蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

罠釣師

2006年09月30日 | 本の感想
罠釣師 (三浦明博 文藝春秋)

居酒屋を経営し、フライフィッシングが趣味の主人公は、ある釣場でおかしな雰囲気の老人とその孫娘と知り合う。やがて主人公はこの二人の怪しげなコンゲームにまきまれていく、という話。

釣りに関してほとんど知識がないので、かえってフライフィッシングに関する薀蓄が面白かったが、中盤以降コンゲームの話が中心になり釣りの話はほとんど出てこなくなってしまった。コンゲームの内容はスタンダード(悪くいえばありきたり)で、驚くようなオチはなかった。

太古の昔から、趣味としての釣りは全世界で継続的に多くの人を魅了してきた。しかし、釣をしたことのない私にはその魅力がわからない。竿を握って何時間もじっとしているのがどうしてそんなに面白いのか、と。この本では、釣りの魅力は、釣り場にくる度に釣れるか釣れないかやってみなければわからないギャンブル性にある、という主旨が何度かくりかえされているが、それなりに説得力があった。
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ブラザーフッド

2006年09月23日 | 映画の感想
朝鮮戦争に兵士として参加した兄弟の視点から戦争の始まりから終わりまでをたどる映画。

私は、朝鮮戦争については概略くらいしか知識がない。この映画では以下の点について初めて知らされた。

①韓国側は戦争開始時点ではほとんど何の準備もできていなくて、街頭で適当そうな青年を徴兵するほどの混乱ぶりであった。

②いったん北朝鮮軍が釜山近辺まで進撃し、その後韓国側(国連軍)が中国国境までおしもどしたため、一時的に占領されていた地域では、北朝鮮側が撫順工作のため住民に食糧を配給したりしていた。これを受け取っていた住民は韓国軍が押し戻した後、共産党の協力者とみなされて処刑されたりした。また、徴兵されずに残っていた男性は北朝鮮側に兵力として協力させられ一転故国の敵となってしまった。

戦場シーンは、「プライベートライアン」を見た後では、さすがにちょっと田舎くさいが、それなりに迫力ある場面が多かった。ただ、映画だからしょうがないとはいえ、主人公にはあまりにも弾が当たらなすぎるよなー、とは思った。

兄弟愛の深さも日本人にはちょっと違和感があるが、儒教文化の韓国ではあたりまえのことだろうか。
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名もなき毒

2006年09月22日 | 本の感想
名もなき毒(宮部みゆき 幻冬舎)

いきなりネタバレで恐縮だが、「名もなき毒」とは、人間が持つ悪意のことを指している。この物語には青酸カリをはじめとして様々な毒物が登場するが、人それぞれに異なった形を持つ悪意には名前がつけられない(類型化できない)ゆえに恐ろしいのだ、と作者はいう。

人間が持つ毒が吹き出して他人を害してしまう典型例として示される、中盤でのエピソード(敵役の女性の兄の結婚式での話)が非常に衝撃的で、読んでいて気分が悪くなるほどだった。その内容自体は今時よくある話なのだが、提示の仕方があまりにもうまくて、人間の毒の恐ろしさを「これでもか」というほどに実感させてくれる。作者の腕力みたいなものを見せ付けられた感じ。
こんな話を思いつけるなんて、と、作者の性格を疑ってしまうほどだった。

ところで、本書は「誰か」に続いて巨大オーナー企業の妾腹の娘の婿養子が探偵役として活躍する。「誰か」を読んだ時にも思ったのだが、恵まれすぎた環境にあるこの人を主人公にする必然性が感じられない。暗喩のようなものがあるような感じがするのだけれど、私が鈍いのかそれが何かわからない。宮部さんの多くの作品のように、清く、貧しく(はないことも多いけれど)、美しい、けなげな少年を主人公にしても十分になりたつ気はする。

筆力の高い作家にありがちなように、宮部さんの作品も「ミステリらしさ」みたいなものは薄れてきていると思うが、圧倒的なストーリーテリングでラストまで引っ張られてしまう優れた物語だった。
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ブラザーズ・グリム

2006年09月21日 | 映画の感想
ナポレオン占領下のドイツ。グリム兄弟は御祓師を装った詐欺を常習として各地を転々としていた。ある村で女の子が何人も森に消える事件があり、兄弟は解決を依頼されるが、うろんなウワサを聞いたフランス軍に捕まり処刑されそうになる。村の女狩人が兄弟を救い、三人で森の謎を解こうとするが・・・という話。

ナポレオン時代のドイツがどんなところだったのか全く知識がないが、この映画のセット」・CGは、きれいすぎず、汚すぎず、いかにもそれらしく作られていてストーリーそのものより興味深く見られた。

グリム兄弟はこの映画の中ではただの詐欺師で、映画のエピソードが童話の創作とどのように結びついたのかの説明がほとんどない(ほのめかす程度)ので、主役をグリムにした意義がほとんど感じられない。
主役の二人より敵役のフランス軍の将軍やイタリア人の諜報将校(?)の方が、アクが強くて魅力を感じさせた。
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日経の運動(スポーツ)部

2006年09月20日 | Weblog
最前線で注文をとってくる営業マンが、もっともしんどい仕事であり、それゆえ会社の中で優遇されたステータスを持っている、というのは多くの会社で見られることではないかと思います。
私の勤める会社でも、昔、営業畑の人が「当社の事務部門は日経(新聞)でいうと、運動部みたいなものだな」といってその部門をけなしていたことがありました。日経の運動部(そういう名称があるかどうか知りませんが、スポーツ面担当の部署)の方には大変失礼ながら、事務処理部門は傍流のどうでもいい部署、というのがいいたいことのようでした。
実態がどうかは知らない(まあ、主流とはいえないのでしょうが)のですが、日経のスポーツ面は、スペースこそ狭いものの、記事の内容は相当に興味深いものがあります。

他紙は週に一度くらい会社にあるものを読むくらいですが、朝・毎・読の3大紙のスポーツ面は記事の内容(テキスト部分)が似たりよったり。日経は分量が多い記事を書けるのはプロ野球やサッカーでいうと1試合しかないので、特徴を出そうとしているのか、コメントするその日の紙面のメイン試合の選び方が他紙と違うことが多く、時々とても個性的なコメントが読めます。

特にサッカー記者(専業とまでいかなくて時々プロ野球の記事を書いたりしているのに一抹の悲哀を感じますが)の武智さん、吉田さん、阿刀田さんの三人の記事はサッカー専門誌のような言葉使いで他の一般紙とあきらかにちがいがあります。特に阿刀田さんの比喩の使いかたは独特で、最後の署名を見なくても「これは阿刀田記事だ」とわかります。
また、プロ野球記者(今はフリー)の浜田さんも有名だと思います。

日経の運動部の記者自身も自分たちが主流でないこと(本当にそうかどうかは知りません。案外出世コースだったりして)に自覚は十分にあるし、平日の紙面は1ページしかないけれど、それゆえに自己主張があり、差別化した、読者が読んで面白い記事を書こうとしているという意欲みたいなものが伝わってきます。

さて、私は何年か前から営業部門をはずされて事務処理部門のさらに間接部門みたいなところで働いています。うらぶれて都落ち・・・みたいな気分にどっぷり浸ってしまいましたが、「こんな比喩を日経でつかっていいのか?」とつっこみながら阿刀田さんのコメント記事を読んでいると「青山あり」のことわざがふと浮かんでくるのでした。
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