蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ステップ

2010年10月31日 | 本の感想
ステップ(重松清 中央公論新社)

主人公の武田健一は、妻を亡くし、残された二歳の娘・美紀を一人で育てていくことになる。その美紀が、中学生になるまでを描く連作集。

雑誌連載時のタイトルは、「恋まであと三歩」だったそうで、各編とも主人公が淡い思いを抱く女性が登場し、最後の「ナナさん」(職場の同僚)と再婚することになる。

主人公やその娘をとりまく環境はある意味恵まれすぎていて、ほとんど何の苦労もなく娘はすくすく育つ。だから、主題は子育てじゃなくて主人公の恋物語だったのかもしれないが、それじゃあ売れないということで、単行本にするときに改題したのかも。

昔の重松さんなら、娘がグレたとかいじめられたとか、主人公がひどい女にひっかかったとか、いろいろな試練を用意したのだろうが、あまりに忙しすぎて毒気が抜けてしまったような感じ。
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マリアビートル

2010年10月30日 | 本の感想

マリアビートル

グラスホッパー」の続編という触れ込み。登場人物が一部かぶっていたり、殺し屋どうしが殺しあうという筋立ては共通しているが、ストーリーは全く別物。

舞台は、東北新幹線の東京―盛岡間で、東北のフィクサーの息子(東京で監禁されていた)を救い出し、持って行った身代金はそのまま持ち帰れという仕事を依頼された殺し屋コンビ(名前は檸檬と蜜柑)、そのコンビから身代金を奪うことを依頼された殺し屋(名前は天道虫)、知能と自我が異常に発達した中学生、が主な登場人物で、視点がくるくる入れ替わって彼らが互い違いに物語を語る。
このスタイルはいつもの伊坂作品同様だが、他の作品では視点のズレが一種のトリックになっていることが多い。本作ではそういうひねりはあまりなくて、同じ事象を見方を変えて叙述されているだけと感じられたのが、ちょっと残念。

登場人物の名前(ニックネーム)がヘンテコだったり、殺し屋が「きかんんしゃトーマス」のディープなファンだったり、あっけらかんした殺人が次々起こるといった、不条理な設定・ストーリーなので、結末もやっぱりヘンテコで、いろいろな解釈が可能なものになっているんだろうなあ、と思わせるが、実際はものすごくカタルシスがあるラストになっている(これは「グラスホッパー」も同じ)。
このため、エンタテイメントを楽しく読んでスッキリした結末を迎えて良い気分になりたい、という場合にはすごくはまる作品である。

先入観なく、この作品を読んだら「うわーなんて斬新で、エキサイティングで、楽しい本なんだろう」と思うに違いなにのだけど、伊坂さんの小説を読みなれてしまった者としては「うーん、面白いんだけど、ちょっと二番煎じ気味?」と感じざるを得ない。

パート2ものというのは、パート1が成功していないと普通できないわけで、パート2が相当レベルが高くても(成功作である)パート1を遥かに超えているくらいでないと、観賞側としては、ちょっとがっかりしていまいがちだから、再度成功させるのはなかなか難しい。
しかし、作者にとっては、パート2ものは、基本的設定はできあがっているのだから、ラクチンな面もあるわけで、あまりに多忙だったり、ネタ切れだとどうしてもそっちに走りたくなるんだろうなあ、と想像できる。

本作の終末近く(P454)の次の部分って、もしかして、そんな気分になった忙しすぎる作者の嘆き??

*****************

「七尾君、君、鋭いかもよ。スズメバチって、前に、寺原を始末して一躍有名になったから」と考えを整理するように喋る。「今度は峰岸をやって、また、名を揚げようとしたのかも」

「あの栄光をもう一度ってことかい」

「みんなね、アイディアに困った時は、過去の成功例を追いたくなるんだよ」
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私の中のあなた

2010年10月25日 | 映画の感想
私の中のあなた

キャメロン・ディアスが中年のお母さん役。
うーん。歳月の流れは速いものだなあ。今の若い人にとって彼女のイメージって日本でいうと黒木瞳みたいなものなのだろうか。

彼女の長女は小児ガン(だったかな?)。長女に移植する“部品用”に次女を計画出産する。
“部品用”に子供を作るというのはアメリカでは(あるいは他の国でも?)さほど珍しい話ではないらしい。
合理的思考というのか、少なくとも私にはできないなあ、と思うが、自分の子供が同じような状況に陥ったらそういう発想に囚われてしまうのだろうか。

