蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

陶酔と覚醒

2022年09月30日 | 本の感想
陶酔と覚醒(沢木耕太郎 岩波書店)

著者によるインタヴュー集。
山口瞳、市川崑、後藤正治、白石康次郎、安藤忠雄、森本哲郎、岡田武史、山野井泰史・妙子、角田光代を所収。

著者の作品はほとんど読んだが、インタヴュー集はなぜか避けてきた。
ある雑誌で本書における山野井夫妻へのインタヴューが「凍」を書くきっかけになった、と知り、読んでみようと思った。

その山野井さんへのインタヴューはもちろん、どれもとても楽しく読めた。こんなことならもっと早く読んでおけばよかったと思った。

特に面白かったのは(ヨットによる世界周航で有名な)白石さんの話。師匠格の多田雄幸さんとの掛け合い?が浮世離れしていて、いい。
岡田さんへのインタヴューでは、プロとアマの練習の違い、日本代表の監督のときにフランスW杯の初戦で敗れた後、宿舎のホテルに戻った時の話(ホテルのスタッフが並んで出迎え、ただ静かに拍手してくれた)が印象的だった。
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王の没落

2022年09月26日 | 本の感想
王の没落(イェンセン 岩波文庫)

15世紀末から16世紀初頭にデンマークを中心とする北欧世界に覇を唱えたクリスチャン2世を、ミッケル・チョイアセンという傭兵(架空の人物)の目を通して描く歴史文学。

冒頭には、この時代の北欧史の概要解説と登場人物一覧がついているし、巻末には詳し目の地図も掲載されており、岩波文庫とは思えない?けっこうなサービスぶり。

なのだが、出版されたのが100年以上前で現代の感覚と合わないせいか、あるいは(多分こっちだと思うが)翻訳がこなれていない(なんというか小説っぽくないと感じた)せいか、読み進むのにとても苦労した。

そこで、「これは「氷と炎の歌」シリーズの外伝なのだ」と思い込んで読んでみることにした。そうすると幻想的な筋書きは魔法のせい、ミッケルの衝動的な行動は過酷な戦争体験による精神障害のせい、みたいに思えてきて、いくらか面白くなってきたような気がして、いちおう、最後のページまでたどりつくことができた。

上記は、私の読み方がまずいだけだと思う。何しろ、本作はノーベル賞作家の代表作とのことなので。
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貧者の戦争3

2022年09月26日 | Weblog
貧者の戦争3

9月上旬、ウクライナ軍はハルキウ州で攻勢に出て同州全域を「解放」した。クリミア半島のロシア軍の基地を攻撃するなど、これまでウクライナ軍の反攻は南部中心になると見られていて、ロシア軍の守備は南部に偏っていたという。情報の秘匿が難しいご時世にあって陽動作戦が見事に成功したようにみえる。
「ウクライナ軍には児玉源太郎でもいるのか」という冗談が聞かれるほどの手際であった。

このような陽動作戦はどちらかというと富める者の戦略であって、軍事的な貧者=ウクライナ軍、軍事的な富裕者=ロシア軍という構図は逆転しつつあるのかもしれない。

NHKの番組で、キーウで(比較的)安全な暮らしを送るウクライナ人は、祖国防衛戦争に貢献できないと考えて罪の意識を覚えるという人がいるという。番組では「ギルティ・シンドローム」と呼んでいた。
祖国が侵略された時、命を惜しんで外国に避難したとしても、精神的には危機に陥ってしまうということで、まことに戦争というのは罪深い。

裏返して見ると、ウクライナ軍の士気は非常に高いものと想像できる。西側援助で兵器などの物量面でもロシア軍の優位が崩れつつあるとすると、意外に早く「解放」が進むのかもしれない。

しかし、ウクライナ側も、(「解放」が実現したとしても)ロシア系住民が多い東部2州やクリミアをどうするのか、は頭が痛いところ。こうした地域で強硬な手段にでれば、外国世論が手の平返し・・・なんて事態もありえるだろう。
一方で「ギルティ・シンドローム」になるほど高まってしまった愛国心をどうコントロールしていくのかも難しい課題だ。

