蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ホノカアボーイ

2020年11月29日 | 本の感想
ホノカアボーイ(𠮷田 玲雄 幻冬舎文庫)

アメリカの大学を卒業した玲雄は、父と訪れたハワイ島に惚れ込んでホノカアという小さな町で映画館の映写技師の手伝いを半年間やることにする。下宿先の近所にするビーさんというお婆さんに食事の面を見てもらうことになるが、ビーさんが作るハワイ風和食?はとても美味しくて・・・という話。

大学を卒業して(多分)プー太郎の玲雄は、特段何の悩みや心配事もないみたいで、ホノカアはこの世の天国を示現した場所のように描かれる。主人公(あるいは主要登場人物)の葛藤みたいなのが全く出てこないのがこの小説のよい所なのかもしれない。

ビーさんの作る料理は料理名が書かれているだけで、その外観とか味わいに関する描写はほとんどないが、並べられている料理名だけで妙にうまそうに思えた。
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高校生ワーキングプア

2020年11月23日 | 本の感想
高校生ワーキングプア(NHKスペシャル取材班 新潮文庫)

副題は「「見えない貧困」の真実」。
ファストファッションで上手に着飾り、スマホを持ち歩く高校生の外見は貧困を連想させず、援助を必要としていることがわかりづらいことを指している。

アルバイトで懸命に家計を支え、きょうだいを親代わりに面倒みて、勉強もがんばる、そんな模範的?貧困高校生の実例がいくつか挙げられていて、それはそれで涙を誘うほどけなげではあるのだけど、そうじゃない貧困高校生だっているよね。まあそういう人は取材に応じてくれないのだろうけど、ちょっと片手落ちかなあ、という気もした。

取り上げられている家庭の特徴は、親子、きょうだい間の関係性がとても良好なことだ。目の前に立ちはだかる困難が家族の絆を強めるせいだろうか。
裕福な家庭でも家族の関係性が希薄だったり、いがみあっている例も多そうで、あらためてしあわせの定義を考えてみたりした。
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2020年11月23日 | 本の感想
峠(司馬遼太郎 新潮文庫)

戊辰最大の激戦といわれた北越戦争で、家老として長岡藩を率いたか河井継之助を描く。

この頃、昔読んだ本を再読することがあるのだが、どうも前読んだときよりも面白く感じられないような気がする。
本書は20年ぶりくらいに再読したのだが、意外にも前読んだ時より楽しく読めた。
若い頃は戦争場面が短かった(今回読んだ新潮文庫版では1500ページ中の150ページくらい)のが不満だった。年のせいかそういうクライマックスシーンよりなんてこともない日常を描いた場面の方に心動かされるようになったせいだろうか。
官軍が迫る前、継之助が長岡藩の支藩の家老たちを招待して訣別の式をしようとする際、部屋を飾るために花をいけようとするが、花器を全部売り払ってしまったため、仕方なく飼葉桶に桜の枝をいけようとするシーンなんかがじんわりとよかった。

継之助は自身の美意識に殉じることができて満足だっただろうが、長岡藩の藩士や領民にとってはとんだ迷惑というか災難でしかなく、為政者としては失格だなあ、ということは昔も今も変わらない感想。

文庫版の解説(亀井俊介)でも、この点を指摘していている。
同じ司馬さんによる継之助を描いた短編「英雄児」では、英雄は時に周囲にとっては害悪をもたらす、という視点が強かったそうだが、本書ではそういった点(例えば、継之助が恭順派を虐殺したり、継之助の墓は地元民によって破壊された等)にはあえて触れていないように思われるそうである。

それにしても、昔の文庫解説は重厚だったんだなあ、と感心した。今時は単なる感想文か著者をベタ褒めする程度のものが多いが、亀井さんの解説は上記のような批判的な視点もふくめて立派な評論になっている。
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闘う君の唄を

2020年11月14日 | 本の感想
闘う君の唄を(中山七里 朝日文庫)

幼稚園教諭の凛は埼玉県の田舎の幼稚園に赴任する。その園では昔、送迎バスの運転手が複数人の園児を殺害するという事件があり、それ以来父母会に頭が上がらなくなり、園の教育方針にまで介入するようになっていた。凛はそんなモンペたちに苦しみながらも独自の方法論で次第に信頼を獲得していくが・・・という話。

ミステリというよりお仕事小説という感じで、実際中盤までの凛先生の活躍ぶりの方が面白くて、ミステリ部分は平凡で無理筋な感じだった。
タイトルや副題は「ファイト!」から取ったもので、中島みゆきファンがみたら手に取らざるをえない。ちょっとずるいなあ。
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絶対に挫折しない日本史

2020年11月14日 | 本の感想
絶対に挫折しない日本史(古市憲寿 新潮新書)

人名や事件、年号を極力排して歴史の大きな流れを叙述することを目的とした解説本。

第一部の通史編は、平凡な感じだったが、第二部のテーマ史編は面白かった。

コメ編→コメが主食になったのはせいぜい100年前で、イメージほどの伝統食ではない。コメの消費量は減少しつづけており、糖質を敵視?する風潮からもその未来は明るくない。

神話編→神話は時の権力者によって都合よく利用されるが、明治維新で(天皇を国の中心に据えた)日本は古代を参照せざるをえなくなり、古事記や日本書紀がリバイバルした。

土地編→これが一番面白かった。タイムマシンで大昔に行ったのび太の例え話がわかりやすい。年貢を納めるということにより保護者が明確になるので、年貢も悪いことばかりではなかった、という見方が新鮮だった。

家族編→家族を作る動物は人間だけ。江戸時代、平和で豊かな社会になって(それまでキリスト教社会に比べれば高かった)女性の地位が低下した。一方で大都市江戸は男性の数が圧倒的に多く男色が流行した。

戦争編→徳を失った王朝は滅ぼしていいという易姓革命が否定された日本では天皇家を存続させ他国に比べて大規模な戦争は少なかった。

歴史語り編→多くの紀記が散逸した中で日本書紀や古事記を今でも読めるのは、特定の個人や家の努力があったから。アーカイブが溢れる現代を分析する未来の歴史学者は史料の多さに困ることになるだろう、と著者は予想している。でも電子データって紙より簡単になくなっちゃいそうだけどなあ。
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