蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

サヴァイヴ

2013年08月26日 | 本の感想
サヴァイヴ(近藤史恵 新潮社)

自分が長年働いている業界を舞台にした小説を読むと、現実とのあまりの落差に失笑してしまうことが多い。ストーリーとしては良くできていることもあるが、やはり、細かなところでは大きな違和感を持ってしまうことがやはり多い。

作家の方も、十分に取材していたとしても、あまりリアリティにこだわりすぎても、自分の想像(あるいは創造)世界をつくるうえで支障があるから、わかっていても、意図して現実を無視した物語を作ることもあると思う。
なので、小説を読む場合は、そのバックグラウンドとなる現実についてあまり知識がない方がよいのかもしれない。

自転車レースについてほとんど予備知識がない(ロードの方。日本発祥のバンクレースは多少詳しい)ので、近藤さんの一連のシリーズがどれくらい現実にフィットしているのかはわからないが、物語の中でときおり織り込まれるロードレースの説明は必要十分で、読み進む上で(説明がうるさくて困るなんて意味では)あまり気にならず、ロードレースや選手の心情の移ろいが、とてもリアルに感じられる。

本書は、シリーズ初作の「サクリファイス」の主要登場人物のサイドストーリーを集めた短編だが、「サクリファイス」や「エデン」を読んでいなくても十分に楽しめる。特に「プロトンの中の孤独」が(雑誌掲載時にも読んだので、2回目だが)とてもよかった。

本作品を読む前に「三つの名前を持つ犬」を読んだ。ミステリとしては出来がよくて、ラストのまとめ方には感心したが、登場人物に現実感がなく、お芝居の中のヘタな役者を見ているような感じだったのが、残念だった。それに比べて、ロードレースシリーズの登場人物がとても生き生きとしているのは、同じ著者なのに、なぜなんだろう。ミステリとしう枠をあまり意識していないせいだろうか。
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三つの名を持つ犬

2013年08月26日 | 本の感想
三つの名を持つ犬(近藤史恵 徳間文庫)

売れないモデルの女の子が、飼い犬のことをブログに書いているうち、そのブログの人気が高まって、飼い犬絡みの仕事がほとんどになる。しかし、その飼い犬を不注意から死なせてしまう。たまたま近所でホームレスが飼っている犬が死んだ犬にそっくりであることに気づき、連れ帰ってしまうが、それが大きな事件のきっかけになって・・・という話。

前半は上記のモデルの女の子の話で、後半はその女の子を(実はその飼い犬はホームレスのものだったことに気付いた)若い男の視点からの話になる。

近藤さんの作品はデビュー作の他はロードレースシリーズしか読んだことないのだけれど、いずれも登場人物のキャラがたっていて、(ミステリとしてはイマイチとしても、小説としては)とても良かった。
本作は、(私が読んだ作品とは多少趣が異なって)トリッキーなというか、ミステリらしいミステリになっていて、話が拡散してまとまりそうになかったのに、ラストではしっかり収束させていて感心した。
ただ、私としては、愛犬物語的ミステリを期待して読んだので、愛犬的エピソードとか、登場人物のキャラを描写するとかといったあたりにはあまり力がはいっていなかったのは残念だった。
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想像ラジオ

2013年08月18日 | 本の感想
想像ラジオ(いとうせいこう 河出書房新社)

東日本大震災の記憶というと、一番最初に思いつくのが、計画停電の夜だ。まだ寒い日で小さなカンテラの周りに家族が集まって手持無沙汰で、ふと家(17階)の窓から見ると、計画停電している地区だけが、ほぼ二等辺三角形の形の闇でその周りには灯りが見えるという、恐らく今後見ることができないような不思議な体験をした。

これが一番の思い出というのだから、私が住んでいる辺りでは被害はほとんどなかったし、親戚や知人でも被害にあった人はいなかったので、被害のすさまじさを実感することは難しい。しかし、2万人近い人が短期間に死亡するというのは、現代の先進国においては戦争以外には考え難い事態で、その割には、私のようにこの天災から遠いところにいた者には、すでに記憶があいまいになってきているというのは、薄情というのか、無神経というのか。

そういうのは、違うでしょ、というのが本書のテーマ。

想像ラジオとは、死者が放送?するもの。普通は生きている者には聞こえないが、時と場合によっては、死者のメッセージが届くこともある。
主人公?のDJアーク(地震後津波で死んだ)の放送は、奥さんと子供には届いていないようで、それは、多分、奥さんと子供は生きている、という意味でもあるのだけれど、DJアークは残念でなかなかあの世に旅立てないでいる。
***
「彼らが僕のことをどんな風に悲しんでいるか。今となっては知っても仕方ないけど、僕にして欲しかったことはなんなのか。それを僕はやっぱり知りたい。知って悔しい思いを一緒にしたい。歯がみしたい。僕の思い出を話すとき、奥さんは息子に何を話すか、息子は奥さんに何を言うか。もしもこうなってしまった僕を憎んでいるのなら、その憎悪の言葉を激しい炎を受けるようにして聴きたい。まだ混乱したままなら、どうか二人の心が風のない日の湖面みたいに落ち着きますようにと、僕はここから祈りたい。彼らが近くにいてほしいと思えば僕はいつだって近くにいたいし、浄土へ送りたいと思えば遠くへ旅立ちたい。すべては美里と草助の言葉次第なんです。
心残りはそれ。それだけ。
だけど、僕には聴こえない。
悲しみが足りないのか、想像不足なのか。(P179-180)」
***