今や救国の英雄とならんとしているウクライナ現政権なら、ある程度のところで妥協したとしてもそれなりの支持が得られるはず。穏健で冷静な判断が望まれるところだ。
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炎と血 Ⅰ

2022年09月25日 | 本の感想
炎と血 Ⅰ*ジョージRRマーティン 早川書房)

「氷と炎の歌」シリーズを遡ること300年、ターガリエン家のエイゴンはドラゴンに乗って後にキングスランディングとなる地に降り立ち、ドーンを除くウエスタロス全土をその支配下に置く。ターガリエン王朝の初代エイゴン一世、その息子のエイニス一世、メイゴル一世、孫のジェへアリーズ一世までの治世を描く。

「氷と炎の歌」シリーズでは、史実?はあまり詳しく語られず、登場人物たちのエピソードを繋いでいく形をとっているが、本作では史実だけを淡々と語っていく。ウエスタロス世界史の教科書みたいな感じ。
「氷と炎の歌」のあまりの進行の遅さに辟易(まあ、そういう迂遠なところが魅力なんだけどね)していたので、史実?がサクサクと進むメイゴル一世のあたりまではよかったのだが、作者の悪い癖が出て?ジェへアリーズのパートになると、元のペースに戻って?どうでもいい話(例えば初夜権の廃止の経緯とか)が延々と続いて、ちょっともたれた。

日経新聞の土曜版で佐藤賢一さんの「王の綽名」というコラムが連載中で、毎週楽しみにしているのだが、西洋の王様ってことごとく綽名がついているみたいで、しかも、わりとちゃんとした史書に記録されているらしい。
本作でも征服王、残酷王、調停王などの綽名が登場するから欧米のメンタリティなんだろうな。日本でも綽名みたいなものはあったんだろうけど、史書には書かれてないよね。秀吉がハゲネズミと呼ばれていたとかは綽名とは言えないかな。

シリーズにおけるドラゴンって、現代の核兵器みたいなもので、兵器として使えば決定的な打撃力を持つけど、威力がありすぎてむやみに使うと諸侯や民衆の離反を招いてしまう、という設定になっているところに味がある。
ドラゴンの炎ってまさに核兵器なみの燃焼力があるようで、そんなエネルギーを生成するには莫大な食糧を必要として、当時の生産力では、本書のように多くのドラゴンを養っていけないと思うのだが、そんなこと考えるのは野暮すぎる。きっと、ヴァリリアの魔法科学?で原子炉のようなのを体内に持っているのだろう。
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劇場版 きのう何食べた?

2022年09月19日 | 映画の感想
劇場版 きのう何食べた?

いきなり、シロさんのアテンドでケンジと豪華京都旅行をするところから始まるのだが、これは来年年初はシロさんの実家にケンジを(シロさんの母に拒否反応?が出たため)連れていけないことのお詫びのため・・・ということで、原作やテレビ版を観ていることを前提にした筋書き(あるいはテレビ版の続編的展開)になっている。
しかし、全く本作について知らない人が映画を見るとも思えないので、割り切った脚本はファンにとってはむしろ好ましいものなのかも。

ただ、テレビ版なしで、いきなり本作をみて、内野さんの演技に仰天してみたかった、という思いもあるが・・・というか、予備知識がなかったらケンジ役が内野さんだと、なかなかわからないと思う。

本作に登場するシロさん料理で一番おいしそうだったのはリンゴのキャラメル煮のせトースト。

小日向さん、ワタルが食材を持ってシロさん宅を訪れた時、居合わせた富永さん(田中美佐子)がワタルを見てケンジと勘違いするシーンが面白かった。

全くどうでもいい余談だが、
富永さんの奥さんの方は原作とイメージが異なる感じだが、本作では一瞬しか登場しない富永さんのご主人の方は、あてがきしたのか?というくらいマンガと演者がそっくりだと思う。
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