蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

陽気なギャングが地球を回す

2006年06月07日 | 本の感想
陽気なギャングが地球を回す (伊坂幸太郎 祥伝社文庫)

それぞれに特殊な能力(人のウソを見破る、体内時計が極めて正確、等)を持つ4人組が銀行強盗を実行するが、逃走の途中で別の強盗にぶつかり盗ったばかりの金を奪われてしまう。4人は仕返しを考えるが・・・という話。

話の筋は単純。しかし、ストーリーで読ませるというより、4人のヘンテコなキャラクターや会話、普通の小説ではありえないような奇妙な設定を楽しめる。
こうした特長は伊坂さんの他の小説でもよく見られる。しかし、一見無関係に見えるエピソードを重層的に語りつつラストに向かって収束させていくという他の小説で多く見られる手法は、この本では(多少あるけれど)とられておらず、割合直線的に話が進んでいく。このためとても読みやすい。(私としては、読みにくくても伊坂さんのこういう手法がすきなのだが)

伊坂さんの作品はいわゆる暗黒小説ではないのだけれど、人間とか現代社会への絶望みたいなものがテーマになっていることが多く、ノワールを読んでいるような気分になることがある。この本はそういった要素はあまりなくて、その意味でも多くの人にとって受け入れられやすい内容になっている。(だからこそ映画化されたのだろう)
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我々は何処から来たのか(グレートジャーニー移動編)

2006年06月04日 | 本の感想
「我々は何処から来たのか(グレートジャーニー移動編)」 関野吉晴 毎日新聞社

副題の「グレートジャーニー」というのは、著者の関野さんが、南米大陸の南端から大陸を北上して北米大陸を縦断、アラスカからシベリアへ渡り、ユーラシア大陸を横切ってエジプトからタンザニアに至った旅行のことで、この本はその旅の記録です。

その記録がテレビ等で放映されていたこともうっすら知っていました(実際見たことはないのですが)。南米からアフリカまで継続的に旅行したものと思っていたのですが、実際は途中でしばしば日本に帰ったり、寄り道したりして、また中断点に戻っては再開するという形でした。

アフリカで発生した人類がはてしない道のりをたどって南米にたどりついた道筋をたどる、というのが旅の目的なのですが、先に述べたような制約、ルールを自ら定めていたとはいえ、ほぼ常時サポートの人が随伴しているし、そうは言っても各種文明の利器(GPSとか)を利用していて、原始の人類の旅とは似ても似つかぬものです。

著者が言うこの目的は、まあ、大義名分というか、言い訳というか、後付の理屈みたいなもので、この人は平穏無事な日本で波風たてずに暮らしていくという生活には耐えられないのでしょう。
妻子を日本において一年の大半を海外で放浪する。しかも生命の維持すら危ぶまれる方法で。周囲の人にとってみればとんでもない道楽者で、こんな人が身内にいたらとても迷惑だと思います。しかし、それでもやり抜いてしまったまさに「グレート」な道楽者の話は正直言ってとてもうらやましかったです。

時々、随伴者や周囲の環境に立腹しているのですが、表現は相当に遠慮がち。もうちょっと本音を表に出したら読み物としておもしろかったと思います。また別途写真集が出ているようなので、この本には写真は載せられなかったのかもしれませんが、この手の本で一枚もないというのはどうなんでしょうか。

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