このようなテーマだと、説教くさく、押しつけがましくなりがちなんだけど、そういう感じはなくて、読後感は悪くなかった。
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虎のスコアラーが教える「プロ」の野球観戦術

2013年08月14日 | 本の感想
虎のスコアラーが教える「プロ」の野球観戦術(三宅博 祥伝社黄金文庫)

野村克也さんの著作などによると、野村さん流の頭を使った野球の元祖はブレイザーさんだったようなことが書いてある。
しかし、今のMLBを見ていると(実はあまり見てないので印象だけど)もう力勝負一本みたいなイメージがある。井口選手がいたころのホワイトソックスがワールドシリーズを勝った時に「スモールベースボール」なんて言われたけど、この言葉には(個人的な印象ですが)侮蔑的な視線を感じてしまう。

本書を読むと、タイガースのスコアラーも野村さんが監督になるまでは、かなりアバウトだったようで、(著者が(データを採取し分析する当の)スコアラーでありながら)データの大切さは野村さんに学んだ、なんてことが書いてあった。
あらためて振り返ると、野村さんってほぼ独力で、(サイバーメトリックスともまた異なる)日本流の緻密な(というかある意味緻密すぎる)野球を作りあげたんだなあ、偉大だよな、その割に尊敬されない(失礼)のは、やっぱし、おカネにがめつそうなイメージのせいか、正直すぎる毒舌のせいか(例えば、著書の中で、古田が年賀状すら寄越さないのは許し難い、なんて赤裸々?に書いちゃうのはどうよ、と思うよなあ)

全般的に、野球ファンなら常識の域に入っているような内容だが、プロの記者がゴーストライトしている(あとがきに、そうハッキリ書いちゃう記者さんもどうなんよ、という感じはあるけど、読んでるとモロスポーツ紙口調なんで、誰でもわかっちゃうんだけどね)だけあって、楽しく、すいすい読める。「統一球がロッテを殺した」なんて、ファンとしては「ホントそうだったよなあ。だから、今年は勝てるってことか」なんてうれしくなっちゃうようなことも書いてあった。

なお、本書はシーズン前に出版されたもので今読むと「時差」のある個所もあるが、それほど気にならない。ある程度結果が出ている今読むと、予想が外れたところも当たったところもあって、むしろ楽しめるかもしれない。
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決戦兵力

2013年08月11日 | 野球
私が応援する、千葉ロッテマリーンズは、ここ3年ほどレギュラーシーズンの8月にはいるころまでは上位でふんばるが、それ以降急降下するといったパターンを続けています。
今年から監督になった伊東さんも、そういうことにならないようにと、スローガンを「翔破」としました。今年も7月初ころまでは首位を走りましたが、その後は、「今年も同じか」という軌道をたどりました。
悪いことに、エースであるはずの成瀬投手は不調なのか故障なのかわかりませんが、ファームのまま、投手も野手も昨年までチームの中心だったベテランもほとんど離脱という状況。今のスタメンの合計年棒は(計算したわけではありませんが)12球団最下位ではないかと思われます。

普通なら、なんとか3位までを確保して・・・と考えるところですが、現役・監督時代の半分くらいは優勝、Bクラスは(確か)1回しかなく、私生活では競輪が大好きらしい(←伝聞です)勝負師の考えることは、ちょっと違いました。

現状で最も信頼できそうな先発3枚を中5日のローテーションに組みなおして、来週の首位楽天戦にこの3枚をぶつけようとしたのです。自ら「特攻ローテ」というほどでしたが、中5日で(楽天戦の前週のSB、日本ハム戦に登板させた)古谷、グライシンガー、西野は素晴らしい出来でいずれも勝利。その後の先発、唐川、大谷もそれなりのピッチングで1勝1敗。

戦線(ゲーム差)を何とか維持しながら、決戦兵力(先発3枚)を用意できたというのは戦術構想としては、満点でした。

「おお、今年はちがうぞ、さすが常勝チームの中心人物だった人は違う」なんて思ったのですが、先発3人の中でも最も信頼度・実績が高い西野投手が故障で離脱・・・アクシデントばかりはどうしようもない、とはいうものの、「うまくいった」と膝をたたいたであろう所からの寸前暗黒・・・いちファンとしてもホントに残念です。

昨日、今日、唐川、大谷で何とかイーブンとしたものの、特攻ローテのために、補給(救援投手陣)も伸びきった状況で、来週の楽天戦では、(楽天は)最終兵器(田中)の投入も可能な状況。

何とも苦しい・・・でも今季は「もうあかんな」というあたりから何度か立ち直ってきたので、(昨日の負け方がひどかったので、今日もある意味、試合前はそんな感じでした)楽天戦は、もうダメモトで開き直って、相手に最終兵器投入を決断せざる得ない状況に追い込んでほしいです。(敬称略)
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