気分が生じるのもわからないではないし、「あるある」的な面白さもけっこうあるのだけど、日本語で500ページの大長編?に仕立てるほどか?というのが正直なところだった。
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