蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

フローズンリバー

2010年12月31日 | 映画の感想
フローズンリバー

主人公は中年の女性で15歳と5歳の子供がいるが、夫は家を買うための貯金を持ち逃げして蒸発中。
手付けを払ってしまっている住宅の買付資金に困って、ふとしたきっかけで知り合ったネイティブアメリカンの女性と、国境の凍結した川を渡りネイティブアメリカンの居留地を経由して不法移民を運ぶという、違法なバイトに手を染める。
何度か成功するが、ついに警察に見つかって・・・という話。

約1.5時間というほどよい長さの中で、貧困問題、原住民の問題(今でも居留地って部族による自治が行われていて、原則として州の警察権力も及ばないという事実は初めて知った)、移民問題という社会的テーマを取り上げながら、奇妙な友情と親子の愛情を描いて、エンタテイメントとしても「アート系映画」としても十分成立しているすぐれた作品。

こういう映画をいつも見ていたいよな、と思えるレベルで、私が今年見た映画ではナンバーワン。
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ミレニアム ドラゴンタトゥの女

2010年12月27日 | 映画の感想
ミレニアム ドラゴンタトゥの女

硬派雑誌:ミレニアムの敏腕記者であるミカエルは、自身の報道記事をめぐって訴えられ、有罪となってしまう。
収監されるまでの間、大企業グループのオーナーに雇われて調査を請け負う。オーナーの依頼は、40年以上前に発生した、自分の娘(養子)の失踪事件の真相を調べることだった。

一方でオーナーは、ミカエルを雇う前に彼の身辺を調査しており、この調査に当たったのがリスベットという女探偵で、恐ろしく有能だが、子供時代に犯した犯罪により保護観察下にある。リスベットは、調査後もミカエルへの興味を失わず、彼の調査に協力することになる。


日本では、小説も映画もイマイチヒットしていない感じだが、さすがに世界的ベストセラーだけあって、最後まで楽しめる。

有体に言ってストーリーは類型的なのだが、ミカエルが真相に迫るプロセスが分かりやすく映像化されていることと、リスベットのエキセントリックな言動が魅力的に描かれていて、飽きさせない。
特に、(主筋とは関係ないのだが)リスベットが保護観察者である悪徳弁護士をやっつける場面はとても痛快。
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絲的メイソウ

2010年12月23日 | 本の感想
絲的メイソウ (講談社 絲山 秋子)

一時期著者の作品を続けて読んだ時期があって、ホームページの日記もよく覗いていたが、最近はご無沙汰だった。あるサイトで本書を褒めているのを見て読んでみる気になった。

本書によると、著者は建築会社の営業だったようで、おそらく大卒女子総合職の走りころの時期に就職したと思われる。
私が就職したのもその時期なのでよく分かるのだけど、そのあたりに総合職になった女性は相当に肩に力がはいっている人が多くて、今風にいうと「痛い」感じがした。
がんばりすぎて燃え尽き症候群みたいになってしまう人もよく見かけた。

本書のいくつかのエピソードかなりやり手のセールスだったことが伺われるが、そうした思い出(自慢)話も、やっぱりちょっと「痛い」感じだ。
がんばってるんだけど、「無理してたんだねー」というムードが漂っている。

そうしたキャリアウーマン(死語ですかね・・・)の道を捨てて純文学(これも・・・)系の作家という180度逆の道を選んだのは、がんばりすぎて鬱症状に陥ったせいなのか。
そもそも純文学を志すこと自体、精神的に過敏な人だったことの証明といえるのか。
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重力ピエロ(映画)

2010年12月23日 | 映画の感想
重力ピエロ(映画)

仙台で続く放火事件の現場近くにはいつもグラフィカルアート(壁への落書き)があって、主人公とその弟は、それを手がかりに犯人をつかまえようとする・・・という主筋はどうでもよくて、本作の主題は「生みの親より育ての親」。

弟は母親が強姦されてできた子供で兄とは父親が異なる。兄弟は別々にその強姦犯(刑期を終えて娑婆にいる)への復讐を企てている。

父親役の小日向さんの若作りはけっこう似合っていた。若作りをしていない母親役の鈴木京香さんがやけに老けて見えるほど。
弟役の岡田将生さんは見た目はぴったりのキャスティングだったと思うが、ちょっと平板かなあ・・・という感じだった。しかし、小顔で甘めのマスクの正統派二枚目。人気がでるはずだよねえ。

原作を読んだときは、とても思いテーマに思えたが、映画では深刻さをわざと薄味にしているように感じられた。
前半はそれがうまくいっていたように見えたけれど、強姦犯が登場するあたりから、「やっぱり薄味すぎ?」みたいに思えてきて、原作ではとても感動的だった終盤は失速気味だった。

これを書いていて、原作の方の感想を書いていないのに気がついた。再読して感想を書いてみようと思う。
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しゃばけ

2010年12月23日 | 本の感想
しゃばけ(畠中恵 新潮文庫)

大人気シリーズで、装丁のイラストが好きだったので、いつか読んでみようと思っていましたが、やっと実現しました。

江戸日本橋の富裕な廻船問屋の一粒種が主人公。極度の蒲柳の質ですぐ寝込んでしまいますが、特殊な能力があって、普通の人には見ることができない妖怪たちが認識できるのでした。妖怪たちは、ある理由から彼のボディガード役を担っています。
主人公の店は副業として薬種問屋も営んでおり、彼はそちらの方の名目上の主人。彼の周囲で不老不死をもたらすという薬を求めて殺人事件が起こり・・・という話。


ミステリなのかと思って読んでいたのですが、それはほんの味付け程度で、本題は妖怪ファンタジーそのものでした。
「おお、けっこう不可能趣味なトリック。本格なのか?」と謎解きを少し考えてしまっていたので、ちょっと拍子抜けしちゃいました。

本シリーズが人気なのは、(推測だけだが)筋立てとかではなくて、妖怪たちの魅力(それをビジュアル化している表紙絵と挿絵もいい)にあると思いました。特に鳴家という子鬼の妖怪が主人公にじゃれついているあたり、いかにも女の子に人気がでそうな感じです。
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