蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

帝国宇宙軍1

2017年05月30日 | 本の感想
帝国宇宙軍1(佐藤大輔 ハヤカワ文庫)

佐藤大輔さんの作品は「皇国の守護者」しか読んだことがなくて、9巻が出たのははるかな昔なんですが、ちょっと前に中公文庫で再刊され、おまけの新作短編も付いていたので、「これはいよいよ続きが出るのか?」と期待していたのですが・・・お亡くなりになってしまったとのことで、とても残念です。

あ、今思い出したけど、著者唯一の完結シリーズと言われる「征途」も大昔に読んだことがあった。これを再刊してくれる出版社はないかなあ。20年くらい前に読んだので、(とても面白かったという記憶はあるものの)ほとんど内容を忘れてしまったので。

本作はシリーズのプロローグのような内容なのですが、どうも設定自体が冗談っぽい(銀河帝国の帝王は普通のおばちゃんだとか)のに、軍艦とか軍隊組織の描写はやけに詳細かつ本物らしくて、著者としては従来のシミュレーションゲーム的小説とは一線を画してパロディみたいなのをやろうとしたのかな、と思えました。

主人公の駆逐艦艦長・天城が、攻撃を受ける(あるいは受けそうになる)たびに、やけに乗艦の汚水処理系統機器(トイレ)の被害状況を気にするのが可笑しかったです。
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ボーダーライン

2017年05月30日 | 映画の感想
ボーダーライン

主人公(エミリー・ブラント)はFBIで麻薬捜査をしていたが、国防総省に出向?してメキシコの麻薬組織の長を捕らえるチームに所属する。チームは海千山千のベテラン揃いで、合法性が怪しい手口の数々に主人公は戸惑いをおぼえるが・・・という話。

筋がスピーディーに二転三転してついていくのが大変だったが、なんとか理解できて、ドンデン返しの快感もあった。ベニチオ・デル・トロの存在感が圧倒的。

映画の主人公は確かにエミリー・ブロントなのだが、彼女はチームリーダのマット(ジョシュ・ブローリン)や有力メンバのアレハンドロ(デル・トロ)に翻弄され、彼らの手のひらの上で踊っているような存在。
普通なら、彼女が成長して最後にはチームの一員として認められる・・・といった展開が予想されたのだが、結局、最後まで彼女が仲間はずれのまま放り出されてしまう、みたいなラストは、カタルシスがないというのか、少々残念だった。ただの娯楽作品にはしたくないという監督のメッセージなのかな??
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ローグ・ワン スターウォーズストーリー

2017年05月28日 | 映画の感想
ローグ・ワン スターウォーズストーリー

エピソード4の直前、R2D2が運ぶことになるデススターの設計図(致命的な弱点を示している)を同盟軍が手に入れるまでを描く。

スターウォーズシリーズのお約束をきっちり守っている。例えば、辺境の惑星で起こる帝国を揺るがす重大事件(そういえば帝国のど真ん中で事件が起こるエピソードって皆無のような・・・)、重要な役割を果たす人間的すぎるロボット、魚類系宇宙人(気のせいか魚類的容貌が多いような気がする)、親子の相克、高い塔の内部で迎えるクライマックス、等々。
そして、最終盤で重要人物(本作では暗黒卿)を登場させて尻切れトンボのストーリーにする(そして次作を予感させる)やり方も同じ。

ちがうのは、本作の主要な登場人物が人員死んでしまうことかなあ。アメリカ映画ではよくある筋書らしいけど、主人公くらいは生き残らせてほしかったなあ。
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瑠璃の翼

2017年05月28日 | 本の感想
瑠璃の翼(山之口洋 文春文庫)