“部品用”の妹(小学生くらい)は、ある日、自ら弁護士に依頼して、これ以上の移植を拒絶する訴訟を起こす。小学生が事務所に行って弁護士を雇うというのも(アメリカでは当然なのかもしれないが)日本人から見ると異様だ。
(しかし、思い起こして見ると、何十年か前は「アメリカでは道の舗装がいたんだところでつまずいて転んだだけで自治体を裁判に訴えるらしい」といってあきれていたような記憶がある。これ、今の日本なら「当然じゃない?」と思えてしまう。所詮、日本は2~30年遅れのアメリカにすぎないのかも)

映画は、妹が弁護士事務所を訪ねるシーンから始まるので、臓器移植をめぐる家族内の深刻な対立がテーマなのかと思ったら、そういう葛藤シーンはほとんどなくて、ほぼ全編母と長女の闘病記という感じで、肩透かしを食った感じだった。

長女が作った、写真などを貼りこんだ“思い出帳”みたいなものが印象的だった。
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活字たんけん隊

2010年10月24日 | 本の感想
活字たんけん隊(椎名誠 岩波新書)

「図書」1998年~2008年に掲載されたガイドブック風書評。

「地球の壊し方」の章で終末テーマSFが紹介されているのを除いて、ほとんど普通の本屋の店頭ではみかけないような小規模な出版社の本が紹介されており、主題も旅や冒険を描いたノンフィクションや体験記ばかり。

実はかなり昔、椎名さん著作の似たようなガイドブックで「地球の長い午後」という有名な古典的SFが超傑作として紹介されており、「これが面白いと思えない人はついにSFを面白いとは思えないだろう」みたいなことが書いてあった。この絶賛ぶりに押されて実際読んでみたが、私にはあまり面白くなかった。「うーん、おれはSFに向かないのか」と思ったりした。

ということで、椎名さんの紹介本は私には合わないのかもしれないが、どれもこれも面白そうに紹介してあるので、つい「じゃあ一冊くらい読んでみるか」という気にさせられてしまう。

それにしても、地位も名誉も財産も得た椎名さんがわざわざ秘境に出かけて命を危険にさらしたり、苦しい思いをし続けるのはなぜだろう。M系なのか、放浪癖みたいなものがあるのか。

むしろ、世の人の望むすべてを手に入れてしまって、求めるものがなくなってしまったからこそ、自らを冒険や危険にさらしてみたくなるのかもしれない。
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さよなら上野ディラ

2010年10月23日 | Weblog
さよなら上野ディラ

上野駅の高架上の大コンコースにディラという名前の店舗群ができたのは10年近く前だったでしょうか。
レストラン、書店、ユニクロ、そば屋、喫茶店、無印良品、ドラッグストア、本屋といった定番の他に「STUDY ROOM」という理科の実験道具や恐竜のモデルなどを売る店、サッカーのユニフォームやキャラクター商品を売る雑貨店などJR駅内としては異色の店などもあって、ウィークデイは毎日ここを通る私としては、それなりに充実しているなあ、と思っていました。

しかし、改装工事のため、9月末で全店閉店。約半年後に再オープンということになり、今は店の前は白い壁でふさがれています。

本屋さんは、斯界では有名な書店員さんがいて、「蟹工船」のブームはこの店から始まったものでしたし、さほど広いとは言えない店内は個性的な品揃えで志の高さをうかがわせました。売り上げも都内有数と聞いたことがあって、この店を閉店してしまうなんて、ちょっと信じられません。書店なので相対的に利益率は低く、超一等の立地とは引き合わないとJRは思ったのでしょうか。
ただ改装するだけで、また再オープンするのかもしれませんが、コンコースは相当広々しているので、この書店だけでもどこかで継続営業してもらいたかったなあ、と思いました。

定食、カレー、そばといった店も、ジャンルとしてはどこにでもあるのだけれど、駅の中にある、立地に甘えたどうでもよさみたいなものが感じられなくて、掃除がゆきとどいて清潔感があり、店員さんの接遇もそこそこのレベルを維持していたように思えます。JRの店舗運営力の高さでしょうか。
CD屋さんのディスプレイは金はかかってないけど、工夫が感じられたし、駅弁屋さんの呼び込みは活気があったし。

ということで、まだまだ十分稼げる店舗だったのでしょうが、思い切って一新しようというからには、期待するほどの収益が上がっていなかったのかもしれません。それにしても約半年もかけて改装というのは、逆にJR東日本の小売業全般が好調だからこそできることでしょうね。
それでも、やっぱり本屋は存続してほしかったなあ。(改装して再オープンを期待してます)
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