蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

もっと言ってはいけない

2019年02月11日 | 本の感想
もっと言ってはいけない(橘玲 新潮新書)

現代は知識力が偏重される知識社会であり、そこでは知能指数(IQ)の高さが成功の最有力因子だが、知能指数の高低は大部分が遺伝で説明できる。東アジア(日本、韓国、中国など)の民族は知能指数が平均的に高く、知識社会で優勢となるだろう・・・という話。

遺伝を因果律の決定要因とするのは民族間などの差別につながるので、そういうことはあからさまにしてはいけない、というのがタイトルの由来。例によっていろいろな人の著作や思想の一部をつまみ食いしたような内容ではあるのだが、著者のクールな語り口によって面白おかしく読めた。引用文献自体がどれだけ信憑性があるものか判断できないので、真偽のほどは定かでないが。

丸山宗利さんの「昆虫はすごい」という著作で知った説だが・・・(以下引用)
「ヒトと家畜や農作物の関係に関して、ヒトがそれらを管理しているのではなく、逆にそれらに支配されているという変わった見方もある。自分の遺伝子を子孫に残すことが生物の至上命令であるならば、家畜や作物がヒトにそれをさせているという面があるからである」
本書のあとがきにも似たような主旨の部分があって、そこが一番印象に残った。(以下引用)
「IQ130以上は人口の2.3%、IQ145以上は0.13%しかいない。どのような社会も、多数派(マジョリティ)である平均的な知能のひとたちがもっとも楽しめるように最適化されている。なぜなら、彼ら/彼女たちこそが最大の消費者なのだから。
そう考えれば、高知能のマイノリティは、使いきれないほどの富(金融機関のサーバーに格納された電子データ)と引き換えに、マジョリティ(ふつうのひとたち)がより安楽に暮らし娯楽を楽しめるよう「奉仕」しているともいえるだろう」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

スティグマータ

2019年02月09日 | 本の感想
スティグマータ(近藤史恵 新潮社)

フランスのプロ自転車チームに所属する白石は、年齢的にも実績的にも大きなレースに出続けることができるか(チームと契約できるか)微妙になってきている。
しかし、今年のツールドフランスには選抜される。そのレースにはかつてのトップスター(だったが薬物を使用したとして出場停止になっていたメネンコも出場する。白石はメネンコから個人的な依頼として(メネンコに個人的なうらみを持つ)チームメンバーを監視してほしいといわれるが・・・という話。

著者の自転車レースものは継続して読んでいたのだが(本書の前作では白石が登場しなかったので)白石が主人公のシリーズは終了してしまったと思いこんで、本作は未読だった。
久々に読んでみて、「このシリーズってこんなに面白かったっけ?」と思うくらい楽しく読めた。

白石は、よく言えば、自分を客観視して冷静な判断ができるレーサーなのだが、悪く言うと、野心に欠けて醒めていて闘争心に欠ける選手、でもある。
プロレーサーとしての矜持と、エースになる能力がないことの自覚に挟まれて悩む白石の葛藤がこのシリーズの読みどころだと思うのだが、本書では特にそれが鮮明であった。

白石シリーズのテーマは、「アシストとは何か?」あるいは「自分が主人公でないストーリーを生きる人生とは?」といったところだろうか。本作でも、チームのエースの二コラのアシストという任務に忠実なあまり、白石は大きな魚を逃してしまう。そのシーンでは(これまでの経緯からそうするだろうとは思いつつも)「それはないだろ!白石さん(あるいは近藤さん)」と叫びたくなるような気分になった。

ミステリ的な味付けをするためか、かつての伝説のエース(メネンコ)を白石に絡ませたりして謎めかしたりしているのだが、あまりうまく行っていないように思え、謎解きもなんか消化不良な感じだったのが、ちょっとだけ残念で、レースそのものに絞った内容にしても良かったんじゃないかな?と思えた。
しかし、全体としては、シリーズ既刊を再読したくなるような、そして白石のその後を是非書いていただきたいと思わせる、充実の一冊だった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

孤狼の血(映画)

2019年02月09日 | 映画の感想
孤狼の血(映画)

すでに原作を読んでいたので、映画化の話を聞いたとき、役所さんと大上はフィットしないのでは?とちょっと心配でしたが、もう冒頭から大上その人としか思えませんでした。
さすが、俳優としてモノが違う、というところでしょうか。

原作ではどんでん返しっぽく描かれていた日岡(松坂桃李)に関する設定は、早々にタネ明かしされてしまったので、「肝心の仕掛けがなくて大丈夫か?」と心配しましたが、後半、松坂さんが、(マル暴刑事として)成長していくプロセスは、役所さんを食っちゃうくらいの勢いの迫力で、たいそう盛り上がりました(特に養豚場の息子を殴るシーンが良かった)。

ということで、期待をはるかに上回る出来で、もっと評価されていい作品だと思いました。(評価や動員がイマイチのように思えるのは)ヤクザ映画らしい多少どぎついシーンがあるのと、時折挿入されるナレーターが興ざめ(それともこれもヤクザ映画としてのお作法?)なせいでしょうか?
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

薄情

2019年02月03日 | 本の感想
薄情(絲山秋子 河出文庫)

宇田川市静生は、神主をしている叔父の後継ぎ。
しじゅう神社の仕事があるわけではないので、夏は軽井沢でキャベツの収穫のバイトをしている。
近所の芸術家の工房でそこを訪れる人たちとの交流を楽しんでいたが、高校の後輩の女の子が離婚して地元へ帰って来てから彼女のことが気になりだし・・・という話。

なぜだか理由はよくわからないのだけど、私は神主というか神社の管理人みたいなのにあこがれがあって、世捨て人みたいな雰囲気をまとって、神社の中を箒で落ち葉をはいて一日が過ぎる・・・そんな人生がいいなあ、と思っている。
もちろん、それでは食っていけないのだが、親から相続した株式の配当があって経済的には余裕があり、気まぐれに近所の子供に勉強を教えていたら妙にできるようになり、評判がたって塾みたいになって・・・なんて妄想は続く。

著者は、とにかく群馬・高崎あたりの地域を愛しているようで、本書からもそれは感じられる。
本書の紹介文には「「地方」が持つ徹底した厳しさ」が描いてあるみたいなことが書いてあったが、あまりそういう面は感じられず、昔のようなしがらみにがんじがらめということもなく、人間関係はむしろ淡泊で、都会のギスギス感はなくて、暮らしやすいところ・・・なんて印象だった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする