蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

播磨灘物語

2024年06月23日 | 本の感想
播磨灘物語(司馬遼太郎 講談社文庫)

黒田官兵衛について、黒田家の来歴と主に山崎合戦までの活躍を描く。

最後に読んだのはもう30年くらい前で、そのころは、司馬作品の中では、やや間延びした退屈な話だなあ、特に前半は、などと感じた記憶があった。しかし、年食った今読んでみると、むしろ官兵衛とその祖父、父が小寺家に仕えていた頃の話の方が興味深く感じられた。

黒田家の面々が3人ともに智略この上ない有能者として描かれるのに対して主君の小寺家は凡庸で徹底的に無能であるとされている。そのコントラストは読んでいて小寺さんが気の毒になるほど。
事実がどうなのかはわからないが、秀吉から天下一の参謀と評価されていた官兵衛が最後まで忠実に仕えたのだから、きっと小寺家にも長所があったのだろう(小説中では官兵衛たちが小寺家を見限らなかった理由はひたすら黒田家の有徳のため、とされるのだけど、ちょっと無理があるのでは?と思えた)。
司馬さんは自身が嫌いなキャラ?は手ひどく扱う傾きがあるので、これもそのせいなのかもしれない。

この司馬さんのキャラ?への好悪が表面化している例の一つが、官兵衛の息子;長政と(血縁はないが長政と兄弟同然に育てられた)後藤又兵衛基次の比較。本書ではあまり登場しないが、他の作品を含めて司馬さんの長政への視線は好意的とはいえない。これに対して、基次はいくつかの作品で男の中の男的なキャラとして登場している。見方によっては長政こそ大大名黒田家の礎を築いた、と言えなくもないと思うのだが、司馬作品の中では、なんだか粗暴で知恵が不足している悪者っぽいのだった。

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