蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

アフターデジタル2 UXと自由

2022年01月28日 | 本の感想
アフターデジタル2 UXと自由(藤井保文 日経BP)

UXというのは、ユーザエクスペリエンスのこと。自社で作ったストーリーに顧客をオンボードさせて長期的な収益獲得を目指すことがビジネスの本質であり、DXはそれを補助する一手段に過ぎないとする。

本書でも(良い実例として)紹介されている百貨店は、中興の祖である父親が亡くなって、息子が経営を引き継いだ。父親は写真でみてもそれとわかる油っこい?梟雄タイプだったが、息子は細身で坊ちゃんっぽくて、正直「大丈夫かな」って感じだった。
その息子が打ち出したのが「共創経営」とか「売らない店」といった方針で、株主向けのディスクロも、夢物語っぽい内容に一変した。
その後、業績は堅調に推移したが、それ以上に株価は高値を保っている。業績がいいのは、小売を見切って不動産(場所貸し)と祖業の割賦(クレジット)に集中させたからで、夢物語が実現したからではないのだが、高株価を維持しているのは、息子社長の夢物語に(例えそれが夢であるとわかっていても)説得力があるとマーケットが評価しているからだろう。
息子社長は大株主でもあるわけで、彼の株主や市場向け(消費者向けではない)UX戦略は大成功だった、と個人的には思っているのだが、多分本書の主旨とは異なっていると思う。

EVの充電時間を短縮するために(充電済電池を用意しておいて)電池ごと入れ替えるという乾電池っぽい?サービスが中国にはあると、本書で紹介されていた。これっていいんじゃない?とおもったのだが、どうなのだろう。初期投資もガソリンスタンド作るよりは安そうだし。
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敗者たちの季節

2022年01月24日 | 本の感想
敗者たちの季節(あさのあつこ 角川文庫)

海藤高校のエース小城は、夏の地方予選の決勝で、宿敵の東祥学園高校のエース美濃原にサヨナラホーマーをあびて敗れる。しかし、東祥学園高の部員が不祥事を起こし甲子園出場を辞退。代わりに小城たちが出場することになる。両チームの関係者たちの思いを描く。

今はライオンズの球団幹部のナベQこと渡辺久信さん(元投手)は、高校野球の全国大会の県予選決勝で押出四球で敗れた。数日間放心状態だったが、気を取直して運転免許を取りに行き夏休み中に取れたそうだ。
そんな話を記者にできるのは、その後プロ野球で指折りの大投手になれたからだろう。思い起こしたくもない暗黒の記憶を払拭する多分唯一の方法はそれを笑い飛ばせるくらいの栄光の記録しかないが、並みの人間にはなかなかできないことだ。

高校野球は基本的にトーナメントばかりなので、全国優勝した1チーム以外、必ず敗者となるわけで、「敗者の季節」というタイトルは高校野球を一言で言い表わすのにピッタリの言葉の一つだろう。
いや、その他のスポーツやサラリーマン生活、あるいは人生そのものにおいても、多くの人は「敗者」となるわけで、負けた時にどう振る舞うのか、は誰にとっても重いテーマになるのだろう。
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生物はなぜ死ぬのか

2022年01月23日 | 本の感想
生物はなぜ死ぬのか (小林武彦 講談社現代新書)

生物の大半は食べられて死ぬ。事故などのアクシデントを除くと、それ以外の死因はいわゆる「寿命」になる。
死なないと、食べ物など生存に不可欠なものが不足してしまうし、代替わりが進まないので生物としての多様化(進化)も止まってしまう。
遺伝子のコピーが100%うまくいけば次々に新しい細胞が複製されるので人は老化しない。
しかし現実には必ず一定の割合でエラーが起きるので、ゲノムが不安定化し、やがて細胞がガン化する。こういった仕組みで人は「寿命」を迎える。コピーエラーが累積する55才以上になるとガン化が進みやすくなる。つまり自然な状態?での人の「寿命」は55才くらいと考えられる。

AIは死なないので無限にバージョンアップし続ける。やがて人類はなぜAIがそういう判断を下したのか分からなくなるだろう。AIに頼りすぎるは危険だ。本当に優れたAIは人よりも人のことを理解できるようになるかも知れない。そうした時、AIは自分を殺すかもしれない。
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日本史の論点

2022年01月13日 | 本の感想
日本史の論点(大石学他 中公新書)

印象に残った点を並べてみます。(要約は私見に基づくので、間違っていたらすみません)

・日本史の学者のメルクマールは岩波講座日本史と山川の高校教科書。ここにどう書かれているかが主流派(通説)?とそうでないものを分けているらしい。

・かつての大化の改新は、今では乙巳の変と呼ばれるらしい。そういえば中学受験を描いた漫画にもそう書かれていた。(というか、本書によると事件の存在そのものを疑問視する向きもあるらしい)

・道鏡は宗教者、とくに布教・教育者として非常に優秀で、都から下野へ追放された後も弟子の育成に注力し、後の天台座主円仁などを輩出した。

・誰もが暗記している語呂合せで有名な鎌倉幕府成立年は、今では頼朝が守護地頭の任命権を獲得した1185年が有力となっている。

・元寇戦勝利の主要因は御家人の頑張り。上陸地点近くで持ちこたえたのが大きい。

・江戸時代の大名の多くは江戸滞在を好んでいた。芝居では「田舎者」扱いされる浅野内匠頭は江戸生まれ江戸育ちのシティボーイだった。したがって藩主は、地方の領主というより幕府の官僚というイメージ。

・江戸幕府4代将軍家綱以降の兵農分離が行政の文書化を進め、吉宗の代で精緻に整備された。

・明治維新はレボリューションではなくてイノベーション。そのココロは王朝交代ではなく士族間の権力移動だから。

・日中・日米戦争が日本社会にもたらしたものを一言でいうと1940年体制である。

・1978年10月、訪日した鄧小平に昭和天皇は「我が国はお国に対して、数々の不都合なことをして迷惑をかけ心から遺憾に思います。ひとえに私の責任です」という旨を述べ鄧小平を驚かせた。(諸説あるようです)
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足軽仁義

2022年01月12日 | 本の感想
足軽仁義〜三河雑兵心得1(井原忠政 双葉文庫)

茂兵衛は18歳。渥美半島の植田村の農民だったが、父と死別し、美人の母が富農の男と再婚することになって、その男の紹介で、弟(丑松)といっしょに岡崎の近くの夏目氏に仕えることになる。夏目氏は三河の家康に反抗する一向衆で、家康勢を岡崎南方の池のほとりにある野場城で迎え撃つ、という話。

野場城の攻防をめぐる武士たちの戦いぶりの描写が詳細に描かれている。現実の歴史と一致しているのかは知識不足でよくわからないが、今まで読んできた時代小説に比べて臨場感が遥かに高くて面白く読めた。

リアリティがあるなあ、と思ったのは、例えば下記のようなところ。
野場城の有力な侍が鉄砲名人で、面白いように敵に命中させるのは嘘くさい。しかし、籠城戦ではあえてその能力フルには発揮しない(守る方も攻める方も地縁のあるもの同士で敵を殲滅するような激しい戦は避けている)という筋書きになっているところが本当っぽい、と思えたのだった。

ちょっと気になったのは、茂兵衛のキャラが薄いところ。シリーズものなのでまだこれからなのかもしれないが。
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