不適切な表現に該当する恐れがある内容を一部非表示にしています

蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

旅猫リポート(小説・映画)

2024年01月21日 | 競艇
旅猫リポート(小説(有川浩 講談社文庫)・映画)

何年も前に録画した映画を忘れていて、今頃になって見てみた。数年程度なんだけど、出演者が皆とても若く見えたし、竹内結子さんが主人公のおば役で登場したときは、はっとさせられた。

主人公のサトルはわけあって飼い猫のナナの新しい飼い主を探していた。ナナといっしょに昔の友人や知り合いを車で尋ねる旅を描いたロードノベル(ムービー)。

ナナが人語を解して一人語りする、と言う設定は「吾輩は〜」以来、使い古されたものだし、サトルがナナを手放そうとしている理由は、まあ、月並みだ。
それでも本作が魅力的なのは、猫が好きな人達の描き方がうまいから(だろうか??)。あるいは猫を飼ったことがない人でも、飼ってみたい、と思わせてくれそう、だからか。

いい人過ぎるサトルが最後の最後に、友人にある秘密を(ここでそれを言うか〜的なセリフなのだが)打ち明ける場面がよかった。いい人過ぎる人でもやはり、最後に本音を吐いてみたかったんだろうか・・・的な。(特に映画でのこのシーンがよかった。あ、あと映画ではナナの吹替(高畑充希)もよかった。映画を見てから原作を読んだので、小説を読んで
いると映画でのナナの声がそのままリピートされるようで心地よかった)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

火星に住むつもりかい?

2016年11月03日 | 競艇
火星に住むつもりかい?(伊坂幸太郎 光文社)

平和警察という組織は、いいかげんなタレコミをもとに無実の人を拘束しては拷問して不実な自白をさせ、国家への反逆者に仕立て上げては公開処刑でギロチンにかける。
妻を病気で亡くして自暴自棄に陥っていた主人公は、自分の店の客が平和警察に捕まったのを知り、ある秘密兵器を携えてその客たちを救い出そうとする。

伊坂さんの作品を読んでいなかったとしたら、あるいは、この本の著者が伊坂さんと知らずに読んだとしたら、もう、この設定だけで本を放り出しそうな感じなのだが、終盤にはちゃんと辻褄を合わせて?物語として成立させているのは、さすがだ。

平和警察やその他の主人公の「敵」たちの悪としての描写が(著者はS系の人なのかと疑いたくなるくらい)非常に巧みで、読者として苛立ちみたいなものを感じてきたあたりで主人公が勧善懲悪のヒーローとして登場するのは、あざといんだけどカタルシスがあった。

また、主人公が、妻が突然の病いで非常に苦しみながら死んだことの理不尽さを嘆く場面が印象的だった。

あとがきによると、タイトルはデヴィッド・ボウイの曲「LIFE ON MARS?」から取っているそうなのだが、この曲名の本当の意味は「火星に生物が?」くらいのものだそうである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

不愉快な本の続編

2016年03月04日 | 競艇
不愉快な本の続編(絲山秋子 新潮社)

主人公はフランスに留学していたが帰国してヒモ兼金貸しみたいなことをしていた。やがて結婚するが相手が浮気して離婚する・・・という話。
という筋にはあまり意味がなくて、

主人公の

悪漢的行為とウラハラな内省、

何人もの女性のヒモだった経験があるのに妻の浮気に動揺する様子、

自堕落な生活を送っているように見えて実は真面目に運転代行や会社勤務をこなす性格、

美術館の展示物に心奪われる純真さ、

などを楽しむ小説だと思う。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

牛を屠る

2015年09月05日 | 競艇
牛を屠る(佐川光晴 解放出版社)

大宮市営と畜場は、大宮駅のすぐそば(歩いて10分くらい)にあって、本書でも紹介されているように数年前に改築されるまで、埼京線の電車からも牛や豚が搬入されるところがよく見えて、「都会のど真ん中にと畜場があるんだ」などと思ったりした。
改築されたのか移転されたのかわからないが、今は何かの工場かな・・・くらいにしか見えず、近くにはマンションが林立するようになった。

その大宮市営と畜場で著者は10年働いた。その概要は著者の出世作「生活の設計」にも書かれていたが、本書はより技術的、職業的な側面を紹介している。また、と畜場で働く人たちの労働問題にも言及している。

と畜(本書では「」というべきとしている)は、何百キロもある牛をナイフ一本で解体していくかなりきつめの肉体労働で、キーポイントはナイフの切れ味をどう保つか(絶えずヤスリなどで研ぐ必要がある)そうだ。

本書を読んでいて驚いたのは、(主題とは関係ない豆知識なのだが)牛や馬が草食なのに巨大に育つ理由だった。以下引用(P121)
***
牛や馬は草の栄養で成長しているわけではない。草は体内に生息するバクテリアを繁殖されるための媒体にすぎないのであって、反芻されるうちに発酵が進んだ草を養分にバクテリアが爆発的に増殖する。そのバクテリア=動物性タンパク質を消化吸収することで牛や馬は大量の栄養を得ているのだという。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

死神の浮力

2013年08月10日 | 競艇
死神の浮力(伊坂幸太郎 文芸春秋)

伊坂さんの作品の中で2番目に好きな「死神の精度」の続編が出たので、珍しくハードカバーの新刊を買った。

作家である主人公は、サイコパスらしい男に娘を殺されるが、この男は裁判で無罪になってしまう。主人公と妻は復讐計画を練り、拘留から解放された男を追う。主人公の傍には死神:千葉が現れるが、男にもまた別の死神がついていた・・・という話。

千葉と登場人物のかみ合わない会話は、相変わらず軽妙で楽しめし、死神の音楽へのこだわりもユーモラスなんだけど、「死神の精度」に比べると、(こちらは長編ということもあってか)主筋のストーリーが重たい感じだった。

サイコパスの男の狡猾さや残忍さが、読んでいても腹立たしいほど強調されるので、最後の(例によって“死神ルール”?を逆手にとったような)オチは意外性があり、かつ、カタルシスもあってよかったが、「死神の精度」を上回ってはいないなあ。まあ、期待度が高すぎたせいかもしれませんが。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする