蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ジャージの二人

2009年02月22日 | 本の感想
ジャージの二人(長嶋有 集英社)

最近、GReeeeNの「愛唄」が(いまさらながら)とても気にいって何度も聞いている。この歌は、頼りなげな男の子が惚れぬいた女の子への(ある意味一方的な)愛情をうたったものだと思う。
昔の流行歌は、女の子から男の子への熱い想いを表現したものが多くて、男の子の方から盲目的な愛を捧げるというパターンは見かけなかったが、「愛唄」をはじめとして最近は後者のような歌も多い。女の子が強くなったということか。

本書の主人公の妻は、浮気をしているが、そのことを主人公に全く隠そうとしない。
主人公は深く傷ついているが、妻と別れようという気は全然なくて、ひたすら妻の浮気がうまくいかなくなることを祈っている。
祈るだけで具体的行動には出ず、逃避のために、三度目の妻ともうまくいっていない父といっしょに山奥のぼろい別荘に避暑にでかけて、そこで何をするでもなくダラダラすごす。

人生の諸問題と正面から向き合ってその解決策をさぐる、という筋では小説にならず、宗教書とか実用書になってしまうので、小説のほとんどは、諸問題からどう身をかわすのか、かわしたけどもちろん解決はしなくて主人公はさらに困ったことになる、という筋が多い。
それはそうなんだけど、本書のように、あからさまに逃げる、顔をそむけるだけの話だと、さすがに読んでいて「それでいいのか、おまえ」と言いたくなるのだった。私も年をくって説教オヤジになったということだ。
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彼女について知ることのすべて

2009年02月21日 | 本の感想
彼女について知ることのすべて(佐藤正午 集英社)

小学校の教員である主人公は、学校の同僚と結婚一歩手前のところで、その同僚の看護婦(古い小説なのでこういう表記になっている)へ浮気する。その看護婦にはヤクザのヒモがついていて主人公は金をおどしとられる。看護婦は長年ヤクザにつきまとわれていて、主人公にヤクザを二人で殺そうと誘う。決行の日、主人公は約束の場所へ行くことができず、看護婦は一人でヤクザを殺す。

15年ほども前に出版された本だが、ある作家が生涯で一番好きな小説として薦めていたので、読んでみた。
看護婦がヤクザを殺した時点とその8年後のシーンが交互に語られる。各章がどちらの時点を描いているのは明示されておらず、読み始めは若干混乱するが、これは意識的なもので、わかりにくくても筋書きの面白さで読み進めさせてみせる、という著者の(自分の筆力に対する)自信が見てとれる。
で、確かに読み続けるにつけ、多少のわかりにくさが迷宮的雰囲気を醸し出してミステリアスなムードを盛り上げている。

佐藤さんの作品のおおよそ二冊に一冊は読んだ事があるが、多くの作品において、主人公は几帳面で表面的には規則正しい生活を送る常識人に見えるのだが、その実態は(特に恋愛面で)ひとでなし、ロクデナシである、ということが多い。本書の主人公も例にもれず、婚約者や古い友人の信頼をあっさり裏切る。全く迷いがないところがロクデナシ感を非常に高めている。

どんな人も、量の多寡はともかく、まっとうな部分、常識的な部分とその正反対の部分を抱えていて、光の部分だけで生きていくことは困難で、闇の部分をこっそり表面化させることでバランスを取っているのだと思う。ところが、人によっては「こっそり」ではすまなくなって、闇部分が相当にエスカレートしないとバランスがとれなくなり、それが得てして犯罪につながっていく、そんな構図が、佐藤さんの作品には多いように思う。
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その名にちなんで

2009年02月11日 | 映画の感想
その名にちなんで

「停電の夜に」で日本でも有名なジュンパ・ラヒリの原作を映画化したもの。

主人公の父親は、インドの列車事故で奇跡的に助かった時持っていたのがゴーゴリの短編集だったことに因縁を感じて、アメリカ移住後に生まれた自分の長男(主人公)にゴーゴリという名前をつける。

主人公は同級生にからかわれたりするので、その名前を嫌っている。大学を出て就職した主人公は、ついに改名を決意して父親にその旨を告げる。その時父親は特に反対しなかった。間もなく父親は突然死し、名前の由来を知った主人公は改名を激しく後悔する。

原作を読んだ時は、正直言って少々長すぎると感じたが、映画は約30年に渡る物語をコンパクトにまとめていて、山場らしいものはない淡々としたストーリーのわりには楽しめたし、インドとアメリカという二つの社会で生きる一世と、アメリカで生まれ育った二世との感覚の違いもコントラスト豊かに描かれていた。

主人公のカル・ペンという俳優さんは、初めて見たが、なかなかよかった。
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スカイ・イクリプス

2009年02月08日 | 本の感想
スカイ・イクリプス(森博嗣 中央公論新社)

スカイクロラシリーズの短編集。シリーズの主人公であるカンナミとクサナギの引退後のエピソード(直接的な表現になっていないし、シリーズの読者としてはあまり熱心な方ではないので、もしかしたら違うかも・・・)を中心にした8編。

カンナミとクサナギとはあまり関係がない、「ジャイロスコープ」(整備士のササクラのエピソード。作者の嗜好(工作)が反映している)と「ハート・ドレイン」(戦争遂行会社の本社のエピソード)がよかった。

シリーズは、クサナギが属する基地を主な舞台としてきたが、「ハート・ドレイン」を呼んで、戦争遂行会社の本社周りの話なんかをミステリタッチで描いた長編なんかも読んでみたいと思った。しかしシリーズは本書が最後らしいので、かなわない望みだが。
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エビと日本人Ⅱ

2009年02月07日 | 本の感想
エビと日本人Ⅱ (村井吉敬 岩波新書)

岩波新書の発刊○周年を記念して、各界著名人が薦める岩波新書を紹介した小冊子(無料配布だが、表紙が宮崎駿さん作画という豪華さ)の中で、多くの人に推薦されていたので、読んでみた。

正直言って期待はずれ。海外で養殖されるエビは、マングローブ林を破壊し、地元住民に苛酷な労働を強い、抗生物質を多用する養殖法は危険だと主張しているのだが、実証的なデータはほとんど示されていない。たまに提示されている統計も10年以上前のものだったりする。

私の子供の頃は、エビなんて一年に一回くらいしか食べられなくて、金持ちの友達の誕生会に呼ばれていったら、白いソース(タルタルソースだったと思う。当時それが何であるのかも知らなかった)がかけてあるエビフライが一人当たり二尾もあって、気絶しそうなほどうれしかったのを覚えている。

私の子供たちもエビフライは好物で、夕食の膳に並ぶと一応は喜ぶが、昔の私ほどの感激はないようだ。
日本は豊かになり、生活はぜいたくになった。豊かになったがゆえに味わえない喜びもある、なんて思うのは、年をとった証拠だろう。
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