蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

不死身の特攻兵

2018年02月22日 | 本の感想
不死身の特攻兵(鴻上尚史 講談社現代新書)

陸軍特攻兵として9回出撃し、いずれも生還し、うち2回は戦果(爆弾を投下して敵艦に的中させた)をあげた佐々木友次の戦争体験を描き、体当たり攻撃という100%死ぬことを前提にした作戦を実施した日本軍の体質を批判している。

特攻から生きて帰ってきたら、上官からもちろん同僚からも白眼視されて死ぬよりも辛い気持ちになるのでは?などと想像していた。
しかし佐々木さんとのインタビュウによると、生還しても(上官からはさんざんに批判されるものの同僚から非難されることは滅多になかったようだ。
また、爆弾を飛行機に固定するように指示されているのに、こっそり投下も可能にするように改造してくれた整備兵がいたりして、実施部隊の最前線では特攻に対する批判的なムードもあったと思われることが、意外だった。

生還した佐々木さんを口を極めて非難し、「次は必ず死んでこい」的なことを口走る参謀も、中間管理職としてはそう言わざるを得なかった面もあったのだろう。戦後たまたま佐々木さんがその参謀と再会した時は、お互い淡々としたやり取りをしたようだ。

このように、関係者の多くが、体当り攻撃は不合理だと認識していたと思われるのに、それを終戦まで止めることができなかったのは、日本人の、空気を読む気質から来ている、といった論調が多い。しかし、本書では、そのような通説?とはやや異なって、無意味な攻撃を続行したのは、軍指導部に明確な意思があってしたことだ、という立場のようだ。
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ムーンライト

2018年02月20日 | 映画の感想
ムーンライト

シャロンは子供のころから同性愛の傾向があり、学校では散々いじめられ、家に帰れば薬物中毒の母親からカネをせびられる。唯一のなぐさめは近所の知り合いのファンとテレサの家に行くことだが、ファンは母にクスリを売る売人の元締めだった同級生(ケビン)とは昔から仲が良かったが、イジメっ子の陰謀でシャロンはケビンに皆の目の前で殴られる。シャロンはイジメっ子に復讐し逮捕される。
やがてヤクの売人としてのし上がったシャロンはケビンに会いにいく・・・という話。

セリフとセリフの間の沈黙が長いことが多く、そこにはいろいろな含意があるとは思うものの、見ている方がちょっと居心地が悪いような気分になる箇所もあった。
普通の映画なら、おとなしかったシャロンがイジメっ子への復讐を決意➡︎決行し、そのあとヤクの売人として大物化していく過程に時間を割きそうだけど、本作ではほぼ描かれていない。このあたりがエンタメとは一線を引いた作品たるゆえんかな、と思った。
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マンハント

2018年02月20日 | 映画の感想
マンハント

大手製薬会社の顧問弁護士が身に覚えのない殺人容疑をかけられ、警察(主として福山雅治演じる刑事)に追われる。いつの間にか弁護士と刑事は意気投合?して、濡れ衣を着せられた製薬会社の社長親子の悪行を暴こうとする・・・という話。

えーと、ストーリーはメチャクチャ(出来が悪い戦隊もの並)で、もう映画が始まって最初に流れるBGM(演歌)からしてイヤや予感がしたのですが・・・(それにしても、その演歌に続いて居酒屋?で繰り広げられる銃撃戦はどんな意味があったのだろう??

なので、本作は、筋は追わず、次々と展開されるアクションシーンを楽しむべき作品なのだと思います。どんなに激しい銃撃戦になっても弁護士と刑事にはめったにタマが当たらないので、福山さんのファンも安心して楽しめると思います。
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光炎の人

2018年02月20日 | 本の感想
光炎の人(木内昇 角川書店)

明治時代、田舎のたばこ農家の三男として生まれた音三郎は、機械に強い興味を持ち、タバコの処理工場で働く。機械好きが嵩じていろいろな工場を転々とするうち、軍需工場で無線通信機の開発に没頭するようになるが・・・という話。

はじめのうち、若者が研究開発者として大成していく一種の職業小説なんだろうなあと思って読んでいたのだが、上巻の終わりころから流れが変わって、それまで素朴でおとなしい性格だった音三郎は、自分の研究に役立たないことは(親族や恋人も含めて)次々と切り捨てていく冷血漢になってしまう。

後世に影響を与える発明や発見をした人物は、一般人からみると変人に見えることが多かったようで、逆に言うと研究以外の人生の諸事には興味がないような人でないと偉大な業績は残せないのだろう。

終盤では、満州での歴史的事件にからめて、そんなもの狂い的技術者の悲劇を、かなりスペクタフルに描いて、けっこうハラハラする場面もあり小説としては面白いのだが、やや読後感が悪いのと、数々の伏線があまり回収されてない点に不満が残った。

私としては、田舎から出てきた純朴な青年が努力の果てにやがて小さな成功を成し遂げる、みたいなほのぼのとした内容を期待していたので、その点ではやや残念だった。
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たましいのふたりごと

2018年02月17日 | 本の感想
たましいのふたりごと(川上未映子 穂村弘 筑摩書房)

二人がそれぞれにキーワード(例:エゴサーチ、人たらし、疾風怒濤)を選んで、それについて思いを述べた対談集。

穂村さんのエッセイを読んでいると、ほぼ同年代であるせいか、感じ方や考え方が自分とよく似ているなあと思える箇所がよく出てくる。
本書では、

仲直りの仕方がわからないので喧嘩を始めることができない

こんなにうまくていいのか不安になるほど、牛丼がうまく感じられる(美味しいものをたくさん食べきたはずの今でも)

といった部分がそうだった。特に後者は、まさに私が牛丼(ただし、Y社に限る)を食べる時にいつも感じることで、「こんなにうまくて、こんなに安くていいのか?」なんて思ってしまう。もっとも、そう感じてしまう自分に不安を抱いてしまう、というあたりが並の人とは異なる詩人の感性というものだろうか(いや、単にプライドが高いだけかもしれんが)。

余談だが、以前、日経新聞にY社の中興の祖である元社長が、「私の履歴書」の中で、(狂牛病とかでY社が苦しんでいる時)Y社牛丼の大ファンだった息子が早死にしてしまった、ついては苦しんでいるY社にいくらかでも役に立てればと、匿名で数百万円をY社に送って来た母親がいた、という話(それを全部2000円札にして母親の手紙のコピーといっしょに社員に配ったそうである)を紹介していた。やっぱりY社牛丼が好きな人ってたくさんいるんだなあ、と思った。穂村さんがY社牛丼のみ好きなのかどうかは不明だが、きっとそうだと思う。
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