日本陸軍で草創期から航空隊の組織化に取り組み、ノモンハンでは指揮官として空戦で大きな成果をあげ、戦後は連行されたシベリアで病死した野口雄二郎の評伝的小説。

著者の山之口さんというとデビュー作(だったかな?)の「オルガニスト」が印象的だ。かなり昔だが図書館の開架にあったのを読み始めたら、とても面白くてその場で最後まで読んでしまった記憶がある。
「オルガニスト」はファンタジーというか幻想小説だったし、確かそのほかの作品も似たような作風だったと思うので、戦記小説を書いたというのはかなり意外な感じがしたが、本書のあとがきを読むと野口雄二郎は著者の祖父だそうである。

日本軍の航空戦力というと、ゼロ戦をはじめとした海軍をまず思い浮かべてしまうのだが、陸軍でも重要な戦力であり、少なくともノモンハンの頃は世界の先端を行くような装備と練度であったようである。
そのノモンハンでは(実質的には)ソ連軍を相手にして互角以上の戦果をあげたようだが、結果として熟練操縦者の多くをここで喪失してしまったというのは(ノモンハンで何ら得るところがなかったことを考えると)軍全体からみて痛恨の事態であったろう。

ソ連軍はパイロットの技量はそれほどでもなかったが、戦力を損なっても次々に新規部隊が投入され、新規部隊には戦訓が組織的に引き継がれていく。
一方、個々人の名人芸的な技量に依存し戦力補給が乏しい日本軍は(緒戦は優勢なものの)次第に押されてい行く、というどこでも見られたパターンがこの戦場でもあったようだ。(人口や生産力といった国の地力みたいなのに圧倒的な差があるので仕方ないことなのだろうけど)

本書の本筋とは絡まないのだが、ノモンハンというと極悪人?として必ず登場する辻政信参謀は、本書でも基本的には悪役として描かれる。ただ、戦後、議員としてシベリアの収容所を訪れた際に、収容者たちの家族から預かった私信等をソ連側の目を盗んで収容者に配り歩いた、などという(本書で描かれた)エピソードを読むと、「まんざら悪い人でもなかったのでは? 少なくとも行動力はすごいよね」なんて思ってしまった。
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不屈の棋士

2017年05月20日 | 本の感想
不屈の棋士(大川慎太郎 講談社現代新書)

将棋ソフトの評価などについて棋士へのインタビューを収載する。
羽生、渡辺といったトップクラスから、第一回電王戦で敗れた山崎、将棋ソフトに造詣が深い千田、ソフトを利用することに批判的な糸谷と多彩な角度から将棋とソフトの関係性に切り込んでいる。

昔、米長さんが「兄達はみな頭が悪いから東大へ行った。私は頭がいいから棋士になった」といった主旨のことをおっしゃっていたと思う。
確かに多くのプロ棋士は、記憶力、数理的能力とも抜群らしい。高校レベルの数学や物理なら学習しなくてもその場で考えて問題をとけるみたいなことも聞いたことがある。
彼らは天才揃いなのだけれど、その彼らの本業である将棋でソフトに勝てなくなりつつある。
本書でもほとんどの棋士が「終盤はソフトの方が強い」と認めており、プロ棋士のカンニング疑惑が起きるのも、棋士たちがソフトの実力を恐れているからこそだろう。ただ、そのことが人間同士が戦う将棋の魅力を減じてしまうとは思えない。機械を使えば人力を上回れることは数多あるので。
しかし、将棋ソフトが数年でここまで強くなったという事実は(将棋ソフトが、ワトソンのように大企業が巨費を投じて作りあげたものではなく、個人が細々と開発したものでることを考え合わせると)、別に2045年を待たなくても現在の技術力で、様々な分野でコンピュータが人間の能力を凌駕しそうなことを予感させる。

さらに、ソフトをプログラミングしたのは天才である棋士たちではなくて、将棋に関する能力においては大きく劣る人たちであって、ソフトは(多くの棋譜を読み込むなどの)自己学習で強くなったという点に特に脅威を感じる。自己学習を重ねた機械が、人間が想定していのと全く異なる認識や判断をし始めるのではないか、という恐怖をリアルに感じるのである。
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