蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

二流小説家

2013年07月31日 | 本の感想
二流小説家(デイヴィッド・ゴードン ハヤカワミステリ文庫)

死刑執行を待つばかりの連続猟奇殺人事件の犯人が、売れない小説家のファンだといって、その小説家に事件の真相を告白する本の執筆を依頼してくる。小説家は犯人に面会しにいって、犯人が示した常識から隔絶した条件に驚く。小説家が着手したとたんに、その犯人と同じ手口の殺人事件が相次いで起こり・・・という話。

国内でも各種人気投票で上位を占めており、今さら言うべきこともないけれど、確かにミステリ小説の王道を行くような筋立てと二転三転する結末は評判通りだった。

小説家が主人公であること、途中で作中作が何度も挿入されることから、正統派ミステリの上かぶせで、大仕掛けな叙述トリックがあって、最後の最後で大どんでん返しがあるんだろうなと、期待していたが、そういうのは全くなくて、著者の独白のような小説論・人生論で幕を閉じたのは、かなり残念(というか、私が勝手に思い込んでいただけだけれど。しかし、作中作にどういう意味があるのか、どうしても理解できなかったが・・・作中作のうちSFものはいただけなかったが、ヴァンパイアものはそれなりに面白そうだった)。

あと、登場人物のキャラとしては、主人公の秘書役の女子中学生?のクレアが魅力的だったのに、尻切れトンボ風の扱いだったのも、ちょっとがっかりだった。
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短編ベストコレクション 現代の小説2013

2013年07月14日 | 競艇
短編ベストコレクション 現代の小説2013(徳間文庫)

作家のベスト作品が処女作というのは、けっこうあるパターンだと思うが、これは、どんな大作家でも、さすがに毎度趣向の異なる傑作を書くことは難しいので、多くの作品を読んでしまった読者からすると、パターン化、マンネリ化、そうでなくても飽きが来るのは避けられないところから、どうしても初期作品が良く見えてしまうためではないかと思う。

本書のようなアンソロジーは、やっぱり人気作家の作品が多くなりがちで、「面白い」と思えるハードルが高くなってしまう。
なので、角田光代さんや筒井康隆さん、三崎亜記さんの作品などは著者名を伏せられた状態で読んだら、「これはすごい」「斬新だ」と思えるのかもしれないが、「角田さんのものとしては、今一つか」などと(他の作品と比較して)感じてしまうのだった。

逆に、売れっ子でも私にとっては初読だった平山夢明さんの「チョ松と散歩」は、とても良いと思えた。もっとグロい感じの作品傾向だと思い込んでいたが、ハートウォーミングというか、読後感がとても良かった。

同じく初読の関口尚さんの「晴天のきらきら星」も楽しく読めた。私は相当重度?の音痴なのだが(あるいはその裏返しで)学生の合奏クラブもの?が大好きなのだが、本作品はちょっとマンガチックだけど、爽やかさがあって良かった。

とても期待して読んだ高村薫さんの「四人組、大いに学習する」は、「なんだこれ」って感じで大外れ。小説でもギャグを書く方がはるかに大変だと聞くので、新たな挑戦なのかもしれにけれど、私には面白いとか、笑える、という場面はなかった。
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さよなら渓谷

2013年07月14日 | 映画の感想
さよなら渓谷

俊介とかなこは、山奥の小さな町で二人で暮らしている。
隣家で子供が殺され、その母親が逮捕されてマスコミが押し掛ける。
母親は俊介と浮気していたことをほのめかし、やがてかなこもそれを認める証言をして、俊介は逮捕される。
俊介の過去をさぐっていた雑誌記者の渡辺は、俊介が大学の野球部時代、事件をおこしていたことをかぎつける・・・という話。

ゆれる」みたいな、ミステリっぽい映画を想像していたのだけれど、かなり純文学系というのか、見る人によって感じ方が相当に分かれる作品だと思った。

俊介の大学時代の事件のために、本人もその被害者だったかなこも人生を狂わされる。
白眼視する世間から逃れて山奥の渓谷に逃げ込んだ二人の、異常なしかしそれゆえに純粋な愛を描く・・・というのが普通の見方なのかなあ・・・とも思ったが、以下は私の勝手な解釈。

***
寄る辺ないかなこは、心の底から後悔して謝罪しているように見える俊介を許していっしょに暮しているかとも思えるが、すべては彼女の復讐の一端にすぎなかった。
ところが、彼女のうその証言のせいで逮捕されても、なお、俊介は彼女を全く責めない。
結局、俊介はかなこを愛しているのではなく、懺悔のために彼女の傍にいるにすぎないことが明らかになる。
愛していると見せかけて裏切った彼女の行動が、俊介に何のインパクトも及ぼさない(どころか彼の贖罪意識に貢献している)ことがあからさまになって、彼女はこれ以上俊介と暮らす意味を見いだせなくなり、別離を決意した。

ラスト近く、かなこが俊介と別れる理由として言った
「このままだと幸せになってしまいそう」(→うろ覚え)というセリフは、
「このままだと俊介が幸せになってしまいそう」
という意味なのだと思う。
***

正直にいって、楽しさとか救いとかがある
映画ではなかったし、前評判ほどの出来とも思えなかった。
主役二人のセリフは聞き取りづらい。
でも、謝罪のために俊介がかなこを追いかけるシーンは、ちょっと「砂の器」の放浪シーンを思い出させる、重みみたいなものがあったし、見終わった後もしばらく、かなこを行動をどう解釈すべきか考え込んでしまったので、そういう意味では印象に残る、見た甲斐がった映画だったのかもしれない。
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